世界の料理図鑑 チュニジア
ブリック
بريك ブリック Brik
ナイフとフォークで食べると観光客と見なされる。手で持って、黄身を落とさずに食べきる。
マルスーカという紙のように薄い生地に、ツナとじゃがいもとケッパー、そして生卵を丸ごと1個落として三角に折り、油で揚げたもの。
ひと口目は音です。パリッと割れる薄皮の破断音が先に来て、次に揚げ油の香ばしさ。
2〜3口目で半熟の黄身が流れ出す。ツナの塩気とケッパーの酸、パセリの青い香りに、とろけた黄身のコクが乗る瞬間がこの料理の山場です。
- 国・地域
- チュニジア全土
- 分類
- 揚げもの(薄皮+卵)
- 相場
- 1個1.5〜2.5チュニジア・ディナール(約82〜137円)
- 主な材料
- マルスーカ生地、ツナ、じゃがいも、ケッパー、パセリ、玉ねぎ、生卵、ハリッサ
- 辛さ
- ハリッサ入りだと後半に辛味が立つ
- 食べる場所
- チュニスのメディナと新市街、ジェルバ、スファックス
- ベスト時間
- ラマダンのイフタール(断食明け)に必須。通年で前菜
- 一人前の目安
- 前菜として1〜2個
- 食べ方
- 手で。長い辺を持ち、まず上の角を齧って蒸気を逃がす
- 近い料理
- ボレク(トルコ)、ブレク(バルカン)、ワルカ/パスティラ(モロッコ)
01一口目に来るもの
運ばれてくるのは、こんがり色づいた三角形。皿の脇にレモンが一切れ。
ひと口目は音です。パリッと割れる薄皮の破断音が先に来て、そのあとに揚げ油の香ばしさが追いつく。
皮はトレーシングペーパー2枚分の薄さで、噛むと層が砕けて口の中でほどけます。
2〜3口目で半熟の黄身が流れ出す。ツナの塩気とケッパーの酸、パセリの青い香りに、とろけた黄身のコクが乗る。ここが山場。
ハリッサ入りだと、後半にじわりと辛味が立ち上がります。レモンを搾ると油の重さが切れる。

02黄身をこぼしたら負け
手で食べるのが正解です。ナイフとフォークを使うと観光客と見なされます。
持ち方にもコツがある。尖った角ではなく、長い辺を持つ。
まず上の角を齧って蒸気を逃がす。小さな「口」を作ってから、上から黄身のポケットへ向かって食べ進める。こうすると黄身が下方向に落ちて、手首に横流れしません。
皿の上で前傾姿勢。黄身をこぼした時点で「作法の負け」という共通了解があります。
手で食べる作法そのものがアイデンティティになっている、珍しい料理です。


具の水分を切る
家で作るときの失敗は、ほぼ水分です。
具の水分が多いと皮が破れる。玉ねぎはすりおろして水気を絞り、ツナ缶の油はよく切る。じゃがいもは茹でて粗く潰す。ケッパーとパセリはみじん切りで、丸のままは使わない。
卵を早く入れすぎると皮がふやける。折る直前に割り落とす。
油温が低いと吸油して重くなる。そして揚げすぎると黄身が固まり、ブリックである意味が消えます。
生地が手に入らない場合はルンピア/春巻きの皮が最も近い。フィロは最終手段で、層が違うため食感が別物になります。



第 二 章
オ ス マ ン か ら 来 た 生 地
ボレク、ブレク、ワルカ、マルスーカ。全部同じ生地の親戚だ
03生卵を落としたのはチュニジアだけ
生地のマルスーカは、オスマン帝国がマグリブにもたらしたボレク(börek)由来のフィロ生地を、セモリナ主体に現地化したものとされます。食物史家ギル・マークスの説です。
名称そのものが地域を横断していて、bric / börek / burek / warqa / malsouka と呼び分けられる。ブリックという料理自体は「少なくとも500年遡る」とされますが、誕生の年も場所も不明です。
チュニジアで独自に進化した点は三つ。生地がより薄くなった、巻き物ではなく三角形に折る形が定着した、そして中心に生卵を丸ごと1個落とすという発明。
この卵入りがブリック・ア・ルフ(brik à l’oeuf)。トルコにもバルカンにもモロッコにもない、チュニジアだけの形です。
作り方も職人技です。粘り気のある濡れた生地の塊を、熱した金属板に円を重ねるように叩きつけ、薄膜を貼り付けてから紙のように剥がす。国内では真空パックの市販品が普通に流通しています。


ナイフとフォークで食べる=観光客。チュニジアで本当に機能している判定基準
04種類を並べてみる
地域で具と大きさが変わります。



05いくらで食べられるか
屋台なら100円前後。チュニジアでいちばん手軽な一品です。
06どこで食べるか
チュニス(メディナ):エッサラヤ(6 Rue Ben Mahmoud、17世紀の邸宅を使った内装)、ダール・ベル・ハッジ(ジトゥーナ・モスク近く)、ムラベット・カフェ(スーク内)。
チュニス(新市街):フォンドゥーク・エル・アタリンは現代チュニジア料理の店で、蟹のブリックがあります。カフェ・ド・パリやカピトール(ハビブ・ブルギバ通り)も。
ジェルバ:ブリック・イシャク(ハラ・ケビラ地区)。現金のみ、立ち食いカウンターです。
スファックス:エル・コッラ、ラ・ルネッサンス。
ラマダンのイフタールではほぼ必須の扱いです。熱・塩・脂・たんぱく質を一度に取れるので、断食明けの一皿として理にかなっている。


07豆知識
ボレク、ブレク、ワルカ、マルスーカは全部同じ生地の親戚。オスマン帝国が広げた薄皮の文化圏です。チュニジアだけが「生卵を落とす」方向に進化した。
ジェルバ島のブリックにはセファルディム系ユダヤ料理の影響が濃い。同島が北アフリカ有数の古いユダヤ人共同体を抱えてきたためです。
チュニジア・ディナールは国外持ち出し禁止の非交換通貨。現地で使い切るか、出国前に再両替が必要です。旅の計画に関わるので覚えておいてください。
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- 01/Brik photo 2 بريك.jpg / Sami Mlouhi / CC BY-SA 4.0
- 02/Fried brik.jpg / Meriemou / CC BY-SA 4.0
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- 14/Brik Edennouni.JPG / Souad Anane Lesina / CC BY-SA 3.0
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