ラブラビ

世界の料理図鑑 チュニジア

ラブラビ

لبلابي ラブラビ Lablabi

新しいパンでは作れない。乾いたパンが要る。それは廃物利用ではなく、設計だ。

ひよこ豆とにんにくとクミンの澄んだスープを、器にちぎって入れた固いパンの上から注ぐ。チュニジアの朝食であり、若者の深夜メシです。

ひと口目はにんにくとクミンの湯気。器に顔を近づけた時点で香りが来ます。スープ自体は薄い塩味のブロスで、飲むと拍子抜けするほど軽い。

味の主役はスープではなく、スープを吸ったパンです。表面はまだ乾いた耳の歯ごたえ、内側はスープを吸って粥状にとろけている。同じ器の中に「まだ固いパン」と「ほどけたパン」が同居する、その時間差が身上。

国・地域
チュニジア全土
分類
スープ(ひよこ豆+パン)
相場
1杯3〜5チュニジア・ディナール(約164〜273円)
主な材料
ひよこ豆、にんにく、クミン、オリーブオイル、固くなったパン、塩。トッピングにツナ、卵、ハリッサ、ケッパー、オリーブ、塩漬けレモン
辛さ
ハリッサを自分で溶き入れる。基本は辛くない
食べる場所
チュニスのバブ・スイカ、新市街の「カフェテリア」と呼ばれる食堂
ベスト時間
朝と深夜。元来は冬の朝食
一人前の目安
器一杯
食べ方
自分でトッピングを足し、食べる直前にスプーンで全部混ぜる
近い料理
ヘルグマ(牛足入り)、ビゼルト式のサンドイッチ版

01一口目に来るもの

土器の器に、白っぽいパンの塊が浮いていて、その上にツナと半熟卵とハリッサが載っている。見た目は雑然としています。

ひと口目はにんにくとクミンの湯気。器に顔を近づけた時点で香りが来ます。

スープ自体は澄んだ薄い塩味のブロス。飲むと拍子抜けするほど軽い。ここで「これだけ?」と思う人が多い。

味の主役はスープではなく、スープを吸ったパンです。表面はまだ乾いた耳の歯ごたえ、内側はスープを吸って粥状にとろけている。

ひよこ豆は形を保ったままホクッと崩れる。落とし卵を割ると黄身がスープを濁らせ、全体が一段まろやかになります。オリーブオイルが上に浮いているので、最後まで温度が落ちない。

ラブラビ
パンをちぎって器に入れたところ。ここに熱いスープを注ぐ

02順番を守らないと成立しない

ラブラビは組み立て順が命です。

①器に固くなったパンを手でちぎって入れる。②その上から熱いひよこ豆のスープを注ぐ。③トッピングを乗せる。④食べる直前に全体を混ぜる。

この順番を守らないと料理として成立しません。

パンを先にスープに入れて煮込むと全部が粥になり、食感の対比が消える。柔らかいパンを使うと即座に崩壊する。固くなったパンは必須条件であって、廃物利用ではなく設計です。

スープが熱くないとパンがふやけない。そして注いでから長く置くと下層が完全に溶ける。提供後すぐ食べるのが前提の料理です。

ラブラビ
パンが入った状態。まだスープを吸いきっていない
ラブラビ
時間が経った状態。下のほうはほどけている

味は客が完成させる

出てきたら、まず自分でトッピングを足します。ハリッサの量、オリーブオイルの追い足し、卵の追加は客の裁量。

これがラブラビ最大の楽しみで、店側も「味は客が完成させるもの」と考えている。

食べる直前にスプーンで全部混ぜる。混ぜずに食べ始めるのは作法として不完全です。

スープを先に飲み干す食べ方はしません。パンとスープと具を一体化させて食べる。器は持ち上げず、テーブルに置いたままスプーンで。

ラブラビ

第 二 章

カ フ ェ テ リ ア

朝と深夜に混む、小さな食堂

03名前だけがオスマン帝国から残った

語源はトルコ語のleblebi(炒りひよこ豆)に由来する可能性が高い。オスマン期の言語的痕跡です。

面白いのは、チュニジアのラブラビは炒らずに煮ること。名前だけがオスマン帝国から残って、調理法は変わった形になります。

元来は冬の朝食。現在は通年、特に若者の深夜メシとして定着しています。

よく語られる「戦時に安価で日持ちする材料で兵士と市民に栄養バランスの取れた食事を出すために生まれた」という起源譚は、俗説です。出典が伝聞形でしか示されておらず、一次資料の裏付けは確認できません。正確な発祥年も発祥地も不明です。

ラブラビ
ラブラビの材料。ひよこ豆、にんにく、クミン、パン
ラブラビ
具のアップ。ツナとオリーブ、青唐辛子

味は客が完成させるもの。ハリッサの量も卵の数も、店ではなく客が決める

04種類を並べてみる

何を足すか、どこで食べるかで名前が変わります。

名前特徴食べ方
ラブラビ(標準・チュニス式)ひよこ豆+にんにく+クミンの澄んだスープにパン混ぜてスプーンで
ヘルグマ(hergma)牛の足を加えてブロスに深いコクを出す冬の朝、こってり派向け
ビゼルト式(サンドイッチ)北部ビゼルトの変化形。バゲットにひよこ豆と具を詰める手で、持ち歩ける
卵増し/ツナ増し落とし卵やツナを追加。屋台では追加料金黄身を潰して全体に絡める
イラク式ラブラビ単にスープのひよこ豆。パンなし別料理として
家庭の断食明け版オリーブ・ケッパー・塩漬けレモンを盛る食卓中央で各自取り分け
ラブラビ
ツナと卵をのせた形
ラブラビ
同じ店の別の器
ラブラビ
ハリッサと卵。赤と白のコントラスト

05いくらで食べられるか

安い。1杯200円台で腹が満ちます。

ラブラビの相場(2026年8月時点の目安)価格
屋台・カフェテリア(1杯)3〜5チュニジア・ディナール/約164〜273円
参考:安食堂の1食4.75ディナール/約259円
ル・レスト・デュ・クール(定食)15〜25ディナール/約820〜1,365円
参考:ビジネス街のランチ定食22ディナール/約1,200円
高級店のディナー80〜180ディナール/約4,370〜9,830円

06どこで食べるか

店は「カフェテリア」と呼ばれる小さな食堂形式で、朝〜昼と深夜が混みます。

チュニス(メディナ/バブ・スイカ):ウェルド・エル・コミッサール(2, rue du Foie, Beb Souika)。

チュニス(新市街):ウーレッド・アハメド(Sabbat Dziri, rue de l’Algérie)、ル・レスト・デュ・クール(日替わりでラブラビあり)。

チュニス郊外(エル・マナール):シェ・ヤシン(Rue Azzouz Rebaï, El Manar 2)。

ハンマム・リフ(海沿い):シェ・ヌーラ(Corniche Hammam-Lif 2050、ビーチ近く)。

ラブラビ
チュニジアのラブラビ。器いっぱいに具が載る
ラブラビ
ミントティーと一緒に。朝食の定番の組み合わせ

07豆知識

固くなったパンが「材料」として指定されている数少ない料理。新しいパンでは作れません。廃棄前提ではなく、乾燥という工程を経たパンが必要という設計思想です。

名前がトルコ語の「炒りひよこ豆」由来なのに、チュニジアでは炒らずに煮る。名前だけがオスマン帝国から残った形になっています。

「戦時起源説」は裏付けがない。広く語られますが、出典は伝聞形のみ。断定して書かれている記事を見かけたら、疑ってかまいません。

為替レート:1チュニジア・ディナール=約54.6円で換算しています(2026年8月時点)。価格は変動します。現地で必ずご確認ください。

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