世界の料理図鑑 チュニジア
マクルード
مقروض マクルード Makroudh
料理名の意味は「切られたもの」。味でも材料でもなく、切り方が名前になった。
セモリナの生地にデーツ餡を詰め、菱形に切って揚げ、熱い蜂蜜シロップに浸す。チュニジアの代表的な菓子です。
ひと口目は蜂蜜シロップの甘さと、揚げ油の香ばしさ。表面はシロップでしっとり、わずかにベタつきます。
噛むとセモリナ生地がザクッ、ホロッと崩れる。小麦粉の菓子のような粘りがなく、粗い粒感が舌に残る。続いてデーツ餡の黒糖のような深い甘さが来ます。
- 国・地域
- チュニジア(カイルアンが象徴の地)。マグリブ各地に同名の菓子
- 分類
- 揚げ菓子(セモリナ+デーツ)
- 相場
- 菓子店の量り売り。2026年時点の現地単価は確認できず(不明)
- 主な材料
- 細挽きセモリナ、小麦粉、オリーブオイル、バター、デーツ(デグレット・ヌール種)、シナモン、クローブ、オレンジの皮、蜂蜜
- 辛さ
- 辛くない。甘い
- 食べる場所
- カイルアンの菓子店、チュニスのメディナ、スース
- ベスト時間
- イード(断食明け大祭)とラマダン。通年で菓子店にある
- 一人前の目安
- 1〜2個。密度が高い
- 食べ方
- 手でつまんで2〜3口。無糖の濃いお茶かコーヒーと必ず組む
- 近い料理
- マグリブ各地の同名菓子(形だけを共有し中身は違う)
01一口目に来るもの
菱形です。きつね色に揚がった生地が斜めに切られ、表面がシロップで艶々している。
ひと口目は蜂蜜シロップの甘さと、揚げ油の香ばしさ。表面はしっとり、わずかにベタつきます。
噛むとセモリナ生地がザクッ、ホロッと崩れる。小麦粉の菓子のような粘りがなく、粗い粒感が舌に残るのがセモリナ特有です。オリーブオイルとバターの油分で口当たりは重い。
続いてデーツ餡が来る。濃厚で粘り、黒糖のような深い甘さ。シナモン、クローブ、オレンジの皮の香りが抜けます。
全体として「甘い上に甘い」構成。必ず無糖の濃いお茶かコーヒーと合わせる前提の甘さです。1個で十分満足する密度がある。

02崩れない生地を作る
最大の関門は生地です。セモリナ生地は油分が足りないとボロボロに崩れて成形できません。
生地は細挽きセモリナ、小麦粉、オリーブオイル、バター、水。セモリナが主体であることが食感の核です。
餡は潰したデーツ(デグレット・ヌール種が定番)にシナモン、クローブ、オレンジの皮を練り込む。
工程は、生地を練る→棒状に伸ばして中央にデーツ餡を詰める→円筒状に閉じて平たく押す→菱形に切る→たっぷりの油で揚げる→揚げたてを熱い蜂蜜シロップに浸す。
失敗の理由は五つ。生地の油分不足で崩れる。練りすぎると硬くなる。餡が多すぎると揚げ中に破れて油が濁る。油温が高すぎると外だけ色づいて中に火が通らない。そして揚げたてが熱いうちにシロップへ入れるのが原則で、冷めてから浸すとシロップを吸わず表面だけベタつきます。



名前は「切られたもの」
名称はアラビア語のمقروض(maqrūḍ)。「切る/切り分ける」を意味し、菱形に切り出す製法そのものが名前になっています。
味でも材料でもなく切り方が料理名になった。菱形に切るという一工程が、この菓子のアイデンティティです。
マグリブ各地に「マクルード」を名乗る菓子がありますが、その多くは菱形という形だけを共有していて、中身も製法も違う。「マクルード」は料理名というより形の名前に近いのです。
第 二 章
カ イ ル ア ン
発祥の地ではない。だが「マクルードの都」としてブランド化に成功した
0313世紀の亡命者の料理書
最古のレシピは13世紀、アンダルスの著述家イブン・ラズィーン・アッ=トゥジービーのアラビア語料理書に見られます。ナツメヤシを詰めた揚げ生地として記述されている。
この本の英訳版のタイトルが『The Exile’s Cookbook(亡命者の料理書)』(訳=ダニエル・ニューマン)。レコンキスタで追われた人々の料理書に記録された菓子が、今もカイルアンの店先で売られている。
よく語られる「カイルアン発祥説」は、定説ではありません。カイルアンはチュニジアの精神的首都であり、マクルードの象徴的な産地として全国的に知られていますが、13世紀のアンダルス文献が先行する以上、「カイルアンで生まれた」と断定はできない。
記事としては「カイルアンの名物・象徴」と書くのが正確です。カイルアンでは2008年5月20日に第1回全国マクルード祭が開催されました。
北部の穀物(セモリナ)とサヘル地方のオリーブオイルが出会った土地の産物、という位置づけもあります。


maqrūḍ = 切られたもの。味でも材料でもなく、切り方が料理名になった
04種類を並べてみる
餡と作り方で名前が変わります。



05食べ方の作法
手でつまんで食べます。小さく切り分けない。1個をそのまま2〜3口で。
甘くない飲み物と必ず組む。ミントティー(できれば砂糖控えめ)または濃いコーヒー。甘い飲み物と合わせるのは避けられます。
客に出すときは皿に山盛りにして食卓中央へ置き、各自が取る。ホスピタリティの表現なので、少量だけ出すのは失礼にあたります。
イード(断食明け大祭)の贈答品として箱詰めで持参する。手土産文化の中心にある菓子です。
揚げた当日から数日が最良。シロップが染みるため、時間が経つほど柔らかくなります。
06どこで食べるか
カイルアン:市内の菓子店が本場です。マクルード・セグニはカイルアンのマクルード専門店として知られています。メディナ内の菓子店でも量り売りが一般的。マクルード作り体験とメディナ散策を組み合わせたツアーも催行されています。
チュニス(メディナ):スーク内の菓子店で量り売り。
スース:メディナの菓子店。
トズール周辺・南部:デグレット・ヌール種の産地であり、上質なデーツを使ったマクルードが作られます。
※スファックスは魚介・ブリック寄りで、マクルードの本場としては挙げられません。


07豆知識
13世紀のアンダルスの料理書にすでに載っている。レコンキスタで追われた人々の『亡命者の料理書』に記録された菓子が、今もカイルアンの店先で売られています。
名前の意味は「切られたもの」。味でも材料でもなく、切り方が料理名になった。マグリブ各地の「マクルード」は、菱形という形だけを共有していて中身が違います。
カイルアンは発祥地ではなく「マクルードの都」としてブランド化に成功した街。2008年に全国マクルード祭を立ち上げたのもその一環です。
写真はすべて Wikimedia Commons より。各画像の作者とライセンスは以下のとおりです。
- 01/Makroudh Pâtisserie tunisienne 03.jpg / Zeinebtakouti / CC BY-SA 4.0
- 02/Kairouan Makroud.jpg / Rusty Clark / CC BY 2.0
- 03/Makroud avant cuisson.jpg / Waran18 / CC BY-SA 4.0
- 04/Makroud de la Tunisie 2.JPG / Touzrimounir / CC BY-SA 4.0
- 05/Makroud de la Tunisie 1.JPG / Touzrimounir / CC BY-SA 4.0
- 06/Makrouds Kairouan.jpg / Cimoi / CC BY-SA 3.0
- 07/Makroudh Pâtisserie tunisienne 01.jpg / Zeinebtakouti / CC BY-SA 4.0
- 08/Makroudh Pâtisserie tunisienne 02.jpg / Zeinebtakouti / CC BY-SA 4.0
- 09/Makroudh Pâtisserie tunisienne 04.jpg / Zeinebtakouti / CC BY-SA 4.0
- 10/Makrouds blancs.jpg / Cimoi / CC BY-SA 3.0
- 11/Gateaux makrouds.jpg / Cimoi / CC BY-SA 3.0
- 12/Makrouts.jpg / TunisiePassion / CC BY-SA 4.0


