世界の料理図鑑 タンザニア
ザンジバル・ピザ
Zanzibar pizza ザンジバル・ピザ Zanzibar pizza
ピザと名乗っているが、丸くない、発酵していない、チーズが主役でもない。
小麦粉の生地を紙のように薄く手で伸ばし、挽き肉・卵・マヨネーズ・クリームチーズを包んで、ギーを引いた鉄板で焼く。ザンジバル島ストーンタウンの夜市の料理です。
ひと口目はバターの香りと油の熱。表面はパリパリではなく「サクッと湿った」独特の食感になります。
舞台はフォロダニ・ガーデンズの夜市。18時から23時ごろまで、50前後の屋台が並びます。
- 国・地域
- タンザニア/ザンジバル島ストーンタウン
- 分類
- ストリートフード(包み焼き)
- 相場
- 1枚3,000〜8,000タンザニア・シリング(約180〜481円)
- 主な材料
- 小麦粉、挽き肉または鶏肉、玉ねぎ、卵、マヨネーズ、クリームチーズ、唐辛子、ギー(サムリ)
- 辛さ
- ピリピリ(唐辛子)の量で調整。標準は軽い辛さ
- 食べる場所
- フォロダニ・ガーデンズ夜市(ストーンタウン)
- ベスト時間
- 18:00〜23:00。ピークは19:00〜21:00
- 一人前の目安
- 塩味1枚。甘い1枚を追加するのが定番の回り方
- 食べ方
- 屋台が切り分けてくれる。紙の上から手で
- 近い料理
- モンバサのチャパティ・マヤイ(原型)、マルタバ、ムルタバク
01一口目に来るもの
ピザという名前で出てくるのに、丸くない。四角い包みです。発酵していないし、チーズが主役でもない。イタリアのピザとは系統がまったく違います。
ひと口目はバターの香りと油の熱。ギー(現地名サムリ)で焼くので、表面はパリパリではなく「サクッと湿った」という独特の状態になります。
噛み進むと、薄い生地が2〜3枚重なった層に当たる。そして内側は卵とマヨネーズでとろりと半熟。生地の外側と内側で食感が正反対なのが、この料理の身上です。
味の骨格はマヨネーズ+クリームチーズ+卵。意外なほど「洋食」の方向に振れています。そこに玉ねぎの辛味とピリピリが刺さる。
仕上げにかかるマンゴー・チリソースの酸味が油を切ります。これがないと重すぎて一枚食べきれません。
02麺棒を使わない、という一点
作り方の核心は生地を手で紙のように薄く伸ばすことです。麺棒は使いません。台に油を塗り、生地玉を押し広げて、向こうが透けるところまで持っていく。
そのために生地は最低1時間、できればもっと長く休ませます。グルテンを緩めないと、伸ばす途中で必ず破れる。ここが第一の関門です。
中央に具を置き、四方を折り畳んで四角い包みにする。中央に小さな穴を残す流儀もあります。あとはギーを引いた鉄板(タヴァ)で片面ずつ焼くだけ。
失敗の理由は四つ。生地を休ませないと伸ばす途中で破れる。具を入れすぎると閉じられず油が中に入る。火が強すぎると外だけ焦げて卵が生。マヨネーズを入れすぎると焼いている間に分離して油っぽくなる。
焼き上がりまで3〜5分。注文してから待つのが前提で、作るところを見るのが体験の半分です。


モンバサの卵チャパティとの分かれ目
原型はインド系移民がもたらしたチャパティです。ケニア・モンバサの「チャパティ・マヤイ(卵チャパティ)」を見たハジ・ハミシという人物がザンジバルに持ち帰った、という説が広く語られています。
ただし年が資料によって食い違います。1977年とする資料もあれば「約30年前」とする資料もある。正確な発祥年は不明と考えるのが誠実です。おそらく1970〜80年代に、一人の発明というより複数の屋台の競争の中で固まっていった。
現地の線引きははっきりしています。モンバサの卵チャパティとの決定的な差はマヨネーズとクリームチーズ。これが入った瞬間にザンジバル・ピザになる。



第 二 章
夜 市 が 料 理 を 作 っ た
誰かの発明ではなく、屋台同士の競争が具を増やしていった
03ザンジバル料理そのものが積層でできている
ザンジバル料理は、バンツー系の土台の上に9世紀以降のアラブ/ペルシャ(香辛料・ココナッツ・米)、15〜16世紀のポルトガル(キャッサバ・トウモロコシ)、1651年以降のオマーン支配下で入ったインド系(カレー・ビリヤニ・サモサ)が順に積み重なってできています。
ザンジバル・ピザは、その積層のいちばん新しい層にあたります。だから「伝統料理」という顔をしていない。せいぜい半世紀の料理です。
舞台のフォロダニ・ガーデンズ(別名ジュビリー・ガーデンズ)は、アガ・カーン文化トラストによって2009年7月31日に着工、約300万ドルをかけて改修され、いまの夜市の形になりました。
屋台は「Mr. ○○」というあだ名で商売するのが慣例です。「Mr. Nutella」「Mr. Delicious」「Mr. Big Banana」「Mr. Chocolate」「Mr. Mango」。指名買いが成立するので、あだ名がそのままブランドになっている。


イタリアの食材で作る、イタリアじゃないピザ。ヌテラを最初に導入した屋台主 Salim Mhammed Vale(通称 Mr. Nutella)の商売を評して
04種類を並べてみる
具は屋台ごとに違い、増え続けています。「これを入れたら売れる」という実験がそのまま並んでいるのが夜市です。



05注文する前に、値段を聞く
これは記事の中でいちばん実用的な一行です。フォロダニの屋台には値札が出ていません。
複数の旅行ガイドが「price is not displayed」「confirm the price before you commit」と警告しているほど、観光客価格と地元価格の差が大きい。焼き上がってから値段を告げられると、断りにくい。
だから頼む前に「いくら?」と聞く。これだけで体験の後味が変わります。
屋台は現金(タンザニア・シリング)のみ。高額紙幣だと釣りが出ないことがあるので、小額紙幣を用意しておくといい。
塩味を1枚食べてから甘いのを1枚、というのが地元でも観光客でもよくある回り方です。


06いくらで食べられるか
2026年時点の目安です。屋台は交渉制なので、下の数字は「これくらいなら妥当」という判断材料として使ってください。
07どこで食べるか
ザンジバル/ストーンタウン:フォロダニ・ガーデンズ夜市。海沿い、旧要塞と「驚異の宮殿(House of Wonders)」の正面。18:00〜23:00ごろ、屋台50前後。ピークは19:00〜21:00。
ストーンタウン市中:Lukmaan Restaurant。ザンジバル・ピザというより、日常のスワヒリ料理を食べる地元食堂の定番です。
ダルエスサラーム:本土でも見かけますが、ザンジバルほどの密度はありません。
つまりこの料理はほぼ一つの公園で完結している。世界的に名前が知られている割に、生息域が異常に狭い料理です。

08豆知識
屋台の店主は本名ではなく「Mr. ○○」を名乗る。フォロダニの文化です。「Mr. Nutella」に行きたい、で通じる。屋台名がそのままブランドとして機能しています。
ヌテラを最初に入れたのは Salim Mhammed Vale。16時に店を開け、深夜まで焼く。イタリアの食材で作る、イタリアじゃないピザ——という多重のねじれがここにあります。
「ザンジバル・ピザ」という名前自体が、観光客に向けた翻訳。丸くもなく、発酵もしていないものを「ピザ」と呼んだ瞬間から、この料理は外の人に売る前提で設計されています。
写真はすべて Wikimedia Commons より。各画像の作者とライセンスは以下のとおりです。
- 01/Food Vendor in Forodhani Gardens at Night – Stone Town – Zanzibar – Tanzania (8868676141).jpg / Adam Jones from Kelowna, BC, Canada / CC BY-SA 2.0
- 02/Zanzibari bread.JPG / AmelGhouila / CC BY-SA 4.0
- 03/Forodhani food zanzibar.jpg / Rasheedhrasheed / CC BY-SA 4.0
- 04/Zanzibar Night Market 02.jpg / Hussein Simba / CC BY-SA 4.0
- 05/Stone Town 2022 065.jpg / Yamen / CC BY-SA 4.0
- 06/Zanzibar Night Market 01.jpg / Hussein Simba / CC BY-SA 4.0
- 07/Food Market, Stone Town (10164244853).jpg / Rod Waddington from Kergunyah, Australia / CC BY-SA 2.0
- 08/Street Restaurant.jpg / By summer kamal / CC BY-SA 4.0
- 09/Street Restaurant0.jpg / By summer kamal / CC BY-SA 4.0
- 10/Ginger chai.jpg / Megillionvoices / CC BY-SA 4.0
- 11/Deux vélos devant une porte à zanzibar.jpg / Louna Morin / CC BY-SA 4.0
- 12/Door Painter – Stone Town – Zanzibar – Tanzania (8841052635).jpg / Adam Jones from Kelowna, BC, Canada / CC BY-SA 2.0
- 13/Jaws corner at the heart of Stonetown, Mjini, Zanzibar.jpg / Mangapwani / CC BY-SA 4.0
- 14/Amazing Zanzibar Sunset (15).jpg / Rasheed hamis / CC BY-SA 4.0


