エル

世界の料理図鑑 カメルーン

エル

eru / okok エル Eru

マツやソテツの仲間の葉を、極細に刻んで煮る。

カメルーン南西州マニュ県のバヤンギ人の名物料理。英語圏カメルーン(アングロフォン地域)を代表する一皿です。

「エル」は植物名でもあり、学名 Gnetum africanum。裸子植物——つまりマツやソテツの仲間のつる性植物です。

食感が最大の特徴。葉は極細の千切りにされ、何度煮ても歯ごたえが残ります。ホウレンソウのようにくたっとならない。

国・地域
カメルーン南西州(マニュ県、ブエア、クンバ、バメンダ)。ナイジェリア国境地帯にも
分類
煮込み(葉の料理)
相場
屋台〜食堂で1,000〜4,000中央アフリカCFAフラン(約283〜1,131円)と推定
主な材料
エルの葉(極細切り)、ウォーターリーフ、赤パーム油、クレイフィッシュ、牛肉・カンダ(牛皮)、干し鱈、燻製ナマズ
辛さ
スコッチボネット唐辛子を任意で。基本は旨味と油
食べる場所
南西州(ブエア、クンバ、バメンダ)が本場。ドゥアラ・ヤウンデのアングロフォン系の店
ベスト時間
昼・夜。温かいうちに
一人前の目安
ガリかウォーターフフを添えて一皿
食べ方
フフを指でちぎって団子にし、エルをすくって丸呑みする(噛まない)
近い料理
ナイジェリアのアファン・スープ、エディカイコン(同一系統)

01一口目に来るもの

最初に来るのは赤いパーム油の重さと、クレイフィッシュ(干し小海老)の強烈な旨味。舌に油の膜が張るような濃さです。

続いてエルの葉の独特の風味。作り手自身が「非常にエスニックで、言葉にしにくい味」と表現するほど固有性が高い。青臭さとも苦味とも違う、樹脂質のような香り。

そして食感。エルの葉は極細の千切りにされ、何度煮ても歯ごたえが残ります。ホウレンソウのようにくたっとならない。

そこにウォーターリーフのぬめりと、カンダ(kanda/牛皮)のゼラチン質のもちもちが加わる。

「スープ」という名前ですが、水分はほとんどありません。葉と具が油で和えられた状態に近い。

エル
エル。木の器に盛られ、フフの団子が添えられる

02なぜ煮ても柔らかくならないのか

答えは植物の系統にあります。エル(Gnetum africanum)は裸子植物——マツやソテツの仲間のつる植物です。私たちが普段食べる「葉物野菜」の系統からかなり遠い。

葉の組織が硬いので、極細の千切りにするのが前提になります。太いと口当たりが悪い。

工程:①乾燥エルを温水に30分以上浸して戻す(重曹を少量入れると色が鮮やかになる)→②肉類を先に煮て出汁を取る→③ウォーターリーフ/ホウレンソウを入れる→④すすいだエルを加える→⑤パーム油、調味料、クレイフィッシュ、魚を加える。全体で約30分。

失敗の理由は四つ。エルの戻しが不十分だと硬すぎる。ウォーターリーフの水分を飛ばしきらないと水っぽくなる(この料理は汁気を残さない)。パーム油が少ないと味の骨格が立たない。千切りが太いと口当たりが悪い。

原料面の制約もあります。エルは野生のつる植物で栽培が難しく、森からの採取に依存しています。

エル
ウォーターフフとエル。これが基本の組み合わせ
エル
皿に盛ったエルとフフ。汁気はほとんどない

刻む作業がこの料理の入口

市場ではエルの葉を極細に刻んで売る商売が成立しています。

山積みの葉を、包丁で髪の毛のように細く刻んでいく。買う側はこの状態で買って持ち帰る。

刻みの細さがそのまま料理の質になるので、ここは分業に値する工程です。

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オコックの葉を刻む売り手。細さが料理の質を決める
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グネツムの葉。市場ではこの形で積まれている
エル
洗った葉。刻む前に一度きれいにする
エル

第 二 章

国 境 よ り 先 に 食 文 化 圏 が あ る

eru=okazi=afang。カメルーン南西部とナイジェリアはつながっている

03名前が三つある一つの植物

同じ植物、同じ料理が、場所によって三つの名前で呼ばれています。

カメルーン南西州では「エル(eru)」。カメルーンのフランス語圏では「オコック(okok)」。ナイジェリアでは「オカジ(okazi)/ウカジ(ukazi)」。

そしてナイジェリアのアファン・スープ(Afang soup)、エディカイコン(Edikang Ikong)は、エルと近縁の料理です。

これはカメルーン南西部とナイジェリアのクロスリバー州・アクワイボム州の文化的連続性を示しています。国境で分かれていても料理はつながっている——というより、国境より先に食文化圏があった。

発祥年代は不明です。

エル
茎から外した葉。ナイジェリアではオカジ/アファンと呼ばれる同じ植物
エル
刻む作業。国境の向こうでも同じことをしている

非常にエスニックで、言葉にしにくい味。エルの風味について、作り手自身の表現

04種類を並べてみる

呼び名と、近縁料理を並べます。

名前特徴食べ方
エル(標準・バヤンギ式)エル+ウォーターリーフ+パーム油+カンダ+燻製魚ガリまたはウォーターフフと
オコック(okok)フランス語圏カメルーンでの呼称。同じ植物同様
オカジ/ウカジ(okazi/ukazi)ナイジェリアでの呼称ナイジェリア式の調理
アファン・スープ(Afang soup)ナイジェリア・クロスリバー/アクワイボム州の近縁料理フフ・エバ等と
エディカイコン(Edikang Ikong)同じくナイジェリアの近縁料理同様
ホウレンソウ代用版ウォーターリーフが入手できない場合の在外版ディアスポラ
エル
皿にのせたウォーターフフ。水に浸したキャッサバから作る、エルの相棒
エル
牛肉を入れたエル。カンダ(牛皮)が入ることも
エル
花柄の皿に盛った白いウォーターフフ2本。これにエルを合わせて食べる

05食べ方の作法

添えるのはガリ(garri/キャッサバの粗挽き)、またはウォーターフフ(water fufu/発酵キャッサバの練り物)。どちらもキャッサバ由来です。

フフを指でちぎって団子にし、エルをすくって丸呑みする(噛まない)のが西・中部アフリカ共通の作法。

手食が基本。温かいうちに食べます。

本場は南西州——ブエア、クンバ、バメンダなどアングロフォン地域。ドゥアラ・ヤウンデでは「アングロフォン系の店」を探すのが近道です。

なおカメルーン料理には葉の緑を保つ技術体系があります。乾燥エルを戻すとき重曹を少量加えると緑が鮮やかになる。ンドレのアク抜きで「鮮やかな緑」を目指すのと同じ発想です。

エル
ガリとエル。ガリはキャッサバの粗挽き
エル
皿の上のエル。油と葉が一体になっている

06いくらで食べられるか

2026年時点の目安です。エル単品の価格は確認できませんでした。エルは大衆食堂・アングロフォン系食堂の料理なので、実勢は「屋台〜一般」帯に収まると推定されますが、確認値ではありません。

エルの相場(2026年時点の目安)価格
屋台・大衆食堂(1食)1,000〜2,500中央アフリカCFAフラン/約283〜707円
安価な店の1食(ドゥアラ)2,500 CFAフラン(幅2,000〜4,000)/約707円(566〜1,131円)
安価な店の1食(ヤウンデ)2,000 CFAフラン/約566円
中級レストランの1食3,000〜8,000 CFAフラン/約849〜2,262円
中級〜上級店(2人分・ドゥアラ)70,000 CFAフラン/約19,796円
エル単品の公式価格確認できず=不明

07どこで食べるか

本場は南西州——ブエア(Buea)、クンバ(Kumba)、バメンダ(Bamenda)などアングロフォン地域です。

ヤウンデ——Restaurant Manuba(レビューに「Eru house」=エルの店として言及があります。マニュ=Manyu という店名自体がバヤンギ人の県名)。

ドゥアラ——ボナムサディ(Bonamoussadi)地区に White House Restaurant、Mamy Eru という店舗が企業ディレクトリ上に存在します。

ただしこれらの店の実態・営業状況は未確認です。エルの店名情報は確度が低いので、現地で確認してください。ドゥアラ・ヤウンデでは「アングロフォン系の店」を探すのが確実です。

エル
北西部式のエル。地域で作り方が少しずつ違う

08豆知識

エル(Gnetum africanum)は裸子植物。マツやソテツの仲間のつる植物で、我々が普段食べる「葉物野菜」の系統からかなり遠い。日常的に食べられている裸子植物の葉というのは、世界的にも珍しい存在です。

カメルーン南西部とナイジェリアのクロスリバー/アクワイボム州は、国境で分かれていても料理がつながっている(eru=okazi=afang)。国境より先に食文化圏がありました。

乾燥エルを戻すとき、重曹を少量加えると緑が鮮やかになる。ンドレのアク抜きで「鮮やかな緑」を目指すのと同様、カメルーン料理には葉の緑を保つ技術体系があります。

エルは栽培が難しく、森からの採取に依存している。原料が野生資源なので、供給は森の状態に左右されます。

為替レート:1中央アフリカCFAフラン(XAF)=約0.2828円で換算しています(2026年8月時点)。価格は変動します。本記事の価格は業態別の相場からの推定を含みます。現地で必ずご確認ください。

写真はすべて Wikimedia Commons より。各画像の作者とライセンスは以下のとおりです。

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