カメノテ

世界の料理図鑑 日本

カメノテ

亀の手 かめのて Japanese goose barnacle

日本では磯のタダの珍味、スペインでは1キロ120ユーロ超。同じ生き物が国境で値段を変える。

岩の隙間に、亀の手のようなものがびっしり詰まっている。名前はそのまま「カメノテ」。爬虫類とは何の関係もない。

貝でもない。フジツボの仲間の甲殻類である。つまりエビやカニの親戚だ。学名はCapitulum mitella。潮間帯の岩の割れ目に群生し、蔓脚(つるあし)を広げて波が運ぶプランクトンを捕らえる。

塩茹でして中身を引き出すと、味が分かる。「えびとカニの間の食感で、ほのかな磯の香り」。そして「アサリとワタリガニを合わせたような」濃い出汁が出る。

国・地域
日本各地の岩礁。高知、愛媛、大分、鹿児島でよく食べられる
分類
甲殻類(蔓脚類・ミョウガガイ科)。貝ではない
相場
通販で約1kg 2,376円。大粒は1kg 5,000円以上
主な材料
カメノテ、塩。味噌汁なら味噌
辛さ
辛くない。磯の塩気と甲殻類の旨み
食べる場所
西日本の魚屋・居酒屋。通販でも入手可
ベスト時間
春から夏が旬とする説が多い。市場魚貝類図鑑は「旬は不明」
一人前の目安
小鉢に十数個。食べられる部分はごく少ない
食べ方
塩茹でして殻から身を引き出す。味噌汁、酒蒸しにも
近い料理
ペルセベス(スペイン)、エビ、カニ、アサリ

01一口目に来るもの

塩茹でにしたカメノテが、ざるに山盛りになっている。指でつまんで、爪のような硬い部分と、鱗に覆われた柄の部分をひねる。すると柄の中から、細い筋肉の束がするりと出てくる。

食べるのはここだ。一個からほんの少し。「食べられるのはこの出ている部分。ほんのちょっとだけ。しかしこれが旨い」と旬の魚介百科は書いている。

味の描写はおおむね一致している。豊洲市場ドットコムは「えびとカニの間の食感(カニほど繊維質ではないけれどえびほどブリブリもしていない)でほのかな磯の香り」。ORETSURIは「貝と甲殻類を足して2で割ったような味」。たべるごは「カニとも言えず、エビとも言えないその中間のような味で、食感は貝に似た歯ごたえ」。

そして全員が口を揃えるのが出汁の良さである。「アサリとワタリガニを合わせたような香りと旨味」。身の量が少ないぶん、茹で汁や味噌汁にした方が満足度は高いかもしれない。「冷酒があると、もはや止まらない酒の肴」という一文が、この食材の位置をよく表している。

カメノテ
カメノテの炒め物(台湾・馬祖の「炒佛手貝」)
カメノテ
あさりの味噌汁。カメノテの味噌汁も同じように濃い出汁が出る(写真はあさり)
カメノテ

第 二 章

岩の割れ目に

岩礁の潮間帯(アイルランド)

02貝ではない

見た目は完全に貝である。硬い殻板が並び、岩に固着している。だが分類上は、節足動物門の甲殻亜門、顎脚綱、蔓脚下綱の有柄目ミョウガガイ科。つまりフジツボの仲間だ。

エビやカニと同じ甲殻類、と言われると納得しやすい。実際、味も食感もそちら寄りである。

生態も面白い。雌雄同体で、孵化した幼生はプランクトンとして海を漂う。やがて変態して岩に固着し、そこから動かない生活に入る。蔓脚を扇のように広げて、波が運んでくるプランクトンを漉し取る。

大きさは通常3、4センチ。7センチに達する個体もある。分布は北海道南西部からマレー諸島まで。日本のどこの岩礁にもいる、ありふれた生き物だ。

カメノテ
カメノテの群生(山形県)
カメノテ
岩の隙間に詰まったカメノテ
カメノテ
カメノテの3Dモデル(標本)

03マイナスドライバーで掘る

獲り方は原始的だ。軍手をして、マイナスドライバーか「いそがね」と呼ばれる金属棒を持ち、磯へ行く。

「端っこの個体をまず剥がし、そこにマイナスドライバーなどの先端をほりいれて、岩場から『てこの原理』で掘り起こす」。びっしり詰まっているので、一つ剥がすまでが難しい。

ただし、勝手に採ってはいけない。カメノテは海面の「第一種共同漁業権」の対象になっている場合がある。漁業権を持たない遊漁者が対象の海産物を獲ると処罰される。採る前に地元の漁協や都道府県の遊漁ルールを必ず確認したい。

それ以前に、危ない。波の当たる岩場での作業になる。ライフジャケットは必須だ。

カメノテ
磯でカメノテを採取しているところ
カメノテ
岩に群生するカメノテ

04スペインでは1キロ120ユーロ

同じ生き物が、国境を越えると値段を変える。

スペインとポルトガルでは、近縁種のPollicipes pollicipesを「ペルセベス(percebes)」と呼び、高級食材として扱う。2025年の相場で、小さいもので1キロ40〜55ユーロ、中で55〜80ユーロ、大で80〜120ユーロ。クリスマスやイースターには特大が120ユーロを超える。旬は10月から3月だ。

高い理由は、採るのが命がけだからである。ガリシアの海岸は波が荒い。「生息する場所が波の多い岩場になるため、大波が来たときにペルセベ漁の漁師が海に引きずられる事も」ある。

日本での相場はというと、通販で約1キロ2,376円。大粒でも1キロ5,000円以上、というところだ。市場魚貝類図鑑は「入荷量は少ないながら珍しくはない。値段はやや高値で安定」と書いている。御徒町の魚屋で「200gないくらいで300円ちょっと」という記録もある。

食べたスペインの人の感想は、日本人のそれと変わらない。「あらっ、美味しい! 蟹を食べる時のように、無口で黙々とノンストップで食べられます」。

カメノテ
ペルセベス(カリフォルニアで撮影されたPollicipes pollicipes)
カメノテ
ペルセベス(Pollicipes pollicipes)
カメノテ
ペルセベスの拡大(背景を抜いた画像)
日本のカメノテスペインのペルセベス
学名Capitulum mitellaPollicipes pollicipes
扱い磯の珍味。一部地域で食用高級食材。クリスマスの定番
価格約1kg 2,376円(通販)1kg 40〜120ユーロ超
旬春〜夏(諸説あり)10月〜3月
採取磯の岩場。漁業権に注意波の荒い岩場。危険な漁
カメノテ
ヘラクレスの塔(スペイン・ラ・コルーニャ)。ガリシアはペルセベスの本場だ
カメノテ
スペインの海岸

05どう食べるか

基本は塩茹でである。カメノテが浸る程度の水に塩を少し。アクを取りながら五分ほど。日本酒か白ワインを少し加えると臭みが抑えられる。

味噌汁にすると、出汁の良さが最大限に出る。酒蒸し、ワイン蒸し、ガーリックソースのスパゲッティ、アクアパッツァ。台湾の馬祖では「炒佛手貝」という炒め物になる。

身が少ないので、たくさん採れたときほど嬉しい食材だ。逆に言えば、少量を買って一人で食べるより、大量に手に入れて出汁ごと味わうほうが向いている。

カメノテ
スペインの海鮮のサルピコン(写真は海鮮料理)
カメノテ
干潮時のペルセベスの群れ(フランス)

06フジツボから鳥が生まれる

英語でカメノテ類を「goose barnacle」=ガチョウのフジツボと呼ぶ。奇妙な名前だが、由来には中世ヨーロッパの伝説がある。

カオジロガンという鳥がいる。英語名はbarnacle goose。北極圏で繁殖するので、中世のヨーロッパ人はこの鳥の巣も卵も見たことがなかった。そこで、この鳥は流木に付いたフジツボから生まれるのだ、と信じられた。

殻から出ている蔓脚の房が、たしかに鳥の羽毛に見えなくもない。エボシガイ(Lepas anatifera)の姿を見ると、その連想の筋道が分かる。

つまり日本人は亀の手を見て、ヨーロッパ人は鳥の生まれる場所を見た。同じ生き物の同じ形が、土地によって別のものに見えている。

カメノテ
エボシガイ。カメノテとは別のフジツボの仲間
カメノテ
エボシガイ(Lepas anatifera)のアップ

07豆知識

爬虫類とは無関係。フジツボの仲間で、エビ・カニと同じ甲殻類である。

雌雄同体。固着生活だが、幼生期はプランクトンとして海を漂う。

スペインでは高級食材、日本では磯のありふれた珍味。同じものの価格差が二十倍以上ある。

養殖品も流通している。通販の商品に「養殖」表記のあるものがある。

英語名のgoose barnacleは、カオジロガンがフジツボから生まれるという中世の伝説に由来する。

カメノテ
同じくペルセベス
カメノテ
あさりの味噌汁。カメノテの味噌汁も同じように濃い出汁が出る(写真はあさり)
ご注意:価格は2026年8月時点の目安です。カメノテは第一種共同漁業権の対象となっている場合があり、漁業権を持たない方の採取は処罰の対象になり得ます。採取前に必ず地元漁協・都道府県の遊漁ルールをご確認ください。波の当たる岩場での作業は危険です。旬については春〜夏とする資料と「不明」とする資料があります。

写真はすべて Wikimedia Commons より。各画像の作者とライセンスは以下のとおりです。

写真の出典

本文中の写真はすべてWikimedia Commonsより。各画像のライセンスは以下のとおりです。

0 Capitulum mitella koh.jpg/Harum Koh/CC BY-SA 4.0/Wikimedia Commons

1 Pollicipes mitella 20201020 Yoza Yamagata Jp.jpg/–[[利用者:あおもりくま|あおもりくま]](会話) 2020年11月3日 (火) 09:08 (UTC)/Public domain/Wikimedia Commons

2 May be カメノテ (15598713036).jpg/harum.koh from Kobe city, Japan/CC BY-SA 2.0/Wikimedia Commons

3 Pollicipes pollicipes California.jpg/Raresvent/CC BY-SA 4.0/Wikimedia Commons

4 Groupe de Pollicipes pollicipes à marée basse.jpg/Patrice78500/CC BY-SA 4.0/Wikimedia Commons

5 馬祖 炒佛手貝 20240912.jpg/Foxy1219/CC BY-SA 4.0/Wikimedia Commons

6 カメノテ採取中.jpg/話のネタ/CC BY-SA 4.0/Wikimedia Commons

7 カメノテ 亀の手 3Dモデル Japanese goose barnacle Capitulum mitella 3D model.jpg/Ffish.asia/CC BY-SA 4.0/Wikimedia Commons

8 Pollicipes pollicipes 3.jpg/Assianir/CC BY-SA 4.0/Wikimedia Commons

9 Pollicipes pollicipes 2.jpg/Assianir/CC BY-SA 4.0/Wikimedia Commons

10 Pollicipes pollicipes transparent background.png/© Hans Hillewaert / CC BY-SA 4.0/CC BY-SA 4.0/Wikimedia Commons

11 Goose barnacles? (27776796017).jpg/Björn S…/CC BY-SA 2.0/Wikimedia Commons

12 Goose barnacles (Lepas anatifera).jpg/RamiAubourg/CC BY-SA 4.0/Wikimedia Commons

13 Torre de Hércules, La Coruña, España, 2015-09-24, DD 12-15 PAN.JPG/Diego Delso/CC BY-SA 4.0/Wikimedia Commons

14 Spain (24820322009).jpg/N O E L | F E A N S/CC BY 2.0/Wikimedia Commons

15 Salpicón de Mariscos – 2011.JPG/Tamorlan/CC BY 3.0/Wikimedia Commons

16 Miso soup of Japanese littleneck clam(asari) 2014.jpg/Kentin/CC BY-SA 3.0/Wikimedia Commons

17 Rocky intertidal zone near Knockeen – geograph.org.uk – 7889734.jpg/David Martin/CC BY-SA 2.0/Wikimedia Commons

参考にした資料

Wikipedia「カメノテ」

市場魚貝類図鑑「カメノテ」

豊洲市場ドットコム 実食記事

ORETSURI「カメノテの獲り方と食べ方」

旬の魚介百科「カメノテ」

たべるご「カメノテ」

Bacalalo「Percebes: precio y temporada」(2025年)

Pepito「亀の手 スペインの高級珍味ペルセベス」

※日本での塩茹で・味噌汁の自由利用可能な写真が存在しないため、台湾の炒め物、スペインの海鮮料理、あさりの味噌汁の写真で説明し、キャプションにその旨を明記しています。