セスワ

世界の料理図鑑 ボツワナ

セスワ

seswaa / chotlho セスワ、チョトロ Seswaa

味付けは塩だけ。それが政府の公式レシピでもあります。

牛またはヤギの、脚・首・背といった硬い部位を、塩を入れた水で4〜5時間煮て、臼と杵で搗いてほぐした料理です。葬儀、結婚式、そして独立記念の祝典で作られます。

味付けは塩だけ。ボツワナ政府の広報誌に載るヤギのセスワのレシピは、材料が「ヤギ肉1kg、ビーフストック5L、塩」——以上です。

そして名前が4つあります。バングワトはセスワ(搗かれるもの)、バクガトラはチョトロ(噛まれたもの)、バクウェナはツワイワ(搗かれたもの)、バングワケツェはロスワオ。同じ国の、同じセツワナ語のなかで、同じ料理を4通りに呼ぶ。

正式名
seswaa(バングワト)/chotlho(バクガトラ)/tshwaiwa(バクウェナ)/loswao(バングワケツェ)
語義
seswaa=搗かれるもの、chotlho=噛まれたもの、tshwaiwa=搗かれたもの
分類
硬い部位の肉を長時間煮て搗きほぐしたもの
主な材料
骨付き牛肉1,000g、塩小さじ2、水(肉がかぶる量)
使う部位
脚・首・背などの硬い部位。柔らかい部位では作れない
調理
弱火で4〜5時間、肉が骨から離れるまで。室温まで冷ましてから搗く
道具
三脚の鋳鉄鍋(potjie)を焚き火に。臼と杵
作る人
搗く作業に力が要るため、伝統的に男性
場面
葬儀、結婚式、独立記念祝典(9月30日)
相場
セスワ単品の一次資料はなし。屋台20〜40プラ(約230〜460円)が目安

01一口目に来るもの

最初に来るのは塩とスープです。香辛料が一切入らないので、肉そのものの匂いと塩気だけ。焚き火で煮た場合は、そこにわずかな煙の匂いが乗ります。

次に脂とゼラチン。脚・首・背という硬い部位を4時間前後煮ているので、コラーゲンが溶けて口の中に膜を張ります。搗くときに戻したストックが繊維のあいだに入り込んでいるので、乾いた感じはしません。

骨付きで煮るのが基本形なので、髄と骨際の旨味が全体に回っている。ここが味の芯です。

食感は、搗いてあるので噛む前にほぐれます。挽き肉ではなく、繊維の束が分かれた状態。噛むと縦方向の繊維を感じる。プルドポークに近いのですが、豚より繊維が太く、噛み切る手応えがあります。

後味は塩です。味付けが塩しかないので、余韻も塩で終わる。だからこそ、ほぼ無味のボゴベ(粥)と、青みのあるモロゴ(葉物)が必ず横に付きます。三点セットで一つの料理と考えるのが正しい。

そして辛くありません。香辛料の香りもない。「アフリカ料理=スパイシー」という先入観で読まないでください。セスワの本質は引き算です。※以上は資料からの再構成であり、実食に基づく記述ではありません。

セスワ
搗きほぐした牛肉。挽き肉ではなく、繊維の束が分かれた状態になっている

02塩だけ。それが政府の公式レシピでもある

材料について、資料は割れています。「塩、油、水だけで煮込む」とするもの、「ちょうどよいだけの塩」とするもの、玉ねぎと胡椒を入れるとするもの、ローリエ4枚を加えるレシピ。

興味深いのは、玉ねぎと胡椒を入れると書いた同じ記事が、その直後に「これ以上何かを加えたら、どのボツワナ人にも眉をひそめられる」と書いていることです。

判断の重みとして大きいのは、ボツワナ政府の広報誌に載るヤギのセスワ(seswaa sa podi)のレシピです。材料はヤギ肉1kg、ビーフストック5L、塩。それだけ。

ですのでここでは、最も禁欲的な「肉・水・塩」を基本形とします。胡椒や玉ねぎを入れる家庭やレシピもありますが、何も足さないのが本来とされている。

ちなみに「ボツワナの公式の国民食」と書く資料もありますが、政府が公式に指定したことを示す一次資料は見つかりませんでした。しかも別の料理——ボゴベ・ジワ・レロツェ(メロン入りモロコシ粥)——も国民食とされています。国民食が2つある、という言い方のほうが正確です。

セスワ
セスワとボゴベ
セスワ
セスワとパレチェ(練り粥)、そして青菜

硬い肉こそが正解

使うのは脚・首・背という、ステーキにできない部位です。柔らかい肉では作れません。

セスワは長時間の煮込みでコラーゲンをゼラチンに変え、その粘りで繊維をまとめる料理です。コラーゲンの少ない部位を4時間煮ると、ただ水分が抜けてパサパサの繊維になります。

乾燥した土地で、痩せた牛の硬い部位を、塩と水と時間だけで食べられるものに変える。この設計思想が、この料理のすべてです。

セスワ
繊維状にほぐれたセスワのアップ
セスワ
持ち帰り容器に詰めたボゴベとセスワ、サラダ
セスワ
鍋で搗いたロバ肉のセスワ(ボツワナ・ボカア村で撮影)
焚き火にかけた三脚の鋳鉄鍋

第 二 章

冷 ま し て か ら 搗 く

熱いうちに搗くと、繊維が切れてペーストになる

03失敗しやすい6か所

第一は、柔らかい部位を使うこと。ヒレやサーロインでは作れません。

第二は、熱いうちに搗くこと。レシピは「室温まで冷ましてから搗く」と明記しています。政府広報誌のレシピも「冷ましてから骨と脂を取り除いて搗く」。熱いうちは繊維がまだ緩んでいて、搗くと切れてペースト状になる。冷めると繊維が締まり、搗いても切れずに「ほどける」。この一手間が食感を決めます。(なおこの力学的な説明はこちらの推論で、資料に明記されているのは「冷ましてから搗く」という手順だけです。)

第三は、煮汁を捨てること。味付けが塩しかないので、味は全部煮汁にあります。政府広報誌のレシピは搗いたあとに「残りのストックを足して湿り気を調整する」と明示している。捨てると、塩気だけの乾いた肉になります。煮汁は調味料です。

第四は、香辛料を足して「おいしくしよう」とすること。セスワは付け合わせと組んで初めて完成する設計になっていて、肉に味を付けすぎると三点セットのバランスが崩れます。日本の白飯・味噌汁・漬物の関係に近い。

第五は、フードプロセッサーにかけること。機械にかけると繊維が均一に切断されてそぼろになります。搗く作業は「繊維に沿ってほぐす」ものであって「切る」ものではない。この違いが seswaa(搗かれるもの)という語そのものの意味です。フォーク2本で裂くほうが、機械より本物に近い。

第六は、水を入れすぎること。資料はどれも「肉がかぶる程度」としか言いません。多すぎると4〜5時間煮ても煮汁が煮詰まらず、味が薄い茹で肉になります。政府広報誌のレシピは「ストックが蒸発したら」を次の工程に進む合図にしている。煮汁が減ることが工程の一部です。

セスワ
焚き火にかけた三脚の鋳鉄鍋。結婚式や葬儀ではこの規模で作る
セスワ
結婚式の調理。大鍋がいくつも並ぶ

これ以上何かを加えたら、どのボツワナ人にも眉をひそめられるセスワの味付けについての現地の記述より

04種類を並べてみる

名前の違いは、資料の食い違いではありません。セツワナ語の方言差です。どの民族の言い方か、で並べます。

名前特徴食べ方
セスワ(seswaa)バングワトの言い方。語義は「搗かれるもの」ボゴベまたはパパの上に載せ、モロゴを添える。手で
ロスワオ(loswao)バングワケツェの言い方。seswaa と同語源同上
チョトロ(chotlho / tšhotlho)バクガトラの言い方。語義は「噛まれたもの」同上
ツワイワ(tshwaiwa)バクウェナ(モレポロレ)の言い方。語義は「搗かれたもの」同上
セスワ・サ・ポディヤギ肉版。政府広報誌にレシピ掲載。材料はヤギ肉・ストック・塩のみボゴベ・ジワ・レロツェと
羊肉版ラムまたはマトンで作る同上。※旅行系メディア1本のみ。要確認
セロベ(serobe)セスワとは別料理。牛・羊・ヤギの内臓を使う。同じ食卓に並ぶ同上。※セスワの変種ではない
セスワ
結婚式で煙の立つ大鍋をかき混ぜる男性
セスワ
鍋に入った出来上がりのセスワ
セスワ
屋台で鍋からセスワとディクゴベを容器によそう

05作るのは男。理由は「力がいるから」

複数の資料が「搗いてほぐす作業に筋力が必要なため、伝統的に男性が担当する」と記しています。この性別分業は資料が一致している数少ない点です。大量の肉を臼で搗く重労働であり、結婚式や葬儀のような大人数の場面ではなおさら。

ただし「今もそうか」は確認できていません。

食べ方は手食です。ボゴベ(またはパパ)を右手でちぎって団子にし、そこにセスワとモロゴを乗せて口に運ぶ。ただしセスワそのものについて「右手で」と明記した資料は見つかりませんでした。ナミビアのオシフィマについては複数の資料が明記しているので、同様と考えるのが自然ですが、これは推論です。

共食です。葬儀、結婚式、独立記念祝典で作られる、つまり大鍋で大量に作って大勢で食べる料理です。

儀礼としては、行事のときに作られることまでは確認できました。ただし「儀式の中で特定の作法がある」「特定の人物が最初に食べる」といった儀礼手続きを示す資料は一件も見つかりませんでした。ですのでここでは「行事のときに作られる料理」と書き、「儀式食」とは書きません。

セスワ
ディクゴベ(トウモロコシと豆の煮物)とセスワ
セスワ
よそっているところ

06いくらで食べられるか

セスワ1皿の価格を示す信頼できる一次資料は見つかりませんでした。唯一の数字は旅行系メディアの「一般的なカジュアル店で30〜60プラ」ですが、裏が取れていません。

なお、ボツワナの外食価格そのものが、物価サイト2つで2.5倍食い違っています(安いレストランの1食が150プラと60プラ)。片方だけを引くのは不誠実なので、レンジで書きます。

セスワを含む食事の相場(2026年時点。1プラ=約11.41円)価格
屋台・市場P20〜40(約230〜460円)。※旅行系メディア1本のみ
一般の食堂・レストランP60〜150(約680〜1,710円)。※物価サイト2つの割れをレンジで
高級・サファリロッジP250〜600(約2,850〜6,850円)。※宿泊込みの可能性あり
セスワ単品(旅行メディアによる)P30〜60(約340〜680円)。裏付けなし
参考:牛もも肉約P67/kg(約761円/kg)
セスワ1人前の肉の原価(推計)P13〜16(約150〜180円)。骨付き牛肉200g換算

07どこで食べるか

先に、この記事でいちばん実用的な事実を書きます。「セスワが名物」と特定できるレストランは、今回の取材では一軒も確認できませんでした。

ハボローネ、マウンいずれのレストラン一覧を当たっても、セスワをメニューの看板に掲げていることが一次確認できる店はなかった。セスワは行事食であり家庭料理であって、レストランで探す料理ではありません。

実在が確認できた店としては、ハボローネの The Courtyard Restaurant @ Botswanacraft(Plot 20716, Magochanyama Road, Block 3。1970年創業の手工芸センター併設、朝食9:00〜12:00、昼食12:00〜15:00、月〜土、評価4.7/126件)。マウンでは Kwa Ga Ncinci Restaurant(アフリカ料理、評価4.5/11件)。いずれもセスワの提供は未確認です。

現実的な出会い方は、結婚式か葬儀か、独立記念日(9月30日)に居合わせることです。

なお、ボツワナには2026年8月時点で日本国外務省の危険情報は出ていません。ただし「日本人に対する犯罪が増加傾向」にあり、ハボローネではブロードハースト、エリア27、ハボロネウェスト・フェーズ2、モゴディチャネなどが要注意地区として挙げられています。

セスワ
カラカマティ農場の牛。ボツワナは乾燥肉の生産量で世界5位とされる

08豆知識

名前が民族ごとに違う、それも「搗く」と「噛む」で違います。バングワトは「搗かれるもの」、バクガトラは「噛まれたもの」、バクウェナは「搗かれたもの」。同じ料理を、命名の着眼点まで分かれて呼んでいる。

ボツワナの牛は約222万頭(2008年時点のデータ)。牛肉の生産は36,600トンで、乾燥肉(ビルトン)の生産量では世界5位とされます。一方で農業のGDP寄与は2.7%。牛の国でありながら、経済の主役ではありません。

その牛肉産業は輸出、とくにEU市場を向いています。政府系メディアはボツワナ食肉委員会の施設について「主に輸出向けであり、国内屠畜のみでは維持不可能」と明言している。そして2026年2月、EUの実施規則により、ボツワナの獣医疾病管理ゾーン3c(マイテングウェ地域)からの牛肉が口蹄疫を理由に受け入れ停止になりました。国全体ではなく、ゾーン単位で切られる。他の4ゾーンからの輸出は続いています。

同じ国の、同じ牛が、住んでいる場所によって輸出できたりできなかったりする。一方、国民食セスワが使うのは、そのどのゾーンでも輸出品にはならない、脚と首と背の肉です。塩と水だけで4時間煮て、木の杵で搗く。

「国民食」について:「公式に指定された国民食」と書く資料がありますが、政府の公式指定を示す一次資料は確認できませんでした。ボゴベ・ジワ・レロツェも国民食とされており、本記事は「国民食と呼ばれる」に留めています。
材料について:資料が割れています。本記事は最も禁欲的な「肉・水・塩」を基本形とし、政府広報誌のレシピ(ヤギ肉・ストック・塩のみ)を判断の重みとしました。
輸出と国民食の関係について:「良い部位が輸出され、硬い部位が国内に残る」という因果を裏づける資料はありません。本記事は事実を並置するにとどめています。
牛の頭数について:約222万頭は2008年時点のデータです。
為替レート:1ボツワナ・プラ=約11.41円(2026年8月31日時点)。

写真はすべて Wikimedia Commons より。各画像の作者とライセンスは以下のとおりです。

ホーム › ボツワナ料理 › セスワ

同じカテゴリの、ほかの記事