世界の料理図鑑 ボツワナ
モロゴ
morogo / moroho モロゴ、モロホ Morogo
値段が付かないところに、この食べ物の価値があります。
南部アフリカ全域で食べられる、濃緑色の葉物野菜の総称です。単一の植物ではなく、複数の種を含むカテゴリ名。しかもその多くは、栽培作物ではなく畑に自生する「雑草」を摘んだものです。
ボツワナ中央県のモロゴ・ワ・ディナワ(ササゲの若葉を使うもの)は、スローフード財団の「味の箱舟」に登録されています。11月から4月、発芽後4〜6週の柔らかい葉を摘み、湯通しして搗き、絞って団子にして天日で干す。袋か土器に入れて、約1年もちます。
栄養価の研究もあります。ただし結論は「栄養価が高い」ではありません。「どの種か、どこで採れたかで、栄養価は桁単位で変わる」です。
- 正式名
- morogo(モロゴ)。複数形は merogo、ソト語系では moroho
- 分類
- 濃緑色葉物野菜の総称。単一の植物ではない
- 含まれる種(ボツワナ3村調査)
- Amaranthus thunbergii、A. hybridus、Cucumis anguria、Erythrococca trichogyne、Corchorus olitorius(モロヘイヤ)、Cleome gynandra
- 現地名の対応
- テペ=ヒユ属/レロト=Cleome gynandra/ディナワ=ササゲ
- モロゴ・ワ・ディナワ
- ササゲの若葉。11〜4月、発芽後4〜6週の葉を摘む
- 保存
- 湯通し → 搗く → 絞って団子 → 天日干し。袋や土器で約1年
- 調理
- 戻して洗い、玉ねぎ・トマト・ピーナッツバターで約15分煮る
- 栄養
- カルシウム1,722〜3,100mg/乾物100g。鉄は種により17倍、亜鉛は70倍以上の開き
- 位置づけ
- ボゴベ(粥)の付け合わせ。単体で食べる料理ではない
- 相場
- 価格を示す一次資料はなし。多くは摘んでくるもので原価がゼロに近い
01一口目に来るもの
青みと、わずかな土の匂い。ヒユ(Amaranthus)系はホウレンソウに近いのですが、より野性味が強い。乾燥させて戻したものだと、干した葉特有の、干し椎茸に似た凝縮した香りが最初に来ます。
そのあと、種によって道が分かれます。テペ(ヒユ)は穏やかで、えぐみが少なく、日本のホウレンソウに最も近い。レロト(Cleome gynandra)は明確に苦い。デレレ(Corchorus系)は粘る。ディナワ(ササゲの葉)は豆の葉らしい、青くて甘い方向。
乾燥品を戻したものは、生の葉より繊維がしっかりしています。15分ほど煮ると繊維が緩む。
デレレ系は明確に粘り、ボゴベに絡んで、器の役目を果たす粥に味を運びます。
後味は、油と塩、そして多くのレシピで加わるピーナッツバターの脂が、青みと苦みを包む。そして辛くありません。ボツワナ料理全体に言えることですが、唐辛子を前面に出す文化ではない。
※以上は資料からの再構成であり、実食に基づく記述ではありません。

02これは料理というより、保存食を作る技術
モロゴ・ワ・ディナワの工程は、こうです。11月から4月のあいだ、発芽後4〜6週の柔らかいササゲの葉を摘む。湯通しする(現地の調査では1〜2時間煮ると記録されている)。柔らかくなるまで搗いてペースト状にする。絞って団子に丸める。天日で干す。袋または土器に保存する。約1年もちます。
ここが本体です。食べるときは水で戻し、玉ねぎとトマトを炒めたところに加え、蓋をして約15分煮て、塩とトマトペーストとピーナッツバターで調味する。
乾季に新鮮な野菜がなくなる土地で、これは冷蔵庫のない保存技術そのものです。スローフード財団が「味の箱舟」に登録した理由もそこにあります。
摘む時期も決まっています。発芽から4〜6週の柔らかい葉。それ以上育つと硬くなる。畑の作物(ササゲ)の豆を待つ前に、葉のほうを収穫する。ひとつの作物を二度使う設計です。
なお、この料理の「起源」を問う意味はあまりありません。野生の葉物を摘んで茹でて食べるという行為であり、特定の起源年代を持つ「料理」ではない。ここで起源を語らないこと自体が正確です。


「アフリカのホウレンソウ」という訳語がいちばん誤解を生む
モロゴは複数種の総称で、ホウレンソウに近いのはヒユ属だけです。Cleome gynandra は苦く、Corchorus 系は粘る。
そしてこの Corchorus olitorius は、日本のスーパーで売っているモロヘイヤと同じ学名です。ボツワナ3村の調査がモロゴとして記録した種のひとつがこれ。南アフリカのヴェンダも同じ葉を同じように調理します。
日本の読者が最も簡単にモロゴに近づける食材が、すでに近所の八百屋にあります。



第 二 章
干 す
絞って団子にして天日へ。それで1年もつ
03失敗しやすい6か所
第一は、戻し時間が足りない、あるいは洗わないこと。レシピは「砕く → 15分浸ける → 洗う」と3工程を明記しています。干した葉には土埃が付いている。ボツワナの伝統食加工の課題として、学術論文が「不十分な乾燥によるカビの汚染、昆虫・害虫の混入、土壌の混入」を挙げているとおり、洗う工程は衛生上の必須手順です。
第二は、乾燥が不十分なままで保存すること。同じ論文がカビ汚染を名指ししています。天日干しが甘いと1年もちません。「天日で干す」は工程であると同時に、食品保存の安全条件です。
第三は、Cleome gynandra(レロト)を短時間で仕上げること。苦みの強い葉であり、十分に煮ないと苦みが立ちます。ただし資料に調理時間の指定はないので、時間を断定はしません。
第四は、ピーナッツバターを「甘いもの」で代用すること。市販のものには砂糖・塩・油が加えられているものが多い。モロゴの脂とコクは無糖の落花生から来るものであって、甘みではありません。
第五は、「アフリカン・スピナッチ」だと思ってホウレンソウで代用すること。日本で作るなら、ヒユナ(Amaranthus)とモロヘイヤ(Corchorus olitorius)が学名レベルで一致します。
第六は、生鮮の葉を「野草だから」と自己判断で摘むこと。ボツワナの伝統食研究は「特定の植物の利用に関する禁忌および食品安全上の懸念」が現地で報告されていることを明記しています。日本で作るなら、市販のヒユナ、モロヘイヤ、ササゲの葉を使ってください。


鉄は Amaranthus thunbergii の237mgから A. hybridus の14mgまで、亜鉛は0.6mgから44mgまで(いずれも乾物100gあたり)南アフリカ北西州のツワナ系地域におけるモロゴの成分研究より
04種類を並べてみる
「モロゴは何種類か」という問いには答えません。資料は3種から52種まで割れています。地域と季節で中身が変わる、開かれたカテゴリです。



05「栄養価が高い」で終わらせない
南アフリカ北西州のツワナ系地域で行われた成分研究があります。乾物100gあたり、カルシウムは1,722±60から3,100±95mg。マグネシウムは1,311±45から1,400mg。研究は「ホウレンソウやスイスチャードと比べて相対的に高いカルシウムとマグネシウム濃度」と結論しています。
ですが、この研究のいちばん重要な結論は数字の高さではありません。幅の大きさです。
鉄は Amaranthus thunbergii の237±8mgから A. hybridus の14±0.5mgまで、17倍の開きがある。亜鉛は0.6±0.2から44±15mgまで、70倍以上。しかも同じ種でも採取地で違う。
「モロゴは栄養がある」と一括りにはできません。どの種か、どこで採れたかで桁が変わる。
なお、この研究の調査地は南アフリカ北西州であってボツワナではありません。北西州はツワナ系の文化圏でボツワナと連続しますが、その点は明記しておきます。


06いくらで食べられるか
モロゴの価格を示す一次資料は、一件も見つかりませんでした。すべて不明です。
ただし、これは「価格がわからない」という話ではありません。そもそも多くは摘んでくるものであり、原価がゼロに近い。スローフード財団が価値を強調するのも、買わずに手に入る栄養源であるという点です。
07なぜ、減っているのか
再評価される理由ははっきりしています。買わずに手に入り、1年保存でき、主食の穀物に乏しいカルシウム・マグネシウム・鉄を補う。ボツワナは穀物の90%超を輸入していて、干ばつが約3年に1度来る国です。
それでも減っています。スローフード財団が挙げる理由は二つ。「在来野菜に対する文化的スティグマ」——田舎くさい、貧しいというイメージ——と、「改良された商業品種との市場競争」。
別の研究は「収穫と加工が時間・労力集約的で、若い世代の関心が落ちている」ことを指摘しています。
栄養価が高いことと、食べ続けられることは、まったく別の問題です。カルシウムがホウレンソウを上回り、1年保存でき、しかも畑から無料で採れる葉物が、「田舎くさい」という理由と「摘んで茹でて搗いて干す手間がかかる」という理由で減っている。
これは貧しさの物語ではなく、時間と面子の物語です。同じ構造が、この図鑑のボゴベ/ティンの記事にも出てきます。

08豆知識
モロヘイヤはモロゴです。ボツワナ3村の調査がモロゴとして記録した種のひとつが Corchorus olitorius——日本のスーパーで売っているモロヘイヤと同じ学名です。
カロテノイドはホウレンソウ並み(140mg/100g)、総フェノール類は乾物100gあたり1,057〜2,906mg GAE。研究は後者を「一般的な、および商業栽培される非在来の濃緑色葉物野菜の範囲内」と位置づけています。突出しているのはカルシウムとマグネシウムです。
摘む時期は「発芽後4〜6週」と決まっています。11月から4月のあいだ。それ以上育つと硬くなる。
そして1年もつ。湯通しして搗いて団子にして天日で干すという工程を経て、袋や土器の中で約1年保存できる。乾季に新鮮な野菜がなくなる土地での、冷蔵庫のない保存技術です。
種の数について:資料は3種から52種まで割れています。本記事は「地域と季節で中身が変わる、開かれたカテゴリ」として扱い、種数を断定していません。
成分研究について:引用した成分値の調査地は南アフリカ北西州のツワナ系地域であり、ボツワナではありません。
安全について:ボツワナの伝統食研究は「特定の植物の利用に関する禁忌および食品安全上の懸念」が報告されていることを明記しています。日本で作る場合は、市販のヒユナ、モロヘイヤ、ササゲの葉をお使いください。野草の自己判断採取はお勧めしません。
為替レート:1ボツワナ・プラ=約11.41円(2026年8月31日時点)。
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写真はすべて Wikimedia Commons より。各画像の作者とライセンスは以下のとおりです。
- 01/Morogo wa Setswana.jpg / Chandapiwa Malema / CC BY-SA 4.0
- 02/Morogo wa Dinawa.jpg / Mothusi Sekhomba / CC BY-SA 4.0
- 03/Morogo wa dinawa.jpg / VNGao / CC0
- 04/Chomollier plant or Morogo harvested from a home garden in Palapye, Botswana.jpg / Sharon the Bubbly Maker / CC BY-SA 4.0
- 05/Morogo put on a sack bag after being plucked from the mother plant. it needs to be cooked and dried.jpg / Sharon the Bubbly Maker / CC BY-SA 4.0
- 06/MOROGO WA Setlepetlepe( green).jpg / Bonolo Nikita Rankaga / CC0
- 07/Morôgo wa Dinawa mô losêlông.jpg / Mothusi Sekhomba / CC BY-SA 4.0
- 08/Dried Morogo wa Dinawa.jpg / Mothusi Sekhomba / CC BY-SA 4.0
- 09/Dried morogo wa dinawa.jpg / LeboneTshenolo / CC BY 4.0
- 10/Morogo wa setswana in a bow.jpg / Chandapiwa Malema / CC0
- 11/Morogo mo Changate.jpg / Chandapiwa Malema / CC BY 4.0
- 12/A pot of rape cooking on stove.jpg / Olgatladi2020 / CC0
- 13/Morogo wa dinawa, Nama ya Kgomo le Phaletšhe.jpg / JupiterKB / CC0
- 14/Semi-arid Botswana 01.jpg / Mothusi Sekhomba / CC BY-SA 4.0
- 15/Semi-arid Botswana 02.jpg / Mothusi Sekhomba / CC BY-SA 4.0

