キリシ

世界の料理図鑑 ニジェール

キリシ

kilishi キリシ Kilishi

厚さ2ミリ。繊維に沿って切る。ここを外すと、噛み切れないものになります。

牛肉を薄く切って、干して、落花生のペーストを塗って、また干して、最後に炙る。

工程だけ書くと簡単に見えますが、生肉5キロが1キロにしかなりません。

ニジェールとナイジェリア北部で作られる、この歩留まりの悪い干し肉の話です。

現地名
kilishi(ハウサ語)
読み
キリシ
分類
乾燥肉・保存食
地域
ニジェール南部/ナイジェリア北部
主材料
牛の赤身、落花生ペースト、香辛料
厚さ
約2ミリ(繊維に沿って切る)
歩留まり
生肉5kg → 製品1kg(5対1)
たんぱく質
60.50%(牛)/64.50%(ラクダ)
地理的表示
OAPIに2023年4月登録
原価
9,418 CFAフラン/kg(約2,656円)

01一口目に来るもの

見た目は赤黒い紙です。

指でつまむと、しなるより先に、かすかに割れる感触がある。

噛むと最初に来るのは肉の味ではなく、落花生を炒った香りです。

そのあとで唐辛子の熱が舌の奥に上がってきて、最後に肉の繊維がほどける。

日本のビーフジャーキーが「肉に味をつけたもの」だとすれば、キリシは「肉に落花生をまとわせたもの」に近い。

肉の板というより、肉を芯にした薄い菓子のような食べ物です。

キリシ
台の上に広げたキリシ。赤いのは唐辛子を含む落花生ペーストの色

02厚さ2ミリ、繊維に沿って

作り方の最初にして最大の分岐点が、肉の切り方です。

牛の赤身を、厚さ約2ミリまで薄く切る。しかも繊維に沿って切ります。

繊維を断ち切る方向に切ると、乾燥の途中で身がばらばらに割れてしまう。

逆に厚く切ると、内側まで乾かず、そこから傷みます。

この2ミリという数字が、あとの工程すべての前提になっています。

キリシ
切って干した状態

5キロが1キロになる

乾燥と炙りを経て、生肉5キロは製品1キロになります。

歩留まり5対1。原価は1キロあたり9,418 CFAフラン(約2,656円)と算出されています。

高いのではなく、5キロ分の肉の値段がそこに乗っているだけです。

キリシ
できあがったキリシ
キリシ
マイドゥグリのラクダのキリシ
キリシ
袋詰めにされたキリシ
キリシ

第 二 章

落 花 生 の 衣

なぜ二度乾かすのか

03ラブラ、と呼ばれるペースト

一度乾かした肉を、落花生のペーストに浸します。

ペーストには落花生粉、玉ねぎ、生姜、唐辛子、塩、香辛料が入る。

浸したあと、もう一度乾かして、最後に炭火で短時間炙ります。

この炙りが香りを立てる工程で、ここを省くと落花生の生臭さが残ります。

ただしニジェール南部のテサワ(Tessaoua)のキリシは、この炙りを行わないと記録されています。

同じ名前でも、地域によって最終工程が違うということです。

キリシ
キリシを売る屋台
キリシ
量り売りではなく、枚と束で売られる

良いキリシかどうかは、炒った落花生の香りが立つか、そして噛んだときに軽く割れるかで判断される。キリシの品質評価に関する調査より(要旨)

04種類を並べてみる

色の名前が、そのまま辛さの区分になっています。

呼び名意味中身
ジャア(Jàa)赤唐辛子入り。標準
ファリ(Fari)白唐辛子なし。子ども・辛いものが苦手な人向け
牛のキリシ—たんぱく質60.50%
ラクダのキリシ—たんぱく質64.50%。ニジェール北部・ナイジェリア北東部
テサワ式—最後の炙りを行わない
羊・山羊—作られるが牛より少ない
キリシ
屋台の棚に並ぶキリシ
キリシ
透明な容器に詰めたキリシ。屋台では袋や容器単位で売られる
キリシ
牛の頭の炭火焼き。同じ市場で並んで売られる

05たんぱく質が4倍になる理由

生の牛肉のたんぱく質は14.83%です。

キリシになると60.50%。ラクダなら64.50%。

肉が変質したのではなく、水分が抜けた分だけ比率が上がっているだけです。

ただし落花生ペーストのたんぱく質も加算されているので、純粋な濃縮ではありません。

いずれにせよ、重量あたりの栄養密度は非常に高い食品です。

キリシ
タバスキ(犠牲祭)の焼肉
キリシ
ニエベレ村の肉屋

06いくらで食べられるか

公表されているのは店頭価格ではなく、生産原価です。

1キロあたり9,418 CFAフラン。収益率(R)は2.20と算出されています。

以下の小売価格は、この原価と収益率からの推定を含みます。

キリシの価格(原価は調査値、小売は推定)価格
生産原価(調査値)9,418 CFA/kg(約2,656円)
収益率 R(調査値)2.20
小売の目安(推定)15,000〜21,000 CFA/kg(約4,230〜5,920円)
屋台の一束(推定)500〜1,000 CFA(約141〜282円)
原料の生牛肉約1,800〜2,500 CFA/kg(約508〜705円)
1kgを作るのに必要な生肉5kg

07どこで食べるか

ニジェール全土が日本国外務省の危険情報レベル4(退避勧告)の対象です。

2026年1月と6月にはニアメの空港が襲撃され、6月には民間人を含む13名が亡くなっています。

旅行者向けの案内をここに書くことはできません。

キリシはナイジェリア北部(カノ、マイドゥグリ、ザリア)でも同じものが作られており、市場での流通量はむしろそちらのほうが多い。

ヨーロッパや北米の西アフリカ食材店で袋入りのものを見かけることがありますが、その多くは非公式なルートで持ち込まれたものです。

2023年4月にOAPI(アフリカ知的財産機関)に地理的表示として登録されましたが、輸出の大半はいまも公式統計に乗っていません。

キリシ
唐辛子をきかせた牛肉の串焼き。キリシと同じ屋台で売られることが多い

08豆知識

キリシの最大の弱点は、実は保存です。

水分を抜いた食品でありながら、落花生の油分が酸化するため、長期保存には向きません。

湿度の高い雨季には、袋の中でカビが出ることもある。

「保存食なのに保存が課題」という、ねじれた性質を持った食べ物です。

写真について:キリシの写真の一部は、ナイジェリア北部(マイドゥグリなど)で撮影されたものです。同じ製法・同じ名前の食品ですが、ニジェール国内で撮られたものではありません。また屋台や肉屋の写真には、キリシそのものではなくスヤ(串焼き)や生肉が写っているものが含まれます。価格について:確かな数値は生産原価(9,418 CFA/kg)と収益率(2.20)で、これは調査資料の値です。小売価格はそこからの推定であり、実際の店頭価格を確認したものではありません。たんぱく質について:60.50%/64.50%という値には落花生ペースト由来のたんぱく質も含まれており、肉だけの濃縮値ではありません。地域について:キリシはニジェールとナイジェリア北部にまたがるハウサ圏の食品で、どちらか一国の料理とは言えません。渡航について:ニジェール全土が外務省危険情報レベル4(退避勧告)です(2026年8月時点)。

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写真はすべて Wikimedia Commons より。各画像の作者とライセンスは以下のとおりです。

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