世界の料理図鑑 チャド
キサール
kissar キサール Kissar
一枚30秒で焼き上がるものを、前の晩から準備します。
発酵させたソルガムの生地を、熱した鉄板に薄く広げる。
30秒で焼き上がり、紙のように薄い一枚になります。
チャドとスーダンにまたがって食べられている、同じ食べ物の話です。
- 現地名
- kissar(チャド)/kisra(スーダン)
- 読み
- キサール/キスラ
- 分類
- 発酵薄焼きパン
- 主材料
- ソルガム粉(ミレット、トウモロコシも)
- 発酵
- 一晩
- 焼き時間
- 約30秒/枚
- 道具
- 熱した鉄板(サージ)、挽き石
- 地域
- チャド、スーダン、南スーダン
- 厚さ
- 紙のように薄い
- 相場
- 資料が見つかりませんでした
01一口目に来るもの
薄い。まず、その薄さに驚きます。
ソルガムの生地を鉄板に一気に広げるので、厚みは紙に近い。
口に入れるとすぐにほどけて、そのあとに発酵の酸味が来ます。
パン特有の膨らみや弾力はありません。イーストで膨らませていないからです。
酸味は一晩の乳酸発酵によるもので、ヨーグルトの酸味に近い性質のもの。
ソースを載せて巻く、あるいは包むための、食べられる紙のような食べ物です。

0230秒と、一晩
焼く工程は一枚あたり30秒程度で終わります。
ところがそこにたどり着くまでに、一晩の発酵が必要です。
ソルガムを挽いて粉にし、水と合わせて、種となる前回の生地を少し混ぜる。
それを一晩置くと、乳酸菌と酵母が働いて生地が酸っぱくなります。
翌朝、熱した鉄板に薄く広げて、30秒。
時間の配分が極端に偏っている料理です。


チャドのキサールとスーダンのキスラは同じものです
国境をまたいで同じ食べ物が食べられていて、名前も綴りが少し違うだけです。
チャドではキサール(kissar)、スーダンではキスラ(kisra)。
この記事に載せている写真の多くはスーダンで撮影されたもので、そのことは記事の最後に明記しています。



第 二 章
挽 く 石
盆に敷いたキスラと汁もの。スーダンの食卓(写真はスーダンのキスラ)
03石は買い替えるものではありません
ソルガムを粉にするのは、伝統的には石臼の仕事でした。
平らな下石の上に穀物を置き、手に持った上石で押し潰しながら前後に動かす。
この石が、二世代から三世代にわたって使われると記録されています。
つまり祖母が使ったものを母が使い、母が使ったものを娘が使う。
道具の寿命が人の一生より長いので、買い替えるという概念が薄くなります。
現在は製粉機を使う家庭も増えていますが、石は残っています。


焼くのに30秒。仕込みに一晩。そして挽く石は、二世代から三世代もつ。キサール/キスラの製法記述より(要旨)
04種類を並べてみる
原料と地域によって、呼び名と質感が変わります。



05失敗する六つの場所
一、発酵を省く。膨らまないただの粉の焼き物になり、酸味も出ません。
二、生地が固い。鉄板に薄く広がらず、厚いパンになります。
三、鉄板の温度が低い。生地が張りつき、剥がすときに破れます。
四、広げるのに時間をかける。片側だけ先に焼けて、均一な一枚になりません。
五、裏返す。基本的に片面焼きで、裏返すと乾きすぎます。
六、焼いてから放置する。乾いて割れるので、焼いたそばから重ねて湿度を保ちます。


06いくらで食べられるか
キサールの一枚あたりの価格を示す資料は見つかりませんでした。
以下は原料の価格です。
07どこで食べるか
チャドは全土が日本国外務省の危険情報レベル3以上、国境地帯とチャド湖周辺はレベル4です。
スーダン側は2023年4月からの武力衝突が続いており、こちらも渡航できる状況ではありません。
この料理を現地で食べることを前提にした案内は、いまは書けません。
一方で、日本の台所での再現は可能です。ソルガム粉はインド食材店で「ジョワール粉」として手に入ります。
発酵は室温で一晩、ヨーグルトを少量加えると乳酸菌の助けになります。
クレープ用の薄い鉄板かフライパンがあれば、質感はかなり近づきます。

08豆知識
ソルガムはグルテンを持ちません。
だからキサールは、小麦のパンのように「こねてグルテンの網を作る」工程がありません。
薄く広げられるのは、生地が液体に近い状態まで緩められているからです。
グルテンがない穀物で薄いパンを作る、という課題に対する一つの答えが、この「発酵させて緩く広げる」方法でした。
写真はすべて Wikimedia Commons より。各画像の作者とライセンスは以下のとおりです。
- 01/Kissar à base du mil.jpg / YACOUB DOUNGOUS / CC BY-SA 4.0
- 02/Kissraa.jpg / Evon2023 / CC BY-SA 4.0
- 03/كسرة سودانية.jpg / Marwa Siddig Aljally Altaueb / CC0
- 04/الكسرة السودانية جاهزة.jpg / Ghada Elajb / CC0
- 05/كسرة سودانية (معمول من دقيق الذرة).jpg / تسابيح بوحة / CC0
- 06/الكسره.jpg / شيراز شوشو / CC0
- 07/كسرة سودانية (58938).jpg / Kolthoum / CC BY-SA 4.0
- 08/صينة غداء سوداني.jpg / شيراز شوشو / CC0
- 09/Épie de Sorgho 01.jpg / Hermannkass / CC BY-SA 4.0
- 10/Épie de Sorgho 05.jpg / Hermannkass / CC BY-SA 4.0
- 11/Épie de Sorgho 09.jpg / Hermannkass / CC BY-SA 4.0
- 12/Sorghum harvesting.jpg / Quintin Soloviev / CC BY 4.0
- 13/Small scale sorghum farm.jpg / Itodo30 / CC BY-SA 4.0
- 14/Maishi Rabo (Sorghum bicolor).jpeg / Caribiana / CC BY-SA 4.0
- 15/Cuisine à café (Tchad).jpg / Abdeldjelil Souleyman / CC BY-SA 4.0

