ライ麦生地の縁を立ち上げた器に、じゃがいもとにんじんのピュレを二層に詰めて焼いたスクランドラウシス

ラトビアクルゼメ地方EU伝統的特産品保証

スクランドラウシス

柵のパイSklandrausis

ライ麦の生地を丸く延ばし、縁を1.5〜2センチ立ち上げて「柵」にする。底に塩だけのじゃがいも、上に砂糖入りのにんじん。220〜250℃で焼き、サワークリームと砂糖を塗って、冷ましてから紅茶と食べる。2013年、ラトビアで初めてEUの名称保護を受けた食べ物。

まず、これが何なのか

01

概要 ― 直径8〜14センチ、厚さ1.5〜2.5センチ

ライ麦の無発酵生地の縁を立ち上げて器にし、じゃがいものピュレを下層、にんじんのピュレを上層として二層に詰めて焼いた丸いパイ。公式には「甘い」菓子である。

オレンジ色の面が上を向いている。焦げ目が斑に散っていて、縁だけが黒っぽいライ麦色で立ち上がっている。写真で見ると小さなタルトのようだが、EUの登録規格書が定めた寸法は驚くほど小さい。直径8〜14センチ、焼き上がりの厚さ1.5〜2.5センチ。片手にのる。

構造は単純だが、数字はかなり細かく決まっている。生地は厚さ2〜3ミリに延ばし、直径10〜15センチの円盤に抜いて、縁を1.5〜2センチ立ち上げる。中に詰めるのは二層で、下がゆでたじゃがいものピュレ、上がにんじんのピュレ。じゃがいもとにんじんの比率は1対2から1対1、つまりにんじんが同量以上と決められている。

味の位置づけも公式に書かれている。「ほんのり甘いから非常に甘いまで幅がある」「生地はパンの味を口に残すが、にんじんの味が支配的」。つまりこれは惣菜パイではなく菓子である。表面は黄みがかったオレンジ色で、切ると下層の淡黄色のじゃがいもが現れる。

ラトビア語の別名に žograusis(žogs=柵)、dižrausis(diž-=大きい)があり、リーヴ語では sūrkak と呼ばれる。名前がいくつもあるということは、それだけ広い範囲で、別々の人たちが同じものを焼いていたということでもある。

積み重ねられたスイティ地方のスクランドラウシス。表面のにんじん層がオレンジ色に焼けている

スイティ地方のスクランドラウシス。上層のにんじんに焦げ目が散り、縁のライ麦だけが黒く立ち上がっている。

焼き上がったスクランドラウシスを重ねて並べたところ。にんじん層に焦げ目がつき、ライ麦の縁が立っている白い皿に盛られた数個のスクランドラウシス。表面のクリームがところどころ焦げている

農家で焼かれたもの(左)/皿に盛って出されたもの。表面のサワークリームが斑に色づいている(右)。

口に入れると何が起きるか

02

味と特徴 ― にんじんの甘み、じゃがいもの塩、ライ麦の硬さ

一口目はにんじんの甘み。規格書が「にんじんの味が支配的」と定めている。その下には塩だけのじゃがいも層があり、縁はほとんど黒パンの硬さ。

最初に来るのは甘さである。上層のにんじんピュレには砂糖が加わり(にんじん1.5〜2キロに対して砂糖100〜300グラム)、さらに焼き上がりにサワークリーム200〜300グラムと砂糖200〜300グラムを混ぜたものを塗る。つまり表面は二重に甘い。規格書が「にんじんの味が支配的(the taste of carrots predominates)」と明記しているのは、この二段構えのせいだ。

次に来るのが縁と底のライ麦である。規格書は完成品の条件として「生地の土台は硬く、よく焼けている(firm and well-baked)」とし、対して「詰め物は多孔質(porous)」と対比的に指定する。バターやマーガリンは生地600グラムに対してわずか60グラムしか入らない。リッチなタルト生地ではなく、噛みごたえのある黒パンの縁に近い。

そして下層のじゃがいもは、塩だけで味つけする。好みで溶かしバター、生クリーム、卵を混ぜてもよく、キャラウェイで香りをつけてもよいと規定されている。つまりこの菓子は、塩のじゃがいも層と砂糖のにんじん層が上下に積み重なった構造そのものが味なのである。甘いものを食べているつもりでいると、二口目に塩が来る。

食べる温度も公式に決まっている。「スクランドラウシスは冷やして、紅茶か牛乳とともに食べる(eaten cold with tea or milk)」。ラトビア政府系の公式サイトも「焼きたてはあっという間になくなるが、翌日のほうがおいしいと多くの人が信じている」と書いている。焼きたてを我慢して一晩置く、という食べ物である。

民族学者インドラ・チェクステレの研究『Mūsu maize』(2004年)は、リーヴ人の家庭ではじゃがいもをにんじんの半量にし、にんじん層をとくに甘くして、最後にクリーム・砂糖・卵の混合物を塗ってキャラウェイを振る、と記録している。シナモンでもよい。甘いパイにキャラウェイを振るという発想は、日本の菓子の感覚にはないものだ。

リガの街角で手に持たれた、ひと口かじったスクランドラウシス。下のじゃがいも層と上のにんじん層の二層が見える黒い天板に並んだ焼き上がりのスクランドラウシス。上掛けのクリームが淡い色に焼けている

リガの街角で、ひと口かじったところ。下の淡いじゃがいも層と上のオレンジのにんじん層が見える(左)/天板から出したばかりのもの(右)。

屋外の赤い台の上に並べられた、箱入りのスクランドラウシスとルバーブのケーキ

農家の直売台。スクランドラウシス(左の箱)とルバーブのケーキ(右)が並ぶ。

何でできているか

03

材料と産地 ― ライ麦600g、にんじん2kg、じゃがいも1kg

生地はライ麦粉600gに油脂60gと水150〜200g。詰め物はじゃがいも0.8〜1kgとにんじん1.5〜2kg。蜂蜜は規格に一切出てこない。

公式規格書の分量は15〜20個分で示されている。生地はライ麦粉および/またはライ麦全粒粉600グラム、マーガリンまたはバター60グラム、水150〜200グラム、塩ひとつまみ。伸ばしやすくするための小麦粉40〜60グラムは任意。つまり「水と塩だけ」ではなく、粉の1割にあたる少量の油脂を入れるのが正規の仕様である。粉は熱湯で合わせる。

じゃがいも層はじゃがいも0.8〜1キロと塩ひとつまみ。任意で溶かしバター150〜200グラム、生クリーム50〜100グラム、卵1〜3個、キャラウェイ。ゆでずにすりおろして水気を絞ったじゃがいもで一部置き換えてもよい。にんじん層はにんじん1.5〜2キロと砂糖100〜300グラム。任意でサワークリーム200〜300グラムと卵1〜2個。生のすりおろしにんじんでもよい。上掛けはサワークリーム200〜300グラムと砂糖200〜300グラム。

意外なことに、品種の指定は一切ない。じゃがいもの品種もにんじんの品種も規格書は縛っていない。縛っているのは比率と寸法と温度だけである。そのかわり、詰め物を固くしたい場合はセモリナ(manna)を加えてよい、という現実的な但し書きがついている。

そして「蜂蜜を塗る」という説は、公式規格書には一切出てこない。上掛けはサワークリームと砂糖である。日本語圏で流布している蜂蜜説は、一次資料では確認できなかった。

材料の歴史は規格書自身が説明している。にんじんはラトビアで16世紀に栽培が始まり、クールラント公国時代(16〜18世紀)には刻んだにんじんがこのパイの詰め物に使われていた文献証拠がある。じゃがいもの到来は17世紀だが、当初は領主貴族しか食べず、19世紀に農民が栽培を始めて急速に普及した。つまり「にんじんが先、じゃがいもが後」で、この菓子の二層構造は300年ほどかけて積み上がったものだということになる。

木の台にのせられた、ラーチ製パン所が焼いた大きな黒いライ麦パン。上にソーセージの輪と麦の束が置かれているリガの市場の売り台に積まれた黒いライ麦パンの塊と、値札の並ぶ棚リガのヴィゼメ市場に並ぶにんじん、じゃがいも、ビーツ、きゅうりなどの野菜と瓶詰

ラトビアの黒いライ麦パン、ルプヤマイゼの大きな塊(左)/リガの市場に積まれたライ麦パン(中)/ヴィゼメ市場の野菜売り場。にんじんとじゃがいもが主役(右)。

皿に切り分けられた、キャラウェイの粒が入った黄色いラトビアのチーズ

キャラウェイ入りのラトビアのチーズ。規格書は仕上げにシナモンかキャラウェイを振ってもよいと定めている。

どうやって作るか

04

作り方 ― 縁は「しっかり直立していなければならない」

熱湯でライ麦生地をこね、1.5〜2.5mmに延ばし、直径10〜15cmに抜いて縁を1.5〜2cm立ち上げる。220〜250℃で15〜30分。

手順はこうだ。ライ麦粉に、バターまたはマーガリンと塩を溶かした熱湯を加えて混ぜる。生地は「硬く、伸ばしやすいが、硬すぎない」状態にする。厚さ1.5〜2.5ミリに延ばし、直径10〜15センチの円盤を型で抜くか切り出す。そして縁を1.5〜2センチ立ち上げる。

この立ち上げた縁について、規格書は珍しく強い言い方をしている。「縁は厚みがあり、しっかり直立していなければならない(must be substantial and stand stiffly upright)」。この縁こそが sklanda ――クルシュ語で「柵の杭、しがらみ柵」――という名の由来そのものだからだ。クルゼメには sklandu žogs という独特の柵の形式がある。パイの縁は、畑を囲う柵のミニチュアなのである。

油を塗った天板に並べ、じゃがいもピュレを先に薄く広げ、その上ににんじんピュレを重ねる。220〜250℃の高温で、生地が乾くまで15〜30分焼く。生地のままでも冷凍状態からでも焼ける。焼き上がりにサワークリームと砂糖の混合物を塗り、砂糖を振る。卵入りの上掛けを使う場合は、さらに熱いオーブンで5分以上焼く。

保存も規格に書かれている。完成品は摂氏2〜6度で3日、マイナス18度の冷凍で3か月。冷凍で3か月というのは、明らかに商業流通と輸出を想定した条項である。

もうひとつの語源が rausis で、これは動詞 raust(かき寄せる、まき散らす)から来ている。熾火や灰をかき寄せてかぶせて焼いた、原始的な調理法が名前に残っているという解釈を、規格書自身が採っている。メルンシルスのエルザ・ローゼンフェルデ(1919年生)の証言も収録されていて、「窯で焼くので、かなり大きかった。縁は上に折り返した。生地は焼くうちに硬くなった」と語っている。

天板に並べた成形前のスクランドラウシスと、めん棒、ライ麦生地の入った陶器のボウル高温のオーブンの中で焼かれているスクランドラウシス。表面のクリームが泡立って色づいている

成形の場面。天板に並んだ生地、めん棒、そして陶器の鉢に入ったライ麦生地(左)/高温のオーブンの中。表面のクリームが泡立って色づいていく(右)。

「SKLANDRAUSIS」と書かれた札を添えて試食用に並べられたスクランドラウシス

フィン・ウゴル料理協会の試食会に並んだスクランドラウシス。ラトビア語の名札が添えられている。

縁は厚みがあり、しっかり直立していなければならない。EU製品規格書(OJ C 349, 15.11.2012, p.23)より

どこから来たのか

05

歴史と由来 ― 柵、灰、そして太陽

語が辞書に載ったのは1927〜29年。クルゼメとゼムガレの全域で焼かれていたが、とりわけリーヴ人の食文化と強く結びついている。

日本語圏ではこの菓子を「スイティ地方の菓子」と紹介することが多い。ただしEUのTSG申請書(一次資料)を読むと、申請したのはスイティ地域ではなく、クルゼメ北部ドゥンダガの団体「Zaļais novads」である。規格書本文も、民族学者リンダ・ドゥンペの記述を引いて「ライ麦の無発酵生地にじゃがいもとにんじんを詰めたパイは、クルゼメとゼムガレの全域でラトビア人が焼いていた」と明記している。

ただしスイティとの結びつきが否定されているわけではない。ラトビア政府系の公式サイト latvia.eu は「スイティの人々が古来この菓子を作ってきた」と記しており、公式に認められている。正確に言うなら、クルゼメ地方全域の郷土菓子であり、とくにリーヴ海岸のドゥンダガ・コルカ周辺と、スイティのアルスンガ周辺で色濃く残っている、ということになる。

文献上の記録は意外に新しい。語 sklandrausis が辞書に収録されたのは、ミーレンバハスとエンゼリーンスの『ラトビア語辞典』第3巻(1927〜1929年)で、「詰め物入りの丸いパイ」とある。クルゼメでの製造への言及は、J・ヘニンシュの論文「ウルマニスの辞典にない語」(1914年)にある。それ以前は、文字に書かれずに焼かれ続けていたということだ。

行事との結びつきは古い。規格書は、秋の収穫祭ユミス(Jumis)の典型的な料理であること、復活祭に作られたこと(コルカのリーヴ人アンドレイス・シュターレルス、1866年生の回想)、そしてアルスンガ周辺では20世紀初頭にクリスマスに作られたこと(ペーテリス・ウペニエクスの回想)を記録している。ラトビア語版ウィキペディアは、伝統的には葬儀の料理でもあったとする。

そして規格書は、行政文書としては異例なほど踏み込んだ一節を持っている。「丸い形の食べ物は夏至・冬至に太陽の象徴として食べられるのが通例で、スクランドラウシスも丸い形と黄橙色のにんじん層の両方から太陽象徴と結びついている。至点の祝祭で太陽の創造的エネルギーを体現した」。EUの官報に、太陽信仰が書いてある。

スイティの側の歴史も触れておく。スイティはラトビア西部のルター派地域の中にあるカトリックの飛び地で、人口は約2,500人。アルスンガ、グデニエキ、ユールカルネの3教区に集中する。1623年、領主ヨハン・ウルリヒ・フォン・シュヴェリンがヴィリニュスのカトリック宮廷女官バルバラ・コナルスカと結婚するためにカトリックへ改宗し、1634年にイエズス会を招いて領民の改宗を進めた。「スイティ」という呼称は Šverina svīta(シュヴェリンの随員)に由来するとされる。

1902年、リーヴ海岸のリエルイルベで撮影されたリーヴ人の花嫁の白黒写真

【古写真】1902年、リーヴ海岸のリエルイルベで撮影されたリーヴ人の花嫁。撮影はA・O・ヘイケル、フィンランド国立博物館蔵。

1902年、リーヴ海岸のヤウンアンディン村で撮影された板葺き屋根の木造家屋の白黒写真1920年ごろのリーヴ海岸。蓄音機に録音された自分たちの言語を聴く人々の白黒写真

【古写真】1902年、ヤウンアンディン村のリーヴ人の家。撮影はA・O・ヘイケル(左)/【古写真】1920年ごろ、蓄音機に録音された自分たちの言語を聴くリーヴ人。撮影はラウリ・ケットゥネン(右)。

丸い形と黄橙色のにんじん層の両方から、この菓子は太陽の象徴と結びついている。同規格書 ― EUの官報に書かれた太陽信仰

名前が法律で守られている

06

保護制度 ― 2013年、ラトビア初のTSG

2011年12月13日申請、2012年11月15日官報公示、2013年10月11日の委員会実施規則(EU) No 978/2013で登録。名称留保つき。ラトビアで最初のTSG産品である。

手続きの経緯は一次資料で追える。申請の提出は2011年12月13日、整理番号は EC No: LV-TSG-0007-0914-13.12.2011(登録簿では TSG-LV-0914)。申請団体はクルゼメ北部ドゥンダガの「Zaļais novads」。申請は理事会規則(EC) No 509/2006 第8条2項に基づき、官報 OJ C 349(2012年11月15日、23ページ)に公示され、6か月の異議申立期間が置かれた。

登録は2013年10月11日付の委員会実施規則(EU) No 978/2013。官報 OJ L 272(2013年10月12日、33ページ)に掲載され、署名は当時のバローゾ委員長。分類はクラス2.3「菓子、パン、ペストリー、ケーキ、ビスケットその他のベーカリー製品」。発効は公示の20日後。ラトビア語版ウィキペディアによれば、これはラトビアで初めてのTSG登録産品である。

この登録は「名称の留保(reservation of the name)」を伴っている。つまり sklandrausis という語そのものが保護される。規格外のものはこの名前で売れない。管理は、リガのペルドゥ通り30番地にあるラトビア食品獣医局(Pārtikas un veterinārais dienests, PVD)が担当し、年1回の公的検査と生産者による自主管理、製造・販売個数の登録簿への記載義務が課される。

スイティ文化との関係では、UNESCOの「スイティ文化空間(Suiti cultural space)」が2009年、緊急に保護する必要がある無形文化遺産の一覧に記載されている(決議4.COM 14.07、要素番号00314)。記載理由には「地元の料理(local cuisine)」が明示的に含まれる。ただしUNESCOの記載文にスクランドラウシスという固有名は出てこない。TSGとUNESCOは別制度であり、両者に直接の法的関係はない。

なお、規格書そのものに内部矛盾がひとつある。生地の厚さについて、3.5項は「2〜3mm」、3.6項は「約1.5〜2.5mm」と書いている。これは公式テキストの記述どおりで、こちらの誤記ではない。EUの官報に載った文書にも、こういうほころびはある。

8〜14cm規定された直径

厚さは1.5〜2.5cm。焼成は220〜250℃で15〜30分。

1.5〜2cm立ち上げる縁の高さ

「厚みがあり、しっかり直立していなければならない」と規定。

2013年EU TSG登録

委員会実施規則(EU) No 978/2013。ラトビア初のTSG産品。

2009年、ラトビアのパン工房で木箱のライ麦サワードウ生地を手に取る人々

ラトビアのパン工房でライ麦のサワードウ生地を扱うところ(2009年)。パイの皮は無発酵だが、この国のライ麦はまずパンとして生きている。

1896年にロシア海軍水路部が作成したヴェンツピルス(ヴィンダウ)港の古い海図

【図版】1896年、ロシア海軍水路部が作成したヴェンツピルス(ヴィンダウ)港の海図。クルゼメの海岸線が測られた時代の資料。

いつ、どこで食べるか

07

食べる場面 ― 収穫祭、復活祭、葬儀、そして観光

収穫祭ユミス、復活祭、クリスマス、葬儀。そして現在は、規格書自身が「観光客に提供される産品として人気を得た」と書いている。

規格書の現代についての記述は、食品規格としてはかなり珍しい。「作る伝統は今日まで生き残っている。パイはたいてい家庭で、多くはクルゼメで焼かれる。スクランドラウシスは観光客に提供される産品のひとつとして人気を得た。農家や製造所を訪れた客は、作り方を見学し試食する機会を与えられる」。観光との結びつきが、規格書に書き込まれている。

祭りもある。英語版ウィキペディアによれば、2013年以降、タルシ市ドゥンダガでスクランドラウシスの祭りが開催されている。TSG登録と同じ年に始まっていて、開催地は申請団体 Zaļais novads の所在地と一致する。名前を守る手続きと、祭りを立ち上げる動きが、同じ年に同じ場所から出ている。

行事食としては、秋の収穫祭ユミス、復活祭、クリスマス、そして葬儀。婚礼での使用は今回の調査では確認できなかった。ユーロ建ての実売価格、円換算、具体的な商業生産者名についても、信頼できる出典に到達できなかったため、ここには書かない。英語版ウィキペディアが挙げる栄養価は、1食あたり339 kcal(1,420 kJ)、たんぱく質9g、脂質11g、炭水化物55g。

クルゼメ地方を旅するなら、舞台はタルシ、ドゥンダガ、コルカ、ヴェンツピルス、そしてアルスンガである。いずれも人口数千人規模の町と村で、バルト海に面した平坦な松林と砂浜が延々と続く。この菓子は、その松林と砂地の畑から出てきた。

砂丘の草地に立つ舟の骨組みの形をしたリーヴ人の記念碑。2000年6月撮影コルカ岬の砂浜に立つ木の道標。上にラトビア語のKOLKA、下にリーヴ語のKŪOLKAと彫られている

マジルベに立つ「舟の骨組み」――リーヴ人の記念碑(左)/コルカ岬の道標。上がラトビア語のKOLKA、下がリーヴ語のKŪOLKA(右)。

リガ旧市街のレストラン・ミルダで前菜として細長い黒い皿に盛られた、ベーコンと野菜を添えた灰色エンドウ

リガ旧市街のレストランで前菜として出される灰色エンドウ。ラトビアの食卓は、甘いものと塩気のものの距離が近い。

親戚をたどる

08

広がり ― カレリアのパイと、10年ちがいのTSG

最も近い親戚はフィンランドのカルヤランピーラッカ。こちらは2003年TSG登録で、スクランドラウシスより10年早い。構造はよく似ていて、味はまったく違う。

ライ麦の薄い器にでんぷん質のピュレを詰め、乳製品で仕上げる。この構造で言えば、最も近いのはフィンランド・カレリアのカルヤランピーラッカである。あちらも2003年にEUのTSGに登録されていて、スクランドラウシスより10年早い。詰め物は現在は米が主流だが、マッシュポテトや米とにんじんの版も一般的で、歴史的には大麦とタルックナが使われ、じゃがいもは19世紀に導入された。

共通点は構造と年代である。「ライ麦の器+でんぷん質のピュレ+乳製品の仕上げ」という骨格、そして「じゃがいもが19世紀に在来の詰め物を置き換えた」という時間の重なり。バルト海をはさんだ二つの土地が、まったく別々に同じ問題を同じように解いている。

相違点もはっきりしている。スクランドラウシスは二層構造で、砂糖入りのにんじん層により明確に甘い菓子である。カルヤランピーラッカは単層で、塩味の軽食だ。縁の作り方も違う。スクランドラウシスは1.5〜2センチの「柵」を垂直に立てるが、カルヤランピーラッカは縁を舟形につまみ寄せてひだにする。

そしてTSG保護の効き方も同じである。カルヤランピーラッカでは名称が伝統レシピに限定され、外れるものは riisipiirakka(米パイ)、perunapiirakka(じゃがいもパイ)と呼ばなければならない。スクランドラウシスも名称留保つきの登録なので、同じ制約が働く。

エストニア・リトアニアの直接の類似菓子や、北欧のライ麦タルト類との系統関係については、今回の調査では確認できなかった。バルト三国は地理的に隣り合っているが、食べ物の系統はかならずしも国境の並び順どおりではない。

ラトビア・クルゼメ

Sklandrausisスクランドラウシス

二層・甘い

ライ麦の縁を1.5〜2cm立てる。下がじゃがいも、上がにんじん。2013年TSG。

フィンランド・カレリア

Karjalanpiirakkaカルヤランピーラッカ

単層・塩味

縁を舟形につまみ寄せる。米または大麦の粥。2003年TSG。

ロシア・カレリア共和国

Калиткиカリートキ

丸〜七角形

生地を発酵乳で練る。じゃがいも、キビ、スメタナ+焙煎オーツ粉。

リーヴ海岸

sūrkakスールカク

リーヴ語名

sūr は「大きい」の意。別名 žograusis(柵のパイ)、dižrausis。

松林の上から見下ろしたリーヴ海岸。白い砂浜がバルト海に沿ってまっすぐ伸びているラトビア最北端コルカ岬の突端から沖を見たところ。水平線上に小さくコルカ灯台が見える

リーヴ海岸。松林の上から見下ろした白い砂浜(左)/ラトビア最北端コルカ岬の突端。水平線上に灯台が見える(右)。

丘の上から見下ろしたタルシの町並み。トタン屋根の家々と木立が重なるクルゼメの砂利道のわきに立つ木製の牛乳缶台。2024年に農村景観の遺産として復元されたもの2009年、ラトビアのパン工房で、大きな木の箱に入ったライ麦生地を前にした一行

クルゼメの町タルシ。丘の斜面に家が重なる(左)/ダールテ村の牛乳缶台。2024年に農村景観の遺産として復元されたもの(中)/ラトビアのパン工房の生地こね場、2009年(右)。

基本情報

料理名
スクランドラウシス(sklandrausis/複数形 sklandrauši)。別名 sklandu rausis, žograusis, dižrausis、リーヴ語 sūrkak
地域
ラトビア・クルゼメ地方(とくにドゥンダガ、コルカ、アルスンガ周辺)。規格書はクルゼメとゼムガレ全域とする
分類
ライ麦生地の器に二層の詰め物を入れて焼いた甘い菓子
寸法
直径8〜14cm/厚さ1.5〜2.5cm/生地の円盤10〜15cm/縁の高さ1.5〜2cm
生地
ライ麦粉600g、バターまたはマーガリン60g、水150〜200g、塩ひとつまみ(熱湯生地)
詰め物
下層=じゃがいも0.8〜1kg+塩/上層=にんじん1.5〜2kg+砂糖100〜300g。比率は1:2〜1:1
上掛け
サワークリーム200〜300g+砂糖200〜300g。シナモンまたはキャラウェイを振ってもよい
焼成
220〜250℃で15〜30分(生地のままでも冷凍からでも可)
保存
完成品 +2〜+6℃で3日/−18℃の冷凍で3か月
保護制度
EU 伝統的特産品保証(TSG)。登録=委員会実施規則(EU) No 978/2013、2013年10月11日。整理番号 TSG-LV-0914、クラス2.3
名称の留保
あり。管理はラトビア食品獣医局(PVD)、年1回の公的検査
食べ方
冷やして、紅茶または牛乳とともに
語源
sklanda=クルシュ語で「柵の杭・しがらみ柵」/rausis=raust(かき寄せる)

出典

写真(27枚)

  • 1. Sklandrausis.jpg / Denis tarasov / CC BY-SA 3.0 / 原典
  • 2. Suitu sklandrauši.jpg / Silvija Dalge Tetere / CC BY 3.0 / 原典
  • 3. Marmot farm "Jaunstuči" – Sklandrausis – panoramio.jpg / Silvija Dalge Tetere / CC BY 3.0 / 原典
  • 4. Sklandrausis 2.jpg / Liga Eglite(Cēsis, Latvia) / CC BY 2.0 / 原典
  • 5. Ryga, Sklandrausis.jpg / MOs810 / CC BY 4.0 / 原典
  • 6. Sklandrausis (10890919013).jpg / Liga Eglite(Cēsis, Latvia) / CC BY 2.0 / 原典
  • 7. Preparation of sklandrausis (10890770964).jpg / Liga Eglite(Cēsis, Latvia) / CC BY 2.0 / 原典
  • 8. Sklandrausis pannil (15579200761).jpg / Aivar Ruukel(Soomaa National Park, Estonia) / CC BY 2.0 / 原典
  • 9. Marmot farm "Jaunstuči" – Sklandrausis and Rhubarb Cake – panoramio.jpg / Silvija Dalge Tetere / CC BY 3.0 / 原典
  • 10. Sklandrausis (Finno-Ugric Cuisine Society).jpg / Aivar Ruukel(Soomaa National Park, Estonia) / CC BY 2.0 / 原典
  • 11. „Lāču” lielais rudzu rupjmaizes klaips.jpg / Turaids / CC BY-SA 4.0 / 原典
  • 12. Market Bread, Riga, Latvia.jpg / Ken Eckert / CC BY-SA 4.0 / 原典
  • 13. Caraway cheese.jpg / Xil / CC BY-SA 3.0 / 原典
  • 14. Ministru prezidents V.Dombrovskis iepazīstas ar maizes ceptuves "Lāči" darbību (3774480825).jpg / State Chancellery of Latvia / CC BY-SA 2.0 / 原典
  • 15. INK7656 (3775285592).jpg / State Chancellery of Latvia / CC BY-SA 2.0 / 原典
  • 16. Рига (Латвия) Видземский рынок – прилавок «овощи-фрукты» в центральном павильоне – panoramio.jpg / Сергей Алексеев / CC BY 3.0 / 原典
  • 17. A Livonian bride SUK15 85.jpg / A. O. Heikel/フィンランド国立博物館 / CC BY 4.0 / 原典
  • 18. A Livonian house SUK15 90.jpg / A. O. Heikel/フィンランド国立博物館 / CC BY 4.0 / 原典
  • 19. Livonians listen to their language recorded on a gramophone.jpg / Lauri Kettunen / CC BY 4.0 / 原典
  • 20. Mazirbe, laivas skelets – piemineklis lībiešiem 2000-06-24.jpg / J. Sedols / CC BY 3.0 / 原典
  • 21. Kolkas pagasts, Dundagas novads, Latvia – panoramio (24).jpg / M.Strīķis / CC BY-SA 3.0 / 原典
  • 22. Livonian coast.jpg / YMV1969 / CC0 / 原典
  • 23. Kolka lighthouse from the tip.jpg / Ymblanter / CC BY-SA 4.0 / 原典
  • 24. Talsi – panoramio (23).jpg / Laima Gūtmane (simka) / CC BY-SA 3.0 / 原典
  • 25. Ventspils Latvia 1896.jpg / Hydrographic Department of the Russian Admiralty / Public domain / 原典
  • 26. Grey peas at restaurant Milda in Riga.jpg / JIP / CC BY-SA 4.0 / 原典
  • 27. Milk churn stand in Dārte, "Papardes".jpg / Stabulniece / CC0 / 原典

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