世界の料理図鑑 南アフリカ
ボボティー
bobotie ボボティー Bobotie
レーズンとアプリコットチャツネ。辛くない。甘い。そして上には卵のカスタードが載っている。
スパイスを効かせた挽肉に、卵と牛乳のカスタードを流して焼いたグラタンのような料理。南アフリカを代表する一皿とされます。
ひと口目は甘み。レーズンとアプリコットチャツネの甘酸っぱさが先に来ます。辛くありません。
次にカレー粉とターメリックの穏やかで丸いスパイス感。上は口当たり滑らか、下はほろほろの挽肉という二層のコントラストが本質です。
- 国・地域
- 南アフリカ。ケープタウンが中心
- 分類
- オーブン料理(挽肉+卵カスタード)
- 相場
- 高級店のセットR560〜(約5,550円〜)。中級店の単品価格は情報源で確認できず
- 主な材料
- 牛または羊の挽肉、玉ねぎ、サルタナ、レーズン、アプリコットチャツネ、カレー粉、ターメリック、生姜、牛乳と卵、ベイリーフ
- 辛さ
- 辛くない。甘い
- 食べる場所
- ケープタウンのボカープ地区、グリーンポイント
- ベスト時間
- 昼も夜も。基本は家庭料理
- 一人前の目安
- 大皿から取り分ける
- 食べ方
- イエローライスに載せて。サンバル、チャツネ、バナナを添える
- 近い料理
- 古代ローマの patinam ex lacte(系譜上の祖先とされる)
01一口目に来るもの
焼き上がりの見た目はグラタンです。表面に黄色いカスタードが張って、ベイリーフが数枚刺さっている。
ひと口目は甘み。レーズンとサルタナ、アプリコットチャツネの甘酸っぱさが先に来ます。日本人の想像する「カレー味の肉料理」とはかなり違う。
次にカレー粉とターメリックの穏やかで丸いスパイス感。生姜が後ろで効いています。辛くはない。
上層の卵カスタードはとろりと柔らかく、下の挽肉のスパイスをまろやかに包む。上は滑らか、下はほろほろ。同じひと口に二つの食感がある。
アーモンドを入れる場合は、時折カリッとした食感が混じります。焼いたベイリーフの香りが立ち上る。

02挽肉を押し固めない
家で作るときの失敗は、だいたい五つに集約されます。
一つ、挽肉を押し固めない。ぎゅっと詰めるとカスタードが染み込まず、二層が分離します。
二つ、挽肉を焼いた後の脂を濾して捨てる。残すと全体が脂っぽくなる。
三つ、湯煎(バンマリ)に入れて焼くと縁の焦げと卵の分離(すが立つ)を防げます。オーブンの温度が高すぎると卵が凝固しすぎてボソボソに。
四つ、挽肉を焼くときは必ず数回に分けて。一度に入れると蒸れて色がつかず、香ばしさが出ません。
五つ、ベイリーフを上に飾るときは水を刷毛で塗ると焦げにくい。
焼成は180度で35〜40分。付け合わせはイエローライス(ターメリックで黄色く炊いたバスマティ)。


「ケープマレー」という呼び名
ボボティーはケープマレー料理と紹介されます。ただしこの呼称自体に注意が必要です。
「ケープマレー」はアパルトヘイト期の行政的分類語であり、当事者からは問題視されています。詩人のルースタム・コザインは「『ケープマレー』はアパルトヘイトの用語だと教わった。私のアイデンティティの核は『ムスリム』だ」と述べています。
そして祖先の多くはマレーシアではなくインドネシア系です。1652年以降、オランダ東インド会社がインドネシア(アチェ、スラウェシ、ジャワ)、マレーシア、インド、セイロン、マダガスカルなどから奴隷として連行した人々がケープに到来し、多くがオランダ人家庭の料理人になりました。
彼らがベイリーフとカレー粉を加えて、現在の形に定着させた。
第 二 章
ボ カ ー プ の 坂
ケープタウンの色鮮やかな一角が、この料理の故郷とされる
032000年前の遠い末裔
ボボティーの系譜は、意外なところまで遡ります。
古代ローマのアピキウスに載るpatinam ex lacte——肉と松の実を層にし、卵と牛乳をかけて焼く料理——の系譜とされ、17世紀までにヨーロッパへ伝わり、1609年のオランダの料理書に記載されました。ただしこの1609年のレシピには料理名が付いていません。
つまり「卵カスタードをのせる」という発想は南アオリジナルではなく、ローマから2000年かけて届いた形という見方ができます。
語源は未確定です。マレー語 boemboe(カレー用の合わせ香辛料)説と、ジャワ料理 bobotok 説がある。どちらも決定的ではありません。
「国民食」という評判の根拠としては、1951年に国連が刊行した料理書に南アを代表する料理として収録されたことが語られます。なお日本語圏でも流布している「1954年に国連女性機構が国民食に認定した」という説は一次資料が確認できず、俗説として扱うべきです。


ケープマレーのレシピの大半は、よその料理に聞こえる。シンガポールのシェフ、ヴァイオレット・オン。レモングラスやエビペーストが欠けていることを指摘した
04種類を並べてみる
家庭料理なので、家ごとに違います。



05いくらで食べられるか
基本的に家庭料理なので、屋台での流通がほとんどありません。中級レストランの単品価格を明示した2026年の一次メニューは確認できませんでした。
確認できたのは高級店のセット価格です。
06どこで食べるか
ケープタウン/ボカープ地区:ボカープ・コンボイス(7 August St, Schotsche Kloof)。ムスリム地区なので酒類の提供はありません。テーブル山と市街の眺望が良い。ビスミラーもボカープの老舗ケープマレー料理店です。
ケープタウン/グリーンポイント:GOLD Restaurant(15 Bennett Street)。アフリカ14か国の14皿セットメニューにボボティー・サモサが含まれます。ハラール認証・プラントベース代替あり。
ヨハネスブルグ・ダーバンのボボティー専門の有名店は今回確認できませんでした。ボボティーは基本的に家庭料理であり、観光客向けはケープタウンに集中しています。
添え物はサンバル(トマトと玉ねぎを刻んだもの)、チャツネ、バナナのスライス、ココナッツフレーク、刻んだナッツ。甘・酸・辛を各自が皿の上で調整します。
冷めても美味しく、翌日の方が味がなじむとされます。


07豆知識
ケープマレー料理は現代のマレーシア・インドネシア料理とは別物。数世紀の隔絶と材料の制約の中で独自に進化した結果、レモングラスやエビペーストといった東南アジア料理の必須要素が欠けています。
卵カスタードをのせる発想は南アオリジナルではない可能性が高い。ローマの patinam ex lacte にすでに「肉に卵と牛乳をかけて焼く」構造があります。
「国民食」には現地でも異論がある。多民族国家で一皿を代表に据えることへの違和感が、南アのメディアでも議論されています。
写真はすべて Wikimedia Commons より。各画像の作者とライセンスは以下のとおりです。
- 01/Falmouth, Cornwall – Bobotie (Lightly spiced mutton, almonds and raisins with a baked egg and cream topping) served with raisin rice and chutney.jpg / CharmaineZoe’s Marvelous Melange from England / CC BY 2.0
- 02/Bobootie 2.JPG / Bli / CC BY-SA 4.0
- 03/Bobootie 1.JPG / Bli / CC BY-SA 4.0
- 04/Dorp Street, Bo-Kaap, Cape Town.JPG / Martinvl / CC BY-SA 4.0
- 05/Bobotie, South African dish.jpg / Olga Ernst / CC BY-SA 4.0
- 06/Јужноафричко боботи.jpg / Deodora333 / CC BY-SA 4.0
- 07/Spiced Bobotie (52930716473).jpg / Steven Miller / CC BY 2.0
- 08/Bitesized morsel of bobotie.jpg / Stefan Magdalinski from Cape Town, South Africa / CC BY 2.0
- 09/Cape Malay samosas.jpg / Go2africa / CC BY-SA 4.0
- 10/Wiki Loves Africa Cook-off9.JPG / JulieScheer / CC BY-SA 4.0
- 11/Bo-Kaap – Cape Town, South Africa (3883775540).jpg / South African Tourism from South Africa / CC BY 2.0



