サンミゲル島フルナスのコジード・ダス・フルナス。肉、腸詰め、キャベツ、根菜を盛り合わせた料理

ポルトガルアゾレス諸島・サンミゲル島煮込み・地熱料理

コジード・ダス・フルナス

コジード・ダス・フルナス

Cozido das Furnas / Cozido nas CaldeirasGeothermal stew of Furnas, São Miguel

牛・豚・鶏、腸詰め、キャベツ、じゃがいもなどを一つの鍋に重ね、フルナス湖畔の地熱で温められた土中へ埋める。火を焚かず、5〜7時間ほどかけてゆっくり火を通す、サンミゲル島を代表する地熱料理。

概要

01

鍋を地面に埋めるところまでが、料理の名前になる

ポルトガルの混合煮込みcozidoを、フルナスの地熱で仕上げる。

コジード・ダス・フルナスは、ポルトガル領アゾレス諸島サンミゲル島のフルナスで作られる混合煮込みである。肉、腸詰め、葉野菜、いも類を大鍋に重ね、フルナス湖畔の地熱調理穴へ入れて長時間加熱する。

ポルトガル政府観光局は、肉と野菜を入れた鍋を袋に収めて地熱土壌へ埋め、約5時間加熱すると説明する。アゾレス観光の公式レシピは約6時間、ポヴォアサン市は実際の調理穴について64〜96℃、6〜7時間としている。時間が一つに固定されないのは、穴ごとの温度や鍋の量が異なるためと考えるのが自然である。

重要なのは、温泉水で煮る料理ではないことだ。鍋は耐熱容器に入り、地熱で温められた土と蒸気から熱を受ける。公式レシピでは水を加えず、肉と野菜が出す水分だけでゆっくり火を通す。

コジード・ダス・フルナスの皿。豚肉、牛肉、鶏肉、血のソーセージ、チョリソ、キャベツ、じゃがいもなどが盛られている

一皿の中に肉、腸詰め、葉野菜、根菜が同居する。単一の具を煮込む料理ではなく、大鍋の中で複数の食材を同時に仕上げる。

材料と味

02

肉の脂、腸詰めの香辛料、野菜の水分を一つの鍋に集める

公式レシピは鶏・牛・豚・腸詰め・葉野菜・いも類を層にして入れる。

Visit Azoresの公式レシピでは、鶏肉、牛肩肉、豚すね肉、ベーコン、豚スペアリブ、じゃがいも、さつまいも、にんじん、キャベツ、ケール、血のソーセージ、チョリソ、ヤム、塩が挙げられている。ポルトガルのcozidoらしい「肉と野菜を一鍋にまとめる」構成だが、フルナス版ではその鍋を地中で加熱する。

肉類は長時間の湿熱で結合組織がほどけやすくなり、葉野菜といも類は水分を含んで軟らかくなる。チョリソや血のソーセージから出る脂と香辛料は、鍋底にたまる食材由来の汁へ混ざる。直火焼きのような強い焼き色を作る料理ではなく、密閉に近い環境で水分を保ちながら熱を入れるのが特徴である。

公式レシピでは豚肉を下に置き、牛肉、キャベツ、ケール、じゃがいも、ヤム、にんじん、鶏、チョリソ、ケールで包んだ血のソーセージの順に重ねる。血のソーセージを葉で包む指定は、崩れや内容物の流出を抑える実用的な工程でもある。

フルナス湖畔の地熱調理場で、地下の調理穴に置かれたコジードの鍋サンミゲル島フルナス湖の噴気地帯に並ぶコジード用の地熱調理穴

「火山で煮る」は比喩ではない。ただし鍋を溶岩や温泉水へ入れるのではなく、噴気で熱せられた土中の専用穴を巨大な低温調理器のように使う。

調理工程

03

鍋、袋、ロープ、地中の穴。台所の外に調理器具がある

家庭の鍋だけでは再現できない核が、フルナス湖畔の地熱調理場にある。

具を詰めた鍋は高温に耐える容器で密閉し、袋や布で包み、ロープなどで扱える状態にする。ポヴォアサン市は、自治体スタッフが鍋を各調理穴へ設置し、時間が来ると引き上げる運用を説明している。

鍋を穴へ下ろしたら、蓋をし、土で覆って熱を逃がしにくくする。写真資料では、作業員が地面を掘り返し、ロープで鍋を引き上げる工程が確認できる。家庭のオーブンやコンロで作るcozidoと違い、加熱装置そのものが地形の一部である。

2026年9月時点でポヴォアサン市の案内は、稼働する調理穴を56か所とし、一般利用と飲食店向けに分けている。温度は64〜96℃、調理は6〜7時間。レストランの鍋の引き上げは午前11時から午後1時ごろに集中し、観光局も正午前後の引き上げを見学対象として紹介している。

サンミゲル島フルナスの地熱調理場で、コジードの鍋を熱い火山性の土で覆っている作業

鍋を地中へ入れ、土で覆う工程。炎は見えないが、地下から上がる地熱が長時間の加熱を担う。

土地と歴史

04

火山の「厄介さ」を、毎日の熱源へ変えた料理

フルナスでは、噴気・温泉・火山湖と同じ地熱環境が食の技術にも組み込まれた。

フルナスはサンミゲル島東部の火山地帯で、湖畔には噴気と高温の地面が集中する。ポヴォアサン市は、この土地の火山活動と共に暮らす中から、火山性地盤の内部で料理する食文化が生まれたと説明する。

ただし「何年に誰がコジード・ダス・フルナスを発明したか」を示す一次史料は、今回確認した自治体、観光局、地質機関の資料では特定できなかった。したがって「数百年前に特定人物が考案した」といった精密な起源物語は事実として扱わない。確実に言えるのは、現在この地熱調理が自治体によって管理され、地域の食文化・観光・家族利用の双方で継承されていることだ。

材料にも島の環境が見える。ポルトガル政府観光局はサンミゲル島の牧草地で育つ牛の肉を地域の食の特徴として挙げる。そこに豚・鶏、キャベツなどの畑作物、じゃがいもやヤム類を合わせる。ただし、これらの材料だけから料理の起源年代を逆算することはできない。

フルナス湖畔の地熱調理場で、作業員が土中の調理穴からコジードの鍋を引き上げている様子アゾレス諸島サンミゲル島フルナスの噴気地帯。地面から蒸気が立ち上る火山景観
56穴現在の稼働調理穴

自治体案内による一般用・飲食店用の合計

64–96℃調理穴の温度帯

場所ごとに熱条件が異なる

5–7時間公的資料にみる加熱時間

観光局・自治体・公式レシピで幅がある

0杯公式レシピの加水

基本は食材自身が出す水分で火を通す

食べる場面と現在

05

昼前に鍋を引き上げ、そのままレストランの昼食へ運ぶ

現在は地域の家庭利用と飲食店の双方に残り、調理工程そのものも見学対象になっている。

VisitPortugalは、鍋の引き上げをおおむね正午から午後3時の見どころとして紹介し、その後レストランで食べる流れを案内している。自治体の実務案内では、飲食店の引き上げは午前11時から午後1時に集中する。つまり「昼食の数時間前に埋める」時間設計が現在の営業にも組み込まれている。

一般利用向けの穴も用意されており、料理がレストラン専用になったわけではない。一方、今回確認した公的資料からは、特定の宗教祭礼だけに食べる料理、あるいは市場・屋台を主戦場とする料理とは確認できない。むしろフルナスという場所、家族やグループで囲む大鍋、昼食という現在の位置づけが強い。

同じ穴ではコジード以外に、フェイジョアーダ、バカリャウ料理、アロス・ドーセなども調理されている。地熱を使うことは一皿だけの珍技ではなく、フルナスにある複数の料理へ広がった調理インフラでもある。

地域差と派生

06

「正解の具材」は一つでも、鍋の中身は一軒ごとに少しずつ動く

公式レシピは基準になるが、cozidoという料理群そのものが組み合わせ型である。

アゾレス観光の公式レシピは、牛肩、豚すね、豚スペアリブ、ベーコン、鶏、チョリソ、血のソーセージ、キャベツ、ケール、じゃがいも、さつまいも、にんじん、ヤムを示す。しかしレストランや家庭では、肉の部位や腸詰め、いも類の構成が入れ替わる。料理の同一性を支えるのは、一字一句同じ材料表ではなく、複数の肉と野菜を一鍋に重ね、フルナスの地熱で長時間火を通す方法にある。

ポルトガル本土のcozido à portuguesaも、牛・豚・腸詰め・野菜を合わせる点では近い。大きな違いは熱源で、本土型は鍋を火にかけて煮るのに対し、Cozido das Furnasは地熱調理穴を使う。「具が似ているから同じ料理」でも、「火山料理だから材料まで完全に別」でもない。

アゾレス内でも、Cozido das Furnasという名はサンミゲル島フルナスの地熱調理と強く結びつく。他島の煮込みを一括してこの名で呼ぶのは避けたほうがよい。

誤解しやすい点

07

硫黄水、溶岩、圧力鍋。どれも少し違う

驚きの中心は派手な炎ではなく、地面の熱を何時間も安定して借りることにある。

温泉水で煮る料理ではない。鍋は水中に沈めず、地熱で温められた土中の穴に置く。溶岩で焼くわけでもない。フルナス湖畔では現在も噴気が上がるが、調理は固い地面に設けられた穴で行う。

「硫黄味」が料理の定義でもない。現地の噴気地帯には火山性ガスの匂いがあるが、食材は容器の中にある。公的レシピが説明する味の仕組みは、食材自身の汁でゆっくり煮ることにある。外気の硫黄臭がそのまま料理へ移ると断定する根拠は確認できない。

保護原産地名称の料理とも確認できない。今回調べたEU・ポルトガルの公的資料では、PDO/PGIとしての登録よりも、フルナスの地熱文化と観光資源として紹介されている。土地との結びつきは非常に強いが、法的な地理的表示と同義ではない。

基本情報

国・地域
ポルトガル、アゾレス諸島サンミゲル島、フルナス
現地名
Cozido das Furnas。資料によってCozido nas Caldeirasとも表現される
分類
肉・腸詰め・野菜の混合煮込み/地熱料理
主な材料
牛肉、豚肉、鶏肉、チョリソ、血のソーセージ、キャベツ、ケール、じゃがいも、さつまいも、にんじん、ヤムなど
熱源
フルナス湖畔の地熱で温められた土中の調理穴
加熱時間
公的資料で約5〜7時間。穴の温度や鍋の条件で変わる
加水
Visit Azoresの公式レシピでは加水せず、食材自身の汁を利用
現在の位置づけ
地域の家庭利用とレストラン双方で作られ、地熱調理工程自体も観光・食文化資源になっている

出典

写真(7枚)

  • 1. コジード・ダス・フルナスの盛り付け / David Stanley / 2014年5月26日、フルナス / CC BY 2.0 / Flickr原典をWikimedia Commonsでライセンス再確認 / 原典
  • 2. 肉・腸詰め・野菜を盛ったコジード / Schnobby / 2015年9月28日、サンミゲル島フルナス / CC BY-SA 4.0 / 原典
  • 3. 地下の地熱調理穴に置かれた鍋 / David Stanley / 2014年5月26日、Lagoa das Furnas / CC BY 2.0 / Flickr原典をWikimedia Commonsでライセンス再確認 / 原典
  • 4. 鍋を火山性の土で覆う作業 / Schnobby / 2015年9月28日、フルナス / CC BY-SA 4.0 / 原典
  • 5. 地熱調理穴から鍋を引き上げる作業 / Schnobby / 2015年9月28日、フルナス / CC BY-SA 4.0 / 原典
  • 6. フルナス湖の地熱調理穴 / Simiprof / 2024年10月24日、Furnas Lake / CC0 1.0 / 原典
  • 7. フルナスの噴気地帯 / Diego Delso / 2020年7月29日、サンミゲル島フルナス / CC BY-SA 4.0 / 原典

7枚とも原典ページで商用利用可能なCC BY、CC BY-SA、CC0を確認し、WordPressメディアライブラリへ実体保存したものを使用しています。CC BY-NC、All Rights Reserved、権利不明素材は使用していません。

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