世界の料理図鑑 ジンバブエ
マドラ(モパネワーム)
madora / amacimbi マドラ、アマチンビ Mopane worm
「未来の食料」と呼ばれる前から、ここでは普通に食べられていました。
モパネの木の葉を食べて育つ、手のひらほどの大きさの芋虫です。ショナ語でマドラ、ンデベレ語でアマチンビ。乾燥重量あたりの粗タンパクは58%で、これは牛肉の乾燥重量比を上回ります。
ただし、この数字だけで書くと不正確になります。グワンダ地区の調査では、回答者の18.3%が宗教的・文化的な理由で食べないと答え、19.7%が食べたあとの消化器系の不調を報告しています。「栄養満点の未来食」という一面だけを切り取ると、実際に食べている人たちの現実からずれてしまいます。
そして2026年、ジンバブエ国内は不作です。ボツワナからの輸入品が市場を埋め、価格は数年前の倍に跳ね上がりました。採る人、運ぶ人、売る人、それぞれの取り分がどう決まっているのかまで含めて見ていきます。
- 正式名
- madora(ショナ語)/amacimbi・macimbi(ンデベレ語)
- 分類
- 昆虫食。モパネエンペラーモスの幼虫
- 学名
- Gonimbrasia belina Westwood(シノニム Imbrasia belina)
- 食草
- モパネ(Colophospermum mopane)の葉
- 主な産地
- マタベレランド南部州(グワンダ、マトボ、プラムツリー、ムウェネジ、チコンベジ)、南東ローヴェルド
- 収穫期
- 年2回。おおむね11〜1月と3〜5月ごろ。資料により月がずれ、地域差もある
- 加工
- 内臓出し → 炭火ロースト約5分(92〜93%)または塩水で茹でる(38.4%)→ 天日干し18〜36時間
- 栄養
- 粗タンパク58%(乾燥重量)。鉄3.6〜21.2mg、亜鉛7.1〜17.3mg、カルシウム55.1〜60.4mg/100g
- 相場
- 2026年は不作と輸入で20Lバケツ50〜80米ドル(約8,000〜12,800円)
- 食べ方
- 素揚げ69.8%/トマト・玉ねぎ煮21.4%/落花生バター和え4.4%
01一口目に来るもの
乾燥品をそのまま噛むと、最初に来るのは「カリッ」ではなく「バキッ」です。外皮が硬く、乾いた木の皮に近い抵抗がある。
砕けると、中は繊維質でスカスカです。乾燥エビの殻を噛んだときの、空洞混じりの粗い破砕感に近い。
唾液が回ると繊維がほぐれ、干し肉のような粘りが出てきます。ここでようやく旨味が来る。魚の煮干しに近い、後を引く旨味です。
香りはローストしたナッツと干し肉の中間。生乾きのものはやや土っぽくなります。
後味にわずかな苦味と脂の残り香。安価なもの、処理の悪いものは内臓を出しきれておらず、青草臭さと苦味が残ります。この差が、そのまま品質の差です。

02採る人は、ほとんどが女性と子どもだった
2024年の研究では、採集に従事する人の90%が女性と子どもで、男性は10%とされています。以前の研究では男性は約5%でしたから、男性の比率が上がってきている。
理由は、失業と気候変動で他の生計手段が失われたことだと指摘されています。「女の仕事」とされてきた領域に、男性が参入し始めた。
グワンダ地区の調査では、バリューチェーン従事者の68.9%が女性でした。女性が世帯主の家の参加率は、男性が世帯主の家より16.8ポイント高い。土地や労働力、資本へのアクセスが限られている世帯ほど、この仕事に頼っているということです。
収穫期が年2回あり、それが学校の長期休暇と重なるため、子どもが大挙して参加します。ただし収穫期の月は資料によって食い違います。「89.7%が2〜5月に収穫」とする研究もあれば、「4〜5月と12〜1月」「11〜1月と4〜5月」とする資料もある。地域差があると考えるのが妥当です。
モパネワームからの年間所得は世帯あたり15〜2,500米ドル、平均383.12米ドルという推計があります。幅が極端に広いのは、採れる年と採れない年の差がそのまま収入の差になるからです。


朝に採る理由
グワンダ地区の調査では、61.7%が朝の採集を好むと答えています。
理由は「完全に成熟して地中に潜る直前の個体が採れるから」。幼虫は成熟すると木を降りて土に潜り、蛹になります。潜られてしまえばもう採れない。
木の枝を切って採る方法は、多くの地域で禁止されています。回答者の4.1%が実施と答えていますが、「枝を切れば住処を壊し、いずれいなくなる」という声が現地で報じられています。



第 二 章
乾 か す
内臓を出し、焼き、18〜36時間干す
03失敗のほとんどは、内臓を出しきれないこと
採ったあと、まず内臓を押し出します。手で押し出すか、熱い炭を入れた穴に入れて内容物を排出させる。処理する人の53.6%がこの工程を行っています。理想的には、そのあと水で洗う。
ここを外すと、青草臭さと強い苦味が残り、商品価値が落ちます。手で押し出す作業には熟練が要ります。
次に加熱です。炭火でローストする方法が92〜93%と主流で、時間は約5分。塩水で茹でてから乾かす方法も38.4%あります。
そして天日干しを18〜36時間。ここで天候に負けると腐ります。「雨天・曇天と薪不足」が乾燥遅延の主因として報告されている。
薪の問題は深刻で、1ガロン分を加工するのに一輪車2杯分の薪が必要とされます。燃料が足りなければ、加工そのものが止まる。
焼き過ぎにも別のリスクがあります。過度なローストによる複素環式芳香族アミンの生成が指摘されている。地面に直接干すことによる汚染も、研究が名指しで問題にしています。


マクリンビ(モパネワーム)は我々の金鉱だ国際労働機関(ILO)によるジンバブエの事例報告のタイトルより
04種類を並べてみる
同じマドラでも、加工法と食べ方で名前と姿が変わります。



05食べ方の作法
スナックとしては、そのまま手づかみです。ビールの供として、また移動中の携行食として食べられます。
レリッシュとして食べるときは、サザと同じ作法になります。右手でサザを丸め、くぼみをつけて煮汁ごとすくう。
一人当たりの平均摂取量は45g。100gで3〜4人分とされ、摂取頻度は週1〜2回が一般的です。
儀礼としての位置づけは、今回の取材では確認できませんでした。ただし、全員が食べるわけではないことははっきりしています。グワンダ地区の調査では、回答者の18.3%が宗教的・文化的な理由で食べないと答えている。
体調面の報告もあります。同じ調査で19.7%が消化器系の不調、9.9%が腹痛、5.5%がアレルギー反応を報告しました。摂取量が多いほど不調率が上がる傾向があり、30g摂取群で31.6%、50g摂取群で38.7%です。初めて食べるなら、量を控えるのが無難でしょう。


06いくらで食べられるか
2026年のジンバブエ国内は不作で、ボツワナのパラピエやセレビ=ピクウェからの輸入品が市場を埋めています。価格は数年前の倍近い水準です。
輸送費、ボツワナ野生生物当局の許可証、ジンバブエ環境管理庁(EMA)の許可証、国境手数料、燃料代が、すべて価格に乗っています。
07どこで買うか
産地はマタベレランド南部州です。グワンダ、マトボ、プラムツリー、ムウェネジ、チコンベジ。それにゴナレゾウ国立公園周辺の南東ローヴェルド。
流通の中心はブラワヨの市場で、ハラレのムバレ・ムシカでも扱われています。
一方、「マドラをメニューに出しているレストラン」は、今回の取材では特定できませんでした。ハラレのGava’sは伝統的なレリッシュを幅広く出す店として知られていますが、マドラの提供は確認できていません。
ですので、「ブラワヨの伝統料理店で食べられる」といった一般化はここではしません。市場と屋台で買う、というのが確実な線です。
採集地には管理の仕組みがあります。ゴナレゾウ国立公園では国立公園局の有料許可証、ゴナクジンワ小規模農場では地主の許可、ムウェネジ再定住地では占有者発行の許可、チコンベジ共同地ではサブク(村長)の許可。共同地は執行が最も弱く、実際に収穫量も統計的に低いという結果が出ています。

08豆知識
国境をまたぐ流通は、制度の外側で動いている部分が大きい。他州やボツワナからの外来採集者の流入と統制の弱さが、「過剰採集」の要因として5段階中5、最高レベルに評価されています。
ボツワナからの輸入品には、現地で amera、amapipi、umunondo という種別名が使われています。それぞれが産地を指すのか、サイズを指すのか、加工法を指すのかは、今回の取材では特定できませんでした。
モパネワーム産業はボツワナ全体で年2,560万米ドル規模とされます。ジンバブエの採集者が1バケツ約1,500円で手放したものが、都市部では約4,300円になる。「規制の枠組みがないため、買い手のカルテルに搾取されている」と現地で報じられています。
粗タンパク58%という数字は、たしかに牛肉の乾燥重量比を上回ります。ただしこの数字が語られはじめたのは、ここ十数年の「昆虫食=未来のタンパク源」という文脈の中でのことです。ここで食べている人たちにとっては、数字が付く前からずっと、雨季に木から採れる食べ物でした。
安全上の注意:グワンダ地区の調査では、摂取者の19.7%が消化器系の不調、5.5%がアレルギー反応を報告しています。甲殻類アレルギーのある人は昆虫食にも交差反応を起こすことが知られています。初めて食べる場合は少量から試してください。
近くの棚から 同じジンバブエのもう一品
写真はすべて Wikimedia Commons より。各画像の作者とライセンスは以下のとおりです。
- 01/Dried, cooked Mopane worms.jpg / Mark Marathon / CC BY-SA 4.0
- 02/Mopane Worms (Imbrasia belina) (9431911727).jpg / Bernard DUPONT from FRANCE / CC BY-SA 2.0
- 03/Mopane worm (Unsplash).jpg / Louis Blythe louisjblythe / CC0
- 04/Mopane Moth (Imbrasia belina) (6032325225).jpg / Bernard DUPONT from FRANCE / CC BY-SA 2.0
- 05/Eggs of Mopane Worm (Imbrasia belina) (9434684084).jpg / Bernard DUPONT from FRANCE / CC BY-SA 2.0
- 06/Colophospermum mopane 1DS-II 3-2215.jpg / SAplants / CC BY-SA 4.0
- 07/Mopane worm (37678218552).jpg / Sonse / CC BY 2.0
- 08/Mopane-Raupen gekocht.JPG / ComQuat / CC BY-SA 3.0
- 09/Mopane worm.jpg / Mark Marathon / CC BY-SA 4.0
- 10/Mopane worms.jpg / Mark Marathon / CC BY-SA 4.0
- 11/Plate of Mopane worms.jpg / Mark Marathon / CC BY-SA 4.0
- 12/Mopane worms amacimbi.jpg / CharlesPoterai / CC BY-SA 4.0
- 13/Young man eating mopani worms.jpg / Cecil Dzwowa / CC BY-SA 4.0
- 14/A young boy eating cooked termites.jpg / Cecil Dzwowa / CC BY-SA 4.0
- 15/Colophospermum mopane 50D 0484.jpg / SAplants / CC BY-SA 4.0

