素焼きの器に入った半透明のパペダと、専用の二股の道具ガタガタ、黄色い魚のスープ、焼いたアジ

インドネシアマルク諸島・パプア無形文化遺産(国内登録)

パペダ

ブブール・サグPapeda (sago congee)

サゴヤシの幹を割り、髄を削り、水で漉して沈めたでんぷんに熱湯を注ぐ。半透明でのりのように粘る、ほとんど無味の主食。噛まずにすすり、ターメリックの黄色い魚スープで流し込む。2015年10月20日、インドネシアの無形文化遺産に登録された。

まず、これが何なのか

01

概要 ― 半透明で、のりのように粘る

サゴヤシ(Metroxylon sagu)のでんぷんを熱湯で糊化させた主食。マルク諸島とパプア/西パプアの沿岸低地が本場。インドネシア語では bubur sagu(サゴ粥)とも呼ばれる。

素焼きの器の中で、それは灰色がかって半透明に光っている。表面はつるりとして、表情がない。二股の木の道具を差し入れてぐるりと回すと、全体がまとまって持ち上がり、そのまま糸を引く。パペダである。インドネシア東部、マルク諸島とパプアの沿岸低地に住む人びとの主食だ。

材料はサゴヤシ(Metroxylon sagu Rottb.)の幹から採ったでんぷん、それだけ。そこへ熱湯を注いで一方向にかき混ぜると、白濁していたものが急に透明感を帯びて粘り出す。糊化である。この状態をインドネシア語では bubur sagu(サゴ粥)とも呼び、地域によって popeda、pepeda、nangu といった名前がある。

一人前の標準量を示す公的な統計は見当たらない。実際の売り方は重量単位で、ジャヤプラ県センタニのファラア市場では、湿ったサゴが「小さい塊が1万ルピア(約89円)、中が2万ルピア(約177円)、大が3万ルピア(約266円)」という切り分けで並ぶ。

写真で見るかぎり、これほど「味がなさそう」に見える主食もそうない。そしてそれは、ほとんど正解である。

二股の木の道具でパペダを巻き上げたところ。糸を引いて器から持ち上がっている

ガタガタ(gata-gata)と呼ばれる二股の木の道具で巻き取ったところ。糸を引いて器から持ち上がる。

皿に広げた半透明のパペダと、黄色い魚のスープ、キャッサバの葉とパパイヤの花を混ぜた青菜のおかずターメリック色のスープを張った皿に、道具でパペダを落としているところ

皿に広げたパペダと、辛い魚のスープ、キャッサバの葉とパパイヤの花を混ぜたタガス・タガス(左)/黄色いスープの上にパペダを落とす(右)。

口に入れると何が起きるか

02

味と特徴 ― 噛まない。すする。

パペダ自体はほぼ無味(インドネシア語で hambar)。一口目に来るのは味ではなく温度と粘度。噛む食べ物ではなく、すすって飲み込む。

インドネシア語の記事は、この食べ方を「tidak perlu dikunyah、langsung diseruput dan ditelan」――噛む必要はない、そのまますすって飲み込む――と説明している。口の中でほどけずに滑る。一口目に来るのは、味ではなく温度と粘度である。

取り分けには gata-gata と呼ばれる専用の道具を使う。二股の木のフォーク、あるいは連結した箸。大皿からぐるりと巻き取って(gulung)自分の器に移し、そこへスープをかける。ブルネイの同系の料理 ambuyat では、同種の道具を chandas と呼ぶ。

味の設計は完全に「対比」で成り立っている。合わせるのは ikan kuah kuning(ターメリックとライムで仕立てた黄色い魚のスープ。tongkol=カツオ、bubara=ギンガメアジ、kakap=フエダイなどを使う)、酸味主体の kuah asam、青菜の tumis kangkung(空心菜炒め)、sayur bunga pepaya(パパイヤの花のつぼみ)、sayur ganemo(メリンジョの若葉+パパイヤの花+赤唐辛子)など。

つまりパペダは、味を持つのではなく、味を運ぶ。無味・無臭・高粘度という三条件がそろっているから、酸と塩とターメリックの苦みを、そのまま喉まで届ける器として機能する。ご飯やパンのように「素材そのものの香り」で勝負する主食とは、設計思想がまるで違う。

もうひとつ。この料理は熱いうちに食べる。冷めると糊が締まってしまい、あの「すする」という動作が成立しなくなる。だから食卓では、大きな器のパペダと、鍋ごと運ばれてきた熱いスープが同時に置かれる。

器に入った魚入りの黄色いスープと、その中に沈む白いパペダ石の卓に並んだ黄色い魚のスープ、木の器に入ったパペダ、焼き魚、サンバル・コロコロ

魚の入った黄色いスープに沈むパペダ(左)/マルクの食卓。クア・クニン、焼き魚、木の器のパペダ、サンバル・コロコロが一度に並ぶ(右)。

白い深皿に盛られた、ターメリックで黄色く染まった魚のスープ。魚の切り身と青菜が入っている

イカン・クア・クニン。ターメリックとライムで仕立てた黄色い魚のスープが、パペダの相方である。

噛む必要はない。そのまますすって、飲み込む。インドネシア語版ウィキペディア「Papeda」より

何でできているか

03

材料と産地 ― 1本から835キロ、世界の85%がインドネシアにある

サゴヤシは樹高20〜30m、幹は年間最大1.5m伸びる。1本から得られるでんぷんは150〜300kgとされるが、パプアでは835kgの実測記録がある。

サゴヤシ(Metroxylon sagu Rottb.)は樹高20〜30メートルに達し、幹は年間最大1.5メートル伸びる。収穫適期は開花直前から直後で、一般に樹齢7〜15年とされるが、インドネシアの実務では8〜10年で伐採されることが多い。

1本から得られるでんぷんの量は、資料によって大きく振れる。通常150〜300キロとされる一方、岡山大学とボゴール農科大学らが1991年から2007年にかけて行った実測(Saitoh et al. 2008)では地域差が非常に大きく、パプア835キロ(当時の観測史上最高値)、マルク582キロ、南スラウェシ373キロ、リアウ225キロ、アチェ・ブサール135キロ、西カリマンタン100キロだった。1本の木が、村ひとつの数日分の炭水化物になる。

面積で見ると、世界のサゴヤシはおよそ260万ヘクタール、うち約240万ヘクタールがインドネシア領パプアとパプアニューギニアの野生・自然林である。マルク州の自然サゴ林は約30,000ヘクタール、パプアのセンタニ郡は約4,000〜5,000ヘクタール。ジャヤプラ県全体では38,670ヘクタールで、うちヨボイ村だけで1,600ヘクタール。センタニ湖周辺の32集落がサゴに依存し、残存林には34品種が保存されている。

統計上の「栽培面積」は2008年の48,115ヘクタールから2017年の306,805ヘクタールへ拡大し、同年の生産量は432,913トン(2004年は14,544トン)。世界のサゴでんぷん年産は約656,000トンで、面積ベースでは世界の85%がインドネシアにあるが、その面積の96%・生産の76.6%を担っているのは小農である。

栄養の数字は、この食べ物の性格をはっきり示す。日本食品標準成分表(八訂・増補2023、食品番号02032「サゴでん粉」)では100グラムあたりエネルギー357キロカロリー、たんぱく質0.1グラム、脂質0.2グラム、炭水化物86.1グラム、食物繊維(0)。比較すると精白米(穀粒)は342キロカロリー・たんぱく質6.1グラム。カロリー密度はほぼ同じで、たんぱく質だけが事実上ゼロなのである。

だからこの食事は、副菜の魚がたんぱく源を全面的に担う構造になっている。パペダと魚のスープは好みの組み合わせではなく、栄養的に不可分な一対だということだ。小麦を含まないためグルテンフリーである点は成分上明らかだが、低GIについては、パペダそのものの実測GI値を示した査読論文を今回は確認できなかった。

川岸にびっしりと生えたサゴヤシの若木。水面に葉の影が映っている林の中に立つサゴヤシ(Metroxylon sagu)。長い羽状の葉が幹から放射状に伸びている倒したサゴヤシのまわりで作業する人々。手前で煙が上がり、周囲にサゴヤシの葉が広がる

川岸にびっしりと生えたサゴヤシの若木、パプアニューギニア(左)/東セピック州のサゴヤシ(中)/サゴ林での作業。西パプア州ベナワ村(右)。

黒いフライパンに広げられた、白く細かい粒状のサゴでんぷん板張りの床に置かれた、屋根材に加工するために束ねられたサゴヤシの葉

抽出・乾燥したサゴでんぷん。白く細かい粒になる(左)/サゴの葉は屋根材にもなる。西パプア州ベナワ(右)。

どうやって作るか

04

作り方 ― トコク・サグ、そして熱湯

伐採し、幹を割って髄を削り、水で揉み出して沈殿させる。この一連の作業をパプア・マルクでは「トコク・サグ(tokok sagu)」と呼ぶ。4人で6日かかることもある。

工程はこうだ。まず開花前後のサゴヤシを倒す。樹皮を剥ぎ、幹を縦に割って内部の白い髄(empulur)を露出させる。髄を削り砕く。削った髄を水と混ぜ、繊維をこしながら揉み出し、下の受け槽ででんぷんを沈殿させる。沈殿した湿ったでんぷん(sagu basah)をそのまま使うか、天日干しして乾燥サゴ粉(tepung sagu)にする。

保存は伝統的に tumang ――サゴの葉で編んだ筒状の容器――に詰める形で、数か月は発酵せずに持つ。労働強度は高く、インドネシア語資料には「サゴ2本を処理するのに4人で6日」という記録がある。機械(ラスパー)を使う現在のジャヤプラでは1日10〜20本を処理できるが、これが林の減少を加速させている面もある。

パペダにする段階では、サゴでんぷんを少量の水で溶いてから沸騰させた湯を注ぎ、透明感が出て粘りが立つまで一方向にかき混ぜる。インドネシア語資料は「air mendidih」=沸騰湯と記す。具体的な温度指定や、粉と湯の標準比率を示した公的資料は確認できなかった。

固さの見極めは目で行う。全体が白濁から半透明に変わり、木べらを持ち上げたときに途切れずに糸を引く。そこで止める。盛り付けは gata-gata を大皿に差し入れ、くるくると巻き取って各自の器へ落とす。

つまりこの料理は、粉になるまでが労働で、料理になるまでが一瞬である。何日もかけて木を倒し、削り、漉し、干したものが、熱湯を注いだ数分で食べ物に変わる。

倒したサゴヤシの幹を縦に割り、中の白い髄を露出させて削り出す人々川べりに組んだ木の台で、削ったサゴの髄を水で漉している女性と子ども

倒したサゴヤシの幹を縦に割り、中の白い髄を露出させる。南西パプア州マイブラト(左)/川べりの台で、削った髄を水で漉す「トコク・サグ」。西パプア州モケレ村(右)。

モケレ川のほとりで、削ったサゴの髄を水と一緒に揉み、でんぷんを搾り出す人々

ラマス・サグ。モケレ川のほとりで、削った髄を水と一緒に揉み、でんぷんを搾り出す。

高床の家の中で、固まった乾燥サゴを包丁で四角く切り分けている女性

乾燥して固まったサゴを、包丁で四角く切り分ける。

どこから来たのか

05

歴史と由来 ― 1623年の語彙集に、もう載っている

papeda という語は1623年、オランダ人聖職者が編んだアンボン・マレー語の語彙集に記録されている。サゴそのものの記録はさらに古く、1225年の中国の文献にさかのぼる。

文献上の初出は明確である。papeda は1623年、オランダ人聖職者カスパル・ウィルテンスとセバスティアン・ダンカールツが編んだアンボン・マレー語の語彙集『Vocabularium ofte Woort-boeck』に記録されている(Hoogervorst 2024, Wacana 25(3))。香辛料を求めてやってきたヨーロッパ人が、まず辞書を作り、そこにこの食べ物の名前を書き留めた。

サゴそのものの文献記録はさらに古い。南宋の趙汝适『諸蕃志』(1225年)が渤泥(ボルネオ)について「麦を産せず……沙弧(サゴ)を穀とする」と記している。一方、サゴ利用そのものの考古学的年代については、今回の調査では確定的な数値を確認できなかった。

マルク・パプアにおいてサゴは、単なる炭水化物源ではなく社会構造の基盤だった。木村・佐々木(2022)は、ニューギニア地域でサゴが強い神話的存在であり「サゴの誕生が世界の誕生を引き起こした」という信仰や、サゴを女性と見立てて生命循環を象徴する観念、そこから派生した性別分業構造を指摘している。マリンド=アニム族は、人間とサゴが同じ祖先を持つと考える。

そして20世紀、この主食は米に押されていく。同論文は経緯を具体的に記述している。1960年代まで米は一般には配給されず、政府職員の寮や学校にのみ供給される食べ物だった。オランダ人宣教学校や行政関係者が食べる「外来の新しい食べ物」であったことが、米に上位の食べ物という威信を与えた。1980年代には米増産政策と連動してテレビで米食を推奨する広告が頻繁に流れ、1998年には貧困層向け米配給制度 RASKIN が始まって安価な米が地方に行き渡った。

結果として、パプアのバデ(マピ県)では2012〜13年時点で米の価格がサゴの1キロあたり価格とほぼ同等になっていた。森から無償で得られるはずの食料と同じコストで、米が買える。南スラウェシではサゴ生産が2006年から2013年にかけて86%減少した(Metaragakusuma et al. 2017)。加えて、保健所の医師が地域の食習慣を十分に知らないままサゴより米を勧めていたことも、同論文が要因として挙げている。

ちなみにサゴは、19世紀には英国海軍の物資でもあった。「BOWEN’s Patent SAGO」という当時の新聞広告は、これが「英国海軍とアフリカ貿易で重んじられ、壊血病の予防薬であり、下痢の唯一の治療薬」だと謳い、王立協会や、エンデヴァー号のクック船長とバンクス、ソランダーの推挙まで持ち出している。東インドの主食が、大西洋を渡って特許食品になっていた。

18世紀の新聞に載った「BOWEN's Patent SAGO」の広告。英国海軍とアフリカ貿易で珍重されたと記す

【資料】18世紀の新聞に載った「BOWEN's Patent SAGO」の広告。英国海軍とアフリカ貿易で珍重され、クック船長らの推挙を受けたと記す。

17世紀初頭にデ・ブライ兄弟が刊行した銅版画。テルナテ島ガマラマの町と湾に浮かぶ多数の船を描く『Kami Memperkenalkan Maluku dan Irian Barat』36ページに掲載されたサゴヤシの白黒写真

【図版】17世紀初頭、デ・ブライ兄弟が刊行したテルナテ島ガマラマの町の銅版画。香辛料貿易の中心だった(左)/【古写真】『マルクと西イリアンの紹介』36ページに載ったサゴヤシ(右)。

1960年代まで、米は政府職員の寮と学校にしか配られない食べ物だった。木村・佐々木(2022)「Staple Food Shift in Papua, Indonesia」

いま、どう守られているか

06

保護制度 ― 2015年10月20日、国の無形文化遺産に

パペダは2015年10月20日、インドネシアの無形文化遺産(Warisan Budaya Takbenda)として公表された。分野区分は「伝統的技能・工芸」。ただしユネスコの一覧には含まれていない。

パペダは2015年10月20日、インドネシアの無形文化遺産(Warisan Budaya Takbenda, WBTb)として公表された。分野区分は「伝統的技能・工芸(Keterampilan dan Kemahiran Kerajinan Tradisional)」、所管は当時の教育文化省である。Googleの公式Doodleページも「On this day in 2015, Papeda was publicly declared an Indonesian Intangible Cultural Heritage」と明記している。

ここで重要な訂正をひとつ。インドネシアの複数の大手メディアがこれを「ユネスコの無形文化遺産」と報じているが、これは誤りである。ユネスコの代表一覧表・緊急保護一覧表に記載されているインドネシアの要素は、ワヤン人形劇とクリス(2008)、バティック(2009)、アンクルン(2010)、サマン舞踊(2011)、ノケン(2012)、バリの3つの舞踊(2015)、ピニシ造船(2017)、プンチャック・シラット(2019)、ガムラン(2021)、ジャムー(2023)、クバヤおよびバラフォン・コリンタン(2024)、パントゥン(2025)であり、パペダもサゴも含まれていない。

地方の制度としては、ジャヤプラ県条例2016年第8号(kampung adat=慣習村に関する条例)が、慣習共同体を通じたサゴ林保護の法的根拠として機能している。さらに2026年6月20〜21日、チェンデラワシ大学で開かれた全国サゴセミナーを受けて、パプア州議会の条例形成機関 Bapemperda(議長アダム・アリソイ)がサゴ保護の特別州条例(Perdasus)制定提案を支持し、2026年内の成立を目標に掲げた。目的として、食料源・文化的アイデンティティの保全、森林減少への対抗、大規模な土地転用・森林伐採を防ぐ法的基盤、サゴ加工中小企業の原料確保が挙げられている。

土地の問題は深刻である。ボーベン・ディゴル県の Tanah Merah プロジェクトは、7つの連続する森林区画、合計約280,000ヘクタール(同県面積の約1割)を対象とする。2007年にペーパーカンパニーへ許可が交付され、2009年にチャイルル・アンハルが取得、2010〜12年にマレーシアの Tadmax Resources やUAE籍企業へ持分が売却された。これまでに約3,600ヘクタール(全体の2%)が伐採され、先住の Auyu 族は水源の破壊と、伝統的なサゴヤシおよび狩猟地へのアクセス喪失を訴えている。

なお、インドネシア教育文化省の無形文化遺産データベースは今回の調査時点でアクセス不能(ゲートウェイ502)であり、登録番号・申請州・正式登録名は確認できていない。

835kg1本から採れたでんぷんの最大実測値

パプアでの記録。通常は150〜300kg、マルクでは582kgの実測も。

38,670haジャヤプラ県のサゴ林面積

うちヨボイ村だけで1,600ha。センタニ湖周辺の32集落がサゴに依存する。

357kcalサゴでん粉100gあたり

たんぱく質0.1g、脂質0.2g、炭水化物86.1g(日本食品標準成分表 02032)。

薪をくべた炉に鍋をかけ、長い木べらを手にした女性。パプア内陸部の伝統的な調理場

パプア内陸部の台所。薪をくべた炉に鍋をかけ、長い木べらでかき混ぜる。

緑の丘に囲まれたセンタニ湖。湖畔にサゴ林が広がり、遠くに山並みが見える

センタニ湖。湖畔にサゴ林が広がり、周辺の32集落がこの木に依存している。

いつ、どこで食べるか

07

食べる場面 ― 喪明けの儀礼から、ジャカルタの支店まで

日常の食卓が基本だが、儀礼での役割も濃い。パプアの Watani Kame(喪明けの儀礼)ではパペダが供され、手伝った人々に惜しみなく配られる。

基本は家族の食卓である。センタニ湖畔のセンタニ族、ケーロム県アルソ地区の Taikat 族、マノクワリの人びとの間でとくに知られる(人類学者ヨシュア・ロベルト・マンソベンの指摘)。

儀礼での役割も濃い。パプアでは Watani Kame ――人の死の周期を終える、つまり喪明けの儀礼――でパペダが供され、儀礼を手伝った人々に惜しみなく配られる。ラジャ・アンパットではサゴ収穫前に感謝の儀礼を行う。西パプアのイナンワタンでは初産の儀礼で豚肉とともに食べ、また女性が入れ墨を彫る際の痛みに耐えるために食べる。セラム島の Nuaulu 族では女子の成人儀礼の聖なる食物 sonar monne として供され、月経中の女性が調理することは禁忌とされる。

価格については、レストランでの1人前を裏づける一次資料が確認できなかったため、市場価格で示す。ジャヤプラ県センタニのファラア市場では2025年12月時点で湿ったサゴが小1万ルピア(約89円)、中2万ルピア(約177円)、大3万ルピア(約266円)。仕入値は15キロ用の米袋1袋あたり25万ルピア(約2,217円)から30万〜40万ルピア(約2,660〜3,546円)へ、別の業者では20万〜25万ルピアから35万〜50万ルピア(約3,103〜4,433円)へ上昇した。為替は1ルピア=0.008866円(2026年9月21日)で換算している。

都市部では、ジャヤプラ(センタニ)やアンボンで郷土料理として提供されるほか、ジャカルタのクラパ・ガディンにある Yougwa(センタニ湖の本店の支店)などでも食べられる。ジャヤプラ県では「サゴ虫祭り(Festival Ulat Sagu)」や Festival Colo Sagu といったイベントが、サゴ文化の観光資源化を担っている。

緑の器に盛られた、刻んだ生のマグロやカツオを香辛料で和えたゴフ・イカンススキの向こうに広がるセンタニ湖と、湖面に浮かぶ島々。パプア州ジャヤプラ県

ゴフ・イカン。刻んだ生のマグロやカツオを香辛料で和えたマルクの料理(左)/サイクロプス山麓から見たセンタニ湖(右)。

霧のかかったアセウェット川を、櫂を立てて進むアスマットの人びとの丸木舟の列

霧のかかったアセウェット川を進むアスマットの丸木舟。パプア南部の低湿地は、サゴが最も濃く残る地域のひとつである。

親戚をたどる

08

広がり ― カプルン、シノンギ、アンブヤット

サゴを湯で糊化させて主食にする調理法は、東南アジア島嶼部からメラネシアにかけて広く分布する。ブルネイでは ambuyat が国民食である。

南スラウェシには kapurung がある。サゴを団子状に丸め、豆・野菜・魚入りのスープに入れる。東カリマンタンのマリナウなどには kuah kuning 仕立ての「sop kapurung」もある。南東スラウェシのトラキ族には sinonggi。こちらはパペダと違ってスープとは別に盛り、専用に作られた木の棒で取る。

パプアニューギニアでは、サゴ粉を saksak と呼び、熱湯で練ってゼラチン状の団子 nangu にするほか、鉄板に押しつけてトルティーヤ状のサゴ・パンケーキにする。根菜やバナナと並ぶ主食である。

ブルネイでは ambuyat が国民食だ。chandas と呼ぶ連結した竹の箸で巻き取り、sambal belacan(エビ味噌)、sambal tempoyak(発酵ドリアン)、sambal cincalok(発酵エビ)、sambal binjai(野生マンゴー)などのソースに浸して食べる。マレーシアのサラワク、ラブアン、サバでは linut または pinantung と呼ばれ、ビサヤ、ルンダイエ/ルン・バワン、バジャウ、カダザン・ドゥスン、ムラナウなどの料理に位置づく。

パプアの内部でも形はさまざまだ。Mappi、Asmat、Mimika、Merauke などでは sagu bakar(焼きサゴ)、sagu lempeng(板状サゴ)、sagu sef、sagu bola(団子)といった加工形態が使われる。焼け石の地中窯で調理する bakar batu や、パプアニューギニアの mumu も、同じ島の同じ食材を別の方法で扱う技法である。東ティモールに相当する主食があるかは、今回の調査では確認できなかった。

最後に、日付の訂正をもうひとつ。「2015年10月20日にパペダがGoogle Doodleになった」という説が日本語圏にも流れているが、Googleの公式アーカイブによれば「Celebrating Papeda」のDoodleが掲出されたのは2023年10月20日である。2015年10月20日は無形文化遺産としての公表日であり、Doodleはその8周年を記念したものだった。ふたつの日付が混ざって流通している。

そしてもうひとつ注意を。近年インドネシアで流行している「papeda gulung」は、タピオカ(キャッサバでんぷん)を使った現代の菓子で、サゴを使う伝統的なパペダとは別物である。

マルク諸島・パプア

Papedaパペダ

サゴ/すする

ガタガタで巻き取り、黄色い魚のスープで流し込む。2015年インドネシア無形文化遺産。

南スラウェシ

Kapurungカプルン

サゴ/団子

団子状に丸め、豆・野菜・魚入りのスープに入れる。

南東スラウェシ(トラキ)

Sinonggiシノンギ

サゴ/別盛り

スープとは別に盛り、専用に作られた木の棒で取る。

ブルネイ

Ambuyatアンブヤット

サゴ/国民食

chandas という竹の箸で巻き取り、各種サンバルに浸す。マレーシアでは linut。

パプア高地のバカール・バトゥ。焼け石と葉を重ねた上に根菜を山と積み、煙が立ちのぼる地面に掘った窯に焼け石を敷き、その上に葉と食材を並べたパプアニューギニアのムームー

バカール・バトゥ。焼け石と葉を重ねた上に根菜を山と積むパプア高地の儀礼(左)/パプアニューギニアの地中窯ムームー(右)。

基本情報

料理名
パペダ(papeda)。別名 popeda, pepeda, nangu、インドネシア語で bubur sagu(サゴ粥)
地域
インドネシア東部(マルク諸島、パプア州・西パプア州の沿岸低地)
分類
サゴでんぷんを熱湯で糊化させた主食。半透明でのり状
原料
サゴヤシ Metroxylon sagu Rottb.。樹高20〜30m、幹は年間最大1.5m伸びる
収穫適期
開花直前〜直後、樹齢7〜15年(実務では8〜10年)
収量
1本あたり通常150〜300kg。実測ではパプア835kg、マルク582kg、南スラウェシ373kg
栄養
サゴでん粉100gあたり357kcal/たんぱく質0.1g/脂質0.2g/炭水化物86.1g(日本食品標準成分表 02032)
道具
ガタガタ(gata-gata)=二股の木のフォークまたは連結した箸
合わせるもの
ikan kuah kuning(黄色い魚のスープ)、kuah asam、tumis kangkung、sayur ganemo
保存
サゴの葉で編んだ筒状の容器トゥマン(tumang)に詰めると数か月持つ
保護制度
インドネシア無形文化遺産(WBTb)、2015年10月20日公表。区分は「伝統的技能・工芸」。ユネスコ一覧には未記載
市場価格
湿ったサゴ 小10,000ルピア(約89円)/中20,000ルピア(約177円)/大30,000ルピア(約266円)(2025年12月、センタニのファラア市場)

出典

写真(26枚)

  • 1. Papeda, Kuah Kuning, Ikan Tude Bakar 1.jpg / Gunawan Kartapranata / CC BY-SA 3.0 / 原典
  • 2. Papeda, Kuah Kuning, Ikan Tude Bakar 2.jpg / Gunawan Kartapranata / CC BY-SA 3.0 / 原典
  • 3. Papeda dari Indonesia bagian timur.jpg / Tumanisme / CC BY-SA 4.0 / 原典
  • 4. Papeda Ikan Kuah Kuning.jpg / Rachmalin / CC BY-SA 4.0 / 原典
  • 5. Papeda at UGM. 2013-12-22.jpg / Sabjan Badio / CC BY-SA 4.0 / 原典
  • 6. Maluku dishes.jpg / M.akbar.raf / CC BY-SA 4.0 / 原典
  • 7. Ikan Kuah Kuning-2.jpg / Oceanmuse / CC BY 4.0 / 原典
  • 8. Gohu Ikan.jpg / Rezamega13 / CC BY-SA 4.0 / 原典
  • 9. Memotong sagu Kering.jpg / Keenan63 / CC BY-SA 4.0 / 原典
  • 10. Sagu Sorong.jpg / Radio Republik Indonesia / Public domain / 原典
  • 11. Tokok Sagu.jpg / Lefaan / CC BY-SA 4.0 / 原典
  • 12. RAMAS SAGU.jpg / Lefaan / CC BY-SA 4.0 / 原典
  • 13. Tempat masak warga lokal.jpg / Lefaan / CC BY-SA 4.0 / 原典
  • 14. White sago.jpg / Enziee / CC BY-SA 4.0 / 原典
  • 15. DAUN SAGU.jpg / Lefaan / CC BY-SA 4.0 / 原典
  • 16. Dusun Sagu 1.jpg / Lefaan / CC BY-SA 4.0 / 原典
  • 17. Metroxylon sagu (sago) seedlings.jpg / Widana53 / CC BY 4.0 / 原典
  • 18. Sago (Metroxylon sagu) in New Guinea.jpg / Toksave / CC BY-SA 3.0 / 原典
  • 19. Danau Sentani dari Kaki Pegunungan Cyclops.jpeg / Fadil Hanif / CC BY-SA 4.0 / 原典
  • 20. Sentani Lake.jpg / Kiko Turteliny / CC BY 2.0 / 原典
  • 21. Ad of Zephaniah Kingsley Sr.jpg / Deisenbe / CC BY-SA 4.0 / 原典
  • 22. Sago palms, Kami Memperkenalkan Maluku dan Irian Barat, p36.jpg / 撮影者不詳 / Public domain / 原典
  • 23. Description of Gamalama City de Bry.jpg / Johann Theodor de Bry & Johann Israel de Bry / Public domain / 原典
  • 24. Bakar Batu.jpg / Keenan63 / CC BY-SA 4.0 / 原典
  • 25. A traditional Papua New Guinean mumu.jpg / Jay Evennett / CC BY-SA 4.0 / 原典
  • 26. Asmat Warriors (48261522391).jpg / David Stanley / CC BY 2.0 / 原典

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