リ・グラ

世界の料理図鑑 ブルキナファソ

リ・グラ

riz gras リ・グラ Riz gras

具は混ぜ込みません。炊いた米の上にのせます。

riz gras は「脂の米」。名前が調理法をそのまま言っています。トマトと油で炊いた米に、肉と野菜の塊をのせて出す料理です。

英語圏西アフリカのジョロフライスと同系統ですが、見分けるポイントがひとつあります。ジョロフライスが具を混ぜ込むのに対し、リ・グラは肉と野菜の塊を米の上にのせて供する。これが外見上の定義です。

そしてブルキナファソでは、この料理は都市部のパーティーでよく出されるものとされます。前の記事で扱ったトーが日常の主食なら、リ・グラはハレの席の料理。同じ国の食卓でも、役割が違います。

正式名
riz gras(「脂の米」の意)
分類
トマトと油で炊いた米に、肉と野菜の塊をのせる
分布
ベナン、ブルキナファソ、ギニア、コートジボワール、トーゴ。セネガルなどでも
同系統
ジョロフライス(英語圏西アフリカ)、チェブジェン(セネガル)、リ・オ・グラ(マリ)
見分け方
具を混ぜ込まず、米の上にのせる
主な材料
米、肉または野菜ストック、トマト、なす、ピーマン、にんじん、キャベツ、玉ねぎ、にんにく、油、塩
要点
トマトを「油が分離するまで」炒める
位置づけ
都市部のパーティーでよく出される。日常食のトーとは役割が違う
起源
不明。名前の由来(ジョロフ帝国)と料理の成立は別の話
相場
屋台価格は不明。材料費からの推計で4人分約4,500〜5,000 CFA

01一口目に来るもの

トマトの酸と甘み、そして名前どおりの油の厚み。「油が分離するまで炒めたトマト」の凝縮感が最初に来ます。

香りは炒めた玉ねぎ、にんにく、トマト。ブイヨンキューブを使う版では、そのうま味の香りが支配的になります。

油をまとった米粒が口の中でほどけ、一粒ずつが独立している。リゾットのようには粘りません。

そこに上にのった肉と野菜が混ざり、最後に油膜が口蓋に残る。

後味は油と塩気の余韻が長い。「gras(脂)」という名前は誇張ではありません。

※以上は資料からの再構成であり、実食に基づく記述ではありません。

リ・グラ
リ・グラ。炊いた米の上に、肉と野菜の塊がのる

02「12世紀のジョロフ帝国から」は誤り

この系統の料理について、日本語圏でしばしば見かける説明があります。「ジョロフライスの名前は12世紀のジョロフ帝国に由来する。だからこの料理は12世紀からある」。

前半は正しく、後半は誤りです。名前の由来と料理の成立は別の話です。

判断の根拠は材料にあります。現在のジョロフライスの形は、新世界原産のトマトとトマトペースト、インドのカレー粉、地中海のタイム、アジアの米品種に依存している。これらが19世紀以前の西アフリカにあったという証拠がありません。

起源をめぐるもうひとつの説は、農学者マルク・デュフュミエによるものです。「セネガル中部での落花生の集約栽培の植民地的推進」と「東南アジアからの砕米の輸入」が伝統穀物の減産を補ったことから生まれた、という見方。これは出典つきで書ける「植民地期の影響」です。

ただし、デュフュミエの一次文献にはあたっていません。ここでは「そういう説がある」というところまでにしておきます。

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リ・グラの一皿
リ・グラ
スンバラを効かせた米

油をケチると、それはもうリ・グラではない

これは笑い話ではありません。西洋のレシピサイトの一つは「たっぷりの油の量が伝統的な調理法を反映しているが、現代の好みに合わせて減らした」と自認しています。

名前が「脂の米」である以上、油を減らせば別の料理になります。日本語のレシピが健康を気づかって油を控えると、リ・グラではなくなる。

ついでにひとつ注意を。分量つきのリ・グラのレシピは、確認できた範囲ではすべて西洋のレシピサイト由来で、現地の一次資料ではありませんでした。中にはガラムマサラやクミン、フェンネル、マスタードシードを使うものまであります。それはインド系スパイスの翻案であって、ブルキナファソのレシピではありません。

リ・グラ
リ・グラ
リ・グラ
リ・グラ

第 二 章

大 鍋 で

都市部のパーティーで出される料理

03作り方と、失敗しやすい6か所

材料は米、肉(または野菜ストック)、トマト、なす、ピーマン、にんじん、キャベツ、玉ねぎ、にんにく、油、塩。

工程はこうです。油で玉ねぎとにんにくを炒める。すりつぶしたトマトを加え、油が分離してくるまで炒めて水分を飛ばす。肉を加えて焼き、ストックを注ぐ。なす、ピーマン、にんじん、キャベツを加えて煮る。具を取り出し、残った煮汁に洗った米を加えて炊く。炊き上がった米の上に、肉と野菜をのせる。

※工程の分量は編集部で組んだものです。出典に分量の裏付けはありません。また「具を取り出す」の部分は、資料が「肉と野菜の塊は米の上にのせて供される」と明記していることからの再構成です。

失敗しやすいのは、まずトマトを炒め足りないこと。生のトマトの青臭さと酸が残り、油と分離した水っぽい味になります。「油が分離するまで」が炒め終わりのサイン。この判定は、マリのティガデゲナのレシピでも共通して指定されています。

次に油をケチること。三つ目は具と米を最初から一緒に炊くこと。野菜が煮崩れて米に混ざり、「米の上に具をのせる」という完成形が作れません。

四つ目は米を洗わない、あるいは水分計算を誤ること。五つ目はブイヨンキューブに頼りきること。ブルキナファソでは世帯の80%超がブイヨンキューブを使っていて、レシピにも当たり前に登場しますが、日本の家庭で同じ量を使うと確実に塩辛くなります。六つ目はキャベツを早く入れること。溶けて姿が残らず、「野菜の塊」として米の上にのせられなくなります。

リ・グラ
ワガドゥグの若鶏ロースト店の店構え。オーブン焼きの鶏を売る
リ・グラ
土鍋の煮込み

たっぷりの油の量が伝統的な調理法を反映しているが、現代の好みに合わせて減らした西洋のレシピサイトによるリ・グラのレシピの注記

04種類を並べてみる

トマトで炊いた米という同じ骨格が、国境を越えるたびに名前と盛り付けを変えます。

名前特徴確度
リ・グラ(ブルキナファソ)具を米の上にのせる。都市部のパーティー料理確認済み
リ・オ・グラ(マリ)トマトソースの米。「油と野菜を混ぜた米」と説明される確認済み
ジョロフライス(英語圏西アフリカ)同系統。具を混ぜ込む傾向確認済み
チェブジェン(セネガル)多量の魚と肉で作る。ユネスコ無形文化遺産確認済み。登録年は確認できず
ベナチン(ガンビア)同系統要確認。本取材では直接確認せず
野菜のみの版野菜ストックで作る要確認
リ・ウォロフ(マリ)マリ料理の一覧に名前が挙がる要確認。名前のみ列挙
リ・グラ
リ・グラ
リ・グラ

05日常のトー、ハレのリ・グラ

ブルキナファソの「国民食」として、資料はトーとリ・グラの両方を挙げます。どちらが正しいという話ではありません。

ここでは機能で分けます。日常の主食はトー、祝いや外食の花形はリ・グラ。資料は「ブルキナファソの都市部ではパーティーでよく出される」と書いていて、これがトーとの決定的な違いです。

ただし、これは儀礼ではありません。ハレの席の料理、という位置づけです。特定の儀礼と結びつける記述は見つかりませんでした。

食べ方については、リ・グラ固有の記述が見つかりませんでした。米料理なので手食もスプーンもありうる。ブルキナファソ一般の作法として右手のみ、というのは確認できています。

「肉と野菜の塊を米の上にのせて供する」という盛り付け自体が、大皿を囲む前提を示しているとは言えます。ただしこれは推論です。

リ・グラ
ワガドゥグで開かれた食の見本市
リ・グラ
見本市で供された一皿。都市部の外食は、こういう方向にも伸びている

06いくらで食べられるか

リ・グラの屋台価格を示す検証可能な資料には到達できませんでした。代わりに、材料費から概算してみます。

ワガドゥグの食材価格は、米が約500 CFA/kg、玉ねぎが約833 CFA/kg、鶏むね肉が約11,990 CFA/kg。4人分(米500g、鶏300g、玉ねぎ200g、トマト・油・調味料)で概算すると、材料費は約4,500〜5,000 CFA(約1,270〜1,410円)になります。

この計算からひとつ言えることがあります。「屋台の一皿が数百 CFA」という水準では、鶏肉入りのリ・グラは成立しにくい。ただしこれは物価データからの推計であり、現地の実売価格を示すものではありません。参照した鶏肉価格はスーパー基準の可能性が高く、市場価格はもっと安いはずですが、その裏付けもありません。

リ・グラの価格(2026年時点。屋台価格は不明です)価格
屋台不明
一般(ワガドゥグの安価な食堂の食事)4,250 CFA(約1,200円)
高級(中級店 2人分)15,000 CFA(約4,230円)
材料費の推計(4人分)約4,500〜5,000 CFA(約1,270〜1,410円)
参考:米約500 CFA/kg
参考:鶏むね肉約11,990 CFA/kg

07どこで食べるか

ブルキナファソはカナダ政府が「渡航中止」、米国が「Level 4: Do Not Travel」に指定しています(2026年8月20日更新)。武装勢力が国土の最大80%で公然と活動し、近年は年間およそ2,000人の民間人が殺害されています。

ワガドゥグに存在が確認できる店としては、LE VERDOYANT(1993年創業、薪窯ピッツェリア)、GONDWANA、LE NOMADE、VILLA KAYA。ボボ・ディウラッソには L’Eau Vive。

ただし、いずれも仏系・国際系の店であり、「リ・グラを出す店」として確認できたわけではありません。

マリ側については、現地紹介記事が「マキ(maquis)は社交の場としてのレストランとして機能する」「道端の市場では焼き魚やプランテンの揚げ物が売られる」と書いています。リ・グラを出す個別の店として一次確認できたものはありません。

この料理はパーティーの料理です。店で探すより、誰かの家の祝いの席で出会う可能性のほうが高いのだろうと思います。

リ・グラ
ベニエ(揚げ菓子)を作るための型

08豆知識

「riz gras」は「脂の米」。名前が調理法をそのまま言っています。同じことをするのに、ジョロフライスは帝国の名を、チェブジェンは「米と魚」を名前にした。同系統の料理が、名前のつけ方でそれぞれの土地の関心を見せています。

具は混ぜ込まず、米の上にのせる。これがジョロフライスとの見分けポイントです。写真で判別できる違いというのは、案外少ない。

ブルキナファソでは世帯の80%超がブイヨンキューブを使います。リ・グラのレシピにキューブが当たり前に入るのはこのためです。西アフリカの食を語るとき、この工業製品を無視すると実態からずれます。

セネガルのチェブジェンはユネスコ無形文化遺産に登録されています。同じ系統の料理群のなかで、国際的な文化遺産になったのは魚を使うセネガル版でした。

起源について:「12世紀のジョロフ帝国由来」を料理そのものの起源として書くのは誤りです。名前の由来と料理の成立は別の話であり、材料(新世界原産のトマト、アジア米)から見て現在の形は19世紀以降と考えられます。
レシピについて:本記事の工程は、資料の材料リストと記述から編集部で再構成したものです。分量つきの現地一次レシピは確認できませんでした。西洋のレシピサイトにはインド系スパイスを混ぜた翻案もあるため、注意が必要です。
価格について:材料費の推計は物価データ(2026年6月19日更新)からの概算であり、実売価格ではありません。
渡航について:ブルキナファソはカナダ政府「渡航中止」、米国「Level 4: Do Not Travel」に指定されています。
為替レート:1,000 CFAフラン=約282円(2026年8月31日時点)。

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