世界の料理図鑑 イラン
ゾレシュク・ポロ
زرشک پلو ゾレシュク・ポロ Zereshk Polo
白い米、黄金のサフラン、真紅のメギの実。イランの祝いの席に必ず出てくる三色の皿。
皿の上に白と黄金と真紅が並んでいます。白は米、黄金はサフラン、そして真紅の小さな粒。
この赤い粒がゼレシュク(زرشک)——メギの実、英語でいうバーベリーです。日本では観賞用の低木として知られていますが、イランでは食べるために栽培されている。
一粒つまむと、驚くほど酸っぱい。この酸味が、サフランの甘い香りを引き締めています。
- 国・地域
- イラン全土。ゼレシュクの産地は南ホラーサーン州
- 分類
- 米料理(炊き込み・祝いの席)
- 相場
- 25万トマーン前後(約875円)
- 主な材料
- 長粒米、乾燥ゼレシュク(メギの実)、鶏肉、玉ねぎ、砂糖、サフラン、バター、ターメリック
- 味
- 甘酸っぱい。サフランの香りとメギの酸味
- 食べる場所
- レストラン、結婚式・祝いの席、家庭
- ベスト時間
- 昼でも夜でも。祝い事の定番
- 飾り
- アーモンドスライスやピスタチオを散らす
- 支払い
- 現金かイラン国内デビットカード
- 所要
- 米は下茹でしてから蒸らす二段階。店では待たされない
01一口目に来るもの
まずサフランとバターの香りが鼻に抜けます。ご飯そのものが香っている。
米は一粒ずつ立っています。茹でこぼしてから蒸らす「ダム」の技法で炊くので、粘りがない。日本の米とは別の食べ物だと思ったほうがいい。
噛んでいくと、ゼレシュクの粒がぷちっと潰れて酸味が来る。これが不規則に、一口ごとに来る。
添えられた鶏はサフランとターメリックで煮込まれ、ほろりと崩れる柔らかさ。ご飯の酸味と、鶏の穏やかさが交互に来る構成です。
02焦がすと苦くなる
ゼレシュクの扱いには一つだけ絶対の禁忌があります。焦がしてはいけない。
乾燥した実を洗い、水気をしっかり切ってから、少量のバターで弱火で手早く炒める。ここで火が強すぎると色が黒ずみ、酸味が苦味に変わります。
砂糖は炒めたあとに加えて、揉み込むように混ぜる。先に入れると糖が焦げてダマになる。
イランのレシピ記事はほぼ全てがこの一点を強調しています。家庭料理でいちばん失敗しやすい工程だからです。


サフランは「溶かす」もの
サフランはそのまま振りかけても色が出ません。細かくすりつぶしてから、熱湯で溶かす。
沸騰させたあとに氷を加えて急冷する方法も推奨されています。色と香りを閉じ込めるため。
溶かしたサフラン液を、炊き上がったご飯の一部にだけ混ぜる。白いご飯と黄金のご飯を作り分けて、盛るときに重ねる。
この三色——白、黄金、赤——が見た目のごちそうとしてイランで重視されている。だからこの料理は祝いの席に出るわけです。


第 一 章
鶏を添えて完成する
ゾレシュク・ポロ・バ・モルグ(鶏添え)。サフランとターメリックで煮込んだ鶏がつく
03メギの実は、どこから来るか
ゼレシュクの産地はイラン東部の南ホラーサーン州です。国内生産の約98%をこの州が占める。
中心はガーイェナート郡とザールクーフ郡。種なしゼレシュクの発祥地とされるのは、ザールクーフ地区のアフィン村です。
ガーイェン郡だけで作付面積6,500ヘクタール超、年間の乾燥ゼレシュク生産量が約7,000トンという数字が出ています。
つまりこの赤い粒は、特定の一地域が支えている作物です。イラン中の祝いの席の色が、ほぼ一つの州から来ている。


04祝いの席の料理
ゾレシュク・ポロはマジュレシー(مجلسی/宴席向け)に分類される料理です。結婚式、祝いの集まり、家族が揃う日に作られる。
理由は手間と見た目です。米を二段階で炊き、サフランを溶かし、ゼレシュクを焦がさないように炒め、色を作り分けて盛る。日常の夕飯にしては工程が多い。
米国に渡ったイラン系の家庭では、感謝祭に作るという記述もあります。祝祭の料理という性格が、移民先でもそのまま引き継がれている。
日本でいえば赤飯に位置が近い。色で祝意を表し、特別な日にだけ炊く米という点が同じです。

白と黄金と赤。この三色を作るために、米を二度に分けて炊く。イスファハンのレストランにて
05どこで食べられるか
イスファハンならシャフルザード(شهرزاد)。チャハールバーグ・アッバースィー通りの老舗で、1960年代の創業とされます。「ゾレシュク・ポロ・バ・モルグ・ヴィジェ・シャフルザード(当店特製)」という名前でメニューに載っています。
イスファハンでは香辛料を控えめにし、ゼレシュクとアーモンドのスライスを効かせる作り方が一般的とされます。地域によって作り方に差がある。
テヘランなら多くのペルシャ料理店やデリバリーで頼めます。ただし店ごとの当たり外れが大きい。
見分け方があります。ゼレシュクの色が黒ずんでいたら、焦がしています。鮮やかな赤のものを選んでください。
06似ている料理
インドのビリヤニ系のプラオが、サフランとドライフルーツを使う点で系譜が近い。ただし酸味の主張はゾレシュク・ポロのほうがずっと強い。
日本の赤飯は、色で祝意を表し、特別な日にだけ炊くという機能が近い。使う材料はまったく違いますが。
トルコのピラウにもドライフルーツ入りのものがありますが、酸っぱい実を使う発想は薄い。
「甘くない米に酸っぱい実を混ぜる」という発想が、この料理をかなり特異なものにしています。
07豆知識
・ゼレシュクは世界的には観賞用の低木(バーベリー)として扱われることが多く、食用に栽培するのはイランの特徴です。
・イラン国内生産の約98%が南ホラーサーン州。ほぼ一つの州が支えています。
・「焦げると苦くなる」は、レシピ記事のほぼ全てで最重要の注意点として書かれています。
・鶏を添える形は、養鶏が広まったガージャール朝期(19世紀)に定着したとみられています。
・鍋底には当然ター・ディーグができます。この図鑑の別の棚に並んでいるので、そちらもどうぞ。
写真はすべて Wikimedia Commons より。各画像の作者とライセンスは以下のとおりです。
- 01/زرشک پلو , ازنا , ایران , 1392 Zereshk Polo, Azna, Iran.jpg / Hamid3 / CC BY-SA 3.0
- 02/Zereshk polow, Barberry Rice, Iran (14452117416).jpg / Julia Maudlin from Lake Oswego, Oregon, USA / CC BY 2.0
- 03/Zereshk polo – Riso con crespini.jpg / Marcuscalabresus / CC BY-SA 4.0
- 04/Making rice by Iranian attitude.jpg / Milad Mosapoor / Attribution
- 05/Zereshk polo.jpg / خودم / Public domain
- 06/Chicken kebab with zereshk polo.jpg / Ser Amantio di Nicolao / CC BY-SA 3.0
- 07/Iranian food (28663343391).jpg / Sasha India / CC BY 2.0
価格は2026年8月時点のイスファハン周辺の相場の目安です。





