世界の料理図鑑 イラン
クビーデ
کباب کوبیده キャバブ・クビーデ Kabab Koobideh
表面は炭で焦げ、割ると中から肉汁が滲む。サフランライスと焼きトマトを添えて。
イスファハンのナクシェ・ジャハーン広場を一周したら、昼はキャバブです。バザールの中か、広場に面した二階の食堂へ。
メニューを開くと、キャバブが何種類か並んでいて、それ以外がほとんどない。イランの外食は、ほぼこれ一択です。
そのなかで最も基本にして最も注文されるのが、この挽き肉のキャバブ——クビーデ。
- 国・地域
- イラン全土。イスファハンでは広場周辺の食堂に集中
- 分類
- 肉料理(炭火焼き)
- 相場
- 15万〜25万トマーン(約525〜875円)
- 主な材料
- 羊または牛の挽き肉、玉ねぎ、塩、ターメリック。串は平たい鉄製
- 辛さ
- 辛くない。スマック(赤い酸っぱい粉)で味を変える
- 食べる場所
- キャバブ専門食堂(キャバービー)。バザールの中
- ベスト時間
- 昼。注文して数分で焼き上がる
- 一人前
- 串2本+サフランライス。かなりの量
- 支払い
- 現金かイラン国内デビットカード。国際クレジットカードは使えない
- 所要
- 注文から5〜10分。炭火で一気に焼く
01一口目に来るもの
運ばれてきた瞬間、まず炭の匂いが来ます。焼き網ではなく、串を直接炭の上で転がして焼くので、香りが強い。
ナイフを入れると、表面は焦げているのに中から肉汁が滲む。挽き肉なのに、ぱさついていない。
口に入れると、羊の脂の甘さと玉ねぎの香り。香辛料はほとんど使われていません。塩とターメリックだけ。肉そのものの味で成立している。
そこにサフランライスを一口。ライスが黄色く艶を帯びたら、キャバブを崩して一緒に頬張る——これが正しい順番です。

02味と食感
挽き肉は羊が基本、牛や混合もあります。脂の比率が20%前後ないと串から落ちるので、想像よりずっと脂が多い。
すりおろした玉ねぎを混ぜて、しっかり練る。この練りが足りないと焼いている途中で崩れます。だから店の腕がいちばん出るのが仕込みの段階。
串は幅3cmほどの平たい鉄。丸串では挽き肉が回ってしまうので、この形でなければならない。
焼き方は炭火の直火。片面1分ずつほどで一気に焼き上げる。長く焼くと脂が落ちてぱさつく。
味つけは塩とターメリックだけ。物足りなければ卓上のスマック(赤い酸っぱい粉)を振ります。


スマックという赤い粉
イランの食卓には必ずスマック(Sumac)という赤茶色の粉が置かれています。
ウルシ科の植物の実を乾かして挽いたもので、強い酸味があります。レモンに似ていますが、もっと渋みがある。
キャバブにこれを振ると、脂の重さが切れて、後半が楽になる。台湾の牛肉麺における高菜漬け、スイスのアルプラーマグローネンにおけるりんごソースと、まったく同じ役割です。
振りすぎると酸っぱくなるので、2本目の串から使うのが上手い食べ方。



第 二 章
焼きトマトと生卵の黄身
串から外したクビーデとサフランライス、焼きトマト(ベルリンの店で撮影)
03付け合わせの意味
クビーデの皿には、必ず焼きトマトが載っています。
これは飾りではありません。崩してライスに混ぜるためのもの。トマトの酸味と水分が、乾いたライスと脂の多い肉のあいだをつなぐ。
店によっては生卵の黄身とバターが出てきます。熱いライスに落として混ぜる。これをやるとライスが黄金色になり、艶が出る。
生の玉ねぎとバジル系のハーブ(サブジ・ホルダン)が添えられることもあります。かじって口をリセットする。
パン(ラヴァシュかサンギャク)がライスの代わりに出ることも。キャバブをパンで巻いて食べるのも正式な食べ方です。


イランの外食は、ほぼキャバブ一択。だからこそ、店ごとの差がはっきり出る。イスファハンのバザールにて
04キャバブの種類
メニューには何種類かのキャバブが並びます。値段はこの順に上がっていく。
05注文のしかた
「کباب کوبیده(キャバブ・クビーデ)」。発音は「キャバーベ・クービーデ」に近い。
串の本数を聞かれます。「یکی(イェキー)」=1本、「دوتا(ドタ)」=2本。1人前は通常2本。
ライスかパンかを選べる店もあります。「چلو(チェロウ)」=ライス、「نان(ナーン)」=パン。ライス付きはチェロウ・キャバブと呼ばれます。
飲みものはドゥーグ(塩味の飲むヨーグルト)が定番。
国際クレジットカードは使えません。制裁の影響で、VisaもMastercardもイラン国内では機能しない。現金を持っていくこと。
06どこで食べる
イスファハンならナクシェ・ジャハーン広場の周辺とバザールの中。広場に面した二階の食堂は窓から広場を見下ろせます。
昼どきはどこも混みます。13時前後がピーク。
値段の幅は店の格で決まります。バザールの奥の食堂なら15万トマーン、観光客向けの内装のいい店なら25万トマーン。味の差はそれほど大きくない。
テヘランやシラーズでも同じものが食べられますが、イスファハンには独自のベリヤーニーもあるので、両方試す価値があります。
絨毯敷きの小上がりで靴を脱いであぐらをかいて食べる店もあります。これがイランの伝統的な食事の形。



07歴史と背景
キャバブそのものは中東全域に広がる古い調理法ですが、クビーデ(挽き肉を串に巻く形)はイランで発達したものです。
「کوبیده(クビーデ)」は「叩いた・砕いた」という意味。肉を叩いて挽き肉にすることから来ています。
背景には、硬い肉をどう食べるかという問題がありました。放牧の羊は筋肉質で硬い。塊のまま焼くと噛み切れない。叩いて挽けば、どの部位でも柔らかく食べられる。
つまりクビーデもまた、制約から生まれた料理です。この図鑑に並ぶ台湾の魯肉飯、スイスのロシュティと同じ構造がここにもある。
チェロウ・キャバブ(ライス付きキャバブ)がイランの国民食として定着したのは20世紀に入ってから。それ以前は宮廷料理に近い扱いでした。


08似ている料理
トルコのアダナ・ケバブが最も近い。同じ挽き肉の串焼きですが、唐辛子が入って辛いのが決定的な違い。イランのクビーデは辛くありません。
アゼルバイジャンや中央アジアのリュラ・ケバブも同系。
トルクメニスタンのシャシリクは塊肉の串焼き。この図鑑にも後日並びます。
日本のつくねは挽き肉を串に成形する点が同じ。ただしタレをつけるかどうかで方向が正反対です。
「挽き肉を串に巻いて直火で焼く」という発想は、中東から中央アジアにかけて広く共有されています。
09豆知識
・キャバブ用の平たい串は、イランの土産としても売られています。バザールで買える。
・イランでは羊肉が基本ですが、近年は牛や鶏の比率が上がっています。値段の問題。
・卓上には塩、スマック、そして唐辛子ではなく黒胡椒が置かれます。イラン料理は総じて辛くない。
・食後には必ずチャイが出ます。細いグラスに濃い紅茶。角砂糖を歯で挟んで飲むのが伝統的な作法です。
写真はすべて Wikimedia Commons より。各画像の作者とライセンスは以下のとおりです。
- 01/Kabab koobideh 2012.10.jpg / Roozitaa / CC BY-SA 3.0
- 02/Kabab koobideh 2012.jpg / Roozitaa / CC BY-SA 3.0
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- 14/Chelo Kabab – Drumstick – Kolkata – FILE 0003.jpg / Goutamroykol / CC BY-SA 4.0
- 15/Chelow Kabab, Peter Cat, Park Street, Kolkata, West Bengal, IMG 20210410 131018800.jpg / Boby Ortain / CC BY-SA 4.0
価格は2026年8月時点のイスファハン周辺の相場の目安です。






