世界の料理図鑑 南アフリカ
ブライ
braai ブライ Braai
「ブライしよう」は「すぐ食べよう」ではない。火を熾し、飲み、喋る数時間のプロセス全体を指す。
アフリカーンス語でbraai=焼く。正式には braaivleis(焼き肉)。ただしこれは料理名というより、行為の名前です。
味の核心は薪の煙。ロイヒルやカメールドーリンといった南ア産のハードウッドは煙が少なくクリーンで、燻香は「刺さる」のではなく肉の脂に染みます。
炭だけで焼くとこの香りは出ません。ただの炭火焼きになる。薪が炭になるまで待つ、その待ち時間がブライです。
- 国・地域
- 南アフリカ全土。ナミビア、ジンバブエにも同系
- 分類
- バーベキュー(薪火)
- 相場
- タウンシップの一皿R80〜150(約790〜1,490円)
- 主な材料
- ボーレボース、ステーキ、ラムチョップ、鶏。薪(ロイヒル、カメールドーリン、セケルボス等)
- 辛さ
- 肉自体は辛くない。チャカラカが辛い
- 食べる場所
- ケープタウンのググレツ、ヨハネスブルグのソウェト
- ベスト時間
- 週末の午後から夜。9月24日のヘリテージ・デーは全国が煙る
- 一人前の目安
- 持ち寄りが基本。自分の肉と飲み物を持参する
- 食べ方
- 大皿を囲んで手づかみ。パップとチャカラカを添える
- 近い料理
- シサ・ニャマ(タウンシップ式)、ポチェコス(三脚鍋の煮込み)
01一口目に来るもの
肉より先に、煙の匂いが来ます。数時間前から火が熾されているので、庭全体がその匂いになっている。
ひと口目は薪の煙の香り。南ア産のハードウッドは煙が少なくクリーンで、燻香は肉の脂に染みる程度です。
続いて塩と、炭化した表面のほろ苦さ。噛むと脂が滴る。ボーレボースならケーシングがパチンと弾ける。
炭(ブリケット)だけで焼くと、この香りは出ません。手軽で安定するのは炭ですが、薪には香りがある。ここが分かれ目です。

02炎が落ちるまで待つ
ブライで最大の失敗は炎が上がっているうちに肉を乗せることです。表面だけ焦げて、中が生になる。
炎が落ちて、白く灰をかぶった熾火になるまで待つ。これが鉄則です。
薪の種類で待ち時間が変わります。ロイヒルは西ケープの定番で、着火しやすく約40分で使える炭になる。直火調理で1〜1.5時間、間接調理で3〜4時間持ちます。
カメールドーリン(ラクダアカシア)は最高級とされ、煙と灰が極めて少なく高温・長時間。ただし着火が非常に難しい。
セケルボスは3〜4時間持続、煙が少ない。モパニは密度が高く長持ちだが着火困難。ブルーガムは12〜18か月の乾燥が必須です。
乾燥不足の薪を使うと煙が苦くなる。処理材やカビた薪は使わない。


ブライ・マスターに口を出さない
ブライ・マスター——通常はホスト——が火と肉を完全に仕切ります。
焼き方に口を出すのは重大なマナー違反です。例外は「誰かがステーキをウェルダンにしようとしたとき」だけ、というのが定番のジョーク。
他人の肉を勝手にひっくり返さない。頼まれた場合のみです。
招かれたら自分の肉と飲み物を持参する(bring-and-braai)。事前に何を持参するか確認するのが礼儀です。他人がワギュウを持ってきている場に冷凍のチキンドラムを出すのは避けたほうがいい。



第 二 章
集 ま る た め の 火
ブライは料理ではなく、時間の過ごし方だ
03パップとチャカラカ
ブライの正式な相方はパップとチャカラカです。
パップはメイズ粉の粥。水分量でスラップ・パップ(柔らかめ)、スタイウェ・パップ(固め)、クルンメルパップ/プトゥ(ぽろぽろ)に分かれます。ブライにはクルンメルパップが定番。
バターと肉汁(sous/モニーグレービー)をかけて食べます。「pap, wors en sous」(パップ、ソーセージ、ソース)は南アの定型句。
チャカラカはトマト、ピーマン、唐辛子、玉ねぎ、人参、生姜、ベイクドビーンズ入りの辛い野菜レリッシュ。これが辛さを担当します。


ブライに行ったことのない南アフリカ人を、一人でも見せてほしい。デズモンド・ツツ大主教。当初は反対していたが、2007年にブライ・デーの広報役を引き受けた
049月24日をめぐる話
9月24日はヘリテージ・デーという公休日です。ここには経緯があります。
もともと9月24日はクワズール・ナタール州の「シャカ・デー」(ズールー王シャカの記念日)でした。1995〜96年の公休日法案からシャカ・デーが外れ、インカタ自由党が反発。妥協として全文化を祝う「ヘリテージ・デー」が制定されました。
「ナショナル・ブライ・デー」は2005年にヤン・スカネル(通称 Jan Braai)が始めた民間キャンペーンです。2007年にデズモンド・ツツ大主教が広報役に就任し、2008年に国家遺産評議会が支持を表明しました。
「政府が9月24日を公式にブライの日と改称した」は誤りです。あくまで民間の運動で、公式名称はヘリテージ・デーのまま。
05種類を並べてみる
焼き方と器具で名前が変わります。



06いくらで食べられるか
タウンシップのシサ・ニャマから高級レストランまで、幅が広い。
07どこで食べるか
ケープタウン:ムゾリーズ(ググレツ、N2からExit 15)は週末が最も賑わいます。店内で酒は出しません。ランズ・ケープタウン(カエリチャ)、パクワトゥ・ブライ(ウッドストック)も。
ヨハネスブルグ:チャフ・ポジ(オーランド、ソウェト。FNBスタジアム近く)、サクムジとナンビタ(ヴィラカジ通り、ソウェト)、ワンディーズ・プレイス。高級ならマーブル(ローズバンク)。
タウンシップのシサ・ニャマは、精肉店で生肉を買ってその場で焼いてもらう形式です。もともとは精肉店が週末の売上を伸ばすために店先で肉を焼き始めた商売が起源で、そこから社交場に発展しました。
空腹で来て急かすのは無粋です。火を熾し、飲み、喋る。その全体がブライです。


08豆知識
シサ・ニャマは「精肉店の週末対策」から生まれた。生肉を買った客がその場で焼いて食べる形式は、店にとって肉と焼き代の二重収入になる。そこから全国的な外食業態に育ちました。
デズモンド・ツツは最初ブライ・デーに反対だった。「ヘリテージ・デーを軽薄にする」と退けましたが、2007年に広報役を引き受けています。
ロイヒルは外来種。オーストラリア原産(Acacia cyclops)で、南アでは駆除対象。それが最良のブライ用薪として売られているという皮肉な構図があります。
写真はすべて Wikimedia Commons より。各画像の作者とライセンスは以下のとおりです。
- 01/Braai.jpg / scarymonkeyshow / CC BY-SA 2.0
- 02/Fire at A braai.jpg / Thulani Godfrey Timba / CC BY-SA 4.0
- 03/Half Drum Braai.jpg / Ossewa / CC BY-SA 4.0
- 04/Grilled rack of lamb and boerewors.jpg / Olga Ernst / CC BY-SA 4.0
- 05/Braaing meet.jpg / Thulani Godfrey Timba / CC BY-SA 4.0
- 06/Braaistand.jpg / Lebogang Sentsho / CC BY-SA 4.0
- 07/Heidelberg Motor Show 2008 – braai.jpg / Ossewa / CC BY 4.0
- 08/Dijo tsa Basotho.jpg / Sekwankwetla / CC0
- 09/Grilling sosaties on an open fire in Aroab.jpg / Dumbassman / CC BY-SA 4.0
- 10/Coke-hoender.jpg / Ossewa / CC BY 4.0
- 11/Chicken braai.jpg / Ossewa / CC BY 4.0
- 12/Bush Braai.jpg / Ossewa / CC BY-SA 4.0
- 13/Follow the prompts if you are hungry.jpg / Bobbyshabangu / CC BY-SA 4.0



