世界の料理図鑑 南アフリカ
ビルトン
biltong ビルトン Biltong
ジャーキーは71度以上に加熱する。ビルトンは加熱しない。だから厚く切れる。
牛肉を塩と酢とコリアンダーで漬け、空気乾燥させただけの干し肉。南アフリカのつまみの王様です。
ひと口目は塩と酢の酸味。ジャーキーのような甘辛いタレの味はありません。すぐにコリアンダーの柑橘のような香りが来る。これがビルトンの決定的な香りの正体です。
ジャーキーとの決定的な違いは加熱の有無。ジャーキーは71度以上に加熱しますが、ビルトンは加熱せず空気乾燥のみ。だから厚切りが可能で、伝統的なビルトンには砂糖も硝酸塩も入りません。
- 国・地域
- 南アフリカ、ナミビア、ジンバブエ
- 分類
- 乾燥肉(非加熱)
- 相場
- R356〜1,053/kg(約3,530〜10,440円/kg)
- 主な材料
- 牛のトップランプまたはシルバーサイド、粗塩、赤ワインビネガー、ウスターソース、コリアンダーシード、黒胡椒
- 辛さ
- 基本は辛くない。チリ入りもある
- 食べる場所
- 全国のスーパーの精肉カウンター、街の精肉店
- ベスト時間
- ブライの火が起きるまでの待ち時間、ラグビー観戦、長距離ドライブ
- 一人前の目安
- 量り売り。100gから買える
- 食べ方
- 袋から手でつまむ。作法はとくにない
- 近い料理
- ドロエヴォース(乾燥ソーセージ)、ボッコムス(魚の塩乾燥品)
01一口目に来るもの
見た目は黒っぽく、表面に白いコリアンダーの粒が散っている。手に取るとずしりと重い。
ひと口目は塩と酢の酸味です。日本人がビーフジャーキーから連想する甘辛いタレの味は、ここにはありません。
すぐにコリアンダーの柑橘のような香りが来る。これがビルトンの決定的な香りです。次いで黒胡椒の刺激。
噛み進むと熟成牛肉の濃い旨みと、脂身(ゲールフェット=黄色い脂)のコクが出てきます。
食感は乾燥度で大きく変わる。ウェットはしっとりして噛み切りやすく生ハムに近い。ドライは硬く、噛むほど旨みが濃縮します。

02加熱しない、という一点
作り方を順に見ると、ビルトンがジャーキーとどう違うかがはっきりします。
肉:トップランプまたはシルバーサイド、脂のサシがあるもの、21日以上熟成。繊維に沿って約25〜30mm厚に切る。薄いと革のようになります。
塩:粗塩を肉重量の約6パーセント(2kgに120g)で3時間。その後洗わずに拭き取る。
酢のキュア:赤ワインビネガー、ウスターソース、蜂蜜に2時間浸し、途中2回返す。酢はボツリヌス菌の主要な抑制因子として働きます。
スパイス(2kgあたり):コリアンダーシード40g、フェンネルシード20g、チリフレーク4g、黒粒胡椒10g。胡椒以外は炒ってから粗挽き。
乾燥条件:約30度、湿度60パーセント未満、穏やかで一定の送風。


乾燥日数で三段階
仕上がりは重量減で決まります。
ウェット=重量減40〜50パーセント(4〜5日)。ミディアム=50〜60パーセント。ドライ=最大70パーセント。
失敗は三つ。カビ(送風不足・高湿度。生えたら即座に酢で拭く。湿度60パーセント以下を死守)。ケースハードニング(表面だけ固まり中が生。乾燥が速すぎる。真空パックして2〜3日冷蔵すると水分が再分配されて直る)。塩辛すぎ(細かい塩を使うと入りすぎる。粗塩を使う)。



第 二 章
肉 屋 の 棚
ショッピングモールのビルトン専門スタンド。干しソーセージも吊るして売る(南アフリカで撮影)
03鞍の下説は俗説
語源は中期オランダ語のbille(牛の尻・ランプ肉)+tonghe(細長い一片/舌)。
起源については二つの話が流通しています。
俗説:「オランダ人開拓者が馬の鞍の下に肉を挟み、馬の汗の塩で乾かしたのが始まり」。英語版ウィキペディアはこれを明確に「地元の伝承(local lore)」と位置づけています。
有力説:コイコイ(Khoikhoi)をはじめとする先住民が乾燥による肉の保存を先行して行っていて、ヨーロッパ人入植者がこれにオランダ東インド会社が持ち込んだ酢と香辛料を加えて改良した。歴史家はこちらを採ります。
19世紀のグレート・トレックで内陸に向かう際の携行食として重要になり、第二次ボーア戦争ではボーア側のコマンド部隊が野営地で頼りにし、第一次大戦の南ア兵には本国から送られました。


ジャーキーは加熱する。ビルトンは加熱しない。この一点が、厚さと食感のすべてを決めている
04種類を並べてみる
肉の種類と乾燥度で選びます。



05いくらで食べられるか
パック小分け品は量り売りの2〜3倍になります。安く買うならスーパーの精肉カウンターです。
06どこで買うか
全国のスーパー(Checkers、Pick n Pay、Woolworths、Makro)に専用コーナーがあります。精肉カウンター(butchery counter)の量り売りが最も安い。
ビルトン専門店・オンラインならビルトン・ボイチーズ、ザ・ファット・ブッチャー、キングズ・ミート・デリ、OMGビルトンなど。
ケープタウン、ヨハネスブルグ、ダーバンの街中の精肉店ならどこでも扱っています。特定の名店を1店に絞る性質の食品ではありません。
塊で買った場合は専用のビルトンカッターで薄く削ります。家庭に一台あることも珍しくありません。


07豆知識
イギリスは南アフリカ産ビルトンの輸入を禁止している。食肉製品の規制のためで、在英南アフリカ人にとって「本国から持ち込めないもの」の代表格になっています。
コリアンダーには防腐の役割もあるかもしれない。2017年のポルトガルの研究で、コリアンダー油が低濃度でも細菌の増殖を有意に抑制することが示されました。数百年前から経験的に使われてきた香辛料に、科学的裏付けが付いた例です。
世界記録は長さ48m、重量85kg。ナミビア・ウィントフックのビルトン・フェスティバルでの記録です。
写真はすべて Wikimedia Commons より。各画像の作者とライセンスは以下のとおりです。
- 01/BiltongUKDried.jpg / Jamsta at English Wikipedia / CC BY-SA 3.0
- 02/Silverside beef being cured in a vinegar and salt mix.jpg / Schalkb2 / CC BY-SA 4.0
- 03/Typical home made biltong in the making.jpg / Schalkb2 / CC BY-SA 4.0
- 04/BiltongUKOven.jpg / Jamsta at English Wikipedia / CC BY-SA 3.0
- 05/Typical homemade biltong.jpg / Schalkb2 / CC BY-SA 4.0
- 06/Sliced Biltong.jpg / Delia du Plessis / CC BY-SA 3.0
- 07/Biltong Somerset Mall.jpg / HelenOnline / CC BY-SA 3.0
- 08/BiltongStokkies.jpg / Jamsta at English Wikipedia / CC BY-SA 3.0
- 09/Biltong vendor.jpg / Ossewa / CC BY-SA 4.0
- 10/Bill Tong being weighed ready for sale in Africa.jpg / FrogsLegs71 / CC BY-SA 3.0
- 11/Biltong at butcher shop joburg sa 2.JPG / Sebastian von Kracht / CC BY-SA 3.0
- 12/Biltong for sale.jpg / Moongateclimber / Public domain
- 13/Geelvet Biltong at Dozi’s.jpg / Ossewa / CC BY 4.0



