バニーチャウ

世界の料理図鑑 南アフリカ

バニーチャウ

bunny chow バニーチャウ Bunny chow

ナイフとフォークで食べたら笑われる。上から壁を崩していくのが正しい進み方だ。

白い角食パンを四分の一に切り、断面から中身をくり抜いて、そこにカレーを注ぐ。ダーバン生まれのストリートフードです。

ひと口目はカレーの汁を吸ったパンの塩気と、白パンのほのかな甘み。直後にダーバン・カレー特有の攻撃的な辛さが来ます。ダーバンのカレーは南アの中でも際立って辛い。

食感の妙は部位ごとの差にあります。外側のパンは乾いてしっかり、内側に進むほどカレーを吸ってぐずぐずに崩れる。同じ一皿の中で食感が刻々と変わります。

国・地域
南アフリカ・ダーバン(クワズール・ナタール州)
分類
カレー+パン(ストリートフード)
相場
R60〜125(約595〜1,240円)
主な材料
白い角食パン、ダーバン・カレー(マトン、チキン、豆)、キャロット・サンバル
辛さ
かなり辛い。南アで最も辛い部類
食べる場所
ダーバンのウンビロ、CBD、チャッツワース
ベスト時間
昼。深夜のチップス・バニーは学生の定番
一人前の目安
初めてなら quarter(4分の1斤)が適量
食べ方
ナイフとフォークは厳禁。手で、上から壁を崩していく
近い料理
ダーバン・カレー(同じカレーを米で食べる形)

01一口目に来るもの

まず手が汚れることを覚悟してください。それが前提の料理です。

ひと口目はカレーの汁を吸ったパンの塩気と、白パンのほのかな甘み。パンとカレーの組み合わせ自体は珍しくありませんが、量が違う。

直後にダーバン・カレー特有の唐辛子の攻撃的な辛さが来ます。クミンとマサラの香りが鼻に抜け、辛さが目の奥に登ってくる。

マトンなら骨から出た脂と旨みが濃厚に絡みます。

食感の妙は部位ごとの差です。外側のパンは乾いてしっかり、内側に進むほどカレーを吸ってぐずぐずに崩れる。同じ一皿の中で食感が刻々と変わる。

バニーチャウ
ダーバンの有名なマトン・バニーチャウ。くり抜いたパンの縁までカレーが満ちる

02食べ方には順番がある

ナイフとフォークは厳禁です。地元では確実に笑われます。

手順はこうです。まず上に載った「ヴァージン」——くり抜いたパンの塊——を外し、カレーに浸して食べる。

次に外側のパンの壁を上から少しずつちぎり、中に落としながらカレーと一緒に食べる。

最後に、汁を吸い切った底のパンを食べる。「上から順に壁を崩していく」のが正しい進み方です。

添えられたキャロット・サンバルは辛さを中和する役割。

バニーチャウ
食パンをくり抜いた形。この「器」ごと食べる
バニーチャウ
サラダを添えた形。店によって付け合わせが違う

サイズの頼み方

quarter(4分の1斤)/ half(半斤)/ full(1斤) の3段階です。

「サイズ+具」を続けて言うのが現地の言い方。「a quarter mutton(クォーター・マトン)」で「4分の1斤のマトンバニー」を意味します。「バニーチャウください」とは言いません。

初めてならquarter が適量。half でもかなりの量、full は複数人向けです。

バニーチャウ
クローズアップ。パンの断面にカレーが染みている
バニーチャウ
チキンカレーのバニーチャウ。骨なしで食べやすい
バニーチャウ
ラムのバニーチャウにサンバルを添えて
バニーチャウ

第 二 章

ダ ー バ ン の カ レ ー

1860年代のインド人労働者が持ち込んだ食が、独自の形になった

031940年代に生まれた

背景として確実なのは、1860年代から英領ナタールにサトウキビ農園の年季奉公インド人労働者が大量に渡来したこと。その後、自費渡航の商人・職人層「パッセンジャー・インディアン」が続きました。ダーバンはインド系人口が集中する都市となり、独自の「ダーバン・カレー」が形成された。

バニーチャウ自体の成立は1940年代とするのが通説です。言語学者ラジェンド・メストリーは「第二次大戦後に生まれた可能性が高い」としています。

語源の最有力説は、北インドの商人カースト「bania(バニア)」+南ア英語スラング「chow(食べ物)」。ダーバンのグレイ通り(現ユスフ・ダドゥ通り)のテイクアウト店主に bania が多かったことに由来します。「bun+achar(ピクルス)の聞き間違い」説もありますが、ピクルスは標準的な具ではないためウィキペディアは「ありそうにない」と評価しています。

誕生の状況には複数説が併存し、どれも決定打がありません。①アパルトヘイト下で非白人が店内で食事できず、皿を返さなくて済む「食べられる器」としてパンが使われた ②ゴルフキャディが刃物を公然と持ち歩けなかったため片手で食べられる形にした ③サトウキビ労働者が短い休憩で食べるため、葉に包む従来法よりパンの器に切り替えた ④グレイ通りで1912年から1992年まで営業したG.C. カピタンが最初のベジタリアン「ビーンズ・バニー」を作った。

バニーチャウ
ダーバンのカレー市場。香辛料が山になっている
バニーチャウ
カレーとロティ。同じカレーをパンではなくロティで食べる形もある

バカにされたくないなら、ナイフとフォークで食べるな。旅行誌がバニーチャウについて書いた一行

04種類を並べてみる

中身で名前が変わります。元祖は肉ではなく豆です。

名前特徴食べ方
マトン・バニー王道にして最高峰。骨付き羊肉。最も高価「a quarter mutton」と注文。骨は皿に置く
ビーンズ・バニー(豆)元祖・ベジタリアン。シュガービーンズやソラマメ。最も安い純粋主義者はこれを選ぶ
チキン・バニー骨なしで食べやすく初心者向け手が汚れにくい
プロウン(海老)バニー高級枠。海沿いの店の看板最も高価な部類
ケバブ/ミンチ・バニーひき肉やケバブを詰めた現代版均質で食べやすい
チップス・バニーフライドポテトとカレーグレービー最安の学生食。深夜帯の定番
バニーチャウ
ラムとジャガイモのバニーチャウに人参のサラダを添えて(英国ブライトンの店で撮影)
バニーチャウ
エビ入りの辛さ控えめのダーバン・カレー(英国ブライトンの店で撮影)

05いくらで食べられるか

古い記事の価格は使えません。2026年の実勢は、数年前の記事の約2倍です。

バニーチャウの相場(2026年時点の目安)価格
¼ ビーンズ/¼ ベジR60/約595円
¼ ビーフ/¼ ミンチ/¼ ケバブR90/約890円
¼ チキンR95/約940円
¼ マトンR109/約1,080円
¼ プロウン(海老)R125/約1,240円

06どこで食べるか

ダーバン(本場):グーンデンズ(520 Umbilo Rd, Umbilo)は40年続く家族経営で、マトンバニーの代表格。もとはガソリンスタンドの食堂でした。

パテルズ・ベジタリアン・リフレッシュメント・ルーム(202 Dr Yusuf Dadoo Street, CBD)は1932年創業。豆バニーの名店です。

ブリタニア・ホテル/カプシカム(ウムゲニ川南岸)は14種類のバニーを揃えています。ほかにヴィクトリー・ラウンジ(チャッツワース/ウムランガ)、オリエンタル(99 Samora Machel Street)、ハウス・オブ・カリーズ(ブルー・ラグーン)、ケイン・カッターズ(グレンウッド)。

ケープタウン:ヴァンディアーズ・オン・ダンクリー・スクエア。ヨハネスブルグはダーバンほどの集積はありません。かつてカピタンの支店があり、ネルソン・マンデラが常連だったことで知られています。

バニーチャウ
1911年のナタール州案内書に載った、木立と道のある丘陵地の風景
バニーチャウ
ダーバン・カレーのソースを絡めた手羽焼き(英国ブライトンの店で撮影)

07豆知識

元祖は肉ではなく豆のベジタリアンだった。肉入りが定着したのはその約10年後です。「本物を食べるならビーンズ・バニー」と言う純粋主義者は今も多い。

くり抜いたパンの塊には「virgin(処女)」という名前がある。まだカレーに触れていないから、という理由。これをカレーに浸すところから食べ始めます。

インド発祥の料理でありながら、インド本国にはほぼ存在しない。ダーバンで独自に生まれた「南アフリカのインド料理」です。

為替レート:1南アフリカ・ランド=約9.9円で換算しています(2026年時点)。数年前の記事の価格は現在の約半額なので、必ず最新の価格をご確認ください。

写真はすべて Wikimedia Commons より。各画像の作者とライセンスは以下のとおりです。