男鹿しょっつる焼きそば。男鹿水族館GAOの冷凍自販機で売られているものを温めた一皿
日本 / 秋田県・男鹿半島

しょっつる

Shottsuru · 塩汁

原料はハタハタと天日塩、それだけ

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ハタハタと塩で、三年。

秋田の魚醤である。ハタハタなどの魚に塩をして、一年以上寝かせる。長いものは三年。魚が溶けきったところを漉して、上澄みを取る。

名前は秋田弁の「塩汁(しおつゆ)」が訛ったもの。秋田では「汁」を「つる」と発音する。農林水産省の説明は率直だ。「醤油が高級品であった時代に醤油の代わりの調味料として編み出された」。

ナンプラーと飲み比べた人は、しょっつるのほうが「後を引く」と書いている。

ハタハタ100% 130g 2,160円秋田・男鹿半島冬はしょっつる鍋

30秒でわかる、この料理

なにか
魚を塩で漬けて一年以上発酵させ、漉して取る秋田の調味料
味
塩気と魚の旨み。ナンプラーより後を引き、色は淡い
原料
ハタハタと塩。ハタハタが減った時代からはイワシ・アジ・サバも使う
使い道
しょっつる鍋、貝殻を鍋にするかやき、男鹿の焼きそば
値段
130gで1,080円(イワシ・アジ)から2,160円(ハタハタ100%)

図鑑データ

国・地域
日本。秋田県、特に男鹿半島周辺
分類
魚醤。魚を塩漬けして長期発酵させた調味料
相場
ハタハタ100%の130gで2,160円、イワシ・アジのもので1,080円
主な材料
ハタハタ(またはイワシ・アジ・サバ)、塩
熟成
一年以上。長いものは三年
塩分
諸井醸造の業務用(1リットル)で約25%
辛さ
辛くない。塩気と魚の旨みが主役
色
ほかの魚醤より比較的淡い
食べる場所
秋田県内の食堂・旅館、諸井醸造などの通販
ベスト時間
冬。しょっつる鍋の季節
一人前の目安
調味料。鍋一つに大さじ数杯
食べ方
しょっつる鍋、かやき、焼きそば、炒め物、汁物の隠し味
近い料理
ナンプラー、ニョクマム、いしる、いかなご醤油
1

瓶を見る

魚醤の瓶。左が秋田のしょっつる(ハタハタ100%)、右が能登のいしる
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左が秋田のしょっつる、右が能登のいしる。並べると色の差がよく分かる(2007年撮影)

1
しょっつるの瓶秋田しょっつる日本三大魚醤のひとつ。秋田で造られる
2
淡い色ほかの魚醤より色が淡い。料理に入れても濁らない
3
ハタハタ100%原料がハタハタだけの製品。イワシ・アジを使うものより値段が倍高い
4
いしるの瓶能登・いしる能登の魚醤。イワシやイカの内臓で造る
5
濃い色いしるは色が濃い。魚の匂いも三つの中でいちばん強い
2

一口目に来るもの

味

塩気の奥に、後を引く旨み

瓶から小皿に一滴垂らして、そのまま舐める人はまずいない。料理に入れて完成する調味料だ。それでも味の輪郭ははっきりしている。ナンプラーと食べ比べた記録にはこうある。「うまい。First Biteはナンプラーとそんなに変わらないものの、こっちの方が後を引く旨味成分、ねばつく魚風味の塩辛さがある」。結論は「ナンプラーで十分代用可能だが、しょっつるが入手できればしょっつるでつくった方がうまい」。

香り

濃厚で、少しクセがある

別の説明では「濃厚な味わい」「豊かな香りだけでなく、強い旨味」「少しクセのある風味」とされる。ナンプラーより発酵期間が長いぶん、まろやかで、塩味は強めだという。

色

魚醤のなかでは淡い

ほかの魚醤と比べると、色が比較的淡い。だから料理に入れても色が濁らず、使いやすい。醤油の代わりに生まれた調味料が、いまは醤油にはできない仕事をしている。

タイのスーパーに並ぶ魚醤ナンプラー(写真はナンプラー。タイで撮影)
タイの魚醤ナンプラー。しょっつるはこれと同じ魚醤の仲間(写真はナンプラー。タイのスーパーで2006年撮影)
容器に入った男鹿しょっつる焼きそば(別の一皿。男鹿水族館GAOの自販機のもの)
男鹿しょっつる焼きそば。男鹿水族館GAOの自販機で売られているもの(2026年撮影)
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どう造る

ハタハタ。しょっつるの主原料1
魚に塩をまぶす

ハタハタなどの魚に、重さの30〜40パーセントの食塩を直接まぶす。仕込みはそれだけ。

諸井醸造は「ハタハタと天日塩、ただそれのみ」を掲げる
2常温で寝かせる

冷やさずに、常温で置く。期間は一年以上、おおむね一年から二年。

塩分が非常に高いので腐敗菌が繁殖しない。だから冷蔵庫がなくても何年も置ける
3ときどき混ぜる

定期的にかき混ぜて、腐造を防ぐ。

冷蔵庫のなかった時代の技術が、そのまま残っている
4溶けたら漉す

魚が溶けきったら漉して、旨みの部分を取り出す。諸井醸造はこれを三年熟成させる。1リットルの業務用で、塩分濃度は約25パーセント。

さらに十年寝かせた「十年熟仙」もある。こちらは年間500本の限定
ハタハタ(またはイワシ・アジ・サバ)食塩(魚の30〜40%)時間(一年から三年)
4

なぜ、秋田で造られているか

江戸時代初期

醤油の代わりに

このころから造られていたはずの調味料。醤油が高級品だった時代の代用品だった。

1894年

公式の記録から抜ける

農商務省の『日本水産製品誌』には、なぜかしょっつるの記述がない。

1966→1978年

21,000トンから約3,500トンへ

1966年に21,000トンあったハタハタの漁獲量が、1978年には約3,500トンになる。

1991年

71トン、そして禁漁

漁獲は1966年の三百分の一まで落ちた。秋田県は約三年間の全面禁漁を決める。

1995年

解禁と、厳しい決まり

総資源量の半分しか捕らない。15センチ以下は獲らない。この二つを守って漁を再開し、約3,000トンまで戻した。

しょっつるの原料は、この魚の浮き沈みに振り回された。ハタハタが獲れない間は、原料を変えるしかない。いまはアジ、イワシ、サバも使われる。

魚が戻ってきたことで、ハタハタ100パーセントの製品も再び作られるようになった。三年間の全面禁漁という決断は、ハタハタとしょっつるの両方を救ったことになる。資源管理の成功例として、いまも引き合いに出される話だ。

男鹿水族館の水槽を泳ぐハタハタ
男鹿水族館の水槽を泳ぐハタハタ(2014年撮影)
ハタハタとエゾハタハタの液浸標本(男鹿水族館)
ハタハタとエゾハタハタの液浸標本(男鹿水族館で2014年撮影)
水族館で飼育されるハタハタ(新潟・上越市立水族博物館で撮影)
水族館で飼育されるハタハタ(新潟・上越市立水族博物館で2020年撮影)
ハタハタの干物
ハタハタの干物(2015年撮影)

漁獲量と禁漁の経緯は、ミツカン水の文化センターの資料などによる。江戸時代初期から造られていたという話は、1894年の公的な記録では確かめられない。

5

日本三大魚醤

日本には代表的な魚醤が三つある。秋田のしょっつる、能登のいしる(いしり)、香川のいかなご醤油だ。

しょっつる(秋田)いしる(能登)いかなご醤油(香川)
原料ハタハタ、イワシ、アジイワシ、イカの内臓イカナゴ
魚臭さ中強弱
塩辛さ弱中強
色比較的淡い濃い—

魚醤マニアの比較では、魚臭さは いしる>しょっつる>いかなご醤油、塩辛さは いかなご醤油>いしる>しょっつる の順になる。しょっつるは三つの中では比較的おとなしく、初めて魚醤を使うなら入りやすい。いしるは「香りは個性的ですが、慣れると普通の醤油代わりに使える」と評される。いかなご醤油は一度衰退し、近年復活した。世界に目を向ければ、タイのナンプラー、ベトナムのニョクマム、さらに遡れば古代ローマのガルムがある。ウスターソースもその系譜に連なるという説明もある。魚を塩で溶かして旨みを取り出す発想は、驚くほど広く共有されている。

6

しょっつる鍋と、かやきと

秋田では、しょっつるはまず鍋の味になる。

  • 1
    しょっつる鍋昆布出汁に味噌・みりん・酒・しょっつるで味をつけ、頭と尾と内臓を除いたハタハタと野菜を煮て、蒸らす。白菜、豆腐、ねぎ。これが秋田の冬の食卓だ。土鍋で仕立てる。
  • 2
    かやき(貝焼き)大きなホタテの貝殻を鍋の代わりにして、小さな七輪にかける一人鍋。しょっつるで味をつけたものを「しょっつるかやき」と呼ぶ。器がそのまま鍋になる。
  • 3
    男鹿しょっつる焼きそば現代の使い方の代表。男鹿のご当地グルメとして定着した。
  • 4
    ナンプラーの代わりにラーメンやうどんの汁、炒め物、チャーハン、ドレッシング。ナンプラーを使うところに、そのまま置き換えられる。
鍋の中の、火を通したハタハタ
鍋の中の、火を通したハタハタ(2007年撮影)
土鍋で仕立てた鍋料理(写真は関西風の鍋で、しょっつる鍋ではない)
土鍋で仕立てた鍋料理(写真は関西風の鍋で、しょっつる鍋ではない)
卓上コンロにかけたひとり鍋(写真は鴨鍋で、しょっつる鍋ではない)
卓上コンロにかけたひとり鍋(写真は鴨鍋。2009年撮影)
小鍋の中身。練り物、野菜、豆腐(写真は一般の鍋料理)
小鍋の中身。練り物、野菜、豆腐(写真は一般の鍋料理。2009年撮影)
7

雷の魚と、なまはげの半島

男鹿半島は、なまはげの土地である。同じ半島の海が、ハタハタを産む。

名前

雷の古語から

ハタハタは秋田の県魚。名前の由来は雷の古語「霹靂神(はたたがみ)」だとされる。ふだんは水深500メートルの深海にいて、産卵期に荒天で雷鳴が轟くころだけ岸へ寄ってくるからだ。

行事

大晦日のなまはげ

大晦日の晩、藁をまとい面をつけた者が家々を回り、怠け者を戒める。ユネスコ無形文化遺産にも登録された行事だ。

季節

すべてが冬に重なる

雷が鳴るころに魚が寄る。なまはげが来るのも冬。しょっつる鍋を囲むのも冬。この土地の冬は、そういうふうにできている。

男鹿半島・加茂の港
男鹿半島・加茂の港(2008年撮影)
藁をまとったなまはげの像(男鹿・なまはげ館)
藁をまとったなまはげの像(男鹿・なまはげ館で2010年撮影)
なまはげの赤い面
なまはげの赤い面(2020年撮影)
なまはげ柴灯まつりのなまはげたち(男鹿)
なまはげ柴灯まつりのなまはげたち(男鹿で2016年撮影)
秋田マリーナから見た男鹿半島の夕景
秋田マリーナから見た男鹿半島の夕景(2017年撮影)
男鹿半島の北東側の海岸。男鹿市中浜付近から北浦方面を望む
男鹿半島の北東側の海岸。男鹿市中浜付近から北浦方面を望む(2020年撮影)
8

買う前に、食べに行く前に

注文のことば

しょっつる(塩汁)しおつゆが訛った呼び名/秋田では「汁」を「つる」と読む
しょっつる鍋ハタハタと野菜の鍋/冬の食堂や旅館で
しょっつるかやきホタテの貝殻で煮る一人鍋
男鹿しょっつる焼きそば男鹿のご当地焼きそば
ハタハタ100%原材料表示で探すことば/原料がハタハタだけの製品

秋田県内の食堂や旅館なら、冬にしょっつる鍋を出す店がある。男鹿へ行くなら、なまはげと一緒に味わうのが順当な組み立てだろう。男鹿水族館GAOではハタハタの生きた姿が見られる。土産物屋にはなまはげの面が並び、食堂にはしょっつる焼きそばがある。半日あれば、この記事に書いたことのだいたいは実物で確認できる。瓶で買うなら、諸井醸造などの通販もある。

値段と覚え書き

秋田しょっつる ハタハタ100%(130g)2,160円税込
秋田しょっつる イワシ・アジ(130g)1,080円税込
魚(トト)ミー 130g/360ml497円/832円
ノドグロ魚醤/タイ魚醤(各130g)2,160円
十年熟仙 200ml7,560円年間500本限定
  • 同じ130gでも、ハタハタ100%とイワシ・アジでは値段がちょうど倍。買うときは原材料表示を確かめる

価格・在庫は2026年8月時点の目安。諸井醸造の公式ショップの価格による。価格は変わるので、購入の際に必ず確認を。

参照資料

写真の出典(19枚)

写真は原典のライセンス(CC BY/CC BY-SA)に従って掲載しています。作者名・ライセンス・原典リンクを1枚ずつ表示しています。しょっつるの仕込み(樽・熟成)を写した自由に使える写真が見つからないため、原料のハタハタ、産地の風景、ほかの魚醤や一般の鍋料理の写真で補い、説明にその旨を書いています。旧版の写真はすべて使い、外したものはありません。

  • 男鹿しょっつる焼きそば。男鹿水族館GAOの冷凍自販機で売られているものを温めた一皿|KQuhen/CC BY-SA 4.0/2026年撮影(原典)
  • 魚醤の瓶。左が秋田のしょっつる(ハタハタ100%)、右が能登のいしる|日: Jnn/CC BY 2.1 jp/2007年撮影(原典)
  • タイのスーパーに並ぶ魚醤ナンプラー(写真はナンプラー。タイで撮影)|Heinrich Damm ( User:Hdamm , Hdamm at German Wikipedia )/CC BY 2.0/2006年撮影(原典)
  • 容器に入った男鹿しょっつる焼きそば(別の一皿。男鹿水族館GAOの自販機のもの)|KQuhen/CC BY-SA 4.0/2026年撮影(原典)
  • ハタハタ。しょっつるの主原料|でんぜろ from Japan./CC BY 2.1 jp/2009年撮影(原典)
  • 男鹿水族館の水槽を泳ぐハタハタ|https://www.flickr.com/photos/nakashi//CC BY-SA 2.0/2014年撮影(原典)
  • ハタハタとエゾハタハタの液浸標本(男鹿水族館)|https://www.flickr.com/photos/nakashi//CC BY-SA 2.0/2014年撮影(原典)
  • 水族館で飼育されるハタハタ(新潟・上越市立水族博物館で撮影)|Totti/CC BY-SA 4.0/2020年撮影(原典)
  • ハタハタの干物|Togabi/CC BY-SA 4.0/2015年撮影(原典)
  • 鍋の中の、火を通したハタハタ|https://www.flickr.com/photos/28764853@N00//CC BY-SA 2.0/2007年撮影(原典)
  • 土鍋で仕立てた鍋料理(写真は関西風の鍋で、しょっつる鍋ではない)|User:Toki-ho and User:Ananda/CC BY-SA 3.0(原典)
  • 卓上コンロにかけたひとり鍋(写真は鴨鍋で、しょっつる鍋ではない)|Nullumayulife/CC BY 2.0/2009年撮影(原典)
  • 小鍋の中身。練り物、野菜、豆腐(写真は一般の鍋料理)|Social Geek/CC BY 2.0/2009年撮影(原典)
  • 藁をまとったなまはげの像(男鹿・なまはげ館)|Douglas P Perkins ( Douglaspperkins ( talk ))/CC BY 3.0/2010年撮影(原典)
  • なまはげの赤い面|掬茶/CC BY-SA 4.0/2020年撮影(原典)
  • なまはげ柴灯まつりのなまはげたち(男鹿)|KQuhen/CC BY-SA 4.0/2016年撮影(原典)
  • 秋田マリーナから見た男鹿半島の夕景|掬茶/CC BY-SA 4.0/2017年撮影(原典)
  • 男鹿半島の北東側の海岸。男鹿市中浜付近から北浦方面を望む|掬茶/CC BY-SA 4.0/2020年撮影(原典)
  • 男鹿半島・加茂の港|Chensiyuan/CC BY-SA 4.0/2008年撮影(原典)