世界の料理図鑑 イラン
ジュージェ・キャバブ
جوجه کباب ジュージェ・キャバブ Joojeh Kabab
ヨーグルトとレモンとサフランに一晩。焼くと驚くほど柔らかい、イラン入門編のキャバブ。
キャバブ屋のメニューは、たいてい4〜5行しかありません。挽き肉のクビーデ、薄切り肉のバルグ、そして鶏のジュージェ。
初めてイランに来た人に一つ選べと言われたら、ジュージェを勧めます。羊の脂が重い日でも、これなら入る。
皿に載って出てくるのは鮮やかな黄色い鶏です。ターメリックではありません。サフランです。
- 国・地域
- イラン全土。イスファハンでは広場周辺の食堂に集中
- 分類
- 肉料理(鶏の炭火焼き)
- 相場
- 20万〜30万トマーン(約700〜1,050円)
- 主な材料
- 鶏もも肉かむね肉、すりおろし玉ねぎ、レモン汁、ヨーグルト、サフラン、塩、こしょう
- 辛さ
- 辛くない。酸味とサフランの香り
- 食べる場所
- キャバブ専門食堂(キャバービー)。バザールの中
- ベスト時間
- 昼。焼き上がりは数分
- 一人前
- 串1〜2本+サフランライス。かなりの量
- 支払い
- 現金かイラン国内デビットカード。国際クレジットカードは使えない
- 所要
- 注文から5〜10分
01一口目に来るもの
皿が置かれた瞬間にサフランの香りが立ちます。花のような、少し薬っぽい、あの匂い。
次に炭の香ばしさ。串を網ではなく炭の上に直接渡して焼くので、煙が肉に入る。
噛むと、想像よりずっと柔らかい。鶏むね肉でもぱさつかない。ヨーグルトとレモンに漬けてあるからです。
最後にレモンの酸味が来る。マリネの酸が肉の中まで入っているので、噛むたびに酸っぱさが戻ってきます。

02柔らかさの正体はヨーグルト
マリネの中身は、すりおろした玉ねぎ、レモン汁、ヨーグルト、湯で戻したサフラン、塩、こしょう。店によってはにんにくやターメリックも入ります。
柔らかくなる理由は二つ。ヨーグルトの乳酸とレモンのクエン酸が肉のたんぱく質をほどき、玉ねぎの酵素が繊維を切る。
漬け込み時間は3時間から24時間と店ごとに違います。イラン学百科事典によれば、ヨーグルト+サフラン+玉ねぎで漬ける系統の串焼きは2〜48時間漬けるとされます。
サフランはすりつぶして熱湯で戻す。そのまま振りかけても色は出ません。この一手間で肉が黄色くなる。


鶏だから、燃料が少なくて済む
ジュージェが日常的に食べられている理由は、火の通りが速いからです。
羊の塊肉は時間がかかる。鶏なら数分で焼き上がる。炭の量が少なくて済み、注文から提供までも早い。
「ジュージェ(جوجه)」はペルシャ語でヒヨコ・若鶏の意味です。実際には成鶏を使う店がほとんどですが、名前は残っている。
つまりこれも制約から生まれた料理です。安く、速く、誰でも焼ける。クビーデが「硬い肉をどう食べるか」への答えなら、ジュージェは「どうやって早く出すか」への答えです。



第 一 章
串を炭に「渡す」
灰の上に並べられた串。イランのキャバブは網を使わない
03チェロ・キャバブという形式
サフランライス(チェロ)に串焼きを載せる、この形式をチェロ・キャバブといいます。イラン料理の中心にある形です。
意外なことに、この形式はそれほど古くありません。サファヴィー朝時代(1500〜1736年)にイランを訪れた欧州人の旅行記には、炊き込みご飯や煮込みの記述はあっても、いまのチェロ・キャバブは出てきません。
直接の起源とされるのは19世紀後半、ガージャール朝のナーセロッディーン・シャーがロシア・コーカサス訪問で気に入った串焼き料理を持ち帰らせたこと。
だから「何千年も続く伝統料理」ではない。150年ほどの歴史で、これだけ国民食になったということです。

04食べ方の作法
皿の上には必ず焼きトマトが載っています。これを崩してライスに混ぜる。トマトの酸味と水分が、乾いたライスと肉のあいだをつなぐ。
卓上のスマック(赤茶色の粉)を振ると、味が締まります。ウルシ科の実を挽いたもので、レモンより渋い酸味がある。
タブリーズ発祥とされる古い食べ方に、熱いライスに生卵の黄身を落とすというものがあります。ご飯の熱で半熟にして混ぜる。いまは必須ではなく、好きな人がやる。
添えられるのは生バジル、生玉ねぎ、ドゥーグ。玉ねぎは一片かじってから肉を食べる。脂と酸のバランスを取るためです。

羊が重い日でも、ジュージェなら入る。イランのキャバブの入門編です。イスファハンのキャバブ食堂にて
05どこで食べられるか
イスファハンなら、ナクシェ・ジャハーン広場周辺に集中しています。ナマクダーン・マンション(オスタンダリー通り)は広場のすぐ近くで、伝統料理とキャバブを出す。
シャフルザード・レストラン(チャハールバーグ・アッバースィー通り)は50〜60年の歴史がある老舗で、鏡細工の内装で知られています。
広場に面したサファヴィー朝時代の建物の中にもナグシェ・ジャハーン・レストランが入っています。観光の合間に寄りやすい。
支払いに注意。国際クレジットカードは使えません。現金か、旅行者向けに発行されるイラン国内デビットカードを用意してください。
06似ている料理
トルコのタヴック・シシが最も近い。ヨーグルト・にんにく・レモンで漬ける点が共通していますが、サフランは使いません。
中央アジアやウイグルの鶏串はクミンと唐辛子が主体で、酸味とヨーグルトの要素が薄い。方向が違います。
日本の焼き鳥は炭火の串焼きという点で同じ。ただしタレは醤油とみりんで、サフランのような花の香りはない。
日本人にとってはタンドリーチキンがいちばん近い感覚かもしれません。ヨーグルトに漬けて色をつけて焼く、という構造が同じです。
07豆知識
・「ジュージェ」はヒヨコ・若鶏の意味。実際は成鶏を使うことが多い。
・クビーデ+バルグの盛り合わせはソルターニー(王様風)。そこにジュージェを足すとシャー・アッバースィーと呼ばれます。イスファハンの広場を築いた王の名です。
・生卵の黄身をライスに落とす食べ方はタブリーズ発祥とされる北西イランの習慣。
・スマックはイラン原産の酸味果実の粉末。レモンに似た酸味に、少し燻したような香りがある。
・味つけが穏やかなので、外国人観光客にいちばん勧められるキャバブとして紹介されることが多い。
写真はすべて Wikimedia Commons より。各画像の作者とライセンスは以下のとおりです。
- 01/Jujeh Kabob.JPG / Fl4812a / CC BY-SA 4.0
- 02/CSIRO ScienceImage 2450 Chicken kebabs on the BBQ.jpg / Publishing, CSIRO / CC BY 3.0
- 03/Jujeh Kebab-2.JPG / Mehdi / CC BY-SA 3.0
- 04/Jujeh Kebab and fire.JPG / Mehdi / CC BY-SA 3.0
- 05/Jujeh Kebab-3.JPG / Mehdi / CC BY-SA 3.0
- 06/Joojeh-kabab.JPG / Nasser-sadeghi / CC BY-SA 4.0
- 07/Jujeh kebab -Baliran.JPG / Mehdi / CC BY-SA 3.0
- 08/Jujeh Kabab by Taha.7.13.jpg / طاها حجتی / CC BY-SA 4.0
- 09/Jujeh Kebab – AliKia.JPG / Mehdi / CC BY-SA 3.0
価格は2026年8月時点のイスファハン周辺の相場の目安です。






