グラスに注いで乾燥ミントを浮かべたドゥーグ

世界の料理図鑑 イラン

ドゥーグ

دوغ ドゥーグ Doogh

甘くない。塩とミントとヨーグルト。脂の多いイラン料理を、これが一杯で切ってくれる。

キャバブを頼むと、聞かれもせずに白い飲み物が一緒に出てくることがあります。

見た目は飲むヨーグルト。日本人はたいてい甘いものを想像して口をつけ、そこで止まります。しょっぱい。

これがドゥーグ(دوغ)です。塩味の発酵乳飲料で、イランの食卓では水やコーラより自然な選択肢。脂の多いイラン料理を切るために存在します。

国・地域
イラン全土。周辺国にも類似の飲料
分類
飲料(発酵乳・塩味)
相場
4万〜8万トマーン(約140〜280円)/瓶入り1L 約2万トマーン(約68円)
主な材料
ヨーグルト(または発酵前のバターミルク)、水、塩、乾燥ミント
アルコール度数
ごく微量。ソフトドリンク扱い
炭酸
炭酸入り(ガズダール)と無炭酸の両方がある
飲む場所
食堂、レストラン、スーパー
ベスト時間
食事中。脂の多い料理と一緒に
支払い
現金かイラン国内デビットカード
注意
甘くない。最初の一口で驚く人が多い

01一口目に来るもの

最初に来るのはミントの清涼感です。乾燥ミントが浮いていて、鼻から抜ける。

次が塩気。ここで日本人はだいたい止まります。飲むヨーグルトの見た目で塩味が来る、という組み合わせが頭にないからです。

その後ろからヨーグルトの酸味。強くはない。全体としてはあっさりしています。

炭酸入りのものはシュワッとした喉ごしが加わる。とろみは弱く、トルコのアイランよりさらっとしている、と比較されます。

ドゥーグ
銅のカップに注いで泡を立てたアイラン(トルコ・イスタンブールで撮影)

02脂を切るための飲み物

ドゥーグが食卓に常駐している理由はイラン料理の脂の多さです。

羊肉のキャバブ、羊の尾脂で煮たディジー、バターを効かせたサフランライス。どれも脂と塩気が強い。

そこに酸と塩を含んだ冷たい発酵乳を入れる。口の中がリセットされて、次の一口が入る。ワインの代わりだと思えばわかりやすい。

実際、ディジーとドゥーグ、クビーデとドゥーグという組み合わせは、イランではほぼ固定の作法になっています。

ドゥーグ
乾燥ミントをたっぷり浮かせたドゥーグ(トルコ・アンカラのイラン系料理店で撮影)
ドゥーグ
ミントを浮かべた「イラン風アイラン」(トルコで撮影)

作り方は「薄めるだけ」ではない

家庭での作り方の一例は、牛乳とプレーンヨーグルトを15:1程度で混ぜて弱火で温め、塩を加えて密閉し、暖かい場所で3〜4日発酵させるというもの。

発酵期間が長いほど酸味も塩味も強くなります。地域によっては、かなり長く発酵させたものを好む。

工業製品はヨーグルトと水と塩を混ぜ、ミントやカクーティー(イランのオレゴノ系ハーブ)、ときにダマスクローズの花弁で香りをつけます。

イランの国家標準(INSO)は、ドゥーグを「乳酸発酵による飲料」と定義しています。トルコのアイランが「ヨーグルトを希釈しただけ」とされるのに対し、本来は発酵の工程を経るのが違いです。

ドゥーグ
材料。ヨーグルトとミント(写真の製品は国外メーカーのもの)
ドゥーグ
工業生産の工程を示した図。写真ではなく図解です
ドゥーグ
店頭に並ぶペットボトル入りの乳飲料
ドゥーグ

第 一 章

缶で買う、瓶で買う

イランの市販のドゥーグ(カシュカイ印)のボトル

03どこで買えるか、いくらか

銘柄でよく見かけるのが「آبعلی(アーバアリー)」。ザムザム社のブランドで、1938年創業とされます。名前はテヘラン近郊の避暑地アーバアリーの炭酸水に由来する。

ガス入り・ガスなし、ミント/プレニーミント/カクーティー風味、300cc・1500cc・瓶入り284ccなど、展開が細かい。

価格の実例として、アーバアリーの1Lボトルが19,500トマーン(約68円)、1.5Lボトルが27,000トマーン程度という報道があります。スーパーで買えばかなり安い。

食堂で頼むと4万〜8万トマーン(約140〜280円)あたり。それでも料理代に比べれば誤差の範囲です。

ドゥーグ
ジョッキに注いだ泡立つアイラン(トルコ・イスタンブールで撮影)
ドゥーグ
泡のアップ。炭酸入りはこの層が厚くなる
飲み物国甘さ特徴
ドゥーグイランなし(塩味)乳酸発酵。ミントやカクーティー
アイラントルコなし(塩味)ヨーグルトを希釈。ややとろみが強い
ラッシー(塩味)インドなしスパイスを効かせることも
タンブルガリアなし(塩味)同系統の発酵乳飲料
甘酒日本甘い米麹の発酵。方向が正反対

041000年以上前から記録がある

語源は「乳を搾る」を意味するペルシア語の動詞ドゥーシーダン(دوشیدن)にさかのぼるとされます。

古代ペルシア語、パフラヴィー語、バローチー語、パシュトー語、さらにサンスクリット語にも同系の語があり、印欧語族まで遡るという説がある。

アヴェスター(ゾロアスター教の聖典)にすでにこの語が現れ、当時は「乳」そのもの、あるいは搾乳の産物を指していたとされます。

イブン・スィーナー(アヴィセンナ)の『医学典範』にも登場します。飲み物としてだけでなく、医療の文脈でも記録が残っている。

ドゥーグ
遊牧の暮らしを写した古い写真(モノクロの記録写真です)。乳製品は移動生活の中心にあった
ドゥーグ
ドゥーグを使った料理も多い。写真はハーブの団子を浮かべた一品

甘い飲むヨーグルトだと思って口をつけると、必ず一度止まります。しょっぱいので。イスファハンの食堂にて

イランでの相場(2026年8月時点の目安)価格
食堂・レストランの1杯4万〜8万トマーン/約140〜280円
瓶入り1L(アーバアリー)19,500トマーン/約68円
瓶入り1.5L27,000トマーン前後/約95円
チャイ(比較・食後)2万トマーン前後/約70円
ジュージェ・キャバブ(比較)20万〜30万トマーン/約700〜1,050円

05イスファハンでの飲み方

イスファハンには独特の組み合わせがあります。揚げ菓子のゴーシュフィール(گوش فیل/象の耳)と一緒に飲む、というもの。

甘い揚げ菓子に塩味の発酵乳。日本人の感覚だと妙な取り合わせに聞こえますが、塩キャラメルや塩あんこを想像すれば近い。

イランには「昼にドゥーグを飲むと眠くなる」という俗説もあります。職場や学校の昼食で飲むのはよくない、というジョークとして語られる。出典のはっきりしない言い伝えです。

氷を入れてキンキンに冷やして飲むのが基本。夏のイスファハンでは、これが一番ありがたい。

ドゥーグ
「AYRAN」と書かれた道端の売店(アゼルバイジャンで撮影)
ドゥーグ
トルコのアイランの製品(欧州向けパッケージ)。名前も味も近い

06似ている飲み物

トルコのアイランが最も近い。ヨーグルトを希釈しただけとされ、ドゥーグよりややとろみが強い。

インドの塩ラッシーも同系統。ただしラッシーは甘口やフルーツ入りのバリエーションが豊富で、性格が違います。

ブルガリアのタンも塩味の発酵乳飲料です。アフガニスタン、アゼルバイジャン、アルメニア、イラク、シリア、バルカン諸国にも類似の飲料がある。

日本の飲むヨーグルトは加糖・果汁系が主流で、方向が正反対。強いていえば塩気のある甘酒のようなものを想像するといいかもしれません。

07豆知識

・語源は「乳搾り」という動詞。印欧語族まで遡る古い言葉とされます。

・アヴィセンナの医学書に登場するなど、医療の文脈でも記録があります。

・イスファハンでは揚げ菓子ゴーシュフィールとのペアリングが名物とされます。

・「アーバアリー」はテヘラン近郊の避暑地の名前。その地の炭酸水にちなんだブランド名です。

・トルコのアイランとの違いは「発酵の工程を経るかどうか」——ただし現代の工業製品では希釈型も広く流通しています。

為替レート:1万トマーン=約35円で換算しています(2026年8月時点)。イランの通貨は変動が非常に大きく、公定レートと市中レートも乖離します。ここに載せた価格は複数年の報道をもとにした目安です。現地で必ずご確認ください。渡航前に外務省の海外安全情報を必ずご確認ください。

写真はすべて Wikimedia Commons より。各画像の作者とライセンスは以下のとおりです。

価格は2026年8月時点のイスファハン周辺の相場の目安です。