ホヤ

世界の料理図鑑 日本

ホヤ

海鞘・マボヤ ほや Sea pineapple

貝でも魚でもない。系統的にはヒトに近い生き物である。嫌われる理由も、旨い理由も、鮮度がすべてを決める。

オレンジ色のごつごつした塊が、氷の上に並んでいる。突起の付き方がパイナップルに似ているので「海のパイナップル」と呼ばれる。

だが果物ではないし、貝でも魚でもない。脊索動物門の尾索動物、つまり系統的にはヒトなど脊椎動物に近い生き物である。幼生はオタマジャクシの形で泳ぎ、脊索を持つ。岩に付着すると尾を吸収して、動かない大人になる。

食べると、甘味・塩味・酸味・苦味・旨味が同時に来る。五つの味を一度に感じる食材はそう多くない。そして好き嫌いがはっきり分かれる。分かれ目は、ほぼ鮮度である。

国・地域
日本。宮城県(石巻・女川・気仙沼)、岩手県、北海道、青森県
分類
脊索動物門 尾索動物亜門。マボヤ Halocynthia roretzi
相場
むきホヤ50gで690円、500gで3,500円。塩辛は590〜750円
主な材料
マボヤ。刺身なら何も足さない
辛さ
辛くない。五味が同時に来る
食べる場所
三陸の魚屋・居酒屋、東北の物産展、通販
ベスト時間
夏。宮城では6月から8月
一人前の目安
殻付きで1〜2個
食べ方
刺身、酢の物、塩辛、焼き、蒸し。ホヤ水は醤油代わりに
近い料理
牡蠣、ウニ、このわた、貝の刺身

01一口目に来るもの

殻を開けると、中からオレンジ色の身が出てくる。一緒に透明な液体が溜まっている。これが「ホヤ水」だ。

身を切って口に入れると、いくつもの味が同時に来る。「口に入れた瞬間、酸味・苦味・塩味が広がり、ぷるぷるとした食感と、後からくる甘味と旨み」。別の書き手は「じゅわーっと広がる甘み。これでもかと突き抜けていく潮の味」「ぷりっぷりの食感と鮮烈な海の味」と書いた。

食感は刺身ならプルプル、蒸せば弾力が強くなる。市場魚貝類図鑑の表現では「シコっとした食感」「独特の苦みと微かな甘み」。

問題は香りだ。ホヤが嫌われる理由は、ほぼこれ一点に集約される。ところが、ここに重要な事実がある。水揚げ後、体内の無臭の成分が癖のある臭い成分に変わっていく。つまり、あの匂いは時間が作っている。「本当に新鮮なホヤなら、匂いなんてほとんどしません。クセなんて、驚くほど皆無です」と産地の魚屋は書いている。ホヤが苦手な人の多くは、鮮度の落ちたホヤを食べている。

ホヤ
ホヤの刺身
ホヤ
市場に山積みになった殻付きのホヤ(韓国・釜山で撮影)
ホヤ

第 二 章

三陸の海で

三陸の岩礁

02貝でも魚でもない

分類でいうと、ホヤは脊索動物門の尾索動物亜門に属する。食用の主役はマボヤ(Halocynthia roretzi)である。

驚くのは、系統的にはヒトなど脊椎動物に近いということだ。幼生はオタマジャクシの形をしていて泳ぎ、背骨の原型である脊索を持っている。ところが岩に付着すると、自分の尾を吸収してしまう。成体になると脊索も尾も消える。

体には二本の突起がある。プラス(+)に見えるほうが入水孔、マイナス(−)に見えるほうが出水孔。ここから水を取り込んでプランクトンを漉し取り、反対側から出す。雌雄同体である。

外皮は「被嚢」といって、セルロースでできている。セルロースを作る動物はホヤだけだ。共生菌から遺伝子を取り込んだためだと考えられている。この被嚢は、高級スピーカーの素材にも使われている。

ホヤ
海中のホヤ類(ラクシャディープ諸島)
ホヤ
群体ホヤ
ホヤ
群体ホヤとクモヒトデ

03三年、育てる

市場に出るホヤは、ほとんどが養殖ものである。

養殖はカキ殻を採苗器にして幼生を付着させるところから始まる。産卵は11月から1月下旬。採苗後の二年はあまり育たない。そこから半年で急に大きくなり、二年半後の初夏に「三年コ」として収穫される。さらに一年置いたものが「四年コ」だ。

産地は三陸が中心である。令和4年の養殖生産量は全国9,864トン。うち宮城が5,275トン(53.5パーセント)、北海道3,259トン(33.0パーセント)、岩手1,295トン(13.1パーセント)、青森34トン。宮城はホヤ養殖の発祥地でもある。

旬は夏。宮城では6月から8月。梅雨明け以降、体内のグリコーゲンが冬の約八倍に増えて、甘みと旨味が濃くなる。

ホヤ
店頭で売られるホヤ
ホヤ
築地市場の殻付きマボヤ

04八割が韓国へ行っていた

ホヤの近年史は、震災と輸出の話を抜きにしては語れない。

震災前、全国生産の八割以上が宮城産だった。そしてそのうち約七割が韓国向けの輸出だった。国内消費より、輸出のほうがずっと大きかったのである。

2013年9月9日、韓国が福島第一原発事故を理由に、青森・岩手・宮城・福島・茨城・栃木・群馬・千葉の八県産水産物の輸入を停止した。日本はWTOに提訴したが、2019年4月の上級委員会で逆転敗訴する。

行き場を失ったホヤは廃棄された。2016年には生産量の約六割、7,600から8,000トンが焼却処分になっている。JFみやぎは国内向け4,800トンへの生産調整を行い、国内販路の開拓に舵を切った。2019年、震災後初めて廃棄ゼロを達成する。

それでも2024年には、宮城の養殖ホヤが前年同期の四割未満に激減したという報道が出ている。2026年時点で韓国の禁輸がどうなっているかは、この記事では確認できていない。

ホヤ
女川のシーパルピア(宮城県)
ホヤ
石巻市役所(宮城県)

05さばき方と、食べ方

殻の頂部にある二本の突起を見分けるところから始まる。プラスが入水孔、マイナスが出水孔。プラスを切ると中のホヤ水が取れるが、マイナスを切ると老廃物が一緒に出てしまう。

根本を切って、殻に縦の切れ目を入れ、身を取り出す。黒褐色の内臓を除いて洗えば完成だ。ホヤ水は醤油代わりに使えるが、劣化が早いので早めに。

食べ方は刺身、酢の物、塩辛、焼きホヤ、蒸しホヤ、天ぷら、炊き込みご飯、アヒージョ、パスタ。塩辛は保存が利くので、初めての人が試すならこの形もいい。

独特の香りの成分は「不飽和アルコールに起因するとされる」と紹介されるが、学術的な裏付けまでは確認できなかった。旨味の面では、グルタミン酸と5′-GMPが旨味の相乗効果を生む濃度比で含まれている。

食べ方味の出方誰向きか
刺身五味が同時に来る。プルプルの食感新鮮なものが手に入るなら迷わずこれ
酢の物酸味で香りの角が取れる刺身が苦手だった人に
塩辛旨みが凝縮。保存が利く酒の肴。初めての一品にも
焼き・蒸し弾力が強くなり、香りが穏やかに香りが気になる人に
ホヤ
韓国のホヤ刺し(멍게회)
ホヤ
韓国のホヤ料理

06世界のホヤ

ホヤを食べるのは日本だけではない。

韓国では「멍게(モンゲ)」と呼び、刺身で食べる文化がある。日本産ホヤの最大の輸出先だったのも、この食文化があったからだ。

地中海にはスミレボヤ(violet、figue de mer)がある。フランスやイタリアで生食される。開いたときの見た目は日本のホヤとよく似ていて、オレンジ色の身が現れる。

つまり「ホヤを食べる」という行為は、東アジアと地中海に飛び地のように分布している。両者の間に交流があったわけではない。海辺で暮らす人が岩に付いたものを口にしてみた、という同じ経験が、離れた場所で別々に起きただけだろう。

ホヤ
地中海のスミレボヤを開いたところ(写真は別種)
ホヤ
同じく開いたスミレボヤ(写真は別種)

07いくらで買えるか

卸売価格は一個あたり養殖で約100円前後、天然で約200円。小売では、むきホヤ50グラムが690円、500グラムが3,500円。ホヤの塩辛が590円から750円、塩辛ホヤの10個セットが7,000円といったところだ。

殻付きの小売単価は、まとまった資料が見つからなかった。産地の魚屋や通販で確認してほしい。

買うときの基準は一つ、鮮度である。この食材に関しては、値段より鮮度のほうが味を決める。夏に三陸へ行けるなら、現地で殻付きを買って、その場でさばいてもらうのがいちばんいい。

ホヤの相場(2026年8月時点の目安)価格
卸売 1個(養殖)約100円前後
卸売 1個(天然)約200円
むきホヤ 50g690円
むきホヤ 500g3,500円
ホヤの塩辛590〜750円
塩辛ホヤ 10個セット7,000円
ホヤ
三陸の荒波
ホヤ
葦毛崎展望台から見た海(青森県八戸市)

08豆知識

「海のパイナップル」の名は、外皮の突起と色に由来する。

動物で唯一、セルロースを作る。その被嚢は高級スピーカーの素材に使われている。

遺伝子数は約1万6千個で、ヒトの約半分。幼生は約3,000細胞、神経細胞は約100個しかない。

栄養は100グラムで約30キロカロリー。亜鉛、鉄、EPA130ミリグラム、DHA55ミリグラム、ビタミンEとB12が豊富。

「第六の味」という言い方でホヤを紹介する記事があるが、その表現の出どころは確認できなかった。五味が同時に来る、という説明までにしておくのが正確だ。

ホヤ
大崎・小山崎の海岸
ホヤ
三陸の岩礁
ご注意:価格・在庫は2026年8月時点の目安です。ホヤは鮮度の低下が非常に早い食材です。香りの強さは鮮度によって大きく変わります。韓国向け輸出規制の2026年時点の状況、および香りの成分については確認できておらず、本文では断定を避けています。

写真はすべて Wikimedia Commons より。各画像の作者とライセンスは以下のとおりです。

写真の出典

本文中の写真はすべてWikimedia Commonsより。各画像のライセンスは以下のとおりです。

0 Halocynthia roretzi-Sea pineapples at Tsukiji Market-01.jpg/bifyu/CC BY-SA 2.0/Wikimedia Commons

1 Sea Pineapple Sashimi.jpg/Jpatokal/CC BY-SA 4.0/Wikimedia Commons

2 SeaSquirt.jpg/ProjectManhattan/CC0/Wikimedia Commons

3 Korean cuisine-Meongge hoe-01.jpg/Ian Armstrong/CC BY-SA 2.0/Wikimedia Commons

4 Figue de mer ou violet après ouverture (août 2021).jpg/Benoît Prieur/CC0/Wikimedia Commons

5 Figue de mer ou violet après ouverture (août 2021) et avant consommation (2).jpg/Benoît Prieur/CC0/Wikimedia Commons

6 Hoya for sale – 2023 March 11.jpeg/Nesnad/CC BY 4.0/Wikimedia Commons

7 Korean cuisine-Meongge hoe-02.jpg/Andrew Bell/CC BY 2.0/Wikimedia Commons

8 Sea squirts Lakshadweep.jpg/Rucha Karkarey/CC BY-SA 4.0/Wikimedia Commons

9 Colonial ascidians at Middle Bank P2277191.JPG/Peter Southwood/CC BY-SA 3.0/Wikimedia Commons

10 Seapal-Pier Onagawa.jpg/Aw1805/CC BY-SA 4.0/Wikimedia Commons

11 Ishinomaki CityOffice 2010.JPG/user:Fuji-s/CC BY-SA 3.0/Wikimedia Commons

12 Oogama107.jpg/Sennin,photo:Junpei Satoh/CC BY-SA 3.0/Wikimedia Commons

13 Oogama106.jpg/Sennin,photo:Junpei Satoh/CC BY-SA 3.0/Wikimedia Commons

14 葦毛崎展望台20200724-P1100603.jpg/くろふね/CC BY 4.0/Wikimedia Commons

15 Colonial ascidian and brittle stars at Stonehenge Reef P4137418.JPG/Peter Southwood/CC BY-SA 3.0/Wikimedia Commons

16 Osaki-oyamazaki.jpg/Junpei Satoh/CC BY-SA 3.0/Wikimedia Commons

参考にした資料

Wikipedia「ホヤ」

市場魚貝類図鑑「マボヤ」

産業技術総合研究所「実はすごい『ホヤ』という生き物の秘密」

ほやほや学会

豊海おさかなミュージアム「ホヤの養殖方法と原発事故の波紋」

プライドフィッシュ ホヤ(宮城県)

山内鮮魚店「ホヤの味ってどんな味!?」

本田水産「保存版 ホヤの食べ方」

ジェトロ「水産物の輸入規制(韓国)」

水産庁 韓国WTO紛争解決手続

日高見市場 by 末永海産

地域の入れ物「ホヤの養殖量ランキング(令和4年)」

※三陸のホヤ養殖(筏・採苗)の自由利用可能な写真が存在しないため、産地の風景や海中のホヤ類の写真で補い、キャプションにその旨を明記しています。地中海のスミレボヤの写真は別種です。