ババンダ

世界の料理図鑑 ブルキナファソ

ババンダ

babenda ババンダ Babenda

屋台の一杯は100 CFA(約28円)から。子ども用の分量まであります。

在来の葉物と、砕いた米、挽いた落花生、スンバラ(発酵させた種子の調味料)、カリ(灰汁アルカリ)を煮た、ペースト状の一皿です。モシ人の料理とされます。

この料理には、名前についての強い話があります。当初は「ゼ・アルセンガ(さらさらしたソース)」と呼ばれていた。ところが安価であることと飢饉の時期との結びつきから、「バーグ・ベンダ(baag benda)」——「犬のパンツ」という意味の侮蔑的なあだ名で呼ばれるようになった。つまり babenda という料理名そのものが、蔑称に由来する可能性があります。

そして現在、この料理はブルキナファソの国民的シンボルのひとつとされ、政治家が公式行事に取り入れるまでになっています。

正式名
babenda(ババンダ)。babenga とも綴られる
旧称
zê arsenga(「さらさらしたソース」)
蔑称
baag benda(「犬のパンツ」)。※単独出典
発祥民族
モシ人(Mossi)
主な材料
スイバの葉とボンロンブールーの葉、落花生粉、米、玉ねぎ、スンバラ、塩、唐辛子、カリ(potasse)、油
要点
米をブレンダーで砕いてから煮る。丸のままでは別料理になる
調理時間
準備45分+加熱1時間(伝統版)
カリの役割
葉の自然な酸味を減らす
屋台価格(2021年時点)
子ども用100 CFA/並150 CFA/普通盛り200 CFA
現在の位置づけ
ファソ・ダン・ファニ(伝統織物)やワルバ(音楽)と並ぶ国民的シンボル

01一口目に来るもの

最初に来るのはスンバラ由来の強烈な発酵香です。スンバラの香りを、ある書き手は「ダークチョコレート、焙煎コーヒー、カビたチーズ」と表現しています。

そこに干し魚の潮の香りと落花生の香ばしさが重なる。強い香りです。この料理を「口のなかのジャズ・オーケストラのようで、荒々しい味の感覚を生む」と評した書き手もいます。

食感は、崩れた米粒が舌にまとわりつくところから始まります。次に落花生の粒感、葉物の繊維。

そして全体が「部分的に砕けた米粒からくる、ゼラチン質でペースト状の食感」にまとまる。この一体化が、この料理の身上です。

後味には発酵うま味と葉の苦みが残ります。カリ(potasse)を入れるのは「葉の自然な酸味を減らすため」とされ、逆に言えば、入れないと酸っぱく、えぐくなります。

※以上は資料からの再構成であり、実食に基づく記述ではありません。

ババンダ
ブルキナファソの地元料理の一皿。緑の葉物が中心にある

02「犬のパンツ」と呼ばれていた

この料理の名前には、確認できたかぎりでこういう経緯があります。

当初は「ゼ・アルセンガ(zê arsenga)」——「さらさらしたソース」と呼ばれていた。ところが安価であることと飢饉の時期との結びつきから、「バーグ・ベンダ(baag benda)」、つまり「犬のパンツ」という侮蔑的なあだ名で呼ばれるようになった。

現在の料理名 babenda が、この蔑称に由来する可能性があります。ただしこの経緯を報じているのは1件の記事のみで、他の裏付けは取れていません。

方向性が一致する記述はあります。ある雑誌の記事タイトルは「ブルキナ:ババンダの流行、見捨てられた者たちの料理」でした。都市住民に蔑まれていた料理だった、という点は複数の資料が共有しています。

そして再評価が起きました。「サンカラ主義のイデオロギーと『ブルキナベを消費せよ(consommer burkinabè)』というモットーが、この一度は汚名を着せられた食べ物を復権させるうえで決定的な役割を果たした」。

今日、ババンダはファソ・ダン・ファニ(伝統織物)やワルバ(音楽)と並ぶ国民的シンボルとして立っている、と現地メディアは書いています。

ババンダ
焼いた魚に、刻んだきゅうりやトマト、ハーブをたっぷりのせた一皿
ババンダ
地元の食堂の皿

スンバラという調味料

この料理の香りの核はスンバラです。ネレ(Parkia biglobosa、アフリカイナゴマメ)の種子を発酵させた調味料で、ダワダワとも呼ばれます。

資料間でスンバラの量が大きく違います。あるレシピは2人分で大さじ2、別のレシピは1/3カップ(大さじ5強)。約2.5倍の開きがある。

この開き自体が、この調味料が「量で決まる」ことの証拠です。初めて作るなら、少なめから始めるのが無難でしょう。

ババンダ
ババンダ
ババンダ
ババンダ

第 二 章

ス ン バ ラ

ネレの種子を発酵させた、この国の味の芯

03作り方と、失敗しやすい6か所

伝統版の材料は「スイバの葉とボンロンブールー(bonronbourou)の葉、落花生の粉、米、玉ねぎ、スンバラ、塩、唐辛子、カリ(potasse)、油」。準備45分に加熱1時間です。現地取材版では干し魚が入り、好みで油、シアバター、ブイヨン、肉を加えるとされます。

工程はこうです。米を水とともに、粒が半分以下の大きさになるまでブレンドする。落花生を水とともに細かくブレンドする。スンバラを半分程度の大きさに挽く。青ねぎを切り、葉物を手でちぎる。すべてを鍋に入れて沸騰させ、20分ほど、米がとろけるまで煮る。焦げないよう混ぜ続ける。

失敗の第一は、米を丸のまま入れることです。「ペースト状にまとまる」というこの料理の身上が出ません。どのレシピも米をブレンダーで砕く工程を必須にしています。砕いた米はでんぷんが露出して溶け出しやすい。

第二はカリの扱い。入れないと葉の酸味とえぐみが立ち、入れすぎるとアルカリ臭とぬめりが過剰になります。第三はスンバラの入れすぎで、発酵香が支配して食べられなくなる。

第四は葉物を刻みすぎること。溶けて食感が消えます。レシピは「手でちぎる」と指定している。第五は混ぜないこと。米を砕いて入れるため鍋底に沈みやすく、焦げます。

第六は、干し魚を抜くだけで代替を入れないこと。うま味が抜けて平坦になります。ヴィーガン版のレシピがスンバラの比重を保っているのは、このためだと考えられます。

ババンダ
スンバラの団子
ババンダ
市場に並ぶスンバラ

baag benda ——「犬のパンツ」安価であることと飢饉との結びつきから、この料理につけられた侮蔑的なあだ名(出典1件のみ)

04種類を並べてみる

名前の変異と、材料の変異があります。旧称と蔑称は単独出典なので、確度を添えました。

名前特徴確度
ババンダ(伝統・干し魚入り)スイバとボンロンブールーの葉、落花生粉、米、スンバラ、カリ、干し魚確認済み
ババンガ(babenga)同じ料理の別綴り確認済み
ゼ・アルセンガ(zê arsenga)旧称。「さらさらしたソース」の意要確認。出典1件のみ
バーグ・ベンダ(baag benda)蔑称。「犬のパンツ」の意要確認。出典1件のみ
ミレット版米ではなくミレットを使う確認済み
ヴィーガン版干し魚を抜き、スンバラでうま味を確保確認済み。現代的翻案として言及もある
シアバター/肉入り版好みで油、シアバター、ブイヨン、肉を追加確認済み
ババンダ
ババンダ
ババンダ

05政治家が公式行事に出すようになった

現在のババンダの位置づけについて、現地メディアはこう書いています。「かつては都市住民に蔑まれていたババンダは、文化的な再評価を経験している。最近の大学の学位論文がその栄養的品質を明らかにし、政治家たちは今や真正性の指標として公式行事にこれを取り入れている」。

ここで注意が要ります。これは伝統的な儀礼ではありません。近年の政治的な演出です。この二つを混同すると誤報になります。

伝統的な儀礼としてのババンダは、今回の取材では確認できませんでした。

食べ方についても、明記した資料はありません。屋台で椀に盛って売られる形態からはスプーンが想定されますが、断定はできない。ブルキナファソ一般の作法として右手のみ、というのは確認できています。

屋台では個食です。一人前ずつ買う。100 CFAの「子ども用の分量」まであります。家庭でどう食べるかは分かりませんでした。

ひとつ現代的な話を添えておくと、シェフのアワ・コルベオゴ氏が、チュニジアで開催された World Culinary and Pastry Arts Championships の伝統料理部門で、このババンダで1位を獲得しています。開催年は資料から確認できませんでした。

ババンダ
ネレ(Parkia biglobosa)の木
ババンダ
枝いっぱいに莢を下げたネレ(ダワダワ)の大木。この種子がスンバラになる

06いくらで食べられるか

2021年8月の現地取材による実測価格があります。子ども用が100 CFA、並が150 CFA、普通盛りが200 CFA。トーを追加すると50 CFA。

2026年時点の価格は分かりません。以後の物価上昇を考えると上がっている可能性が高いのですが、上昇率の裏付けとなる資料は確認できていません。

ババンダの価格(2021年8月時点の実測。2026年の価格ではありません)価格
屋台・子ども用100 CFA(約28円)
屋台・並150 CFA(約42円)
屋台・普通盛り200 CFA(約56円)
トー追加+50 CFA(約14円)
一般(食堂)・高級不明。食堂やレストランでの提供が確認できず
2026年時点の価格不明

07どこで食べるか

ブルキナファソはカナダ政府が「渡航中止」、米国が「Level 4: Do Not Travel」に指定しています。渡航は不可能な水準です。

そのうえで、2021年の現地報道が伝えるワガドゥグの屋台の場所を挙げます。第5行政区のウェムテンガ(Wemtenga)地区、そしてシャルル・ド・ゴール大通りの近く。個人の屋台であり、住所も営業時間も特定できません。現在も営業しているかは不明です。

この報道には数字がひとつ残っています。売り手の一人の証言として、日商が「少なくとも35,000 CFA」、混む日は「40,000 CFA」。200 CFAの椀なら、1日175〜200杯という計算になります。

レストランでの提供については、「西洋のレストランのメニューには依然としてほとんど載らない」という記述があります。ブルキナファソ国外での提供店は確認できませんでした。

国民的シンボルと呼ばれるようになった料理が、まだ屋台の椀の中にある。この距離のことも含めて、この料理の現在地だろうと思います。

ババンダ
市場で黒いスンバラの団子をたらいに並べて売る少女(ガーナで撮影)

08豆知識

料理名がおそらく蔑称に由来します。旧称「さらさらしたソース」、蔑称「犬のパンツ」。安価で、飢饉の時期に食べるものだったからです。同じことが、ザンビアのチカンダ(人類学者が「貧者の食べ物」と記した料理が婚礼のごちそうになった)にも起きています。

再評価の背景にはサンカラ主義の「ブルキナベを消費せよ」というモットーがあった、と現地メディアは書いています。ただしこの因果関係は、その記事の解釈です。学術的には別の研究があるはずですが、本取材では本文にアクセスできませんでした。

屋台の一杯が100 CFA(約28円)から。子ども用の分量まである。この価格帯の料理が国民的シンボルになった、という順序が面白いところです。

米をブレンダーで砕いてから煮る。これがペースト状の食感を生みます。丸のままでは別料理になる。そしてこの「砕く」工程は、ブレンダーが普及する前は臼と杵の仕事でした。

表記について:本記事は「ババンダ(babenda)」を主表記としました。「babenga」は変異形として存在します。
名前の由来について:旧称「zê arsenga」および蔑称「baag benda(犬のパンツ)」の記述は、確認できた出典が1件のみです。強い話ですが、確度は高くありません。
再評価の経緯について:「サンカラ主義がババンダを復権させた」という因果の主張は、現地メディアの解釈です。関連する学術論文は存在しますが、本取材では本文にアクセスできませんでした。
「公式行事」について:政治家が公式行事に取り入れているのは近年の動きであり、伝統的な儀礼ではありません。
価格について:本記事の屋台価格は2021年8月の現地取材による実測値で、2026年の価格ではありません。
写真について:ババンダそのものを写した自由利用可能な写真は見つかりませんでした。本記事の写真は、ブルキナファソの料理と、この料理の核であるスンバラ(ダワダワ)およびその原料であるネレの木です。
渡航について:ブルキナファソはカナダ政府「渡航中止」、米国「Level 4: Do Not Travel」に指定されています。
為替レート:1,000 CFAフラン=約282円(2026年8月31日時点)。

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写真はすべて Wikimedia Commons より。各画像の作者とライセンスは以下のとおりです。

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