
バインテット
Bánh tét
包丁ではなく、縛ってある紐で切る
バナナの葉で包んだ、直径7センチほどの円筒。長さは20センチくらいあって、細く裂いた竹の紐でぐるぐると縛ってある。中身はもち米で、真ん中に緑豆の餡と豚の脂身が一本、芯のように通っている。旧正月の食べものだ。
面白いのは切り方だ。包丁は使わない。縛ってある紐を一本ほどいて、円筒の下にくぐらせ、両端を持って交差させ、そのまま引く。すると、もち米がすっと切れて、きれいな輪切りができる。粘るもち米に刃を入れるより、この方法のほうが断面がきれいになる。
作るのに時間がかかる。もち米と豆と肉を葉で巻いて縛り、大きな鍋で8時間から12時間ゆでる。旧正月の前の晩に、家族で火を囲んで鍋を見張るというのが、かつての年越しの光景だった。
南部と中部のものがバインテットで、北部には四角いバインチュン(bánh chưng)がある。中身はほぼ同じで、形と包む葉だけが違う。円筒か、四角か。ベトナムの正月は、この二つで南北が分かれる。
ホーチミンの市場では、旧正月が近づくと山積みになる。輪切りにして漬けものと一緒に食べ、残ったら油で焼いて食べる。焼いたほうが好きだという人も、けっこう多い。
皿の解剖

焼いたところバナナの葉ごとゆでるので、外側のもち米がうっすら緑がかる。切ってから漬けものと一緒に食べるのが定番。
一口目
味
ほんのり甘く、脂の塩気がある
もち米そのものはほとんど無味だが、長時間ゆでるあいだに豚の脂と緑豆の甘みが全体に回る。塩気は控えめ。だから、酸っぱい漬けものと一緒に食べるとちょうどよくなる。
食感
ねっとり、しっとり
炊いたもち米より水分が多く、ずっしりと重い。噛むとねっとり歯にくっついて、そのなかで緑豆の餡だけがほろりと崩れる。脂身は形が残っていないことが多い。
一口目
漬けものと一緒に
最初の一切れは、そのまま。二切れ目から、卓の酸っぱい漬けもの(dưa món や củ kiệu)を一緒に。もち米の重さが、酸味でずいぶん軽く感じられるようになる。


一本ができるまで
もち米を水に浸し、緑豆を蒸してつぶし、豚の脂身を切って下味をつける。バナナの葉は火であぶって柔らかくしておく。
葉をあぶるのは、巻くときに割れないためバナナの葉にもち米を平らに広げ、真ん中に緑豆の餡と脂身を一本のせて、端から巻いて円筒にする。
具が中心に来るように巻くのが難しい
3細く裂いた竹の紐で、円筒を等間隔にぐるぐると縛る。この紐が、あとで切るときの道具にもなる。
きつく縛らないと、ゆでるあいだに崩れる
4大きな鍋にたっぷりの湯を沸かし、8時間から12時間ゆでる。途中で水を足しながら、火を絶やさない。
旧正月の前の晩、家族で鍋を見張る円筒と四角で、南北が分かれる
円筒のバインテット
バナナの葉で巻いた円筒形。南部と中部の旧正月の食べもので、市場では年末に山積みになる。
四角いバインチュン
北部はドンの葉で包んだ四角いバインチュン。中身はほぼ同じで、形と葉だけが違う。
ラン・リエウの話
四角いバインチュンには、フン王の子ラン・リエウが天地をかたどって作ったという神話がある。バインテットの由来は、これほどはっきりしていない。
紐で切る
縛ってあった竹の紐をほどき、円筒にくぐらせて引く。もち米は刃より糸のほうがきれいに切れる。
焼いて食べる
何日か置いて固くなったら、輪切りにして油で焼く。表面がかりっとして、正月のあいだの定番の食べ方になる。
ベトナムの旧正月には、二つの形がある。北の四角いバインチュンと、南の円筒のバインテット。中身はほとんど同じで、もち米、緑豆の餡、豚の脂身。違うのは形と、包む葉の種類だけだ。北はドンの葉、南はバナナの葉を使う。この二つで、正月の食卓が南北に分かれる。
四角いバインチュンには、フン王の子ラン・リエウが四角い大地をかたどって作ったという神話がついている。バインテットのほうは、そこまではっきりした由来の話がない。王朝の遠征のときに持ち運びやすい形にしたという言い伝えもあるが、裏づけのある話ではない。円筒だから紐で切れる、という実用の説明のほうが、たぶん本当に近い。
その切り方が、この食べもののいちばん面白いところだ。縛ってあった竹の紐を一本ほどき、円筒の下にくぐらせる。両端を持って交差させ、そのまま引く。すると、粘るもち米がすっと切れて、きれいな輪切りになる。包丁を入れると刃にくっついて断面が荒れるが、糸ならそうならない。道具が中に入っている、というのがうまくできている。
作るのには一晩かかる。葉を巻き、紐で縛り、大きな鍋で8時間から12時間ゆでる。かつては旧正月の前の晩に、家族が交代で火の番をした。子どもは鍋のまわりで遊び、大人は火を絶やさないように薪をくべる。いまは買ってくる家が多いけれど、あの晩の記憶を語る人はまだたくさんいる。
そして、残ったバインテットは焼く。何日か置いて固くなったものを輪切りにし、油をひいた鍋でこんがり焼く。表面はかりっとして、中はねっとり。正月の三日目あたりから、こちらのほうがおいしいと言い出す人が必ず出てくる。


バインテットの起源には、王朝の遠征と結びつける説など複数の言い伝えがあるが、どれも裏づけのある話ではない。ここでは、形と地域の違いだけを書いている。
食べに行く前に
注文のことば
旧正月(テト)の前後がいちばん出まわる時期。市場に山積みになるので、一本まるごと買って切ってもらうといい。ふだんは専門店や市場の一角にある。
値段と覚え書き
| 市場の一本(小) | 50,000〜80,000 VND約300〜480円 |
| 市場の一本(大) | 90,000〜150,000 VND約540〜900円 |
| 輪切り一切れ | 10,000〜20,000 VND約60〜120円 |
- 切るときは包丁ではなく、縛ってあった紐を使う。断面がきれいになる
- đòn(ドン)は円筒形のものを数える言葉。一本なら「một đòn」
- 酸っぱい漬けもの(dưa món・củ kiệu)と一緒に食べるのが定番
- chuối=バナナ入りの甘いもの。đậu xanh=緑豆の塩気のあるもの
- 残ったら輪切りにして油で焼く。これを目当てにする人も多い
- 旧正月の前が最盛期。時期を外すと専門店を探すことになる
値段は2026年9月時点の目安。1,000ドン=約6円で換算。営業時間・価格・閉店は変わることがあるので、行く前に確認を。
参照資料
- Wikipedia tiếng Việt「Bánh tét」 材料・作り方・バインチュンとの違い
- Wikimedia Commons「Category:Bánh tét」 包み方・切り方・焼いたものの写真
写真の出典(5枚)
写真は個別ページのライセンスに従います。作者名・ライセンス・原典リンクを1枚ずつ表示しています。
- 白い皿に、薄緑がかったもち米の輪切りが5つ。中央に橙色の漬けもの|Lưu Ly/パブリックドメイン/2008年公開・明るさ調整あり(原典)
- 円筒形のもち米の塊の切り口。中に緑豆の餡と豚の脂身が見える。下にバナナの葉|Ron Diggity/CC BY 2.0/2009年撮影・明るさ調整あり(原典)
- 輪切りにして油で焼いた6切れ。表面がきつね色になっている|Francesc Fort/CC BY-SA 4.0/撮影年不明・明るさ調整あり(原典)
- バナナの葉で包んだ円筒に紐を回して、引いて切っているところ|Lưu Ly/パブリックドメイン/撮影年不明・明るさ調整あり(原典)
- 籠のそばに、緑の葉で包んで紐で縛った円筒。うしろに黄色い花の枝|Phương Huy/CC0/2022年撮影・明るさ調整あり(原典)
装飾
紙・テープ・手描きの下線・提灯ガーランドなどの装飾は、ユーザー提供の素材パック htnv-decor-user-pack-01〜04 から切り出して使用。
写真はパブリックドメイン2枚、CC0が1枚、CCライセンス2枚。5枚すべて明るさ・彩度・コントラストを調整している。トリミング・合成はしていない。撮影地には国外で撮られたものを含む。


