
チェー
Chè
指をさして、好きなものを入れてもらう
チェーは料理の名前ではない。甘い汁もの全体を指す言葉だ。だから店の前で「チェーをください」と言っても、売り手は困った顔をする。売り台には仕切りの並んだ大きな容器が置かれていて、豆、ゼリー、いも、白玉、果物が色ごとに分けて入っている。そこを指さして、入れてほしいものを自分で選ぶ。
選び終わると、店の人が上からココナッツミルクを回しかけ、砕いた氷を山のようにのせる。ガラスの器で出す店もあれば、プラスチックのカップに詰めてストローを刺して渡す店もある。値段は15,000ドンあたりから。暑い午後にひとつ買って、歩きながら食べる。
種類は数えきれない。緑・赤・黄が層になった chè ba màu、バナナとタピオカを煮た chè chuối、緑豆だけの chè đậu xanh、白いチーズのような玉が浮かぶ chè khúc bạch。中身も温度も食感も全部ちがうのに、どれも同じ「チェー」という名前で呼ばれている。
甘いものではあるけれど、日本のあんみつやパフェのような「食後のデザート」とは少し立ち位置が違う。おやつでもあり、飲みものでもあり、暑さをしのぐための氷でもある。夕方の歩道で、カップを片手に持って歩いている人の多さを見ると、それがよく分かる。
選ぶのが面倒なら、「đủ thứ(ドゥー・トゥー)」=全部入り、と言えばいい。店の人が見つくろって、器の中に何種類も重ねてくれる。
器の解剖

すくうとどれを入れるかは客が選ぶので、器の中身は毎回ちがう。ここに書いたのは、南部でよく入っているもの。
一口目
味
甘いのに、後に残らない
砂糖の甘さそのものより、ココナッツミルクの香りとコクが先に来る。氷が溶けていくにつれてだんだん薄まっていくので、食べはじめは菓子のようで、食べ終わるころにはほとんど冷たい飲みものになっている。その変化ごと味わうものだと思う。
食感
つるり、もちもち、ほくほく
ゼリーのつるり、米粉の麺のもちもち、さつまいものほくほく、緑豆のほろり。スプーンひとさじのなかで、食感が三つも四つも入れ替わる。何をすくったかで毎回ちがう口になるのが、この食べもののおもしろさだ。
一口目
底から掘り返して
具は重いので、たいてい器の底に沈んでいる。上澄みのココナッツミルクだけをすくうと、ただ甘い汁を飲むことになってしまう。スプーンを底まで差しこんで、具ごと持ち上げるのが正しいひとさじ。


一杯ができるまで
1豆を甘く炊き、いもを煮て、寒天のゼリーを固め、米粉の細い麺を作る。全部を別々に仕込んで、仕切りのある容器に色ごとに分けて並べておく。
客が来る前に、この状態まで作っておく
2客が売り台をのぞいて「これとこれ」と指さす。店の人が長いスプーンで一種類ずつすくい、器やカップに重ねていく。
店おまかせで「đủ thứ(全部入り)」と言ってもいい全体が隠れるくらいココナッツミルクを回しかける。店によっては先に薄い砂糖水を少し注いで、甘さを整えてからかける。
甘さの調整はここでされている上から砕いた氷を山にしてのせ、そのまま渡す。カップならストロー、器ならスプーンを差して。
氷が溶ける前が、いちばん味が濃い名前がひとつ、中身が無数
「チェー」は総称
チェーは甘い汁もの全体を指す言葉。豆のもの、いものもの、果物のもの、温かいもの、冷たいもの、全部この名前で呼ばれる。
ココナッツミルクと氷
南部のチェーは冷たくて甘く、ココナッツミルクをかける。暑い土地の食べもの。
温かいチェーもある
北部には温かい生姜入りの白玉のチェー(chè trôi nước)がある。中部フエには宮廷由来の細かい種類が並ぶ。
チェー・バーマウ
緑・赤・黄の三層にするchè ba màuは、南部でいちばん見かける形。層が崩れる前に写真を撮る人が多い。
歩道の売り台で
ホーチミンでは夕方から歩道に売り台が出る。学校帰りや仕事帰りの人が、カップを持って歩いていく。
チェーという言葉は、特定の料理ではなく「甘い汁もの」というカテゴリーそのものを指す。緑豆を炊いたものも、バナナを煮たものも、白玉を浮かべたものも、果物を入れたものも、温かいものも冷たいものも、全部チェーだ。日本語に無理に訳すなら「甘味」がいちばん近い。だから注文のときには、必ず何のチェーかを言う必要がある。
南部のチェーは、ほぼ例外なく冷たくて、ココナッツミルクがかかっている。ココナッツはメコンデルタの木で、南部の料理には塩気のあるものにも甘いものにも当たり前のように入ってくる。氷をたっぷり使うのも、一年じゅう暑い土地だからだ。
北へ行くと様子が変わる。ハノイのチェー・チョイヌオック(chè trôi nước)は、生姜入りの温かい汁に黒糖の餡を包んだ白玉を浮かべたもので、冬に食べる。中部のフエには、かつての宮廷料理に由来する細かい種類が並び、豚肉を包んだ甘い餡という、聞いただけでは想像しにくいものまである。同じ名前で、ここまで違う。
南部でいちばん目にするのは、緑・赤・黄の三層になった chè ba màu だろう。下から緑豆、赤いんげん、緑の米粉ゼリーを重ね、ココナッツミルクと氷をのせる。層がきれいに分かれているのは注いだ直後だけで、スプーンを入れれば混ざってしまう。写真を撮るならその前に、と誰もが言う。
ホーチミンでは、夕方になると歩道に売り台が出る。学校帰りの子ども、仕事を終えた人、買い物のついでの人が立ち寄って、カップを持って歩いていく。器で出す古い店もまだ残っていて、そこでは椅子に座って食べる。どちらにしても、食事の締めくくりというより、一日のあいだのどこかに挟まる時間だ。
チェーは種類が非常に多く、地域や店で中身も呼び方も変わる。ここに書いたのは、ホーチミンの歩道でよく見る形。
食べに行く前に
注文のことば
午後から夜にかけて。暑い時間帯に売り台が出るので、昼過ぎに歩くと見つけやすい。
値段と覚え書き
| 歩道の売り台(1杯) | 15,000〜25,000 VND約90〜150円 |
| チェー専門店 | 25,000〜45,000 VND約150〜270円 |
| 観光地のカフェ | 50,000〜80,000 VND約300〜480円 |
- chè ba màu=三色チェー、chè chuối=バナナ、chè đậu xanh=緑豆、chè khúc bạch=白いチーズ玉
- 選び方が分からないときは「đủ thứ(ドゥー・トゥー/全部入り)」と言えば、店の人が見つくろってくれる
- 持ち帰りはカップ。ストローが太いので、具ごと吸い上げられる
- 温かいチェーもある。「chè nóng(チェー・ノン)」と言えば通じる
- 甘さを控えたいときは「ít đường(イッ・ドゥオン/砂糖少なめ)」
- 氷が溶けると味が薄まるので、買ったらなるべく早く食べきる
値段は2026年9月時点の目安。1,000ドン=約6円で換算。営業時間・価格・閉店は変わることがあるので、行く前に確認を。
参照資料
- Wikipedia tiếng Việt「Chè」 チェーの定義と主な種類
- Wikipedia tiếng Việt「Chè ba màu」 三色チェーの構成
写真の出典(7枚)
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- 青い模様の器に盛られた、色とりどりの豆・ゼリー・果物の甘い汁物|Nguyễn Thị Thảo Hà/Pexels License(商用可・加工可)/2025年公開・明るさ調整あり(原典)
- 黄色い台の上の黒い器。ココナッツミルク、黒いゼリー、緑の麺、小豆、いもが入っている|FOX ^.ᆽ.^= ∫/Pexels License(商用可・加工可)/2026年公開・明るさ調整あり(原典)
- スプーンですくわれた、緑豆と白玉の入った甘い汁|Jauhar Musthofal Qulub/Pexels License(商用可・加工可)/2026年公開・明るさ調整あり(原典)
- 透明なプラスチックカップに層になって入ったチェーとストロー|FOX ^.ᆽ.^= ∫/Pexels License(商用可・加工可)/2022年公開・明るさ調整あり(原典)
- 屋台に並べられた、色とりどりの具が入った紙カップのチェー|Luke Hayden/Pexels License(商用可・加工可)/2022年公開・明るさ調整あり(原典)
- 金属の仕切りに、色ごとに分けられたチェーの具材が並んでいる|Markus Winkler/Pexels License(商用可・加工可)/2024年公開・明るさ調整あり(原典)
- たくさんの器に具材を並べた、路上のチェーの売り台|Markus Winkler/Pexels License(商用可・加工可)/2023年公開・明るさ調整あり(原典)
装飾
紙・テープ・手描きの下線・提灯ガーランドなどの装飾は、ユーザー提供の素材パック htnv-decor-user-pack-01〜04 から切り出して使用。
写真はいずれもPexelsライセンス(商用利用可・改変可)。7枚すべて明るさ・彩度・コントラストを調整している。トリミング・合成はしていない。


