
バインコット
Bánh khọt
ひとくちサイズのバインセオ、と言うと近い
バインセオを直径5センチにして、深さのあるくぼみでカリッと揚げ焼きにしたもの。それがバインコットだ。米粉とココナッツミルクを溶いた生地を、丸いくぼみが並んだ鉄や土の型に流しこみ、たっぷりの油で焼く。上には海老を一尾、蒸した緑豆をひとつまみ。
焼き台は路上にある。くぼみが10も12も並んだ重い型が炭の上に乗っていて、売り手が蓋を持ち上げると、白い湯気が一斉に立ちのぼる。縁が茶色くなったのを細いへらで一つずつはがして、皿に円く並べていく。一皿に8個から10個。作り置きはしない。
食べ方はバインセオとまったく同じだ。からし菜やレタスの葉を広げ、一個のせて、香草を足して巻く。それを甘酸っぱい魚醤だれにひたす。小さいので、巻くのが面倒になったら、そのままつまんでたれにつけてもいい。だれも気にしない。
生地にココナッツミルクが入っているぶん、バインセオよりも甘い香りが立つ。油の量も多いので、底は薄い煎餅のように固く揚がる。その固い底と、まだ半分とろりとした中央のあいだの落差が、この料理のいちばんおもしろいところだと思う。
本場はホーチミンではなく、車で2時間ほどの海辺の街ブンタウ。だから市内の店の看板には「Bánh khọt Vũng Tàu」——ブンタウ風、と書いてあることが多い。
皿の解剖

ひとくちの大きさ卓には、たれのほかにライム・にんにく・唐辛子が別の器で出てくる。たれは自分で辛さと酸味を足して調整する。
一口目
味
ココナッツの甘い香りに、海老の塩気
生地そのものがほんのり甘く、ココナッツミルクの香りが鼻に抜ける。そこへ上の海老の塩気と、たっぷりかかった青ねぎ油の香ばしさが重なる。何もつけないと少しぼんやりしているが、魚醤だれをつけたとたんに輪郭がはっきりする。
食感
底はカリッ、中はとろり
油で揚げ焼きにされた底は、薄い煎餅のようにパリッと割れる。ところが中央はまだ半分とろりとしていて、噛むと生地が舌にまとわりつく。ひとくちのなかに固いところと柔らかいところが同居している。
一口目
まず何もつけずに一個
最初の一個は、たれも野菜もつけずにそのまま食べてみるのがいい。生地とココナッツの香りだけを覚えておいてから、二個目を葉で巻き、三個目でたれの量を決める。そうすると自分の好きな配分が分かる。


一皿ができるまで
米粉にココナッツミルクと水、ターメリックをほんの少し、刻んだ青ねぎ。バインセオの生地よりもゆるめに溶いて、しばらく置いてなじませる。
ゆるいほうが、くぼみのすみまで回る
2くぼみの並んだ重い鉄や土の型を炭火にかけ、一つ一つのくぼみに油を落としていく。油がじゅっと鳴って細かい泡が立つまで待つ。
油の量がカリッとするかどうかを決めるくぼみに生地を八分目まで流し、海老を一尾、蒸した緑豆をひとつまみのせる。蓋をして数分、蒸すように焼く。
具は店ごと。いかや豚ひき肉のこともある
4縁が茶色くちぢれてきたら、細いへらを差しこんで一つずつはがす。青ねぎ油を回しかけ、干し海老を散らして皿に円く並べる。
焼きたてでないと底の食感が消えるブンタウの海辺から、街の路上へ
ブンタウの名物として
ホーチミンから車で2時間ほどの海辺の街ブンタウが、バインコットの名前でいちばんよく知られている。海老がすぐ手に入る土地の料理。
「khọt」は音か、器か
型から生地をはがすときの音、あるいはくぼみのある器を指す古い言葉から来たと説明される。はっきりした語源は決まっていない。
バインカンとの違い
中南部のバインカン(bánh căn)は、土の型で油を使わずに焼く。ココナッツミルクも入らず、卵を落とすことが多い。見た目はよく似ている。
ブンタウの看板を出す店
街には「Bánh khọt Vũng Tàu」の看板を出す店がいくつもある。1区カオタン通りあたりが分かりやすい。
バインセオと同じ
葉で巻いて、たれにつける。バインセオの一皿が大きすぎるときは、こちらを頼むと量の調整がしやすい。
バインコットの名前でいちばん知られているのは、ホーチミンではなくブンタウという海辺の街だ。市内から車で2時間ほど、南シナ海に突き出した半島の先にある港町で、漁から戻った小さな海老がその日のうちに市場に並ぶ。生地の上に海老を一尾のせるという作り方は、海老がいくらでも手に入る土地でこそ自然に生まれたものだった。
名前の由来ははっきりしていない。ひとつは、焼けた生地を型からはがすときの「コッ」という音から来たという説。もうひとつは、くぼみのある器を指す古い言葉から来たという説。どちらも決め手はなく、ベトナム語の辞典でも両論が併記されている。ここでも、どちらが正しいとは言わないでおく。
よく似た料理にバインカン(bánh căn)がある。中南部のニャチャンやファンティエットあたりのもので、こちらは油をほとんど使わず、素焼きの土の型で焼く。生地にココナッツミルクは入らず、代わりに卵を落とすことが多い。焼き上がりの見た目はバインコットとほとんど区別がつかず、写真も現地でしばしば混同されている。
南部の料理には、大きいものを小さくして数を増やす、という発想がよく出てくる。バインセオを縮めたのがバインコットなら、バインベオ(bánh bèo)も小皿に一枚ずつ蒸した米粉の生地だし、ゴイクオンも一本ずつ手に持てる大きさだ。ひとつを黙々と食べるより、いくつも取り分けて長く喋るほうに向いている。
ホーチミンの街で「Bánh khọt Vũng Tàu」の看板を見かけたら、それは海辺の街のやり方でやっています、という宣言だ。1区のカオタン通りのあたりに何軒か並んでいて、夕方になると型が動き出す。焼き台の前に立って、湯気の上がる蓋が開くのを待つ数分間が、この料理のいちばんいいところかもしれない。
写真の一部は、撮影者がバインカン(bánh căn)と記載しているものを含んでいる。バインコットとバインカンは見た目がよく似ていて、現地でも写真が混ざって出回っている。キャプションで区別を書いている。
食べに行く前に
注文のことば
夕方から夜の店が多い。焼きたてでないと底のカリッとした食感が消えるので、型が動いている店を選ぶ。
値段と覚え書き
| 路上の焼き台(8〜10個) | 35,000〜50,000 VND約210〜300円 |
| 街の専門店 | 50,000〜80,000 VND約300〜480円 |
| 観光地のレストラン | 90,000〜150,000 VND約540〜900円 |
- 一皿8〜10個。ひとりだと少し多いので、2人で1皿+別の料理がちょうどいい
- 「Bánh khọt Vũng Tàu」の看板はブンタウ風という意味。1区カオタン通りに何軒かある
- よく似たバインカン(bánh căn)は油を使わず土の型で焼く別の料理。頼むときに名前を確認する
- 巻く野菜はおかわりできる店が多い。足りなければ「thêm rau(テム・ザウ)」
- 夕方から夜が本番。昼に型が動いていない店は、焼き置きのことがある
- 海老が苦手なら、いか(mực)や豚ひき肉にしてくれる店もある
値段は2026年9月時点の目安。1,000ドン=約6円で換算。営業時間・価格・閉店は変わることがあるので、行く前に確認を。
参照資料
- Wikipedia tiếng Việt「Bánh khọt」 材料・ブンタウとの結びつき
- Wikipedia tiếng Việt「Bánh căn」 よく似たバインカンとの違い
写真の出典(6枚)
写真は個別ページのライセンスに従います。作者名・ライセンス・原典リンクを1枚ずつ表示しています。
- 皿に並んだ、丸く焼かれた小さな米粉の生地。青ねぎと具がのっている|Theodore Nguyen/Pexels License(商用可・加工可)/2025年公開・明るさ調整あり(原典)
- 青い縁の皿に並んだ丸い焼き菓子と、ライム、にんにく、唐辛子、つけだれの小皿|Pew Nguyen/Pexels License(商用可・加工可)/2021年公開・明るさ調整あり(原典)
- 箸でつままれた、丸く焼かれた小さな米粉の生地|Theodore Nguyen/Pexels License(商用可・加工可)/2025年公開・明るさ調整あり(原典)
- 赤い台の上、青ねぎをのせた丸い焼き菓子が皿いっぱいに並んでいる(撮影者はバインカンと記載)|Theodore Nguyen/Pexels License(商用可・加工可)/2025年公開・明るさ調整あり(原典)
- 炭火にかけた、くぼみのある型で焼かれている小さな生地|LUC PH@M/Pexels License(商用可・加工可)/2025年公開・明るさ調整あり(原典)
- いくつも並んだくぼみの型から煙が立ちのぼる、路上の焼き台|Dương Nhân/Pexels License(商用可・加工可)/2018年公開・明るさ調整あり(原典)
装飾
紙・テープ・手描きの下線・提灯ガーランドなどの装飾は、ユーザー提供の素材パック htnv-decor-user-pack-01〜04 から切り出して使用。
写真はいずれもPexelsライセンス(商用利用可・改変可)。6枚すべて明るさ・彩度・コントラストを調整している。トリミング・合成はしていない。


