草仔粿

世界の料理図鑑 台湾

草仔粿

草仔粿 ツァオアークエ Mugwort Rice Cake

よもぎの緑の餅に、炒めた切り干し大根。甘くない。NT$30。いくらでも食べられる。

九份の屋台に、緑色の平たい餅が積まれています。バナナの葉の上に乗って、湯気を立てている。

NT$30(約140円)。この図鑑で扱う台湾料理のなかで、いちばん安く、いちばん地味で、いちばん古い。

そして——おそらくいちばん「土地の味」がします。

国・地域
台湾全土。とくに客家(ハッカ)の多い地域と、寺廟のある町
分類
米菓子(蒸し餅)
相場
1個NT$25〜35(約120〜165円)
主な材料
もち米・うるち米の粉、鼠麹草(そきくそう)またはよもぎ、菜脯(切り干し大根)、干し海老、椎茸
味の方向
甘くない。塩気と香ばしさ。甘い餡入りもある
食べる場所
屋台・市場・寺廟の周辺・老舗の菓子店
ベスト時間
いつでも。冷めてもおいしい数少ない一品
一人前
1〜2個。小さいので他の食べ歩きの合間に入る
季節
清明節(4月上旬)の前後は台湾中で作られる
持ち歩き
汁が出ず崩れない。階段の町でも食べ歩ける

01一口目に来るもの

まず草の香りです。日本のよもぎ餅を知っている人なら、ほぼ同じ香りだと感じるはず。ただし少し土っぽく、青い。

噛むと、餅がむちっと歯を押し返す。日本の草餅よりやや歯切れがよく、粘りが控えめ。うるち米が混ざっているためです。

そして中身に届いた瞬間、予想が裏切られます。甘くない。塩気がある。

中身は菜脯(ツァイプー)——切り干し大根を炒めたものです。干し海老や椎茸が一緒に入っていて、香ばしく、しょっぱい。

緑の餅+塩気の具。日本の草餅の記憶で食べると必ず驚きます。そして二口目からは、これが正しいと思うようになる。

草仔粿
割った青団(中国の清明節の菓子)。緑の皮の中は小豆餡。草仔粿の親戚にあたる

02味と食感

皮に使う草は二種類あります。鼠麹草(ねずみのきくそう/台湾では2〜3月)と艾草(よもぎ/3〜5月)。どちらを使うかは店と季節によります。

鼠麹草を使うと、香りがやわらかく、色がやや黄緑に寄る。よもぎのほうが香りが強く、色が濃い。台湾では鼠麹草が伝統的で、清代の文献にも記録があります。

具は塩気系が基本。菜脯(切り干し大根)が最も一般的で、これに干し海老、椎茸、豚のそぼろが入る店もある。

甘い餡(小豆や落花生)を入れたものもあり、こちらは紅豆粿などと呼ばれて区別されます。屋台では両方並んでいることが多いので、買う前に確認したほうがいい。

下にはバナナの葉や竹の皮が敷かれています。蒸すときにくっつかないためですが、香りも移る。

草仔粿
ビニール袋に入った蒸したての青団(中国・杭州の塘棲で撮影)
草仔粿
葉に包まれた状態。持ち帰りではこの形で渡される

鼠麹草とよもぎ

鼠麹草は、日本ではハハコグサ(母子草)と呼ばれます。春の七草のひとつ。葉の裏の白い綿毛がネズミの耳に似ていることからこの名がついた。

興味深いのは、日本と台湾がどちらもこの草を餅に練り込んできたことです。日本ではやがてよもぎが主流になり、台湾では鼠麹草が残った。

色にも違いが出ます。よもぎは濃い緑、鼠麹草はやや黄緑。台湾の草仔粿がくすんだ緑色をしているのは、この草の色です。

草仔粿
木型で模様を押した清明粿。ラード餡の白っぽいもの(中国・浙江省蘭渓で撮影)
草仔粿
皿に載せた胡麻餡の清明粿。木型の模様がくっきり残る(中国・浙江省蘭渓で撮影)
草仔粿
蒸し器に並んだ小ぶりの青団。中国で清明節に作られる同系の菓子
草仔粿

第 二 章

清代の文献に、すでに記録がある

「菜包 草仔粿」の看板を掲げた店頭で作業する店主(桃園・中壢で撮影)

03食べ方の作法

手で持って食べます。下の葉を持って、上からかじる。

温かいうちがいちばんですが、冷めてもおいしい数少ない台湾の屋台料理です。これは重要な特徴で、持ち帰って翌日の朝食にできる。

タレはつけません。そのまま食べる。

一緒に飲むなら無糖の茶。甘くない餅なので、甘い飲みものは合いません。四季春茶がちょうどいい。

食べ歩きに向いています。汁が出ず、崩れず、片手で持てる。九份の階段の町では、これがかなり大きな利点です。

草仔粿
青団を手で包んでいく女性たち。清明節前の作業場(中国で撮影)
草仔粿
青団を売る店頭。週末は行列ができる(中国で撮影)

三月三日、鼠麴草を採り米粉と合わせて粿を作り、先祖を祀る。清代『重修福建臺灣府誌』の記述より

04注文のしかた

「草仔粿(ツァオアークエ)」。台湾語です。北京語では「ツァオズーグオ」に近い。

屋台では並んでいるものを指さして個数を言えば済みます。「一個(イーガ)」「兩個(リャンガ)」。

甘いか塩気かを確かめたいときは「甜的還是鹹的?(ティエンダ ハイシー シェンダ)」=甘いの?しょっぱいの?

客家の店では艾粄(アイバン)という名前で売られていることがあります。同じものです。

値段はNT$25〜35。3個買っても100円台。土産にもなりますが、日持ちはしません。

名前中身味
草仔粿(菜脯)切り干し大根・干し海老・椎茸塩気。最も一般的
草仔粿(甜)小豆や落花生の餡甘い。区別して売られる
紅龜粿小豆餡。赤く染めて亀の模様祝い事の供物
艾粄客家の呼び名。中身は同じ塩気が基本
米菓子の相場(2026年8月時点の目安)価格
草仔粿(塩気・菜脯)NT$25〜35/約120〜165円
紅豆粿(甘い餡)NT$30前後/約140円
紅龜粿(祭祀用の赤い粿)NT$30前後/約140円
碗粿(器状の米蒸し)NT$40前後/約190円
四季春茶(合わせる茶)NT$35前後/約165円

05どこで食べる

市場と屋台、そして寺廟の周辺。もともと祭祀の供物なので、大きな廟の門前には必ず売っている店があります。

九份では基山街の屋台で買えます。NT$30で、九份の食べ歩きのなかで最も安い一品。芋圓や蚵仔煎の合間に、口直しとして入れるとちょうどいい。

客家の町(新竹・苗栗・美濃)では艾粄の名で、より本格的なものが手に入ります。

清明節(4月上旬)の前後は台湾中で作られ、スーパーにも並びます。この時期に行くなら必ず見かけます。

老舗の菓子店では真空パックで売られていて、これなら持ち帰りできます。

草仔粿
木型。粿に文様を押すための道具で、家に代々伝わるものもある
草仔粿
亀甲の文様を彫った型。長寿を意味する
草仔粿
型と供物。粿はもともと祭祀のための食べもの

06歴史と背景

草仔粿は祭りの供物です。清明節、寒食節、中元節に、祖先を祀るために作られてきました。

清代の『重修福建臺灣府誌』には、「三月三日、鼠麴草を採り米粉と合わせて粿を作り、先祖を祀る」という記述があります。つまり少なくとも清代には、この習慣が台湾に定着していた。

緑色である理由も祭祀と関係します。春に芽吹く草を摘んで練り込むことで、季節の巡りを供物に写した。日本の草餅が上巳の節句と結びついているのと同じ発想です。

客家の人々は艾粄と呼びます。「粿を供えて財を生む」という語呂合わせがあり、祖先が子孫の平安と豊かさを守るという意味が込められている。

つまりこの一個NT$30の餅は、台湾でいちばん古い層の食べもののひとつです。牛肉麺が戦後、鶏排が1990年代であることを思えば、その差は歴然としています。

草仔粿
赤い紅亀粿(アンクークエ)と黄色いおこわ。ニョニャ系の家庭の祝いの品
草仔粿
市場の一角。粿は市場で買って家で食べるものでもある

07似ている料理

日本の草餅・よもぎ餅は、材料も季節も同じ。違いは中身が甘いか塩気かという一点だけです。この違いが両国の米菓子の性格をよく表しています。

中国江南の青団(チンチュアン)は、同じく清明節に食べる緑の団子。こちらは甘い餡が主流。

客家の艾粄は同じもの。呼び名が違うだけ。

マレーシア・シンガポールのクエ・コチは、緑ではないもののバナナの葉で包んで蒸す点が共通。

台湾の紅龜粿は、赤く染めて亀の甲羅の模様を押した祝い用の粿。同じ木型の文化に属します。

08豆知識

・鼠麹草は日本では「ハハコグサ(母子草)」——春の七草のひとつです。同じ草を、日本と台湾が別々に餅に練り込んでいた。

・木型に押す文様には意味があります。亀は長寿、桃は不老、魚は豊かさ。供物としての粿は、必ず模様を押します。

・冷めて硬くなったら蒸し直せば戻ります。電子レンジでも可。台湾の家庭では常備菜のように置かれていることもあります。

・「粿(グイ)」は米を加工した食品の総称です。碗粿・蘿蔔糕(大根餅)・紅龜粿——すべて同じ字の仲間です。

為替レート:1台湾ドル(NT$)=約4.7円で換算しています(2026年8月時点)。価格・営業時間は変動します。現地で必ずご確認ください。

写真はすべて Wikimedia Commons より。各画像の作者とライセンスは以下のとおりです。

価格は2026年8月時点の現地相場の目安です。/参考:清代『重修福建臺灣府誌』の記述、客家の艾粄との対応関係を参照。