世界の料理図鑑 台湾
花生捲冰淇淋
花生捲冰淇淋 ホアシェンジュエンビンチーリン Peanut Ice Cream Roll
鉋で削った落花生飴を、薄い皮に敷き、アイスをのせ、その上にパクチー。巻いて渡される。
大工の鉋のような道具で、飴の塊を削っている。屋台の前を通ると、この光景でまず足が止まります。
削られた粉の上に、アイスクリームが二玉。そしてその上にパクチー。ここで多くの日本人が「え」と言う。
NT$50(約235円)。台湾の甘味のなかで、最も説明が難しい一品です。
- 国・地域
- 台湾。宜蘭県が本場。夜市・観光地で広く売られる
- 分類
- 甘味(巻きもの・冷菓)
- 相場
- NT$50前後(約235円)
- 主な材料
- 潤餅皮(薄い小麦の皮)、落花生の麦芽飴、アイスクリーム(芋・落花生味が定番)、香菜(パクチー)
- 甘さ
- しっかり甘い。パクチーが香りで切る
- 食べる場所
- 夜市・観光地の屋台
- ベスト時間
- 夕方から夜。歩きながら食べる
- 一人前
- 1本。手のひらサイズなので重くない
- 支払い
- 現金のみ
- 注意
- 3分で溶ける。買ったらすぐ食べる
01一口目に来るもの
まず皮の頼りなさに驚きます。潤餅(ルンビン)の皮はクレープよりずっと薄く、透けている。持つと中身の重みで垂れる。
噛むと、落花生の粉がざらっと来る。麦芽飴で固めた落花生の塊を削ったものなので、砂糖のじゃりじゃりと落花生の香ばしさが同時に来ます。
次にアイスが溶けだす。台湾のアイスは「叭噗(バープー)」と呼ばれる素朴なタイプで、乳脂肪が少なく、シャーベットに近い。タロイモ味が定番。
そして最後にパクチー。これが不思議なほど機能します。落花生飴の甘さとアイスの冷たさのあいだに、青い香りが一本入る。甘ったるさが消える。
食べるまで信じられないが、食べると納得する——この一品はそういう構造をしています。

02作り方を目の前で見る
この甘味の面白さの半分は、作る工程が全部見えることにあります。
① 屋台の台に、落花生の麦芽飴の塊が置いてある。長さ30cmほどのレンガ状で、鉄板のように硬い。
② 店主が木工用の鉋(かんな)でこれを削る。しゃっ、しゃっという音とともに、白い粉が落ちる。
③ 潤餅の皮を広げ、削った粉を敷く。
④ アイスを二玉のせる。芋(タロイモ)と花生(落花生)を一玉ずつにする店が多い。
⑤ パクチーをひとつかみ。ここで「要香菜嗎?(パクチー入れる?)」と聞かれます。
⑥ 巻いて、紙で包んで渡す。ここまで30秒ほど。


鉋で削るという発想
なぜ削るのか。答えは落花生飴が硬すぎるからです。
麦芽飴で固めた落花生の塊は、ハンマーで割れるほど硬い。これを砕いて粉にすると、粒が粗くなって舌に残る。
鉋で削ると、厚さ0.1mm以下の薄片になります。口に入れた瞬間に溶けはじめ、粉のようにほどける。この繊細さは砕いた粉では出ません。
木工用の道具を菓子に転用する——このアイデアがこの甘味の核心です。鉋を使っていない店の粉は、明らかに粗い。



第 二 章
日本統治時代の発想に、宜蘭がパクチーを足した
屋台の店先。作る様子が見えるように台が客側を向いている
03パクチーを入れるか、入れないか
結論から言うと、本式は入れます。
この「パクチーを入れる」という発想は宜蘭の人が独自に考えたものとされ、いまではこの甘味の魂とまで言われています。
理屈としては、落花生飴の甘さ+アイスの甘さという単調な甘さの重なりに、青い香りで縦の線を入れる。実際に食べ比べると、パクチーなしのほうが平坦に感じます。
とはいえ、パクチーが本当に苦手な人には拷問です。「不要香菜(ブーヤオ シャンツァイ)」で抜いてもらえます。
折衷案として、少量だけ入れてもらうのもあり。「一點點(イーディエンディエン)」=少しだけ。これが初めての人には最も安全です。
甘いものに、香草を一本。信じられないが、食べると納得する。宜蘭の屋台にて
04食べ方の作法
手で持って食べます。紙で包んで渡されるので、下から押し上げながら。
急いでください。アイスが溶けると皮が破れます。3分が勝負。
皮は薄いので、下から液が垂れてくることがある。白い服のときは注意。
半分に切ってもらうことはできません。構造上、切ると崩壊します。
食べ歩きに向いていますが、階段では止まって食べたほうがいい。九份で買うなら、平らな場所を確保してから。


05注文のしかた
「花生捲冰淇淋(ホアシェンジュエン ビンチーリン)」。長いので、指さしが早い。
アイスは種類を選べる店が多い。芋頭(タロイモ)・花生(落花生)・鳳梨(パイナップル)・紅豆(小豆)。迷ったら芋頭と花生を一玉ずつ。
パクチーは「要香菜(ヤオ シャンツァイ)」「不要香菜(ブーヤオ シャンツァイ)」「一點點(イーディエンディエン)」。
アイスを3玉に増やせる店もあります。NT$60前後。
06どこで食べる
本場は宜蘭県です。とくに礁溪や蘇澳の老舗は行列ができ、鉋で削る様子を見るためだけに人が集まります。台北から電車で1時間半ほど。
台北なら夜市の屋台。士林、寧夏、饒河街あたりで見かけます。ただし常設ではないので、あったら食べておくこと。
九份の基山街でも売っています。観光地なので出店率は高い。
台湾各地の観光地でも見かけますが、削りたてを出す店とあらかじめ削った粉を使う店がある。鉋を持っている店を選んでください。香りがまったく違います。



07歴史と背景
花生捲冰淇淋の成立は日本統治時代にさかのぼると言われます。
当時の宜蘭では、落花生の麦芽飴(花生糖)と潤餅(春巻きの皮で具を巻く食べもの)がどちらも身近な食べもので、そこに叭噗(バープー)と呼ばれるアイスが普及し始めた。
この三つを組み合わせたのが、当時台湾にいた日本人だったという説が伝わっています。木工用の鉋で飴を削るという発想も、この時期のものとされる。
そしてパクチーを加えたのは宜蘭の人自身。外から来た組み合わせに、地元が最後の一手を足した。
つまりこの甘味は、日本の発想と台湾の味覚が一本のなかに巻き込まれている。台湾の食文化の重層性が、これほどわかりやすく形になっているものは他にありません。


08似ている料理
台湾の潤餅(ルンビン)は同じ皮を使う食事用の巻きもの。豚肉、もやし、キャベツ、落花生粉を巻く。清明節に食べる習慣があります。
香港の雞蛋仔アイスは生地でアイスを包む点が似ていますが、生地が厚く甘い。
メキシコのブリトー・デ・エラードやトルコの巻きアイスとも構造は近いものの、削った飴とハーブを一緒に巻くのは台湾だけです。
日本のクレープは最も近い形ですが、生クリームと果物という組み合わせで、方向がまったく違います。
09豆知識
・アイスは「叭噗(バープー)」と呼ばれる台湾の伝統的なアイス。かつて売り歩くときにラッパを鳴らしたので、その音が名前になりました。
・落花生飴の塊は湿気ると削れなくなります。だから雨の多い日は屋台が出ないことがある。九份は雨の多い町なので、見かけたら買っておくこと。
・タロイモ味のアイスが定番なのは、宜蘭・大甲がタロイモの産地だから。芋圓と同じ材料が、こちらではアイスになっています。
・「捲」は巻くという字。台湾の看板では「花生捲」だけで通じることも多い。





