
カプンス
Capuns / Chapunschard-wrapped Graubünden dumplings
マンゴールドの葉を開くと、中からハーブと保存肉を混ぜた柔らかな生地。家ごと・谷ごとに姿が変わる、スイス東部グラウビュンデンの包み料理。
葉で包むのは、肉ではなく厚い生地
見た目はロールキャベツでも、中心はシュペッツレに近い小麦粉生地。
カプンスはスイス東部グラウビュンデン州を代表する料理である。スイス連邦外務省系のPresence Switzerlandは、シュペッツレ生地と肉片を詰めたマンゴールドの巻き物として紹介する。葉の内側へ挽肉や米ではなく、粉・卵・乳や水を混ぜた厚い生地を置く点が、よく似た包み料理との大きな違いだ。
生地にはSalsiz、Bündnerfleisch、ハム、ベーコンなどの保存肉と、パセリ、チャイブ、ミントなどの香草を細かくして混ぜる。仕上げには山のチーズ、バター、クリーム、炒めたベーコンなどを重ねるが、クール観光局が『無数のレシピ』と表現するほど、家庭差は料理の定義そのものに入り込んでいる。

グラウビュンデンの盛り付け例。葉の内側に厚い生地を包む。
マンゴールド、粉、卵、保存肉を一包みにする
外側は葉、内側は生地。そこへ保存性の高い肉と香草が入る。
クールの地域レシピでは白小麦粉、卵、水、牛乳、Landjäger、Salsiz、生ハム、パセリ、チャイブ、縮れミントを使う。Val Müstairの公園ネットワーク資料ではSalsizとBündnerfleisch、炒めたタマネギを生地へ加える。核は若いマンゴールドの葉と粘りのある生地だが、肉と香草の選び方は一様ではない。
マンゴールドは単なる容器ではない。短く下茹でしてしなやかにした葉は、煮るうちに柔らかくなり、青い風味を残す。内側の生地の弾力、保存肉の塩気、乳製品のコクと同じ一口で重なるため、葉・生地・煮汁の三層で料理を見ると構造が分かりやすい。

包み料理なのに、中身は餡ではなく生地。葉に包まれたシュペッツレと考えると、カプンスの構造が見えやすい。
ひとさじずつ葉へ置き、乳とブイヨンで煮る
工程は素朴でも、生地の固さ、煮汁、最後の焼きで家の味が分かれる。
基本工程は、粉・卵・乳や水を混ぜて厚い生地を作り、刻んだ保存肉と香草を加え、下茹でした葉へひとさじずつ置いて巻く。その包みをブイヨン、牛乳、クリームなどで穏やかに煮る。葉を破かず、生地へ火を通しながら形を保つのが要点になる。
RTRのレシピは、マンゴールド約20枚を使い、ブイヨンとクリームで約5分煮てから耐熱皿へ移し、チーズを振って200℃で短く焼く。別の地域資料には牛乳とブイヨンを同量にして約10分煮る型や、卵黄入りのクリームソースをかける型もある。『煮る料理』の先に複数の仕上げがある。


18世紀の記録と、戦争から生まれたという起源伝承
古い料理であることと、発明物語が史実であることは分けて読む。
牧師・著述家Nicolin Sererhardが1742年にまとめたグラウビュンデンの記録は、地域民俗を知る重要史料とされる。後世の料理史では、そこに栄養のある地域食が現れると参照されてきた。またgraubündenVIVAが紹介する1876〜1925年のKrautkapaunenには、マンゴールド、パン粉、卵、多量の香草、牛乳、白ワイン、山のチーズを用い、乾燥肉を中心にしない型も残る。
RTRは18世紀末、ロシア兵の略奪後に農家の女性が残った粉・脂・卵と葉で作ったという物語を紹介する。ただしこれは起源伝承で、発明時点を確定する一次史料ではない。現在の肉入りだけを正統とせず、古い肉なし型と伝承を分けて示すほうが、料理の長い変化を正確に伝えられる。

Sererhardの著作が後世の料理史でも参照される
2022年のOLMAで州政府が披露
完成品・葉・工程を重複なく掲載
谷と家庭の数だけ、葉・肉・ソースが変わる
セドルン、ファレラ、Val Müstair。同じ名でも皿は同じ顔にならない。
カプンスはロマンシュ語文化圏、とくにスルセルヴァとの結びつきが強い一方、現在はグラウビュンデン全体を象徴する料理として広がっている。SalsizとBündnerfleischを合わせる型、生ハムやLandjägerを使う型、肉を入れない型がある。葉もマンゴールドが中心だが、ホウレンソウ、レタス、サボイキャベツなどへ替える例が記録される。
名称にも言語地域の層が見える。資料にはCapuns、Chapuns、Krautkapaunen系の呼称があり、料理名そのものがロマンシュ語圏の生活語彙と結びつく。シュペッツレやピツォケルとは生地が近いが葉で包む点が異なり、ロールキャベツやドルマとは外形が近いが中心が粉と卵の生地である点が異なる。
Capunsカプンス
capuns / chapuns
厚い粉生地をマンゴールドで包み、乳やブイヨンで煮る。
Spätzliシュペッツリ
spätzli
近い生地を湯へ落として茹でるが、葉では包まない。
Pizokelピツォケル
pizokel
地域的にも近い粉料理。固い生地をカプンスへ使う例もある。
Stuffed leaves葉の包み料理
cabbage rolls / dolma
外形は似るが、中心が挽肉や米ではなく厚い粉生地。


17メートルの一個まで作る、州の文化アイコン
家庭の煮込み料理が、グラウビュンデンらしさを伝える象徴になった。
2022年10月15日、グラウビュンデン州はOLMAのパレードで全長17メートルのカプンスを披露した。Guinness登録ではない非公式記録だが、2018年の16.44メートルを上回り、ミルクブイヨン込みで約45キログラム。Tiefencastelの小麦粉、Malansの葉マンゴールド、Ramoschの肉を使ったと州政府が記録している。
巨大な一個は行進中に切り分けられ、約1000切れが来場者へ配られた。州政府、観光局、ロマンシュ語公共放送、公園ネットワークがそれぞれカプンスを紹介している事実からも、この料理は家庭の食卓だけでなく、土地・言語・農産物を外へ説明する文化アイコンになっている。
基本情報
- 国・地域
- スイス・グラウビュンデン州。とくにロマンシュ語圏、スルセルヴァとの結びつきが強い
- 現地名
- Capuns。資料によりChapuns、Krautkapaunen系の呼称も見られる
- 分類
- マンゴールドで厚い生地を包む主菜・郷土料理
- 主な材料
- 小麦粉、卵、牛乳または水、マンゴールド、保存肉、香草
- 加熱
- 乳・ブイヨン・クリームなどで煮る。チーズをのせて焼く型もある
- 地域差
- 肉なし、別の葉、じゃがいも・ズッキーニ・モリーユ入りなど幅広い
- 現在
- 家庭料理であると同時に、州の文化と農産物を伝える象徴
出典
- Presence Switzerland / FDFA『Swiss cuisine』(カプンスをグラウビュンデンの典型料理として紹介)
- Chur / Graubünden Tourism『Capuns』(無数のレシピ、材料、乳とブイヨンで煮る基本工程)
- Radiotelevisiun Svizra Rumantscha『Capuns』(ロマンシュ語併記の材料・工程、家庭差、起源伝承)
- Netzwerk Schweizer Pärke / Biosfera Val Müstair『Capuns』(Val Müstairの材料と調理法)
- graubündenVIVA『Krautkapaunen 1876–1925』(歴史レシピと肉を中心にしない型)
- Kanton Graubünden『Bündner Weltrekord an der OLMA』(2022年の17mカプンス、地域食材、約1000切れの配布)
- Historisches Lexikon der Schweiz『Sererhard, Nicolin』(1742年著作の成立と民俗資料としての位置づけ)
- foodnews.ch / Dr. Bruno Baumann『Capuns』(名称説明、地方型、1742年記述を伝える二次資料)
写真(8枚)
- 1. スイス・グラウビュンデン州ファレラで撮影されたカプンス / Adrian Michael / CC BY-SA 3.0 / 原典
- 2. スイス・グラウビュンデンで盛り付けられたカプンス / Adrian Michael / CC BY-SA 3.0 / 原典
- 3. カプンス作りに使うマンゴールドの葉 / Adrian Michael / CC BY-SA 3.0 / 原典
- 4. マンゴールドの葉で生地を包んだ加熱前のカプンス / Adrian Michael / CC BY-SA 3.0 / 原典
- 5. マンゴールドとサボイキャベツで包むカプンス・スルシルヴァンの調理工程 / Frank C. Müller / CC BY-SA 4.0 / 原典
- 6. グラウビュンデンで盛り付けられた少量のカプンス / Adrian Michael / CC BY-SA 3.0 / 原典
- 7. スイス・レンツァーハイデのホテルで供されたカプンス / Benreis / CC BY 3.0 / 原典
- 8. スイス・グラウビュンデン州セドルンで撮影されたカプンス / Adrian Michael / CC BY-SA 3.0 / 原典
写真はWikimedia Commonsの各原典で作者とCC BY・CC BY-SAライセンスを確認した8点です。すべてサイト内に取り込み、本文では明るさ・コントラスト・彩度を控えめに補正して表示します。


