トルクメニスタン・ダルヴァザ ―― カラクム砂漠を260km北上する5日間
地獄の門への、
世界でいちばん詳しい行き方
1971年から燃え続ける直径約60mの穴。行くにはビザ招請状が要り、ガイドが要り、4WDが要ります。申請の3か月前から、砂の上の最後の1kmまで、手順をぜんぶ書きました。食べたもの22品も、食べた場所ごとに味つきで。写真112枚の道中記です。
い ま こ こ
カラクム砂漠のまんなかに、直径およそ60〜70m、深さ約20mの穴が開いていて、そこから火が噴き出しています。1971年、ソ連の調査隊がここでボーリングをしていて地盤が陥没しました。有毒ガスが漏れ出したので「燃やしきってしまえば数週間で止まるだろう」と火をつけた。それが50年以上、止まっていません。
地元ではダルヴァザ(Darvaza/Derweze)のガスクレーターと呼ばれ、英語圏では「Door to Hell(地獄の門)」。2018年にトルクメニスタン政府が「カラクムの輝き」という公式名を付けましたが、世界的にはいまだに地獄の門で通っています。
そして、この記事でいちばん伝えたいこと。火は、確実に弱まっています。国営ガス会社トゥルクメンガスは2025年6月、炎が「かつての3分の1程度」に縮小したと発表しました。以前は数km手前から赤い光が見えたのに、いまは穴のふちに立たないと火が見えないとも報告されています。政府は2022年に消火の方針を出し、周囲に新しい井戸を掘ってガスを抜く計画を進めています。行くなら、早いほうがいい場所です。
この記事は、ビザ申請の3か月前から書き起こします。招請状、ガイド、ドバイ乗り継ぎ、アシガバートの白い街、そして砂漠を北へ260km。最後の未舗装区間の走り方まで、順番にぜんぶ連れて行きます。
- 行き先
- トルクメニスタン ダルヴァザ・ガスクレーター(地獄の門)。首都アシガバートの北約260km、車で3〜4時間
- ビザ
- 個人では取れません。認可を受けた現地旅行会社に依頼して招請状(LOI)を作ってもらい、国家移民局の承認を得てから大使館で観光ビザを取得。LOI手数料は100〜300ドル(約1万5,700〜4万7,100円)、ビザ代は50〜150ドル(約7,850〜2万3,600円)
- 申請の時期
- LOIは入国予定日の3か月前から4週間前までに提出。承認に5〜20日かかります。つまり「思い立ってから最短でも1か月半」
- 2026年の変更
- 2025年4月14日の移民法改正でLOI不要の電子ビザ制度が法制化されました。ただし2026年8月時点で運用開始日は未定。現時点では従来どおりLOIが必要です
- ガイド
- 観光ビザはガイド同行が原則必須。単独での自由行動はできません。トランジットビザ(3〜7日・通常5日)ならガイド不要ですが、取得の難度が高く、ルートも指定されます
- 行き方
- 日本からの直行便なし。ドバイ(DXB)またはイスタンブール(IST)乗り継ぎでアシガバート(ASB)へ。トルクメニスタン航空とターキッシュエアラインズが運航
- ツアー料金
- クレーター込みの7泊パッケージで2,300〜2,450ドル(約36万〜38万5,000円)。アシガバート発の日帰り/1泊ツアーならもっと安く組めます
- 通貨
- トルクメニスタン・マナト(TMT)。公式レートは1ドル=3.50マナト。ただし実勢の闇レートは公式と大きく乖離しており、両替は必ず旅行会社の指示に従うこと
- 換算レート
- 本記事は1ドル=157円/1マナト=約45円(公式レート換算)で計算(2026年8月時点)。金額は2026年8月時点の目安としてお読みください





第 一 章
ドバイで乗り継ぐ。
ここまでは簡単だ
成田→ドバイ 約11時間30分/ドバイ→アシガバート 約2時間30分/乗り継ぎ3時間以上推奨
い ま こ こ
日本からトルクメニスタンへの直行便はありません。現実的な選択肢は2つ、ドバイ乗り継ぎかイスタンブール乗り継ぎです。便数と接続の良さでいえばドバイ。トルクメニスタン航空のドバイ―アシガバート線は同社の主力路線のひとつで、運航が安定しています。
所要は成田→ドバイが約11時間30分、ドバイ→アシガバートが約2時間30分。乗り継ぎは3時間以上を見てください。トルクメニスタン航空はターミナルが分かれていることがあり、移動に時間がかかります。
ここで大事な確認をひとつ。ビザは日本を出る前に必ず取り終えておくこと。アシガバート空港での到着ビザ(VOA)は制度としてありますが、これも事前に取得したLOIが前提です。LOIなしで飛ぶと、確実に入国できません。



トルクメニスタン航空のチェックインカウンターに並ぶと、雰囲気が変わります。ここから乗る人の大半が現地の人で、荷物の量が圧倒的に多い。段ボール箱をテープでぐるぐる巻きにしたものが次々に預けられていきます。
機内は静かです。飲みものが配られ、簡単な軽食が出る。窓の外は、ペルシャ湾を越えたあとはずっと茶色い地面が続きます。カスピ海を過ぎたあたりから、地面の色が黄色みを帯びてくる。それがカラクム砂漠です。






第 二 章
アシガバート着陸。
鳥の形をした空港
入国審査で入国税など約14ドル/ガイドが到着口で待つ/両替は空港内で
い ま こ こ
アシガバート国際空港のターミナルは翼を広げた鳥の形をしています。2016年に完成した新ターミナルで、建設費は20億ドル超と報じられました。人口約100万人の首都の空港としては、明らかに過大な設備です。中に入ると、天井が高く、床が磨き上げられていて、そして人がいない。
入国審査では、パスポート、ビザ(またはLOIに基づく到着ビザ)、そして入国カードを提出します。入国税・登録料などで合計14ドル前後(約2,200円)が現金でかかります。ドル紙幣は折り目のない新しいものを用意してください。汚れや破れがあると受け取ってもらえないことがあります。
荷物を受け取って外に出ると、ガイドが名前を書いた紙を持って立っています。ここから帰国まで、この人が付きます。車は基本的にトヨタのランドクルーザーかそれに準ずる4WD。ダルヴァザへ行くなら、これは必須の装備です。



ホテルに着いたのは夜。最初の食事がここで出ます。トルクメニスタン料理の第一印象は、「羊と、米と、パン」です。
出てきたのは羊肉のロースト、白いご飯、そして生野菜のサラダという一皿。羊は骨付きのブロックを長時間焼いたもので、脂の香りが強いのに、くどくない。中央アジアの羊は草だけを食べて育つので、日本で食べるラム肉より匂いが穏やかだと言われます。塩とクミンだけの味付けで、肉そのものの味で押してきます。
そして必ず付くのがサラダ(アチチュク)。トマト、きゅうり、玉ねぎを薄く切って重ねただけのもので、ドレッシングは塩と、あっても酢が少し。これがとにかく効きます。羊の脂を、トマトの酸味と玉ねぎの辛味が切っていく。中央アジアの食卓では、このサラダが油の多い料理と必ずセットになっていて、理屈がはっきりしています。











第 三 章
白い大理石の首都。
写真を撮っていい場所が決まっている
中立記念塔・独立記念塔は撮影可/官庁と大統領府は撮影不可/日中は40℃超
い ま こ こ
アシガバートは「白い大理石で覆われた建物の密度が世界一」としてギネス世界記録に認定された都市です。認定時の数字は、約4.5平方kmの範囲に543棟、総面積で約466万平方メートル。街を歩くというより、街に置かれている感じがします。
大通りは片側4〜5車線。並木と噴水が延々と続き、車はほとんど走っていません。歩いている人も少ない。建物は白く、屋根は金色、そして夜になると全部ライトアップされます。維持費を考えると気が遠くなる光景です。
ここで最初に覚えるのが撮影のルールです。記念碑や公園は基本的に撮れます。しかし官庁、大統領府、警察、軍関係、空港の一部は撮影禁止。ガイドが「ここはだめ」と言ったら、カメラを下ろす。制服の人が写り込むだけでも問題になることがあります。



主な見どころは3つ。中立記念塔(Neutrality Monument)は高さ95m、三脚のような形をした塔で、頂上に金色の像が立っています。かつては像が太陽を追って回転していたことで知られました。独立記念塔は高さ118m、下部が半球形のドームで、周囲を歴史上の英雄の像が囲みます。そしてトルクメンバシ・ルーフィ・モスクは中央アジア最大級のモスクで、ドームの高さ55m、ミナレットは4本それぞれ91m。1991年の独立年にちなむ数字です。
日中の気温は夏で40℃を超えます。7〜8月は地表温度が50℃近くになるので、観光は朝と夕方に寄せるのが基本です。ベストシーズンは4〜5月と9〜10月。



昼食で必ず出会うのがチョレック(çörek)――タンドール窯の内壁に貼り付けて焼く、丸くて平たいパンです。中央アジア全域にある形式ですが、トルクメンのものは比較的厚く、中央がくぼんで模様が押されています。
外皮はぱりっと硬く、中はみっしり詰まっていて、噛むと小麦の甘みがゆっくり出てくる。塩気はほとんどありません。だからスープに浸したり、羊の脂をぬぐったりするのに使う。焼きたては表面が熱くて持てないくらいで、この状態がいちばんおいしい。1枚1〜3マナト(約45〜135円)で、街のどこでも売っています。
パンを焼くタンドール窯も見せてもらえます。粘土でできた壺型の窯で、底に薪や炭を入れて内壁を熱し、生地を手で叩きつけて貼り付ける。焼き上がりは5〜10分。落ちた生地は取れないので、貼り付ける瞬間が勝負です。
そして緑茶(ゴク・チャイ)。トルクメニスタンでは食事に必ず緑茶が付き、夏でも熱いものを飲みます。砂糖は入れないことが多く、日本の緑茶より渋みが弱く、香ばしさが強い。汗をかいて体温を下げるという、砂漠の理にかなった飲み方です。










第 四 章
バザール。
ここだけ人がいる
ロシア・バザール(ジグリ市場)/朝7時〜/絨毯は輸出許可が要る
い ま こ こ
白い街を半日歩いて、いちばん「人がいる」と感じるのがバザールです。アシガバートの中心にある通称ロシア・バザール(ジグリ市場)は朝7時ごろから動きはじめ、野菜、果物、肉、乳製品、香辛料が段状の台に山積みになります。
ここは撮影の可否が微妙な場所です。商品は撮れますが、人を正面から撮るのは避ける。売り子に一声かけて、うなずいてもらってから撮るのがいちばん確実です。



市場で食べるものといえばサムサ(somsa)。小麦の生地に羊肉と玉ねぎ、羊の脂を包み、これもタンドール窯の内壁に貼り付けて焼いた三角形のパイです。インドのサモサと語源は同じですが、揚げずに焼くのが中央アジア式。
焼き上がりを割ると、湯気と一緒に肉汁が出てきます。皮は層になっていて、外側はぱりっと、内側は肉汁を吸ってしっとり。中の羊肉は挽き肉ではなく粗く刻んであり、噛むと肉の粒感が残る。玉ねぎの甘みと羊の脂が混ざって、かなり濃い味です。1個3〜6マナト(約135〜270円)。熱いうちに、立ったまま食べるのが正しい。
窯に貼り付ける作業も市場で見られます。職人が生地の裏に水をつけ、窯の中に上半身を突っ込んで、内壁に叩きつける。窯の中は300℃近くあるので、これを一日中やる人の腕は独特の焼け方をしています。
甘いものならドライフルーツとナッツ。干しあんず、レーズン、干しメロン、クルミ、アーモンド。中央アジアの干しあんずは日本のものより酸味が強く、種を割って中の仁も食べます。100グラム5〜15マナト(約225〜675円)で量り売り。
そして夏ならスイカとメロン。トルクメニスタンには「メロンの日」という国の祝日があるほどで、8月の第2日曜がそれにあたります。とくにヴァハルマン種のメロンは糖度が非常に高く、香りが強い。スイカは日本のものより果肉が締まっていて、水っぽくない。1個15〜40マナト(約675〜1,800円)。





もうひとつ、この国を象徴するのが絨毯(トルクメン絨毯)です。深い赤地に、部族ごとに異なる「ギョル」と呼ばれる八角形の紋様を並べたもので、国旗にもこの紋様が5つ描かれています。
アシガバートには国立絨毯博物館があり、世界最大級の手織り絨毯(301平方メートル、重さ1トン超)が展示されています。買うこともできますが、古いものや大きいものは輸出許可証が必要で、博物館の鑑定と手数料が要ります。旅行会社に必ず相談してください。







第 五 章
汗が赤い馬と、
2000年前の要塞
ニサ遺跡は世界遺産/入場は要ガイド/アシガバートから車で20分
い ま こ こ
砂漠に出る前に、あと2つだけ。ひとつはアハルテケ馬です。トルクメニスタンの国章にも描かれている在来種で、細く長い首と、金属のような光沢を持つ被毛が特徴。「黄金の馬」「汗血馬(かんけつば)」と呼ばれ、古代中国が求めた「汗が血のように赤くなる馬」の正体だとする説があります。
実際に見ると、まず体型が細いことに驚きます。サラブレッドより胴が薄く、脚が長い。砂漠を長距離走るために極端に絞られた体です。毛は日の当たり方で金色に光ります。
もうひとつがニサ遺跡。アシガバートから車で約20分、紀元前3世紀ごろのパルティア王国の要塞都市跡で、2007年にユネスコ世界遺産に登録されています。日干し煉瓦の城壁が丘の上に残っていて、周囲は何もない乾いた大地。建物は復元されていないので、遺跡の輪郭を自分で想像しながら歩くタイプの場所です。



昼食はアシガバート近郊の食堂で。ここで出てきたのがラグマン(laghman)でした。手延べの太い小麦麺に、羊肉、玉ねぎ、パプリカ、トマト、大根などを炒め煮した具をかけたもの。中央アジア全域にありますが、ウイグル由来とされています。
麺は太くて弾力が強く、うどんよりコシがあって、噛み切るのに力が要ります。スープは少なめで、トマトの酸味とクミンの香りが立つ。羊の脂がスープに溶けていて、日本のラーメンとは全然違う、油と酸味のバランスで食べさせる料理です。1皿20〜35マナト(約900〜1,575円)。
スープを多めにした「汁ラグマン」と、汁なしで炒めた「炒めラグマン」があり、店によって出てくるものが違います。汁の量を選べる店なら、暑い日は汁なしのほうが食べやすいと教えられました。






第 六 章
カラクムを北へ260km。
ここからが本番
アシガバート→ダルヴァザ 約260km・3〜4時間/最後の約5kmは未舗装/4WD必須
い ま こ こ
ここからが、この記事の本題です。アシガバートからダルヴァザまでの行き方を、区間ごとに書きます。
【全体】距離は約260km、所要は3〜4時間。ルートはアシガバート―ダショグズ幹線道路(M37の北行き区間)を北へ一本。途中で分岐はほとんどありません。
【区間1/アシガバート〜約80km】市街を出るとすぐ砂漠に入ります。舗装は比較的良好。ただし検問所(チェックポイント)が複数あり、そのたびにパスポートとビザの確認があります。ガイドが手続きをするので、後部座席で待っていればいいのですが、合計で30〜60分は取られると見ておいてください。
【区間2/80km〜200km】ひたすら直線。両側は低木の生えた砂の平原で、目印になるものがほとんどない。路面は場所によって荒れていて、ひび割れや轍があります。ガソリンスタンドと食堂は50〜80kmおきにしかないので、見つけたら必ず寄る。これは冗談ではなく、次がいつ来るか分かりません。
【区間3/200km〜幹線を降りるまで】ダルヴァザ村の手前で、幹線道路の右側(東側)に目印のない未舗装の入口があります。標識はありません。ガイドか運転手が知っているかどうかが全てで、初めての人が自力で見つけるのは困難です。GPSの座標としてはおおむね北緯40度15分・東経58度26分付近になります。
【区間4/最後の約5km】ここからが4WDの出番です。柔らかい砂の上を走ります。普通車では確実にスタックします。タイヤの空気圧を落として面圧を下げ、勢いを殺さずに走る。運転手はこれを毎回やっています。所要は15〜30分。日没後にここを走るのはさらに難度が上がるので、明るいうちに現地入りするのが鉄則です。



途中の食堂(チャイハナ)で昼食です。メニューは限られていて、たいていスープか、麺か、串焼きのどれかになります。
チョルバ(çorba)は羊肉と野菜、豆を煮込んだスープです。じゃがいも、にんじん、玉ねぎ、ひよこ豆が入り、上に刻んだハーブがのる。羊の骨から取った出汁がしっかり出ていて、脂は多いのに味そのものは素朴。塩気は控えめで、卓上の塩で自分で調整します。パン(チョレック)をちぎって浸すのが正しい食べ方です。1杯12〜25マナト(約540〜1,125円)。
もう一種類、より澄んだスープを出す店もあります。羊肉の塊と野菜を長時間煮て、浮いた脂をすくったもの。こちらは驚くほど透明で、飲むと羊の甘みだけが残る。ハーブ(ディルやコリアンダー)を大量に散らすので、香りは強い。砂漠の真ん中で熱いスープを飲むのは奇妙な体験ですが、汗をかいて体が楽になります。
パンは丸い形のものが出ることが多い。都市部の平たいチョレックより厚く、中がふかふかしています。スープに浸すとよく吸うので、これはこれで合理的です。










第 七 章
ユルトに泊まる。
火口まで徒歩5分
クレーターから約500m/トイレは簡易/電気は発電機/シャワーなし
い ま こ こ
クレーターのそばには、いまでは常設のユルト(遊牧民の移動式住居)キャンプがあります。火口から約500m、歩いて5分。かつては各自でテントを張るしかありませんでしたが、観光客が増えたことで小さな集落のようになりました。
ユルトは木の骨組みにフェルトを巻いた構造で、中は思ったより広い。床には絨毯が敷かれ、布団が積まれています。断熱性が高く、日中の熱を遮り、夜の冷えも防ぐ。砂漠で1,000年以上使われてきた形には理由があります。
設備は割り切ってください。電気は発電機で夜間のみ。シャワーはありません。トイレは簡易のもの。水はペットボトルの持ち込みが基本です。1泊の料金はツアーに含まれることが多く、単体なら1人50〜120ドル(約7,850〜1万8,800円)が目安。






夜の食事は、キャンプの外で炭を熾して作ります。ここで出るのがシャシリク(şaşlyk)――中央アジアの串焼きです。
羊肉を大きめに切って玉ねぎと酢、塩で数時間漬け、鉄の串に刺して炭火で焼く。特徴は、肉と肉のあいだに羊の脂身を挟むこと。焼くと脂が溶けて赤身に流れ落ち、パサつきません。表面は焦げて香ばしく、中はまだ赤みが残るくらいで供される。噛むと肉汁と一緒に炭の香りが来ます。
味付けは塩とクミンだけ。タレは使いません。代わりに、生の玉ねぎをスライスして酢と塩でもんだものを一緒に食べます。脂を切るためです。1本15〜30マナト(約675〜1,350円)。
これにご飯が付きます。バターで炒めたような黄色いご飯で、羊の脂が回っている。串焼きの脂と合わせると相当重いのですが、砂漠で一日過ごした後だと不思議と食べられます。
付け合わせは必ず生野菜。トマト、きゅうり、玉ねぎ、ハーブ。この国の食事は「脂の多い主菜+酸味のある生野菜」という組み立てが徹底していて、どの店に行っても同じ構成になります。








第 八 章
昼の火口。
正直、地味です
直径約60〜70m/深さ約20m/柵は一部のみ/ふちまで歩ける
い ま こ こ
先に正直なことを書きます。昼のダルヴァザは、地味です。茶色い大地に、茶色い穴が開いていて、その底で炎が揺れている。写真で見る「燃えさかる地獄の門」の印象とは、かなり違います。
穴の大きさは直径およそ60〜70m、深さ約20m。ふちに立って見下ろすと、底一面から小さな炎がぽつぽつ噴き出しているのが見えます。ガスが噴き出す穴はひとつではなく、底のあちこちに数百か所あって、それぞれが独立して燃えています。
そして、ここが重要です。近づくと熱い。ふちから1〜2mのところで、顔に当たる熱は焚き火の前に立っているのと同じくらい。風向きが変わると一気に熱風が来るので、風上に立つのが基本です。硫黄の匂いもします。
柵は一部にしかありません。大半のふちは何もない状態で、地面はもろい砂と焼けた土です。過去に縁が崩落した記録があり、ふちから50cm以内には立たないようガイドから強く言われます。三脚を立てるときも同じです。



昼のあいだにやっておくといいこと。ひとつは、クレーターを一周すること。直径60〜70mなので、外周を歩いて15〜20分。角度によって炎の見え方が全然違うので、夜にどこに立つかを決めておけます。
もうひとつは近くにある「水のクレーター」と「泥のクレーター」を見ること。実はダルヴァザには同じ由来の穴が3つあり、燃えているのは1つだけ。あとの2つは水が溜まったものと、泥が沸いているものです。ツアーによっては両方寄ります。
昼食は簡素です。キャンプで出るのは生野菜のサラダとパン、そして缶詰か作り置きのおかず。ここでもサラダの存在感が大きい。トマトは日本のものより酸味が強く、皮が厚く、味が濃い。水が貴重な土地でこれだけの野菜が出てくるのは、灌漑で作られたオアシス農業のおかげです。







第 九 章
日が落ちた。
穴が、赤くなる
ベストタイムは日没後30分〜/気温は夏でも夜20℃前後/防風対策必須
い ま こ こ
日没の30分後から、クレーターは別の場所になります。空の青がまだ残っているうちに、穴の中だけが橙色に光りはじめる。この「青と橙が同時にある時間」が、写真としてはいちばん美しい。完全に暗くなると、空が黒く沈んで炎だけが浮きます。
ふちに立つと、下から熱と光が上がってきます。音があります。ゴーッという低い音が絶えず鳴っていて、これはガスが噴き出す音です。風が吹くと炎が一斉に傾き、音が大きくなる。「地獄の門」という名前が誰の発案かは諸説ありますが、ここに立つと納得はします。
撮影の設定を書いておきます。三脚は必須。手持ちでは炎の揺れを止められません。露出はF5.6〜8、ISO400〜800、シャッター1〜4秒あたりから始めて、炎の白飛びを見ながら詰めていく。炎は明るいので、暗い場所の撮影という感覚だとまず飛びます。星と一緒に入れたいなら、炎に露出を合わせた1枚と、星に合わせた1枚を撮って合成するのが現実的です。
そして風対策。砂漠の夜は風が強く、砂が舞います。レンズ交換は絶対に風下でやらないこと。カメラはビニール袋かレインカバーに入れておく。三脚の足も砂で汚れるので、帰ってから必ず洗ってください。






そして、ここでもう一度、いちばん大事なことを書きます。
火は弱まっています。国営ガス会社トゥルクメンガスは2025年6月、炎が最盛期の3分の1程度まで縮小したと発表しました。以前は遠くから赤い光の柱が見えたのに、現在は火口に近づかないと炎が見えない状態になっているという報告もあります。
政府は2022年に消火の方針を打ち出し、クレーターの周囲に新しい井戸を掘って、ガスの供給源を別の方向に逃がすという技術計画を発表しました。理由は3つ挙げられています。環境への影響(メタンは強力な温室効果ガスです)、近隣住民の健康、そして燃やしてしまっている天然ガスは輸出できたはずの資源だということ。
年間の訪問者は約1万人。50年以上燃え続けたものが、いつ消えてもおかしくない段階に入っています。行くと決めたなら、ビザに1か月半かかることも込みで、早めに動いてください。



夜のうちに、キャンプで最後の食事が出ます。
プロフ(palaw)。中央アジアの祝いの料理で、羊肉、にんじん、玉ねぎを炒め、その上に米を重ねて炊き上げます。トルクメニスタンではにんじんを黄色いものと赤いものの両方使うことがあり、色が鮮やかになります。ときにレーズンやひよこ豆、乾燥果実も入る。
米は一粒ずつ立っていて、日本の炊いた米よりずっと硬い。羊の脂とにんじんの甘みが米に染みていて、噛むと油が出てきます。塩気は控えめで、代わりにクミンの香りが全体を締める。大皿にどんと盛って、みんなでつつくのが本来の食べ方です。
合わせるのが羊肉の煮込み。ご飯にかけて食べるタイプで、トマトと玉ねぎでゆっくり煮た肉がほろほろに崩れます。煮汁は油が浮いているのに、味は驚くほど穏やか。塩と胡椒だけで、香辛料はほとんど使いません。
そして最後にパン。模様の押されたチョレックが回ってきます。中央のくぼみに押される模様は「チェキチ」という専用の道具で付けたもので、模様は装飾であると同時に、焼くときに生地が膨らみすぎないようにする実用のためのものです。ちぎって、皿に残った煮汁をぬぐって食べる。それでこの旅の食事は終わりました。







いま3分の1になっている。
行くなら、早いほうがいい。
最後に、費用と手順をまとめます。「行き方」をひとつの表に落とすと、次のようになります。金額はすべて2026年8月時点の目安で、1ドル=157円、1マナト=約45円(公式レート換算)です。
【手順】①行きたい時期を決める(4〜5月か9〜10月が最適)→②トルクメニスタンの認可旅行会社に連絡し、日程と人数を伝える→③入国予定の3か月前〜4週間前にLOI(招請状)を申請してもらう→④国家移民局の審査に5〜20日→⑤LOI承認後、在外公館でビザ申請、または到着ビザの手配→⑥航空券を取る(ドバイまたはイスタンブール乗り継ぎ)→⑦出発。最短でも1か月半、余裕をみて3か月前から動く。
※ 2026年8月時点の目安です。1ドル=157円、1マナト=約45円(公式レート)で換算しています。マナトの実勢レートは公式と大きく乖離しているため、両替は必ず旅行会社の指示に従ってください。2025年4月の移民法改正でLOI不要の電子ビザが法制化されましたが、2026年8月時点で運用開始日は決まっていません。制度は今後変わる可能性が高いので、申請前に必ず最新情報をご確認ください。
持っていくもの。①折り目のない新しいドル紙幣(入国時の支払いと両替用)②三脚 ③ヘッドライト(火口周辺に照明はありません)④防塵用のビニール袋かレインカバー ⑤ウェットティッシュ(シャワーがありません)⑥常備薬(現地での入手は困難)⑦夏でも上着(夜の砂漠は冷えます)。
やってはいけないこと。①クレーターのふちから50cm以内に立つ ②官庁・大統領府・警察・軍関係を撮る ③ガイドの指示を無視して単独行動する ④許可なく絨毯を持ち出す ⑤現地の人に無断でカメラを向ける。とくに①は、過去に縁が崩落した記録があるので本気で危険です。
そして時間の話。この記事の冒頭に書いたとおり、炎はいま最盛期の3分の1です。ビザに1か月半、ツアーの手配にも時間がかかる国なので、「そのうち行く」と思っているうちに消える可能性が現実的にあります。行くと決めたら、まず旅行会社にメールを1通送るところから始めてください。それが「世界一詳しい行き方」の、いちばん最初の一歩です。
必要なのは勇気ではなく、
3か月前のメール1通でした。
【写真について】本記事の写真112枚は、ウィキメディア・コモンズおよび各機関の公開画像(パブリックドメイン/クリエイティブ・コモンズ)を使用しています。写真の作者・ライセンス・掲載元は、写真クレジット一覧でご確認いただけます。
【主な出典】Turkmengaz/RFE-RL(炎の縮小と消火計画の報道)/Koryo Tours・Advantour・Stantours(LOIとツアー料金)/VisaGuide.World(ビザ制度)/Uri Tours・FlightConnections(航空路線と所要時間)/Progres.Online(パラウ指数=物価データ)/各施設の公開情報。
写真の出典
- Darvaza Gas Crater.jpg / David Stanley from Nanaimo, Canada / CC BY 2.0 / Wikimedia Commons
- Neutrality-Road-Ashgabat-2015.JPG / Bjørn Christian Tørrissen / CC BY-SA 4.0 / Wikimedia Commons
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- View from Arch of Neutrality (2) (31202328447).jpg / Hans Birger Nilsen / CC BY 2.0 / Wikimedia Commons
- View from Arch of Neutrality (6) (46091454522).jpg / Hans Birger Nilsen / CC BY 2.0 / Wikimedia Commons
- Dubai International Airport interior of Terminal 3, 2019, 04.jpg / Chris Olszewski / CC BY-SA 4.0 / Wikimedia Commons
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- Dubai International Airport interior of Terminal 3, 2019, 06.jpg / Kgbo / CC BY-SA 4.0 / Wikimedia Commons
- Dubai International Airport interior of Terminal 3, 2019, 14.jpg / Kgbo / CC BY-SA 4.0 / Wikimedia Commons
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- Akhal Teke Stallion – Victory (2835600519).jpg / Heather Moreton from Louisville, KY, USA / CC BY 2.0 / Wikimedia Commons
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- Rustam Minnikhanov’s trip to Turkmenistan 2008 12.jpg / tatarstan.ru / CC BY 4.0 / Wikimedia Commons
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- TIEM Ethnography displays A scene inside a yurt in 2006 06 002.jpg / Dosseman / CC BY-SA 4.0 / Wikimedia Commons
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- Ashgabat Airport (3203828450).jpg / Lev Yakupov from Russia / CC BY-SA 2.0 / Wikimedia Commons
- The Door to Hell (in the daytime) – Turkmenistan, Darvaza – panoramio.jpg / flydime / CC BY 3.0 / Wikimedia Commons
- Derweze -Surroundings- Darvaza gas crater – 2015.jpg / Bjørn Christian Tørrissen / CC BY 4.0 / Wikimedia Commons
- The Door to Hell – Turkmenistan, Darvaza – panoramio.jpg / flydime / CC BY 3.0 / Wikimedia Commons
- Cucumber lettuce tomato and onion salad.jpg / Mathobelah / CC BY-SA 4.0 / Wikimedia Commons
- Darvaza gas crater, Jähennem derwezesi, Door to Hell, Gates of Hell, Derweze, Turkmenistan at dawn.jpg / Benjamin Goetzinger / CC BY-SA 4.0 / Wikimedia Commons
- Darvaza gas crater, Jähennem derwezesi, Door to Hell, Gates of Hell, Derweze, Turkmenistan at night.jpg / Benjamin Goetzinger / CC BY-SA 4.0 / Wikimedia Commons
- Darvaza gas crater, Jähennem derwezesi, Door to Hell, Gates of Hell, Derweze, Turkmenistan.jpg / Benjamin Goetzinger / CC BY-SA 4.0 / Wikimedia Commons
- Darvaza Gas Crater (42435082502).jpg / John Pavelka from Austin, TX, USA / CC BY 2.0 / Wikimedia Commons
- Glow of Darvaza gas crater, Jähennem derwezesi, Door to Hell, Gates of Hell, Derweze, Turkmenistan.jpg / Benjamin Goetzinger / CC BY-SA 4.0 / Wikimedia Commons
- The Door to Hell.jpg / flydime / CC BY-SA 2.0 / Wikimedia Commons
- Darvasa gas crater panorama.jpg / Tormod Sandtorv / CC BY-SA 2.0 / Wikimedia Commons
- Darvasa gas crater panorama crop.jpg / Tormod Sandtorv (original picture) Hellbus (derive / CC BY-SA 2.0 / Wikimedia Commons
- Darvaza Gas Crater (42435087502).jpg / John Pavelka from Austin, TX, USA / CC BY 2.0 / Wikimedia Commons
- Darvaza Gas Crater at Dawn (42435085262).jpg / John Pavelka from Austin, TX, USA / CC BY 2.0 / Wikimedia Commons
- Darvaza Gas Crater (42435084982).jpg / John Pavelka from Austin, TX, USA / CC BY 2.0 / Wikimedia Commons
- Darvaza Gas Crater (42435084232).jpg / John Pavelka from Austin, TX, USA / CC BY 2.0 / Wikimedia Commons
- Darvaza Gas Crater (42435083112).jpg / John Pavelka from Austin, TX, USA / CC BY 2.0 / Wikimedia Commons
- Traditional Iftar platter with Biryani and Dates in Sylhet, Bangladesh (2).jpg / Amirhusenjihed / CC BY-SA 4.0 / Wikimedia Commons
- HK 銅鑼灣 Causeway Bay 富豪香港酒店 Regal Hong Kong Hotel restaurant food India Curry Rice August 2018 SSG 01.jpg / Maceadkootaimoow / CC BY-SA 4.0 / Wikimedia Commons
- Pitir nan2.jpg / Abdullaev / Public domain / Wikimedia Commons
- Inside Darvaza gas crater, Jähennem derwezesi, Door to Hell, Gates of Hell, Derweze, Turkmenistan.jpg / Benjamin Goetzinger / CC BY-SA 4.0 / Wikimedia Commons
- Derweze gas fire1.jpg / miketnorton / CC BY 2.0 / Wikimedia Commons
- Night Skies at Little Sahara (49991333898).jpg / BLMUtah / Public domain / Wikimedia Commons
- Derweze gas fire2.jpg / miketnorton / CC BY 2.0 / Wikimedia Commons
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