イフィサシ

世界の料理図鑑 ザンビア

イフィサシ

ifisashi / visashi イフィサシ、ヴィサシ Greens in ground peanut sauce

「アフリカ料理=肉」というイメージは、この国ではあまり当たりません。

ベンバ語でイフィサシ、ニャンジャ語でヴィサシ。青菜を挽いた落花生で煮た料理で、しばしばザンビアの国民食として紹介されます。

この料理には、覚えておくと便利な事実がひとつあります。イフィサシは特定の一皿の名前であると同時に、料理カテゴリの名前でもある。挽き落花生を何かと合わせるものは広くこう呼ばれ、青菜だけでなくメイズミールやサンプと合わせるものも含みます。「これが正統」という書き方ができない料理です。

そして肉が入らないのが標準です。脂質とタンパク質は落花生が担う。ベジタリアンの旅行者にとってザンビア料理が食べやすいのは、この構造のためです。

正式名
ifisashi(ベンバ語)/visashi・v’sachy(ニャンジャ語)
分類
レリッシュ(ンシマに合わせるおかず)。基本は完全菜食
主な材料
焙煎して挽いた落花生、玉ねぎ、トマト、青菜、落花生油、水、塩
要点
落花生を先に煮て、青菜はあと
起源
不明。ベンバ語圏とニャンジャ語圏の双方に名前があり、単一民族には帰属しない
近縁料理
ジンバブエのムリワ・ウネ・ドヴィ、マラウイ・モザンビーク・タンザニアの類似料理
合わせるもの
ンシマ(白トウモロコシ粉の練り物。ジンバブエのサザと同じもの)
よく使う青菜
チブワブワ(カボチャの葉)、ボンドウェ(アマランサス)、カタパ(キャッサバの葉)、デレレ(オクラ類)ほか
時間帯
昼食・夕食。主菜として熱いうちに
相場
ローカル食堂でンシマ+レリッシュ1品 ZMW 25〜60(約210〜505円)

01一口目に来るもの

最初に来るのは落花生の甘い油脂と塩気です。次にトマトの酸味と玉ねぎの甘み。青菜の青さと苦味は、いちばん最後に来ます。

口に入れた瞬間はとろりとして重い。挽いた落花生をそのまま使うため、ピーナッツバターを使うジンバブエ式より落花生の比率が高く、ソースが濃厚になる傾向があります。

噛むと葉がしんなりと崩れます。ただし何を使うかで大きく変わる。キャッサバの葉(カタパ)を使うと繊維が強く残り、ホウレンソウ系だと溶けます。

中盤で、挽き落花生のざらつきが明確に残ります。この粒感が、ジンバブエ式との一番の違いです。

後味は、落花生の脂が舌に膜を作り、青菜の苦味がその下から立ってくる。そしてこの味は、ンシマと合わせて初めて完成します。ンシマの無味を、この落花生の脂とコクが埋める。

イフィサシ
イフィサシ。挽き落花生のソースに青菜が沈んでいる

02ンシマの隣にあるもの

ンシマは白トウモロコシ粉を練り固めたものです。ジンバブエのサザとまったく同じもので、国境を越えると名前が変わるだけ。

そして両国の代表的なレリッシュ、つまりザンビアのイフィサシとジンバブエのムリワ・ウネ・ドヴィも、実は同じ料理です。「青菜+挽き落花生」という調理法が、ザンビア、ジンバブエ、マラウイ、モザンビーク、タンザニアまで連続して分布している。

イフィサシという名前がベンバ語とニャンジャ語の双方にあるのも、この分布の広さを表しています。ザンビア北部のベンバ語圏と、東部・中部のニャンジャ語圏の両方に定着している。「◯◯民族の料理」と単一民族に帰属させるのは正確ではありません。

成立年代と特定の発祥地は、今回の取材では分かりませんでした。確実に言えるのは、落花生が南米原産の外来作物であり、この料理も落花生が伝わったあとに成立したということだけです。

国境ではなく、作物の分布が料理の分布を決めている。この地域の食を見ていると、繰り返しその構造に行き当たります。

イフィサシ
ンシマを練るところ。木べらで、粉が透明感を帯びるまで練り上げる
イフィサシ
ザンビアの家庭で食事を用意する

落花生を先に、青菜はあと

工程は単純です。焙煎落花生を挽く。湯を沸かし、挽き落花生と玉ねぎとトマトを入れて煮る。そのあとに青菜を加える。とろみがつくまで煮て、熱いうちに出す。

順番を間違えると失敗します。落花生と青菜を同時に入れると、落花生に火が通るころには青菜が煮崩れている。

とろみの見極めも難しい。挽き落花生は加熱で急に増粘します。「まだ緩い」と判断して水を足すと、冷めてから固まりすぎる。

イフィサシ
イフィサシ
イフィサシ
イフィサシ

第 二 章

青 菜 ご と の 作 法

熱湯に浸す、重曹を使う、しっかり加熱する

03「青菜を落花生で煮るだけ」に見えて、材料ごとの知識が積み重なっている

ボンドウェ(アマランサス)は、苦味を抜くために熱湯に浸してから使います。

デレレ(オクラ類)は、重曹を使って調理するのが現地流です。ぬめりを活かす。

カタパ(キャッサバの葉)は独特の風味が強く、十分に加熱しないと風味が立ちません。安全上も加熱が必要な材料です。他の青菜と同じ時間で扱ってはいけません。

チブワブワ(カボチャの葉)は逆で、調理は約10分と短い。濃い緑で栄養価が高く、挽き落花生と合わせるイフィサシの王道とされます。

落花生の挽き方にも幅があります。粗いとざらつきが不快になり、細かすぎるとペースト化してソースが重くなりすぎる。そして落花生ソース料理共通の落とし穴として、火が強すぎると油が分離してざらついた状態になります。

ひとつの鍋にこれだけの前提が入っている。「青菜を落花生で煮るだけ」の料理に見えて、実際には材料ごとの知識の積み重ねです。

イフィサシ
ンシマと肉のレリッシュ。イフィサシは基本が菜食だが、肉を加えることもある
イフィサシ
ンシマと魚。レリッシュは日替わりで変わる

落花生を各種の野菜、メイズミール、あるいはサンプと混ぜて風味を高める料理の総称イフィサシという語についての、料理メディアChef’s Pencilの説明

04種類を並べてみる

ザンビアのレリッシュ用の青菜で、複数の資料で照合できたものに限りました。

名前特徴食べ方
チブワブワ(chibwabwa/カボチャの葉)濃い緑で栄養価が高い。調理は約10分と短い最も定番。挽き落花生と合わせるイフィサシの王道
ボンドウェ(bondwe/アマランサス)入手しやすい。苦味を抜くため熱湯に浸してから下処理して落花生で煮る。日常のレリッシュ
カタパ(katapa/キャッサバの葉)独特の風味が強い。繊維がしっかり残る他の青菜と混ぜて使うことも。しっかり加熱して
デレレ(delele/オクラ類)粘りが出る。レディフィンガーなど重曹を使って調理するのが現地流。ぬめりを活かす
ルマンダ(lumanda)酸味がある。高血圧を抑える効能があると言われる酸味が落花生の脂を切る。薬効の伝承あり
カレンブラ(kalembula/サツマイモの葉)やわらかく癖が少ない。※学名対応は未確認落花生ソースとよく馴染む
イフィサシ
イフィサシ
イフィサシ

05食べ方の作法

ンシマとセットで、手で食べます。ンシマをちぎって丸め、イフィサシをすくう。

ンシマがない場合は、雑穀(ミレット、モロコシ)、米、キャッサバ、ヤムイモなどの主食と合わせます。

時間帯は昼食と夕食。主菜として、熱いうちに供されます。

儀礼としての位置づけは、今回の取材では確認できませんでした。日常の料理です。

繰り返しになりますが、完全菜食が基本です。肉を加えることもありますが、肉が入らないのが標準。ザンビアの日常食における主要なタンパク源・脂質源は、この落花生です。

イフィサシ
チンゴラのホテルで供されたナイルパーチ。観光客が出会うザンビア料理と、家庭の鍋のあいだには距離がある
イフィサシ
屋外の火で鍋を煮る。食事の支度の一場面

06いくらで食べられるか

イフィサシ単品の価格ではなく、ンシマとレリッシュ1品のセット価格として見るのが実際的です。

家庭での材料費の参考として、ルサカの物価データではトマトがZMW 15.97/kg(約134円)。落花生の価格は当該資料に記載がなく、不明です。

イフィサシを含む食事の相場(2026年時点の目安)価格
ローカル食堂(ンシマ+レリッシュ1品)ZMW 25〜60(約210〜505円)
屋台・路上スナックZMW 10〜20(約84〜168円)
中級レストランのメインZMW 80〜150(約673〜1,262円)
ホテル・ロッジのメインZMW 200〜350(約1,682〜2,944円)
ビジネス街のランチセット(参考)ZMW 116(約975円)
イフィサシ単品の価格不明(セット価格に含まれる)

07どこで食べるか

家庭料理としてザンビア全土にあります。逆に、店で名指しで探すのは簡単ではありません。

ルサカのTWAPANDULA(Mushemi Road)は「ザンビア流のソウルフード」と評されるBar & Grillで、ンシマ、レバー、乾物魚、各種の肉と野菜料理を出しています。Google評価4.1、404件。ただしイフィサシの提供は未確認です。

ソウェト・マーケット内の「市場で最初にできたレストラン」で伝統料理の昼食が提供されており、観光商品として組まれています。ルサカとリビングストンでは、一般家庭でのホームクックド体験も商品化されていて、「ンシマと各種の付け合わせ」が供されます。この形がいちばん本来の姿に近いかもしれません。

リビングストンではCafe Zambezi(Shop 214, Mosi-Oa-Tunya Road)が「本物のザンビア/アフリカ料理」を掲げています。高級店としてはChef Sungani Restaurant(22席、ザンビア料理の12皿テイスティング)、Elephant Café、The Royal Livingstone Express。いずれもイフィサシの提供は未確認です。

「イフィサシをメニュー名で出していることが確認できた店」は、今回の取材では特定できませんでした。家庭料理を体験できるプログラムを探すのが、いちばん確実な道筋です。

イフィサシ
家族での夕食。イフィサシが置かれているとしたら、こういう食卓の上である

08豆知識

イフィサシは料理名であり、料理カテゴリ名でもあります。挽き落花生を何かと合わせるものは広くこう呼ばれ、青菜だけでなくメイズミールやサンプ(挽き割りトウモロコシ)と合わせるものも含む。「唯一の正しいレシピ」は存在しません。

酸っぱい葉に薬効の伝承があります。ルマンダ(lumanda)は酸味があり、高血圧を抑えると言われている。

ザンビアの主食ンシマは、ジンバブエのサザと同じものです。白トウモロコシ粉を練り固めた同一の食べ物が、国境を越えると名前が変わる。そして両国の代表的レリッシュも、実は同じ料理です。

「アフリカ料理=肉」というイメージと違い、ザンビアの日常のレリッシュは基本的に菜食です。脂質とタンパク質は落花生が担う。この構造を知っておくと、ザンビアの食卓の見え方がかなり変わります。

写真について:冒頭の1枚がイフィサシです。他の写真はザンビアの食卓、調理、レストランの場面であり、すべてがイフィサシを写したものではありません。
為替レート:円換算は2026年8月時点の目安(1ザンビア・クワチャ=約8.4円)で計算しています。

写真はすべて Wikimedia Commons より。各画像の作者とライセンスは以下のとおりです。

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