世界の料理図鑑 ザンビア
カポンタ(マテンバ)
kapenta / matemba カポンタ、マテンバ Tanganyika sardine
初年の漁獲は66トン。ピークは4万トン超。そして2022年、5,231トンです。
タンガニーカ湖原産の小型のニシン科魚、Limnothrissa miodon。ザンビアではカポンタ、ジンバブエではカポンタまたはマテンバと呼ばれます。乾物にして、戻して煮るか、そのまま揚げて食べます。
この魚がカリバ湖にいるのは、人が放したからです。カリバ湖はザンベジ川を堰き止めたダム湖で、在来湖ではありません。FAOの記録によれば、ザンビア政府が1967年から1969年にかけてタンガニーカ湖から導入した。そして当時の英領ローデシア政府には、そのことが知らされていませんでした。
半世紀後、この魚は両国最大の内水面漁業になり、そしていま崩れかけています。おいしい小魚の話であり、同時に、湖ひとつの半世紀の話でもあります。
- 正式名
- kapenta(ザンビア・ジンバブエ)/matemba(ジンバブエ、ショナ語)
- 学名
- Limnothrissa miodon(タンガニーカ・サーディン)
- 原産
- タンガニーカ湖。カリバ湖には人為的に導入された
- 導入年
- 1967〜69年にザンビア政府が導入(FAO文書)。「1959年」とする資料もあるが記録と合わない
- 漁業開始
- ジンバブエ側1973年7月(初年66トン)/ザンビア側1981年
- 漁法
- 1976年以降、夜間に灯火で集魚し、水深40mからディップネットで揚げる
- 現況
- 2021年5,950トン → 2022年5,231トン。ピーク時4万トン超から激減
- 産地銘柄
- シアヴォンガ産(カリバ湖)/ムプルング産(タンガニーカ湖)
- 地域名
- ブルンジ Ndagala/Lumpu、ルワンダ Isambaza、ザンビア kakeya
- 相場
- 乾燥品 ZMW 434.56/kg(約3,655円/kg、2026年5月・ルサカ小売)
01一口目に来るもの
乾物をそのまま、あるいは素揚げで食べると、まず塩と強烈な魚の旨味が来ます。煮干しやシラスに近いのですが、それより角のある、はっきりした魚の匂いです。
素揚げなら、噛んだ瞬間にパリッと軽く砕けます。骨も頭も内臓も、魚全体を食べるので、骨のシャリッとした感触が混ざる。噛み進めると身は乾いて軽く、すぐ粉状に崩れます。後半は骨のカルシウム質のざらつきが舌に残る。ここが「小魚を丸ごと食べている」実感になります。
トマト・玉ねぎ煮なら、まったく別の食べ物になります。まずトマトの酸とスープの塩気。戻った身はしっとりと柔らかく、骨まで柔らかい。乾物の硬さは消えています。
そして中盤、魚の出汁がソース全体に溶けている。ンシマやサザに絡ませると、無味の主食に一気に旨味が乗ります。魚の旨味が長く残る。これがカポンタの本領です。
ひとつ注意があります。乾燥魚は砂や埃を含みやすい。天日干しの工程で地面や粗い干し台にさらされるため、下ごしらえの洗いが不十分だと、噛んだときにジャリッときます。

02片方の国が、黙って魚を放した
カリバ湖はザンベジ川を堰き止めたダム湖です。ダムは1958年前後に完成し、湛水が進みました。そこに在来の小魚はいません。
FAOの文書は「ザンビア政府が1967年から1969年にかけて、タンガニーカ湖からカリバ湖に導入した」と記し、さらに「当時の(英領)ローデシア政府には知らされていなかった」と明記しています。ジンバブエ側の研究者が湖全域で本種を確認したのは1969年になってからでした。
別のFAO文書は「1967〜1968年に、タンガニーカ湖起源で導入」とし、Bell Cross and Bell Cross (1971) を出典に挙げています。導入された尾数は、どちらの文書にも記載がありません。
ザンビアの地域メディアには「1959年に導入」と書くものもありますが、FAOの一次文書2本がいずれも1967〜69年としているので、こちらを採ります。1959年はカリバダムの完成・湛水期にあたるため、ダムの年と魚の導入年が混同されている可能性が高いと考えられます。
国境をまたぐ湖に、片方の国が黙って魚を放した。それが今、両国最大の内水面漁業になっている。この一点だけで、この魚の話は十分に奇妙です。


66トンから、4万トンへ、そして5,000トン台へ
ジンバブエ側の商業操業は1973年7月、巾着網船1隻から始まりました。初年の漁獲はわずか66トンです。1976年から夜間に灯火で魚を集め、ポンツーンからリフトネットで揚げる方式に転換すると、漁獲率が飛躍的に向上しました。ザンビア側の開始は1981年、ローデシア紛争の終結後です。
1982年に両国合計16,328トン、1986年に31,641トン、1990年に34,889トン。1990年代初頭には年間2〜3万トンで安定し、両国とも1晩1リグあたり150〜200kgの漁獲率でした。
そして2021年5,950トン、2022年5,231トン。前年比12.1%減です。ピーク時の4万トン超から一桁台に激減しました。「このままでは産業が崩壊しかねない」と当局が警告しています。



第 二 章
夜 の 灯 り
水深40mから、直径6mの網を引き上げる
03乾かすところから、失敗は始まっている
産地側の加工は天日干しが基本です。塩を使う場合は、魚30kgに対して塩2.5kg。乾燥には1日以上かかり、天候に左右されます。曇天や雨天が続けば、生乾き品が市場に出る。
家庭での調理はこうです。乾燥カポンタを水で15分茹でる。これが洗いと戻しと臭み抜きを兼ねています。引き上げて水気を拭き、大きい個体なら細かく切る。油で玉ねぎとにんにくを色づくまで炒め、トマトと塩・胡椒、水1/2カップを加える。カポンタをソースに沈め、蓋をして弱火で10分。火から下ろして2分置き、とろみをつける。全体で約45分、4人分です。
失敗のひとつめは、洗いと戻しが不十分で砂が残ること。茹でこぼしや流水での洗浄を省くと、口の中でジャリつきます。
ふたつめは逆で、茹ですぎて旨味を流してしまうこと。15分の下茹では臭み抜きですが、長すぎると出汁がすべて湯に出てしまう。「戻す」と「煮出す」の境目が難しいところです。
みっつめは内臓由来の苦味です。小魚を丸ごと使うため、鮮度や処理の悪い原料は強い苦味が出ます。原料の等級選びが味の8割と言っていい。生乾きの原料は腐敗とカビのリスクもあります。
そして強火で煮て身を崩さないこと。戻した小魚は極めて脆く、かき混ぜすぎると跡形もなくなります。最後に塩。加工時にすでに約8%の塩が入っているので、味見をせずに塩を足すと必ず塩辛くなります。


小さな胃が、かさばるトウモロコシではなく栄養豊富な魚で満たされるように幼児にはンシマを添えずカポンタだけを与えるべき、という栄養指導の理由(Feed the Future Innovation Lab for Fish)
04種類を並べてみる
産地銘柄と、加工・調理法で分かれます。同じ魚でも、売り場での呼ばれ方が違います。
05食べ方の作法
ンシマ、あるいはサザとセットで、手で食べます。主食を丸めてソースごとすくう。時間帯は昼食と夕食で、素揚げは終日のつまみです。
儀礼としての位置づけは、今回の取材では確認できませんでした。
一方、栄養上の作法にはっきりしたものがあります。幼児にはンシマを添えずに、カポンタだけを食べさせることが推奨されている。理由は「小さな胃が、かさばるトウモロコシではなく栄養豊富な魚で満たされるように」。
これは、主食が腹を膨らませて栄養を締め出すという、南部アフリカの栄養問題の核心を突いた作法です。ンシマもサザも安価で腹持ちがいい。だからこそ、小さな胃を先に占領してしまう。
骨ごと食べることにも意味があります。カルシウムを摂取できるため、特に妊婦にとって重要とされる。亜鉛、鉄、ヨウ素、そして脳の発達に関わるDHAも含まれます。油で調理すると脂溶性ビタミンAとEの吸収がよくなります。

06いくらで食べられるか
ザンビア側は資料がしっかりしています。ルサカの小売で乾燥カポンタがZMW 434.56/kg(2026年5月)。前年同月のZMW 495.91/kgから値下がりしています。
ジンバブエ側の2026年時点の小売価格は、信頼できる資料が見つかりませんでした。下表の卸売価格は2023年のものであり、そのまま現在の価格として読まないでください。
07どこで食べるか
産地はシアヴォンガ(ザンビア側カリバ湖岸)、カリバ(ジンバブエ側)、ムプルング(ザンビア北部タンガニーカ湖岸)です。
乾物としては、ザンビアの一般的な市場(ルサカのソウェト・マーケットなど)、ジンバブエの市場(ハラレのムバレ・ムシカなど)で広く流通しています。
店では、ハラレのGava’s Restaurantがマテンバ(乾物小魚)をメニューに載せていることが報道で確認できています。カポンタ料理を名指しで確認できた数少ない例です。
ルサカのTWAPANDULA(Mushemi Road)は、レビューで「レバーと乾物魚(dry fish)」が看板料理として繰り返し賞賛されています。この「dry fish」がカポンタである可能性は高いのですが、断定はできません。
ブラワヨのSis Bees Kitchenのレビューには「fish」の記載があり、リビングストンのCafe Zambeziはメニュー上でカポンタを確認できませんでした。確実なのは、やはり市場で乾物を買うことです。

08豆知識
名前は国境を越えるたびに変わります。ザンビアで kapenta/kakeya、ジンバブエで kapenta/matemba、ブルンジで Ndagala/Lumpu、ルワンダで Isambaza。同じタンガニーカ湖の魚が、湖から放射状に名前を増やしていきました。ただしジンバブエでは matemba を「乾物にした小魚一般」を指す語として使う場面もあり、厳密な使い分けは今回確定できていません。
漁法は「夜の灯り」です。1976年以降、夜間にLEDまたはケロシンランプで魚を集め、直径約6m・長さ8〜10mのディップネットを水深40mから引き上げる方式に変わりました。カリバ湖の夜は、いまも漁灯で埋まっています。
モザンビークのカオラ・バッサ・ダム湖にも1970年代に導入され、同様の漁業が成立しています。ひとつの湖から放たれた魚が、ザンベジ川水系のダム湖を次々に埋めていった格好です。
いまリグにGPSが載せられています。未登録業者の排除と繁殖域での違法操業を止めるため、ジンバブエとザンビアの両国は全リグへの船舶監視システム(VMS)搭載義務化で合意しました。半世紀前に黙って放された魚をめぐって、いまは両国が一緒に監視の仕組みを作っている。
導入年について:本記事はFAOの一次文書2本(y5056e、V2648E)に従い1967〜69年としました。「1959年」とする資料も存在しますが、カリバダムの完成・湛水年と混同されている可能性があります。
為替レート:円換算は2026年8月時点の目安(1ザンビア・クワチャ=約8.4円、1米ドル=約160円)で計算しています。
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写真はすべて Wikimedia Commons より。各画像の作者とライセンスは以下のとおりです。
- 01/Kariba Dam Kapenta Deep Fried.JPG / Zimrh / CC BY-SA 3.0
- 02/An Example of Kapenta And Sadza(as it is known in Zimbabwe).JPG / Simz711 / CC BY-SA 4.0
- 03/Stewed Capenta and Sadza(as it is known in Zimbabwe) dish.JPG / Simz711 / CC BY-SA 4.0
- 04/Kapenta.jpg / Moses Zaso / CC BY-SA 4.0
- 05/Dried kapenta fish.jpg / CharlesPoterai / CC BY-SA 4.0
- 06/Kapenta 04.jpg / Shark2025 / CC BY-SA 4.0
- 07/Kariba Kapenta Rig.JPG / Zimrh / CC BY-SA 3.0
- 08/Kapenta drying in the sun.jpg / Emesik / CC BY-SA 3.0
- 09/Dry fish market (5145096403).jpg / SuSanA Secretariat / CC BY 2.0
- 10/Cataratas Victoria, Zambia-Zimbabue, 2018-07-27, DD 27.jpg / Diego Delso / CC BY-SA 4.0
- 11/Lascar Victoria Falls or Mosi-oa-Tunya (the Smoke that Thunders) (4548268750).jpg / Jorge Láscar from Australia / CC BY 2.0

