世界の料理図鑑 ロシア
オリヴィエ
салат Оливье サラート・オリヴィエ Olivier Salad
すべて角切り。潰さない。日本のポテトサラダとは、そこが決定的に違う。
日本のポテトサラダを食べたロシア人が「雑に作ったオリヴィエみたいだ」と言った、という話があります。悪口ではなく、そのくらい近い。
違いはじゃがいもを潰すかどうかです。オリヴィエは潰しません。じゃがいもも、にんじんも、卵も、ソーセージも、全部を同じ大きさの角切りに揃える。
そしてもうひとつ。酢漬けのきゅうりが必ず入る。この塩気と酸味がないと、ロシア人はオリヴィエと認めません。
- 国・地域
- ロシア全土。旧ソ連圏に広く分布
- 分類
- サラダ(マヨネーズ和え)
- 相場
- 130〜260ルーブル(約250〜495円)
- 主な材料
- じゃがいも、にんじん、ゆで卵、茹でソーセージ、酢漬けきゅうり、缶詰グリンピース、マヨネーズ
- 辛さ
- 辛くない。塩気と酸味
- 食べる場所
- 安食堂、カフェ、スーパーの惣菜、そして家庭
- ベスト時間
- 一年中あるが、本番は12月31日
- 一人前
- 100gから量り売りする店が多い
- 支払い
- 現金かロシア国内発行カード
- 日持ち
- マヨネーズ和えのため当日中が基本
01一口目に来るもの
最初にマヨネーズのなめらかさが来ます。日本のマヨネーズより酸味がおとなしく、こってりしている。
すぐ後ろから酢漬けきゅうりの塩気と酸味が立ち上がる。これが全体を締めています。ここがポテトサラダとの分かれ道。
噛むとじゃがいものほくほくと、きゅうりのぱりっが同時に来ます。粒が揃えて切ってあるので、一口ごとに全部の具が入る。
グリンピースのぷつっとした甘みが最後に残る。缶詰のものを使うのが正式で、生の豆では甘すぎるとされます。

02切り方がすべて
オリヴィエの技術は包丁の仕事に集約されます。すべての具材を7〜8ミリ角に揃える。
揃えないと、口の中で具が分離します。一口で全部の味が来るようにするための、それだけのための手間です。
じゃがいもは茹でて完全に冷ましてから切る。熱いうちに切ると崩れるし、マヨネーズが分離します。
にんじんを入れるかどうかはいまも議論があります。「甘くなりすぎる」という反対派が一定数いる。ロシアの家庭ごとに正解が違う料理です。


原型は雷鳥とザリガニだった
考案者はリュシアン・オリヴィエ。ベルギー生まれのフランス人料理人で、1860年代にモスクワ・トルブナヤ広場の高級レストラン「エルミタージュ」亭のオーナーシェフでした。
当時のレシピは雷鳥2羽、仔牛の舌、キャビア、ザリガニ、トリュフ、ケイパー。プロヴァンスソース(マヨネーズ)で和え、上にザリガニの尾と煮こごりを飾った——完全に宮廷料理です。
1883年にオリヴィエが死去し、1917年に店が閉じて正確なレシピは失われました。今も分かっていません。
ソ連時代、モスクワホテルの料理長イワン・イワノフがケイパーをグリンピースに、ザリガニをカニ風味かまぼこに置き換えたとされます。入手できるもので作り直した結果が、いまのオリヴィエです。



第 一 章
12月31日のテーブル
祝いの日のために並べられた、サラダや揚げ菓子の皿(キルギスのノウルーズの食卓で撮影)
03大晦日にだけ、全員が作る
オリヴィエはロシアの大晦日に欠かせない一品です。1970年代に、鶏肉・グリンピース・じゃがいも・にんじんという入手しやすい材料の組み合わせで定着しました。
理由は身も蓋もありません。ソ連時代は食材が慢性的に不足していた。だから日持ちする材料を年末前に買いだめして、この日にだけ大量に作った。
いまも習慣として残っています。12月31日、ロシア中の家庭で洗面器のような大きさのボウルにオリヴィエが作られる。そして三が日かけて食べる。
「新年に何を食べるか」ではなく「新年はオリヴィエを食べる日である」という順番になっている。日本のおせちに位置がいちばん近い。


04どこで食べられるか
赤の広場のグム百貨店3階、「Столовая №57」ではオリヴィエが260ルーブル。ソ連風の内装の中で食べられるので、雰囲気ごと味わえます。
チェーン食堂の「Му-Му」は100g単位の量り売り。少しだけ試したいときに便利です。
スーパーの「ВкусВилл(フクスヴィル)」なら惣菜コーナーで100g 129ルーブル、300g 334ルーブル。ホテルの部屋で食べるならこれがいちばん安い。
注意点。マヨネーズ和えなので日持ちしません。買ったその日に食べきってください。


ロシアの大晦日は、オリヴィエを作る日です。何を食べるかではなく、そういう日なんです。モスクワの食堂にて
05似ている料理
日本のポテトサラダが最も近い。違いは、潰すか潰さないか、そして酢漬けきゅうりが入るかどうか。
ドイツのカルトッフェルザラートはマヨネーズを使わない版もあり、酢とブイヨンで和える。酸味の出どころが違うだけで発想は近い。
スペインのエンサラディージャ・ルサは名前がそのまま「ロシア風サラダ」。ツナが入るのが特徴です。
つまりこの料理は世界中に輸出されて、それぞれの国の名前で呼ばれている。フランス人がモスクワで作ったものが、スペインで「ロシア風」になっている。
06豆知識
・オリジナルの正確なレシピはいまも失われたままです。再現の試みはすべて推測です。
・にんじんを入れるかどうかは今も家庭ごとに割れています。
・ソ連時代には「文明的な儀式」とまで言われるほど正月の必需品化しました。
・材料が長期保存できることが、年末に集中して作られる理由のひとつです。
・「エルミタージュ」亭があったトルブナヤ広場は、いまも地下鉄の駅名として残っています。
写真はすべて Wikimedia Commons より。各画像の作者とライセンスは以下のとおりです。
- 01/Mayonnaise salad.jpg / No machine-readable author provided. Gveret Tered assumed (based on copyright claims). / CC BY 2.5
- 02/Cuisine of Israel P1040898.JPG / Deror_avi / CC BY-SA 3.0
- 03/Olivierzalot (sowjetesch).jpg / Otets at Luxembourgish Wikipedia / CC BY-SA 3.0 lu
- 04/Serbian salad-01.jpg / Mohamed Yahya / CC BY-SA 2.0
- 05/Olivier Russian salad made to the Hermitage restaurant recipe.jpg / HOBOPOCC / CC BY-SA 3.0
- 06/Russian salad in Rome.JPG / Nicholas Gemini / CC BY-SA 3.0
- 07/Dastorqon for Nooruz.jpg / Firespeaker / CC BY-SA 3.0
- 08/Oliviersalat.jpg / A.Savin / CC BY-SA 3.0
- 09/Russian salad.jpg / Cmkeating2 (talk) / Public domain
- 10/Russian Salad.jpg / Buzzcut50 at English Wikipedia / Public domain
- 11/Potato salad ingredients prepared.jpg / gran / CC BY 3.0
価格は2026年8月時点のモスクワの相場の目安です。







