オマジョワ

世界の料理図鑑 ナミビア

オマジョワ

omajowa / omajova オマジョワ Omajowa (Termitomyces schimperi)

12ミリ以上の雨が降ったあとにしか出ません。

シロアリ塚に生える巨大なキノコです。学名 Termitomyces schimperi。ヘレロ語で ejova(単数)、omajowa(複数)。ドイツ系ナミビア人は Termitenpilz(シロアリキノコ)と呼びます。

傘の直径は15〜28センチ、大きいものは40センチ。重さが900グラムを超えることもある。「大きなフライパンのサイズ」というのが百科事典の表現です。だからシュニッツェルのように、一枚まるごと焼けます。

そして人間には栽培できません。既知のシロアリ約1,800種のうち菌類を栽培するのは約100種で、それらが育てる Termitomyces は約20種。オマジョワはそのなかで最大のものです。

学名
Termitomyces schimperi (Pat.) R. Heim
現地名
ヘレロ語 ejova(単数)/omajowa(複数)。omajova とも綴る
ドイツ語名
Termitenpilz(シロアリキノコ)
共生相手
シロアリ Macrotermes michaelseni
出現条件
12mm以上の雨のあと。主要な収穫は1月から3月の雨季
サイズ
傘の直径15〜28cm、時に40cm。地上高約50cm。重さ900g超も
分布
ナミビアでは年平均降水量350mm以上の地域。中部・北部
栽培
人間による栽培はされていない
味
複数の資料が「仔牛肉に似ている」と表現する
相場
路傍で1本N$20〜25(約200〜250円)。※旅行ブログ1本のみ

01一口目に来るもの

バターで焼いたものを口に入れると、最初に来るのは油脂と、木質の香りです。キノコらしい土の匂いよりも、乾いた木に近い方向。

次に甘み。複数の資料が一致して「甘くてバターのよう」と表現します。ナメコやシメジのような「だし」の方向ではなく、もっと素朴な甘みが前に出る。

そして肉です。ここがこのキノコの核心で、スローフード財団も食文化メディアも、そろって「仔牛肉に似ている」と表現しています。キノコを食べているというより、薄い肉を食べている感覚。

食感は「しっかりした食感」「ヒラタケに似た、しっかりしたビロード状の食感」と記述されます。水っぽく崩れません。軸は傘より繊維質です。

後味はバターと塩。傘が20センチ以上あり、シュニッツェルのように丸ごと焼けるため、「一口」ではなく「一枚」の食体験になります。

※以上は資料からの再構成であり、実食に基づく記述ではありません。この品目については、味の記述が複数の独立した資料にあり、他より確度が高めです。

オマジョワ
オマジョワ。ナミビアで Termitenpilz とも呼ばれる

02シロアリが数千万年続けている農業の産物

スローフード財団の記述が明快です。既知のシロアリ約1,800種のうち、菌類を栽培するのは約100種にすぎない。シロアリが育てる Termitomyces は約20種。そのうち T. schimperi は最大のもので、人間による栽培はされていない。

共生するのは Macrotermes michaelseni というシロアリです。同じ塚で数年間生え続けることがあります。

出現の条件は数値で決まっています。12ミリ以上の雨のあと。主要な収穫は1月から3月の雨季。ナミビアでは年平均降水量350ミリ以上の地域にしか出ません。

「人間が発明したのは農業だ」という常識に、このキノコは静かに反例を出してきます。

採取の技術も記録されています。「経験ある採取者は歴史的に、巣のひび割れを監視し、採取地を植物で覆って場所を秘密にした」。キノコ狩りの場所を隠すのは世界共通の作法ですが、ここでは「塚のひび割れを読む」という技術がその中身になっています。

オマジョワ
※こちらは近縁の別種 Termitomyces titanicus。同じ属の巨大なキノコ
オマジョワ
※こちらも Termitomyces 属の別種。属としての姿がわかる一枚として

起源を語らないことが正確

これは野生のキノコです。料理として成立した年代・発祥民族という問いが、そもそも成立しません。

ヘレロの人々がいつからこれを食べているかを示す資料もありません。

確認できるのは、ヘレロ語の名前とドイツ語の名前が両方生きているということ。1884年から1915年のドイツ統治が、この国の食にどう残っているかを問われたとき、確実に指させる痕跡のひとつが、このキノコの名前です。

オマジョワ
※近縁の別種 Termitomyces reticulatus。傘に網目状の模様が入る
オマジョワ
※近縁の別種 Termitomyces reticulatus。土から顔を出した若いキノコ
オマジョワ
※近縁の別種 Termitomyces microcarpus が群生したシロアリ塚
オマジョワ

第 二 章

路 傍 で 売 る

雨季に、キノコを頭上に掲げて振っている人がいる

03傘はステーキに、軸はスープに

分量を明記した現地レシピは見つかりませんでした。複数の資料の記述を統合すると、こうなります。

キノコを掃除する。傘も軸も、全部食べられます。傘は切らずに、または大きめに切る。「シュニッツェルのような大きさで揚げ焼きにできる」「ステーキのように焼ける」と資料は書いています。軸はスープやリゾットに使う。フライパンを熱し、バターまたは油を入れ、塩を振り、焼き色がつくまで焼く。

失敗しやすい点。第一は、手に入れてから時間を置くこと。「昆虫の食害があるため、急いで収穫し、急いで食べる必要がある」と明記されています。路傍で買ったら、その日のうちに焼く。保存を前提にした食材ではありません。

第二は、細かく刻むこと。この食材の値打ちは、傘が20〜28センチあって一枚で焼けることにあります。刻んでしまうと、ただのキノコ炒めになる。大きいことが料理の設計思想です。

第三は、軸を捨てること。傘と軸で調理法を変えるのが正しい使い方です。

第四は水で洗いすぎること、第五は弱火でじっくり火を通そうとすること。資料が記述する調理法は一貫して「熱したフライパン、バターまたは油、塩、焼き色がつくまで」です。ただしこの2つはこちらの推論です。

第六は、自分で採ろうとすること。シロアリ塚の上に生え、採取地は代々秘密にされてきた。素人が野生キノコを同定して食べることは危険です。この記事は、路傍の売り手から買う、レストランで食べる、以外の入手方法をお勧めしません。

オマジョワ
雨季のキノコの収穫
オマジョワ
※近縁の別種 Termitomyces microcarpus。同じくシロアリと共生する

シロアリ約1,800種のうち、菌類を栽培するのは約100種。それらが育てる Termitomyces は約20種。T. schimperi はそのうち最大で、人間による栽培はされていないスローフード財団「味の箱舟」のオマジョワの項目より

04種類を並べてみる

最後の2行はキノコではありません。混同されやすいものなので、並べて書いておきます。

名前特徴食べ方
オマジョワ(傘)傘15〜28cm、時に40cm。切らずにバターと塩で焼く一枚を主菜として。ナイフとフォーク
オマジョワ(軸)軸は繊維質。煮込み向きスープやリゾットに
路傍で買う雨季(1〜3月)に道路沿いで売り手がキノコを掲げている。200kmで3人程度その日のうちに調理
モパネワーム(omagungu)キノコではなく昆虫。オシフィマの付け合わせの定番粥と。または乾燥スナックとして
カラハリ・トリュフ別物。ボツワナ・ナミビアの砂漠に産する地下生菌レストラン料理として。※オマジョワとは別の菌類
ビルトン(biltong)キノコでも昆虫でもない。空気乾燥・酢漬けの乾燥肉。N$200〜350/kg薄切りを量り売り
ヒラタケでの代用日本でオマジョワは入手できない。食感の近さでヒラタケが挙げられている※代用を勧める資料ではない
オマジョワ
※近縁の別種 Termitomyces microcarpus。草地に出た小さなキノコ(インドで撮影)
オマジョワ
※近縁の別種 Termitomyces microcarpus。地面に密集して生える

05ついでに、モパネワームのこと

ナミビア北部では、モパネワーム(オシワンボ語で omagungu)がオシフィマの付け合わせの定番です。ボツワナでは phane(ファネ)と呼ばれます。

この図鑑ではジンバブエのマドラとして1本の記事にしていますが、分布は南アフリカのリンポポ州からジンバブエ、ザンビア、ボツワナ、ナミビア北部にまたがります。だから「ナミビア固有」とは言えない。この記事では補足として触れます。

採取量は1人1日あたり25〜50kg。主要な収穫は雨季の初め(11月〜1月)で、十分な降雨があれば4〜5月に二次的な収穫もあります。道路沿いでバケツ単位で集め、腸の内容物を絞り出して掃除し、天日で乾燥させて保存する。

栄養については数字の扱いに注意が要ります。「粗タンパク質70%」という数字は乾物ベースであると明記されているもので、基準を書かずに「タンパク質70%の虫」と書くと誤情報になります。

南部アフリカ全体の取引額は、年間3,900万〜1億米ドルと推定されています。幅があるのは「発生の質と天候次第で変動する」ため。ボツワナとジンバブエで収穫・加工され、南アフリカの都市周縁部に供給される。価格は収穫終了後の6月から11月に上がります。

オマジョワ
唐辛子と一緒に調理したモパネワーム
オマジョワ
市場のかごに山盛りにされた干しモパネワーム(ナミビア・ウィントフックで撮影)

06いくらで食べられるか

オマジョワの価格を示す資料は、旅行ブログ1本しか見つかりませんでした。しかもその筆者自身が「これが標準価格なのか観光客価格なのか分からない」と留保しています。

原材料費からの推計は成立しません。栽培できない野生のキノコであり、原価という概念が当てはまらない。価格を決めているのは、採取者の労力と、その年の降雨です。

オマジョワの価格(2026年時点。1ナミビア・ドル=約9.89円)価格
路傍(1本あたり)N$20〜25(約200〜250円)。※旅行ブログ1本のみ。筆者自身が留保
一般レストラン不明。メニューに載せている店を一軒も確認できなかった
高級不明
参考:この価格が正しい場合の単価傘900gの個体なら約N$22〜28/kg(約220〜280円/kg)
参考:ナミビアの牛肉約N$125/kg(約1,236円/kg)
参考:ビルトン(乾燥肉)N$200〜350/kg(約1,980〜3,460円/kg)

07どこで食べるか

これは「店で食べる料理」ではなく、「雨季に道端で買う食材」です。

1月から3月、幹線道路沿いで売り手がキノコを頭上に掲げて振っている。旅行者の記録によれば、ピークシーズンなら200kmの道のりで3人くらいの売り手に出会うそうです。中部と北部、そしてウィントフックを含むホマス州が産地とされます。

スローフード財団は「商業的には販売されていないが、雨季には路傍で地元的に売られることがある」と書いています。実際、メニューにオマジョワを載せていることが一次確認できた店は、一軒もありませんでした。

しかも降雨量が条件を満たさない年には出ません。ですのでこの記事は「ナミビアに行けば食べられます」とは書きません。

書けるのはこうです。1月から3月に幹線道路を走っていて、キノコを掲げた人を見かけたら、それがオマジョワです。

オマジョワ
牛の胃。ナミビアの食卓には、こうした部位も普通に並ぶ

08豆知識

12ミリの雨が引き金になります。「12mm以上の雨のあとに出現」と、条件が数値で記されている。年平均降水量350ミリ以上の地域にしか出ない。「今年は出るか」が降水量で決まる食材です。

傘が40センチになります。直径15〜28センチ、時に40センチ。地面から約50センチの高さまで伸びることもある。重さは900グラム超。

味は「仔牛肉」。スローフード財団も食文化メディアも、そろって veal(仔牛肉)に似ていると書きます。菌類が肉に似るという評価は珍しくないのですが、複数の独立した資料が同じ肉を名指しするのは珍しい。

商業流通していないのに、名前があります。スローフード財団は「商業的には販売されていない」と明記する。それでも「味の箱舟」に登録され、百科事典に種の記事があり、食文化メディアが取材している。市場に乗らない食べ物が、これだけ記録されているのは例外的です。

品目名について:このキノコの現地名はヘレロ語 ejova(単数)/omajowa(複数)です。日本語圏で見かける「オムンボンゴ」に相当する呼称は、本取材では確認できませんでした。
写真について:本記事の写真には、近縁の別種(Termitomyces titanicus、T. microcarpus、T. reticulatus)が含まれます。キャプションに明記しました。オマジョワ(T. schimperi)そのものを写した自由利用可能な写真は、冒頭の1枚のみです。
象徴的意味について:スローフード財団は「ナミビアの伝統において特別な意味を持ち、成長と繁栄を象徴する」としていますが、その根拠は示されていません。本記事は「縁起物」「儀礼食」とは書いていません。
安全について:野生キノコの自己採取と生食はお勧めしません。加熱して食べてください。
モパネワームの栄養について:「粗タンパク質70%」は乾物ベースの数字です。
為替レート:1ナミビア・ドル=約9.89円(2026年8月31日時点)。

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写真はすべて Wikimedia Commons より。各画像の作者とライセンスは以下のとおりです。