夜にライトアップされた平壌の主体思想塔

朝鮮民主主義人民共和国・平壌 ―― 北京発、ガイド同行の5日間

ガイドは二人つく。
平壌・完全ガイド

北京から高麗航空で1時間55分。地下100mの地下鉄、幅60mの広場、170mの塔。そして玉流館の平壌冷麺。食べたもの22品も、食べた場所ごとに味つきで。写真112枚で、入国から出国まで順番にご案内します。

い ま こ こ

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夜の平壌

はじめにお読みください。2026年8月時点で、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)はロシア国籍者を除き、外国人観光の受け入れを再開していません。また日本政府は、日本国民に対して北朝鮮への渡航自粛を要請しており、日本のパスポートでの渡航は事実上できません。本記事は、コロナ禍前まで実際に行われていた「北京発・旅行会社経由・ガイド同行」の標準ルートを、公開資料と公開写真にもとづいて再構成した図鑑記事です。実際の渡航を勧めるものではありません。

平壌は、世界でいちばん「自由に歩けない首都」です。外国人は個人で入国できません。旅行会社を通してツアーを申し込み、平壌に着いた瞬間から出国するまで、常に2名のガイドが同行します。2名なのは、片方がもう片方を監督するためだと言われています。単独でホテルの外に出ることも、決められたルート以外を歩くこともできません。

それでも、この街には見るべきものがあります。地下100mを走る地下鉄。60万人が整列できる広場。高さ170mの塔と、パリの凱旋門より10m高い凱旋門。そして、105階・330mまで建てて30年以上完成しなかったピラミッド形のホテル。ひとつの思想で都市をまるごと設計すると何が起きるか――それが目に見える形で並んでいる街です。

この記事は、北京駅と北京首都空港からはじめて、高麗航空、平壌空港、市内、地下鉄、広場、丘、塔、通り、ホテル、そして夜景まで、順番に連れて行きます。食べたものは22品、食べた場所ごとに出します。

行き先
朝鮮民主主義人民共和国 平壌直轄市(Pyongyang)
渡航可否
2026年8月時点、ロシア国籍以外の観光は再開していません。日本国民には日本政府から渡航自粛要請が出ています
ビザ
個人申請は不可。認可を受けた旅行会社経由でツアーを申し込み、外務省の承認を経て発給。ビザはパスポートに貼られず、別紙(1枚の紙)で交付される。韓国籍のみ発給対象外
行き方
北京から高麗航空 約1時間55分/または国際列車K27(北京→丹東→新義州→平壌)約23時間40分。K27は月・木の週2便、軟臥1,476元(約3万2,500円)・硬臥1,017〜1,061元(約2万2,400〜2万3,300円)
ツアー料金
再開前の相場で格安ツアーが499ユーロ(約8万5,000円)〜。北京までの航空券・ビザ代行料・北京泊は別。全食事とガイド・車両込みが標準
ルール
ガイド2名が常時同行。単独行動不可。撮影は指定場所のみ。指導者の像や肖像は全身を入れて撮る(切り取ると失礼にあたる)。軍事施設・工事現場・整列していない人の撮影は不可
通貨
外国人は朝鮮ウォンを使わず、ユーロ・人民元・米ドルで支払う。おつりが別通貨で返ってくることもある。クレジットカードとATMは使えない
換算レート
本記事は1ユーロ=170円/1人民元=22円で計算(2026年8月時点)。金額は2026年8月時点の目安としてお読みください
北京駅の駅舎と広場

第 一 章

北京。
ここが唯一の入口

ツアー説明会は前夜/パスポートは旅行会社が預かる/北京泊が事実上必須

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平壌へ行く道は、事実上ひとつしかありません。北京です。旅行会社の事務所は北京市内にあり、出発の前夜にそこで説明会が開かれます。渡されるのは、ビザの代わりになる1枚の紙、日程表、そして注意事項のリスト。

注意事項がまた具体的です。「指導者の像は全身を入れて撮ること」「軍人は撮らないこと」「工事現場は撮らないこと」「新聞に指導者の写真が載っているので、包み紙に使わないこと」。冗談ではなく、この最後のひとつで問題になった旅行者が実際にいます。

集合は北京駅か北京首都国際空港。列車で行くなら北京駅、飛行機なら首都空港です。列車K27は月曜と木曜の週2便、所要23時間40分。飛行機なら1時間55分。時間に余裕があるなら、圧倒的に列車をおすすめします。中国東北部から国境の丹東、鴨緑江を渡って新義州、そこから平壌まで――景色が段階的に変わっていくのが、この旅のいちばんの見どころだと言う人は多いです。

北京駅の駅舎
北京駅。1959年竣工。平壌行きK27はここから出る
北京駅前の広場と人
駅前広場。出発の3時間前には着いておきたい混雑ぶり
北京駅周辺の広場と現代的な建物
駅の周辺。ここを出ると、次に自由に歩ける街は5日後の北京になる

切符は軟臥(4人個室)が1,476元=約3万2,500円、硬臥(6人開放式)が1,017〜1,061元=約2万2,400〜2万3,300円。国際列車なので、丹東で中国の出国審査、新義州で朝鮮側の入国審査があり、ここで合計4〜5時間停まります。荷物は全部開けられます。本、外貨、電子機器はひとつずつ確認されると思ってください。

北京駅のコンコースとエスカレーター
駅のコンコース。国際列車の窓口は別になっている
北京駅の待合室
待合室。長距離列車の乗客で常に埋まっている
北京駅の発車案内板
発車案内。ここに「平壌」の二文字が出る

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※広告:出発地と日付を入れると、この区間の相場が出ます。

駐機場に停まる高麗航空の旅客機

第 二 章

高麗航空。
世界でいちばん評価の低い航空会社

北京→平壌 約1時間55分/機内食は1種類/機内誌は持ち帰り可

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飛行機を選ぶなら高麗航空(Air Koryo)。国際線の格付けで長年「星ひとつ」と評価されてきた、世界でも珍しい航空会社です。ただし実際に乗った人の感想はおおむね「思ったよりふつう」。機材は近年ロシア製のツポレフTu-204などに更新されていて、乗り心地に問題はありません。

チェックインは首都空港のターミナル2。座席指定はできず、割り当てられた席に座ります。客室乗務員は赤い制服で、離陸前に配られるのは新聞と機内誌。機内誌は持ち帰り可で、これがけっこう人気の土産になります。

北京の空港ターミナルの外観
北京首都国際空港。高麗航空はターミナル2から出る
高麗航空機の胴体とエンジン
機体。近年はツポレフTu-204など比較的新しい機材が使われる
駐機場に停まる高麗航空の旅客機
駐機中の一機。尾翼に朝鮮民主主義人民共和国の国旗が入る

そして機内食。1時間55分のフライトなのに、きちんと出ます。トレーに載るのは、ごはん、キムチ、和え物、小さなおかず、そして飲みもの。かつて出ていた「謎のバーガー」が有名になりましたが、路線と時間帯によって内容は変わります。

味は、全体に塩気が控えめで、油も少ない。キムチは日本で売られているものより酸味が強く、発酵が進んでいます。唐辛子の辛さより先に、酸っぱさと乳酸の香りが来る。和え物はごま油の香りが立っていて、これはどの朝鮮料理にも共通する軸になります。機内食はツアー料金に含まれるので、追加の支払いはありません。

機内で出される食事のトレー
高麗航空の機内食|ツアー料金に含まれる ごはん、キムチ、和え物の小鉢。塩気は控えめで油も少ない。キムチは日本のものより酸味が強く、辛さより先に乳酸の香りが来る
機内の青い座席の列
機内。座席指定はできず、割り当てられた席に座る
搭乗して荷物を棚に入れる乗客
搭乗風景。荷物棚は狭いので、大きな機内持ち込みは避けたい
食事を用意する客室乗務員
サービス中の客室乗務員。1時間55分でもきちんと食事が出る
赤い制服の客室乗務員
赤い制服。この色は機体の帯やロゴとも揃えられている
飛行中の高麗航空機
離陸。北京から東へ、遼東半島を越えて朝鮮半島に入る
ボーディングブリッジに接続された機体
搭乗橋。北京側はふつうの国際線と何も変わらない
霧のなかの機体の尾翼
機体の尾翼。国旗のマークが目印になる

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※広告:現地の宿を地図から探せます。

着陸する高麗航空の機体

第 三 章

着陸。
ここから2人が付く

入国審査で携帯を確認/GPS機器・望遠レンズは持ち込み不可/SIMは外国人専用

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平壌国際空港(順安空港)に降りると、まず建物の小ささに驚きます。国際線ターミナルは2015年に建て替えられて近代的ですが、便数が少ないので人がいない。入国審査は静かで、そしてやたらと時間がかかります。

確認されるのは、携帯電話、カメラ、書籍、外貨。GPS機能付きの機器と、焦点距離の長い望遠レンズは持ち込めません。携帯電話は2013年以降持ち込めるようになりましたが、現地のSIMは外国人専用で、国際通話はできても国内の一般回線にはつながらない仕組みになっています。インターネットも外国人向けの限定的なものだけです。

そして到着ロビーで、2人のガイドが待っています。ここから出国まで、この2人が離れることはありません。片方は流暢な日本語か英語を話し、もう片方は少し離れて見ています。運転手を入れて3人が、5日間ずっと一緒です。

着陸する高麗航空の機体
着陸。滑走路の周りは畑で、建物がほとんど見えない
駐機場に整列する人々と機体
到着後は徒歩でターミナルへ向かうこともある
機内の赤い座席の列
降機の直前。ここから先、撮影できる場所は決められる
機内の通路と乗客
機内通路。窓の外を撮るのも、着陸態勢に入ると止められることがある
夜にライトアップされた平壌駅の駅舎
市内へ。到着した日は、たいてい夜の平壌駅の前を通る

ホテルに着くのは夕方から夜。荷物を置いたら、その日のうちに最初の食事になります。多くのツアーで最初に出てくるのが大同江ビール(대동강맥주)。国営の平壌大同江ビール工場が造る、この国を代表する銘柄です。

面白いのは、この工場が2000年にイギリスの潰れた醸造所(アッシャーズ)を設備ごと買って移設したものだということ。だから味の系統がはっきりイギリス風です。1号から7号まで番号で種類が分かれていて、数字が大きいほど大麦の比率が下がり、米が増えて軽くなる。定番の2号は色が濃く、麦芽の甘みとカラメルの香りがあり、炭酸は弱め。苦味は最後にほんの少し残る程度で、日本のラガーに慣れているとかなり甘く感じます。1本 約2ユーロ=約340円(ホテルの外貨払い)。

そして冷麺。夜のうちに一杯出てくることがあります。細くて黒っぽい麺はそば粉とデンプンでできていて、日本のそばよりずっとコシがなく、ぷつぷつと歯で切れる。上に薄切りの牛肉と、ゆで卵の半分、そして梨の薄切りが乗る。この梨が効きます。スープは冷たい牛の出汁とキムチの汁を合わせたもので、酸味と甘みが同時に来る。詳しくは、玉流館の章でもう一度。

大同江ビールの瓶
大同江ビール|1本 約2ユーロ=約340円 2000年にイギリスの醸造設備を移設して造られた。麦芽の甘みとカラメルの香り、炭酸は弱く苦味はごくわずか。1〜7号は数字が大きいほど米が増えて軽くなる
冷麺の薄切り肉と梨のアップ
平壌冷麺(最初の一杯)|ツアー料金に含まれる そば粉とデンプンの黒い麺はコシがなくぷつぷつ切れる。牛出汁とキムチ汁の冷たいスープに、薄切り牛肉・卵・梨。酸味と甘みが同時に来る
平壌駅の時計台

第 四 章

平壌駅。
時計台のある街の中心

駅前は撮影可/駅構内は基本的に不可/朝食はホテルで7時から

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平壌駅は1958年に建てられた、時計台のある大きな駅舎です。街の中心はここで、駅前広場から南北に大通りが伸びています。駅前は撮影できますが、構内はガイドの許可が要ります。国際列車で入国した人は、この駅のホームに降りることになります。

ホームで目につくのが、売り子のワゴン。飲みものと簡単な菓子を売っていて、朝鮮服(チマチョゴリ)姿の女性が立っていることもあります。列車は電気機関車が牽き、客車は緑と黄色。時刻表通りに動くとは限りません。

平壌駅の時計台
平壌駅の時計台。1958年竣工。街の座標の原点にあたる
駅舎の内部の照明
駅舎内部。天井のシャンデリアは地下鉄の駅とも共通する意匠
駅のホームと停車中の列車
ホーム。国際列車で入国するとここに降りる
ホームの売り子のワゴン
ホームの売り子。飲みものと菓子を売っている
駅のホームを歩く人々
薄暗いホーム。照明は必要最低限に絞られている
列車の車両とホームの人
緑と黄色の客車。牽引するのは電気機関車

朝はホテルで食べます。朝食は7時ごろから、外国人向けにビュッフェか定食が出ます。ここで必ず出てくるのがマンドゥックク(만둣국・餃子スープ)。

朝鮮半島の北部では、正月にこれを食べる習慣があります。中身は豚肉と豆腐、白菜、ニラ。皮は厚めで、日本の水餃子よりもったりしています。スープは牛骨か鶏でとった澄まし汁で、驚くほど薄い。塩気はほとんどなく、餃子の中の肉の脂と、浮かせたネギの香りだけで飲ませます。最初は「味がない」と思うのに、寒い朝に飲むとこれがちょうどいい。日本人の口には、たぶんいちばん合う一品です。

並んで出るのが定食の副菜一式。卵焼き、キムチ、和え物、そしてスープ。朝鮮料理は「밥+국+반찬(ごはん+汁+おかず)」が基本形で、おかずの数が多いほど格が上がります。ホテルの朝食でも3〜5品は必ず付いてきます。卵焼きは砂糖を入れず、だし巻きより固く焼いてあり、断面がぼそっとしている。これも塩気は控えめです。

餃子の入ったスープ
マンドゥックク(餃子スープ)|朝食に含まれる 豚肉・豆腐・白菜・ニラの餡に厚めの皮。牛骨の澄まし汁は驚くほど薄味で、餃子の脂とネギの香りだけで飲ませる。寒い朝にちょうどいい
卵焼きやキムチが並ぶ定食の副菜
定食の副菜一式|朝食に含まれる ごはん+汁+おかずが朝鮮料理の基本形。卵焼きは砂糖を入れず固めで断面がぼそっとする。全体に塩気は控えめ
大同江と主体思想塔

第 五 章

大同江と、玉流館の冷麺

玉流館は1960年開業/席数は約2,000/昼は11時30分から

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平壌は大同江(テドンガン)で二分されています。西岸が旧市街と官庁街、東岸が主体思想塔と新しい住宅地。川幅は広いところで500mを超え、両岸は遊歩道になっていて、朝は釣りをする人がいます。

この川べり、玉流橋のたもとに建っているのが玉流館(オンリュグァン)。1960年開業、席数およそ2,000という巨大な冷麺専門店で、平壌冷麺の総本山とされています。2018年の南北首脳会談の晩餐でここの冷麺が出され、韓国側で行列ができたことで一気に有名になりました。

まず水冷麺(ムルレンミョン)。これが平壌冷麺の基本形です。麺はそば粉の比率が高く、色は灰色がかった黒。すすると、そばの香りが鼻に抜ける。コシはほとんどなく、噛むというより歯で押し切る感じです。スープは冷たい牛の出汁に동치미(トンチミ=大根の水キムチ)の汁を合わせたもので、透明に近い。ひと口目は「薄い」と感じるのに、二口三口と進むと、酸味と旨みがじわじわ効いてくる。ここに酢と辛子を自分で足して調整します。現地では酢は麺に、辛子はスープに入れるのが作法だと教えられます。

次にビビン冷麺(ピビムレンミョン)。同じ麺に、唐辛子だれを絡めた汁なし版です。だれは甘みが強く、辛さは後から来る。コチュジャンと砂糖と梨のすりおろしが入るので、日本の辛味だれよりずっと甘い。混ぜているうちに麺が切れていくので、勢いよく食べるのが正解です。

そしてキムチ。平壌の白菜キムチは、南部のものより唐辛子が少なく、塩気も控えめで、汁気が多いのが特徴です。地域が北へ行くほどキムチは薄味になり、汁が増える。冷麺のスープにトンチミの汁を使うのも、この土地の水キムチ文化の延長線上にあります。酸味が主役で、辛さは脇役。これが平壌の味覚の基本です。

冷たいスープに入った灰色の細い麺
水冷麺(ムルレンミョン)|昼食に含まれる そば粉比率の高い灰色の麺はコシがなく歯で押し切る。牛出汁+大根の水キムチ汁の透明なスープは、薄いようで後から酸味と旨みが来る。酢は麺、辛子はスープへ
唐辛子だれを絡めた冷麺
ビビン冷麺(ピビムレンミョン)|昼食に含まれる 同じ麺の汁なし版。コチュジャン・砂糖・すりおろした梨のたれは甘みが強く、辛さは後から。混ぜるほど麺が切れるので勢いよく
白菜キムチ
白菜キムチ|食事に必ず付く 平壌のキムチは唐辛子が少なく塩気も控えめで汁気が多い。北へ行くほど薄味になる。酸味が主役で辛さは脇役
大同江と対岸の主体思想塔
大同江。西岸が旧市街と官庁街、東岸が塔と新しい住宅地
朝もやのなかの大同江と橋
朝の川。両岸は遊歩道で、釣りをする人がいる
大同江のほとりで休む人
川べり。外国人がここを自由に歩くことはできない
大同江に架かる橋と対岸の街並み
玉流橋のあたり。玉流館はこの近くに建つ
高層ビルの向こうに見える柳京ホテル
市街地。ピラミッド形の柳京ホテルはどこからでも見える
霞んだ平壌の街並み
霞む街。大気汚染ではなく、川からの靄であることが多い
大同江と平壌の街並みを高所から見た様子
川と街。この構図を撮れる場所は、実質ホテルの上層階に限られる
シャンデリアの下がる平壌地下鉄のホーム

第 六 章

地下100mの宮殿

運賃 5ウォン(約0.6円)/深さ最大約110m/外国人は2駅だけ乗れる

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平壌地下鉄は1973年開業。千里馬線と革新線の2路線、17駅。世界でもっとも深い地下鉄のひとつで、深さは平均100m前後、最深部は約110mに達します。これは輸送のためだけではなく、有事の際の核シェルターとして設計されているためです。実際、駅の入口には分厚い鉄の扉が付いています。

エスカレーターは長く、乗っている時間は3分以上。降りていくと、地上の光が完全に消えます。そしてホームに着いた瞬間、たいていの外国人が同じ反応をします。シャンデリアが下がっている。大理石の柱、モザイク壁画、金属の装飾。地下鉄の駅というより、宮殿の広間の意匠です。

駅名も独特で、「栄光」「復興」「凱旋」「戦友」「烽火」――地名ではなく、概念が駅名になっているのが特徴です。運賃は5ウォン(公式レート換算で1円未満)。かつて外国人は栄光駅と復興駅の2駅間しか乗れませんでしたが、近年は複数駅に乗れるツアーもあります。

シャンデリアの下がる地下鉄のホーム
ホーム。シャンデリア、大理石の柱、モザイク壁画。宮殿の広間の意匠
地下鉄のホームを歩く乗客
通勤時間帯。外国人が乗れるのは決められた区間だけ
地下鉄の路線図
路線図。駅名は地名ではなく「栄光」「復興」「凱旋」などの概念
駅のモザイク壁画
モザイク壁画。ひとつの駅にひとつ、大きな絵がある
地下鉄の長いホームと乗客
ホームは長い。地下100mでも空気は乾いていて涼しい
駅名標の前に立つ乗客
駅名標。ハングルのみで、ローマ字表記はない

地下から上がると、ちょうど昼です。この日に出たのが温飯(オンバン)――平壌の名物のひとつで、名前のとおり「温かいごはん」。器に盛ったごはんに、鶏の出汁をかけ、上に緑豆チヂミの細切り、椎茸、錦糸卵、そして時に生卵を落とします。

味は徹底して穏やかです。鶏の出汁は澄んでいて、塩気は最小限。冷麺が「冷たくて酸っぱい」平壌の顔なら、温飯は「熱くて優しい」もう一つの顔になります。混ぜると卵がほどけてスープが少しとろみを帯び、緑豆チヂミの細切りが香ばしさを足す。冬のあいだ、平壌の人がいちばんよく食べる料理だと言われます。

そして緑豆チヂミ(ノクトゥジョン/빈대떡)。皮をむいて挽いた緑豆を生地にし、豚肉、キムチ、ネギを混ぜて厚めに焼いたものです。小麦のチヂミとは食感がまるで違う。外側はざらっと乾いて香ばしく、中はほくほくして、豆の甘みがはっきり出ます。油をよく吸うので、熱いうちに酢醤油をつけて食べる。冷めると豆くささが立つので、出てきたらすぐ手をつけるのが正解です。

これにチヂミ・チョンの盛り合わせが付くことがあります。魚のすり身、かぼちゃ、ズッキーニ、豆腐などを一枚ずつ薄く焼いたもので、宮廷料理の流れをくむ盛り方です。一枚ごとに味が違い、全体としては非常に淡白。酢醤油で輪郭をつけながら食べます。

温かいスープに具の乗ったごはん
温飯(オンバン)|昼食に含まれる ごはんに澄んだ鶏出汁をかけ、緑豆チヂミの細切り・椎茸・錦糸卵を乗せる。塩気は最小限で徹底して穏やか。混ぜると卵でとろみが出る
大きく焼かれた緑色のチヂミ
緑豆チヂミ(ノクトゥジョン)|昼食に含まれる 挽いた緑豆の生地に豚肉・キムチ・ネギ。外はざらっと香ばしく中はほくほく、豆の甘みがはっきり。冷めると豆くささが立つので熱いうちに
数種類のチヂミの盛り合わせ
チヂミ・チョンの盛り合わせ|食事に含まれる 魚のすり身・かぼちゃ・ズッキーニ・豆腐を一枚ずつ薄く焼く。宮廷料理の流れ。一枚ごとに味が違い、全体は非常に淡白
駅の出入口と人の流れ
駅の出入口。入口には有事に備えた分厚い鉄の扉が付いている
駅のシャンデリアの装飾
天井の装飾。1970年代の意匠がそのまま保たれている
地下鉄駅の大きなモザイク壁画
壁画。革命の歴史を主題にしたものが多い
地下鉄駅のホームと停車中の車両
車両はかつてベルリンで走っていた中古車を改装したものが使われている
金日成広場と人民大学習堂

第 七 章

金日成広場。
石畳に番号が振ってある

面積 約7.5万㎡/収容 約10万人/広場での撮影は可

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大同江の西岸、対岸の主体思想塔とまっすぐ向かい合う位置にあるのが金日成広場です。面積およそ7万5,000㎡、収容人数は約10万人。軍事パレードとマスゲームの舞台として、映像で見たことがある人も多いはずです。

実際に立ってみて驚くのは、石畳に白い番号が振ってあること。パレードのとき、参加者が一人ずつ立つ位置です。何万人が寸分の狂いなく整列できるのは、この番号があるからです。ふだんはがらんとしていて、ローラースケートをする子どもがいたりします。

広場の西側に建つ大きな瓦屋根の建物が人民大学習堂。1982年に建てられた国立の大図書館で、蔵書は3,000万冊とされます。伝統的な朝鮮建築の屋根を、鉄筋コンクリートの巨大建築に載せた設計で、この「伝統様式+巨大建築」という組み合わせは平壌の建物にくり返し現れます。

金日成広場と人民大学習堂
広場の全景。正面が人民大学習堂
広場から見た主体思想塔
広場に立つと、川の対岸に主体思想塔が正面に見える
瓦屋根の人民大学習堂
人民大学習堂。伝統様式の屋根を巨大建築に載せた設計

昼食は広場に近い外国人向けレストランで。ここで出るのが、朝鮮料理の「品数」の文化を体感できる一膳です。

まず前菜の小皿が並びます。キムチ数種、ナムル、干しダラの和え物、豆もやし、山菜。一皿ずつは少量で、味はどれも薄い。塩、ごま油、酢、唐辛子――使う調味料は限られていて、素材ごとにその配合を変えているだけなのに、ちゃんと全部違う味になっています。

そしてお弁当形式の盛り合わせ。仕切りの入った器に、卵焼き、かぼちゃの煮物、キムチ、揚げ物が少しずつ入ります。観光地の移動日に出てくる形式で、冷めた状態で出るので味が濃いめに作られているのが特徴です。

締めはビビンバ。器にごはんを盛り、ナムル、肉、卵、そして海苔をたっぷり。混ぜてから食べます。平壌のビビンバはコチュジャンの量が控えめで、韓国のものより辛くありません。ごま油の香りと、ナムルそれぞれの塩気で食べさせるタイプです。

小皿に盛られた数種類の前菜
前菜の小皿|昼食に含まれる キムチ数種、ナムル、干しダラの和え物、豆もやし、山菜。一皿は少量で味は薄い。塩・ごま油・酢・唐辛子の配合だけで全部違う味になっている
仕切りの器に入った弁当形式の料理
弁当形式の盛り合わせ|移動日の昼食 卵焼き、かぼちゃの煮物、キムチ、揚げ物。冷めた状態で出す前提なので、味は他の料理より濃いめに作られている
海苔をたっぷり乗せたビビンバ
ビビンバ|昼食に含まれる ナムル・肉・卵・海苔を混ぜて食べる。平壌のものはコチュジャンが控えめで韓国より辛くない。ごま油の香りとナムルの塩気で食べさせる
広場に掲げられた大きな旗と看板
広場の周囲。標語と旗が常設されている
番号の書かれた広場の石畳
石畳の白い番号。パレードで一人ずつ立つ位置
広場と大通り
広場から伸びる大通り。車は少なく、歩行者のほうが多い
広場の周囲の建物と通り
広場の周囲は官庁と文化施設。住宅はここにはない
万寿台大記念碑の銅像

第 八 章

万寿台の丘。
ここでは花を買う

入場無料/献花は花束5〜10ユーロ/服装と姿勢に指定あり

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平壌でもっとも重要な場所が万寿台大記念碑(マンスデ・テギニョンビ)です。丘の上に、金日成と金正日の巨大な銅像が並んで立っています。高さはおよそ20m。1972年に建てられ、2012年に金正日像が加えられました。

ここには決まり事があります。短パン・サンダル・帽子は不可。手はポケットから出す。像の前では一列に並び、全員で一礼する。そして写真は像の全身が入るように撮る――足だけ、顔だけといった切り取り方は失礼にあたるとされ、ガイドから必ず注意されます。

訪問者は入口で花束を買います。1束5〜10ユーロ(約850〜1,700円)。強制ではありませんが、ほぼ全員が買います。献花して一礼するまでが一連の流れです。像の背後には巨大なモザイク壁画、両脇には抗日闘争と社会主義建設を主題にした群像彫刻が配置されています。

万寿台の銅像に献花する人々
献花。訪問者は入口で花束を買い、一列に並んで一礼する
銅像を見上げる人
高さおよそ20m。写真は全身が入るように撮るのが決まり
銅像の背後の群像彫刻
両脇の群像彫刻。抗日闘争と社会主義建設が主題

丘を降りたところで出会うのが、この土地の保存食です。

魚卵の塩辛(明太/ミョンテ)。スケトウダラは朝鮮半島東岸の代表的な魚で、身は干して保存し、卵は塩と唐辛子で漬けます。粒はしっかりして、噛むとぷちぷち弾け、後から塩気と唐辛子の熱が来る。日本の明太子より水分が少なく、味が凝縮しています。少量をごはんに乗せて食べるもので、これ単体では塩辛すぎます。

もうひとつ、餅(トック/송편)。うるち米の粉をこねて蒸したもので、色は白、桃色、緑。中に胡麻や小豆の餡が入ります。日本の大福のような柔らかさはなく、もっちりというより弾力が強い。甘さは控えめで、松の葉を敷いて蒸すため、ほのかに松の香りが残ります。秋夕(チュソク=旧盆)の菓子ですが、外国人向けの食事では通年で出てきます。

オレンジ色の魚卵と小皿
明太(魚卵の塩辛)|食事に付く スケトウダラの卵を塩と唐辛子で漬けたもの。粒がしっかりして噛むとぷちぷち弾け、後から塩気と唐辛子の熱。日本の明太子より水分が少なく味が濃い
桃色や白の餅
餅(トック)|食後に出る うるち米の粉を蒸したもので中に胡麻や小豆の餡。柔らかいというより弾力が強く、甘さは控えめ。松の葉を敷いて蒸すので松の香りが残る
万寿台の丘に立つ人々
丘の上。ここからも柳京ホテルが見える
金日成の銅像
1972年に建てられた金日成像。2012年に金正日像が加えられた
赤い壁の前の群像彫刻
赤い背景の壁と群像。配色まで含めて設計されている
並んで立つ二体の銅像
二体並んだ姿。この構図で撮ることがルールとして求められる
主体思想塔と群像

第 九 章

170mの塔と、
パリより10m高い凱旋門

主体思想塔 展望台 約5ユーロ/凱旋門 高さ60m/どちらも撮影可

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玉流館
地下鉄
夜の平壌

大同江の東岸に立つのが主体思想塔(チュチェ思想塔)。1982年、金日成の70歳の誕生日に合わせて建てられました。高さは170m。塔身は白い花崗岩の切石を積んだ形で、石の数は2万5,550個――70年を日数に直した数だとされています。頂上には高さ20mの赤い炎の飾りが乗り、夜になると内側から照らされます。

塔の足元には、労働者・農民・知識人を表す高さ30mの三人像。そして塔の基部の壁には、世界各国の団体から贈られた石板がびっしりと嵌め込まれています。これがなかなか壮観で、色も文字もばらばらの板が一面に並ぶ。

エレベーターで展望台に上がれます。料金は約5ユーロ(約850円)。ここが平壌でいちばん見晴らしの利く場所で、大同江、金日成広場、柳京ホテル、そして街の全景が一度に見えます。市街を俯瞰で撮れる数少ない合法的な場所なので、カメラを持ってきた人は必ずここに上がります。

主体思想塔の全景
高さ170m。塔身の切石は2万5,550個、70年を日数に直した数とされる
夕暮れの主体思想塔と三人像
足元の三人像は労働者・農民・知識人を表し、高さ30m
主体思想塔と群像の見上げ
見上げると、頂部に高さ20mの赤い炎の飾りが乗っている
塔の基部に嵌め込まれた各国からの石板
基部の石板。世界各国の団体から贈られたものが一面に並ぶ
水面に映る主体思想塔
川越しの塔。この角度が定番の構図になる
青空を背にした主体思想塔
晴れた日の塔身。白い花崗岩が空に映える

塔から車で10分ほど北へ行くと、凱旋門があります。1982年建立、高さ60m、幅50m。パリの凱旋門(高さ50m)より10m高く造られていて、これは意図的です。「世界最大の凱旋門」であることが設計の要件でした。

石材は白い花崗岩で、使われた石は2万5,500個。こちらも金日成の年齢に由来する数です。門には「1925」と「1945」の年号が刻まれています。抗日運動に身を投じた年と、解放の年とされています。

昼食は塔の周辺のレストランで。ここで出たのが蒸しエビでした。

蒸しエビは西海岸(黄海)で獲れたもの。塩の上に並べて蒸してあり、味付けはほぼ塩だけ。殻がぱりっと乾いていて剥きやすく、身は締まって甘い。朝鮮半島の西海岸は遠浅の干潟が広がる好漁場で、エビとワタリガニがよく獲れます。

塩の上で蒸されたエビ
蒸しエビ|昼食に含まれる 黄海で獲れたもの。塩の上に並べて蒸すだけで味付けはほぼ塩。殻がぱりっと乾いて剥きやすく、身は締まって甘い
凱旋門の石積みの細部
凱旋門の石。使われた花崗岩は2万5,500個とされる
白い石造りの凱旋門
高さ60m。パリの凱旋門より10m高く造られている
凱旋門を見上げた様子
門には「1925」「1945」の年号が刻まれている
凱旋門の正面
正面から。周囲は広い交差点になっていて、車はまばら
平壌の大通りを歩く人々

第 十 章

通り。
車がないから、静かだ

撮影は車内から可のことが多い/歩行者信号はほぼない/自転車は近年急増

い ま こ こ

東京
北京
平壌着
市内
玉流館
地下鉄
夜の平壌

平壌の通りを歩いて、まず気づくのは音がないことです。車が圧倒的に少ない。片側4車線の大通りに、1分間に数台しか通らない時間帯があります。クラクションも鳴らない。だから、人の話し声と靴音がそのまま聞こえます。

移動手段は路面電車、トロリーバス、そして自転車。自転車はかつて平壌市内では制限されていましたが、近年は急増して、朝夕は列をなして走ります。バスは常に満員で、停留所には長い列ができています。

外国人がこの通りを自分の足で歩ける機会は、実はほとんどありません。ほとんどはバスの車内から見ることになります。車内からの撮影は許可されることが多いものの、軍人・工事現場・整列していない集団は撮らないよう言われます。

平壌の官庁街の建物
官庁街。低層で横に長い建物が多い
通りを歩く人々
通りの人。服装は近年かなり多様になったと言われる
街路樹の並ぶ通りと人の列
街路樹の下の列。バス待ちの行列であることが多い
歩道を歩く人々と建物
歩道。歩行者信号はほとんどなく、交通整理員が立つ交差点もある
路上に並ぶ青いテントの露店
路上の露店。近年は市場(チャンマダン)が公認されて増えている
自転車と車の走る大通り
大通り。自転車の数は近年急増した

昼はレストランでユッケビビンバが出ました。器にごはんとナムルを盛り、中央に生の牛肉のユッケと生卵の黄身を置いたもの。混ぜてから食べます。

肉は驚くほど臭みがなく、ねっとりして甘い。ごま油と塩、少量の醤油で和えてあり、コチュジャンはほとんど入っていません。卵の黄身が全体をまとめ、ナムルの塩気とごはんの甘みが後から来る。生肉を出すのは新鮮さの証明でもあり、外国人向けレストランでは看板料理のひとつになっています。

もう一皿が山菜ビビンバ。こちらは肉を使わず、ぜんまい、わらび、桔梗の根(トラジ)などの山菜だけで組み立てたものです。山菜それぞれに下ゆでと味付けが違い、噛むと繊維がしゃきしゃき鳴る。朝鮮半島の北部は山が多く、山菜の種類と使い方が非常に豊富です。地味な料理ですが、この土地の食の芯がいちばんよく出ています。

生肉と卵黄の乗ったビビンバ
ユッケビビンバ|昼食に含まれる ごはんとナムルの中央に生の牛肉と卵黄。肉は臭みがなくねっとりして甘い。ごま油と塩で和えてありコチュジャンはほぼ入らない
山菜と小鉢のキムチ
山菜ビビンバ|昼食に含まれる ぜんまい、わらび、桔梗の根などの山菜だけで組み立てる。一種ずつ下ゆでと味付けが違い、噛むと繊維がしゃきしゃき鳴る
トロリーバスの走る通り
トロリーバス。架線から電気を取って走る。運賃はごく安い
公園の東屋で休む人々
公園の東屋。休日はここで家族が過ごす
公園で踊る人々
公園で踊る人たち。祝日には各所でこの光景が見られる
夜にライトアップされた主体思想塔

第 十 一 章

夜。
灯りの数を数えてしまう

ホテルの外には出られない/回転展望レストランは高麗ホテル45階/夜景は限定的

い ま こ こ

東京
北京
平壌着
市内
玉流館
地下鉄
夜の平壌

外国人が泊まるホテルは限られています。代表が羊角島国際ホテルと高麗ホテル。羊角島は大同江の中州(羊角島)に建つ47階建てで、島にあるので、そもそも外に出て歩ける場所がありません。これは偶然の立地ではないと言われています。高麗ホテルは市街地にあり、45階建ての双塔。上部に回転展望レストランがあります。

エレベーターの中に、施設一覧のプレートが貼ってあります。土産物店、書店、ビュッフェ、ヨーロッパ料理、朝鮮料理、中国料理、喫茶、写真、国際郵便局、カジノ、プール、サウナ、マッサージ。ホテルの中だけで完結するように作られているのが、見ただけで分かります。

そして夜。窓から街を見ると、灯りの数が数えられます。高層アパートの窓は、点いている部屋のほうが少ない。主体思想塔の頂上の炎と、いくつかの記念建造物だけが照らされ、あとは暗い。この暗さは、都市の規模と比べると異様です。ソウルや北京の夜景を見慣れた目には、まず「停電か」と思う。そうではなく、これが平常です。

夕暮れの柳京ホテル
柳京ホテル。105階・330m。1987年着工、いまも未開業のまま街の中心に立つ
ガラス張りの柳京ホテル
2008年に外装のガラスが張られ、外観だけは完成した
柳京ホテルと前の大通り
足元から。ピラミッド形は3枚の翼を組み合わせた平面をしている
大同江と羊角島の街並み
大同江の中州、羊角島。外国人向けホテルはこの島に建つ
高所から見た平壌の街並み
俯瞰。高層アパートが整然と並ぶ
高層ホテルの外観
羊角島国際ホテル。47階建てで、島にあるため外を歩けない
川沿いに立つ高層ホテル
川からの眺め。橋を渡らないと市街に出られない
ホテルのエレベーター内の施設案内板
エレベーターの施設一覧。ホテルの中だけで完結するようになっている
ライトアップされた瓦屋根の建物
夜の記念建造物。照らされるのは限られた建物だけ

夜の食事は、ホテルか指定レストランで。ここで出るのが、この旅でいちばん華やかな一皿――銅盤焼肉(トンパンコギ)です。

穴の開いた丸い銅の板を炭火にかけ、その上で肉を焼きます。並ぶのは牛と豚の薄切り、そして脂身。タレに漬け込まず、生のまま焼いて、後から塩やタレをつけるのがこの国のやり方です。韓国の甘辛いプルコギとは違い、味付けは驚くほどシンプル。

焼き上がりは縁がちりちりに縮んで、脂が落ちて香ばしい。薄いので火が通るのが早く、油断すると固くなります。サンチュに包み、キムチとにんにくを一緒に。この食べ方は南北で共通です。

合わせるのは大同江ビールの生。瓶よりさらに炭酸が弱く、ほとんど泡が立ちません。温度も日本より高めで、冷えすぎていない。麦の甘みがはっきり出て、焼いた肉の脂とよく合います。グラス1杯 約1.5〜2ユーロ=約255〜340円。ホテルのバーでは外貨払いです。

そしてこの旅の最後の夜、テーブルに残ったのは、焼き終わった銅盤と、空のグラスと、ガイド2人でした。5日間ずっと一緒にいた2人と、初めて雑談らしい雑談をしたのが、この夜でした。

銅の板の上に並べられた生肉
銅盤焼肉(生肉)|夕食に含まれる 穴の開いた丸い銅板を炭火にかけて焼く。牛・豚の薄切りと脂身。タレに漬け込まず、生のまま焼いて後から塩やタレをつける
焼き上がった薄切りの肉
銅盤焼肉(焼き上がり)|夕食に含まれる 縁がちりちり縮んで脂が落ち、香ばしい。薄いので火が通るのが早く、油断すると固くなる。サンチュに包んでキムチとにんにくで
グラスに注がれたビール
大同江ビール(生)|1杯 約1.5〜2ユーロ=約255〜340円 瓶よりさらに炭酸が弱く泡が立たない。温度も日本より高めで、麦の甘みがはっきり出る。焼いた肉の脂によく合う
夜に青くライトアップされた塔
夜の主体思想塔。頂部の炎が内側から照らされる
暗い夜の街に浮かぶ建物の灯り
窓の灯りは数えられるほど。この暗さが平壌の平常
灯りの数が数えられる首都に、
105階のホテルが立っている。
その落差が、この街のすべてでした。

最後に、この旅にかかるお金と、知っておくべきことをまとめます。金額はすべて2026年8月時点の目安で、1ユーロ=170円、1人民元=22円で換算しています。

現地ツアー・入場券

※広告:現地発の日帰りツアーや入場券を比較できます。

ツアー代金(4泊5日・格安クラス・全食事とガイド込み)499ユーロ〜(約8万5,000円〜)
ビザ代行手数料50〜60ユーロ(約8,500〜1万200円)
北京往復航空券(東京発)4〜8万円
北京宿泊(前後泊2泊)1〜2万円
国際列車K27(軟臥・片道)を選ぶ場合1,476元(約3万2,500円)
万寿台の献花用の花束5〜10ユーロ(約850〜1,700円)
主体思想塔 展望台約5ユーロ(約850円)
大同江ビール(瓶1本/生1杯)約2ユーロ/1.5〜2ユーロ(約340円/約255〜340円)
ガイド・運転手へのチップ(3人分・慣習)合計50〜100ユーロ(約8,500〜1万7,000円)
合計(1人・目安)約 20〜30万円

※ 2026年8月時点で、ロシア国籍以外の外国人観光は再開していません。上記は再開前に実際に行われていたツアーの相場です。また日本政府は日本国民に対し北朝鮮への渡航自粛を要請しており、日本のパスポートでの渡航は事実上できません。料金・制度は今後大きく変わる可能性があります。

持っていってはいけないもの。①GPS機能付きの単独機器 ②焦点距離の長い望遠レンズ ③宗教関連の書籍・物品 ④朝鮮半島情勢を扱った書籍 ⑤ポルノ的な内容を含むもの。これらは入国審査で没収されます。携帯電話とノートPCは持ち込めますが、中身を確認されることがあります。

やってはいけないこと。①指導者の像・肖像画を部分的に切り取って撮影する ②指導者の写真が載った新聞を折る・包む・捨てる ③ガイドに無断でホテルの外に出る ④軍人・工事現場・整列していない集団を撮る ⑤許可なく現地の人と物や外貨をやりとりする。いずれも、旅行者本人だけでなく、同行したガイドが処分を受ける可能性があります。これは冗談ではなく、現地でくり返し説明されることです。

それでも記録として残る意味。この記事は「行った気になる」ための図鑑ですが、平壌に関しては、行った気になった上で「実際には自由に見ることができない街だ」という前提も一緒に持ち帰ってほしいと思います。写真に写っているのは、見せることを許された平壌です。それ以外の平壌は、この112枚のどこにも写っていません。

見せてもらえるものだけを、
順番どおりに見る旅でした。

旅の準備

※広告:航空券・宿・保険をまとめて。

GUIDEPYONGYANGDPR KOREA

【写真について】本記事の写真112枚は、ウィキメディア・コモンズおよび各機関の公開画像(パブリックドメイン/クリエイティブ・コモンズ)を使用しています。写真の作者・ライセンス・掲載元は、写真クレジット一覧でご確認いただけます。
【主な出典】Koryo Tours(ツアー相場・渡航手続き)/Young Pioneer Tours(渡航再開状況)/Uri Tours(高麗航空・飛行時間)/China Highlights・TravelChinaGuide(国際列車K27の運賃と所要時間)/日本国外務省 海外安全ホームページ(北朝鮮への渡航自粛要請)/各施設の公開情報。

写真の出典

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  • Beijing Railway Station (20210521181025).jpg / N509FZ / CC BY-SA 4.0 / Wikimedia Commons
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  • Central hall of Beijing Railway Station (20230505211001).jpg / N509FZ / CC BY-SA 4.0 / Wikimedia Commons
  • Waiting room 8 of Beijing Railway Station (20230505212759).jpg / N509FZ / CC BY-SA 4.0 / Wikimedia Commons
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  • Bibim-naengmyeon 1.jpg / chomjong / CC BY 2.0 / Wikimedia Commons
  • Gimchi.jpg / Nagyman, a flickr user / CC BY-SA 2.0 / Wikimedia Commons
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  • Taedong River, Pyongyang, North Korea 1988 (2).jpg / Derzsi Elekes Andor / CC BY-SA 3.0 / Wikimedia Commons
  • Taedong River, Pyongyang in the evening.JPG / Nicor / CC BY-SA 3.0 / Wikimedia Commons
  • Pyongyang City – Ryugyong Hotel in Background (13913572409).jpg / Uri Tours / CC BY-SA 2.0 / Wikimedia Commons
  • Ryugyong Hotel in fog.jpg / Suez (sophia) / CC BY-SA 3.0 / Wikimedia Commons
  • Tower of Juche – 18 – View from the top.jpg / Jan Engelhardt / CC BY-SA 4.0 / Wikimedia Commons
  • Pyongyang Metro.JPG / Kristoferb (talk) / CC BY-SA 3.0 / Wikimedia Commons
  • Pyongyang – Kaeson station 2010.jpg / David Stanley from Nanaimo, Canada / CC BY 2.0 / Wikimedia Commons
  • Puhung station, Pyongyang Metro 02.JPG / Nicor / CC BY-SA 3.0 / Wikimedia Commons
  • Ponghwa Station. Pyongyang Metro, North Korea..jpg / (stephan) / CC BY-SA 2.0 / Wikimedia Commons
  • Ponghwa Station. Pyongyang Metro, North Korea 01.jpg / (stephan) / CC BY-SA 2.0 / Wikimedia Commons
  • Ponghwa Station. Pyongyang Metro, North Korea 02.jpg / (stephan) / CC BY-SA 2.0 / Wikimedia Commons
  • Korean soup-Samgyetang-05.jpg / by karendotcom127 / CC BY 2.0 / Wikimedia Commons
  • Korean pancake-Jeon-01.jpg / by karendotcom127 / CC BY 2.0 / Wikimedia Commons
  • Korea-Jeongseon-Various Korean pancakes (jeon)-01.jpg / by Junho Jung at Flickr from South Korea / CC BY-SA 3.0 / Wikimedia Commons
  • Ponghwa Station. Pyongyang Metro, North Korea 03.jpg / (stephan) / CC BY-SA 2.0 / Wikimedia Commons
  • Pyongyang metro station 2.jpg / Roman Bansen / CC BY-SA 3.0 / Wikimedia Commons
  • Pyongyang Metro – Jonsung Station (15525119056).jpg / Uri Tours / CC BY-SA 2.0 / Wikimedia Commons
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  • Kim Il Sung Square New Year’s Day (32756922090).jpg / jennybento from Jackson Heights, usa / CC BY-SA 2.0 / Wikimedia Commons
  • Korean cuisine-Banchan-11.jpg / hellaOAKLAND at Flickr / CC BY-SA 2.0 / Wikimedia Commons
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  • Kim Il Sung Square New Year’s Day (33012453561).jpg / jennybento from Jackson Heights, usa / CC BY-SA 2.0 / Wikimedia Commons
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  • Kim Il-sung Square – 02.jpg / Jan Engelhardt / CC BY-SA 4.0 / Wikimedia Commons
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  • North Korea – Mansudae Grand Monument – IMG 7293 (3103987355).jpg / Mark Scott Johnson from Sydney, Australia / CC BY 2.0 / Wikimedia Commons
  • North Korea – Mansudae Grand Monument – IMG 7314 (3104824904).jpg / Mark Scott Johnson from Sydney, Australia / CC BY 2.0 / Wikimedia Commons
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  • 1726 – Nordkorea 2015 – Pjöngjang – Juche Turm (22980091515).jpg / Uwe Brodrecht / CC BY-SA 2.0 / Wikimedia Commons
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  • Juche Tower from the other side of Taedong river.jpg / David Clayton Ellsworth / CC BY-SA 4.0 / Wikimedia Commons
  • Juche Tower from the bottom.jpg / David Clayton Ellsworth / CC BY-SA 4.0 / Wikimedia Commons
  • SZ 深圳 Shenzhen 南山區 Nanshan 萬科里東里 China Vanke Lane In Street East Mall shop 昌井韓國烤肉自助餐廳 ChangJing Korean Barbecue Meat Buffet Restaurant seafood prawn shrimp July 2025 R12S 10.jpg / PDD Ping Done OK / CC0 / Wikimedia Commons
  • Arch of Triumph Pyongyang.jpg / Mannen av börd / CC BY-SA 3.0 / Wikimedia Commons
  • Arch of Triumph, Pyongyang 01.JPG / Nicor / CC BY-SA 3.0 / Wikimedia Commons
  • Arch of Triumph (Pyongyang) 01.JPG / Nicor / CC BY-SA 3.0 / Wikimedia Commons
  • Arch of Triumph (Pyongyang) 05.JPG / Nicor / CC BY-SA 3.0 / Wikimedia Commons
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  • Pyongyang store1.JPG / No machine-readable author provided. Kallgan assum / Public domain / Wikimedia Commons
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  • Ryugyong Hotel, Pyongyang, North Korea.jpg / Kok Leng Yeo / CC BY 2.0 / Wikimedia Commons
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  • Views from Yanggakdo International Hotel 09.JPG / Nicor / CC BY-SA 3.0 / Wikimedia Commons
  • Laika ac Yanggakdo Hotel (7981815172).jpg / Laika ac from USA / CC BY-SA 2.0 / Wikimedia Commons
  • Laika ac Yanggakdo Hotel (7975232791).jpg / Laika ac from USA / CC BY-SA 2.0 / Wikimedia Commons
  • Yanggakdo Hotel – Secret fifth floor.jpg / Jan Engelhardt / CC BY-SA 4.0 / Wikimedia Commons
  • Kim Il-sung square at night.jpg / David Clayton Ellsworth / CC BY-SA 4.0 / Wikimedia Commons
  • SZ 深圳 Shenzhen 南山區 Nanshan 萬科里東里 China Vanke Lane In Street East Mall shop 昌井韓國烤肉自助餐廳 ChangJing Korean Barbecue Meat Buffet Restaurant pork July 2025 R12S 02.jpg / PDD Ping Done OK / CC0 / Wikimedia Commons
  • SZ 深圳 Shenzhen 南山區 Nanshan 萬科里東里 China Vanke Lane In Street East Mall shop 昌井韓國烤肉自助餐廳 ChangJing Korean Barbecue Meat Buffet Restaurant pork July 2025 R12S 03.jpg / PDD Ping Done OK / CC0 / Wikimedia Commons
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