フォークに刺したパンから、溶けたチーズが糸を引いて鍋へ垂れる(スイス・ロマンドの集まりで撮影)
スイス / ヴァレー州・フリブール州

チーズフォンデュ

Käsefondue · Cheese Fondue

パンを落としたら、罰ゲーム

SWITZERLAND01
長いフォークが、人数分。

ツェルマットの夜、木の壁の店に入ると、まずこの匂いがする。溶けたチーズと、白ワインと、キルシュ。

テーブルの真ん中に素焼きの鍋が置かれ、下で小さな炎が揺れている。長いフォークが人数分。ここから先、食事は共同作業になる。

そして意外なことに、この料理は「ごちそう」として生まれたのではない。

1人前 CHF 28〜34(約5,600〜6,800円)2名から白ワインとキルシュ

30秒でわかる、この料理

なにか
白ワインとキルシュで溶かしたチーズに、長いフォークで刺したパンをくぐらせて食べる鍋
一口目
熱さと塩気のあとに白ワインの酸、遅れてさくらんぼの蒸留酒の香り
作法
パンを鍋に落としたら罰ゲーム。飲み物は冷たい水より白ワインか温かい紅茶
注文
ほとんどの店で2名から。配合はモワティエ・モワティエ(半々)が定番

図鑑データ

国・地域
スイス全土。とくにヴァレー州・フリブール州。フランス・サヴォワにも
分類
チーズ料理(鍋)
相場
1人前 CHF 28〜34(約5,600〜6,800円)。2名から
主な材料
グリュイエール、ヴァシュラン・フリブルジョワ、白ワイン、キルシュ、にんにく、コーンスターチ
辛さ
辛くない。白ワインの酸味とチーズの塩気
食べる場所
山小屋風レストラン(シュトゥーベ)。ツェルマットの旧市街に集中
ベスト時間
夜。歩いた日の締め
一人前
パン1皿ぶんで満腹。前菜を頼むと確実に残す
予約
冬と夏の観光期は必須。18時か20時半の二部制の店が多い
注意
冷たい水は避ける。胃の中でチーズが固まると言われる
1

鍋を見る

素焼きの鍋で溶けたチーズと、長いフォークに刺したパン(神戸・六甲山牧場のレストランで撮影)
12345
木の柄のフォンデュ用フォーク(長さ25cm)のセット。ノルウェー民俗博物館の所蔵品専用の長いフォーク

素焼きの鍋と長いフォーク。写真は神戸・六甲山牧場のレストランで撮影

1
パンle pain外側が乾いた白パンを角切りにする。柔らかいパンは鍋の中で崩れる
2
長いフォークla fourchette à fondue人数分が配られる。柄の色や印で自分のものを見分ける
3
溶けたチーズle fromage fondu白ワインとチーズが乳化して、とろりとした状態がいちばんうまい
4
カクロンle caquelonフォンデュ用の鍋。素焼きが伝統だが、鋳物や陶器の店も多い
5
火の台le réchaud下でアルコールランプの炎が揺れる。高さで温度を調整する
2

一口目

味

熱さと塩気、次に白ワインの酸

口に入れると、まず熱さと塩気。次に白ワインの酸味が立ち上がり、遅れてキルシュ(さくらんぼの蒸留酒)の香りが鼻に抜ける。チーズそのものの味は意外にも尖っていない。グリュイエールの香ばしさとヴァシュランのまろやかさが混ざって、角が取れている。

食感

糸がすうっと伸びて、どこかで切れる

引き上げたパンからチーズの糸が伸びて、途中で切れる。この瞬間がフォンデュの一口目。硬いパンの歯ざわりと、熱いチーズのなめらかさが一緒に来る。

付け合わせ

ピクルスと小玉ねぎ

付け合わせには酢漬けのきゅうりと小玉ねぎが必ずつく。濃いチーズの合間にかじると、口の中の脂が切れる。

器に入ったチーズフォンデュと、角切りのパン
器に取り分けたチーズと角切りのパン(2012年撮影)
スイスのレストランで、フォークを鍋に入れてチーズを混ぜる
スイスのレストランで、フォークを鍋に入れて混ぜる(2009年撮影)
3

どう食べる

1パンをしっかり刺す

長いフォークでパンを奥まで刺す。鍋に落としたら罰ゲーム。伝統的には「男性なら次のワインを1本おごる、女性ならテーブルを一周してキス」とされる。

現代の店では笑って済ませるが、落とすと必ず場が沸く
2底まで八の字に混ぜる

パンを鍋の底まで沈め、八の字に混ぜてから引き上げる。底のほうが濃いので、しっかり混ぜるのがこつ。

誰かが常に混ぜていないと、底が焦げて上が分離する
3皿の上でパンを外す

鍋に戻すフォークなので、直接口に入れないのが正式。皿の上でパンを外し、自分のフォークで食べる。

守らない人も多いが、知っておくと恥をかかない
4最後に、底の焦げを剥がす

食べ終わりが近づくと、鍋の底にチーズが焦げついて薄い煎餅のような層ができる。これをラ・ルリジューズ(la religieuse=修道女)と呼び、フォークで剥がして分け合う。

焦がしすぎると苦い。最後の数分の火加減が腕の見せどころ
グリュイエールヴァシュラン・フリブルジョワ辛口の白ワインキルシュにんにくコーンスターチ前日の白パン
4

なぜ、スイスで食べられているか

もとは

山の冬の保存食から

冬が厳しく新鮮な食材が手に入りにくいアルプスでは、熟成したチーズと硬くなったパンが頼りだった。それを無駄にせず食べる工夫が原型とされる。

1699年

チューリッヒの料理本に

チーズをワインで煮るレシピが、チューリッヒで出た料理本に載る。広く認められた最初のレシピとされる。

1905年

コーンスターチが入る

コーンスターチがスイスに入り、ワインとチーズを分離させずにまとめやすくなった。

1930年代

国民食として宣伝される

チーズの消費を増やすため、スイスチーズ連合が国民食として売り出した。

硬いパンを食べるためにチーズを溶かした。これがフォンデュの原型だと考えられている。いまも店が前日のパンを出すのは、その名残でもある。硬いパンのほうが、鍋の中で崩れない。

白ワインが入るのは味のためだけではない。ワインの酸がチーズのたんぱく質をほどき、分離を防ぐ。コーンスターチも同じ理由で入る。いまの形が完成したのは、意外に新しい。

国民食として意図的に育てられた料理でもある。1930年代の宣伝のあと、1950年代にはスイス軍の調理教範に載り、兵士が全国に持ち帰ったとも語られる。もとはフランス語圏の料理だったフォンデュは、こうしてドイツ語圏・イタリア語圏にも広まったという。

焚き火の上の小鍋で、チーズをかき混ぜる(スイス・トリアンのキャンプ場で撮影)
焚き火の上の小鍋で溶かす。もともとは山の家の暖炉でできた料理(写真はスイス・トリアンのキャンプ場)

年代は Wikipedia「Fondue」などによる代表的な説。スイス軍の調理教範の話は広く語られているが、この記事では一次資料を確認できていない。配合・作法・罰ゲームの中身は、店や家庭によって違う。

5

似ている料理と比べる

同じ谷のチーズ料理から、名前だけが同じ鍋、国の外でよく似た食べ方まで並べてみる。

スイス

チーズフォンデュ

Käsefondue

白ワインとキルシュで溶かしたチーズの鍋に、パンをくぐらせて食べる。

スイス・ヴァレー州

ラクレット

Raclette

同じヴァレー州のチーズ料理。鍋で溶かすのではなく、チーズの断面を炙って削ぐ。ツェルマットではフォンデュと並ぶ夜の二大選択肢。

スイスほか

フォンデュ・ブルギニヨン

Fondue bourguignonne

熱した油で肉を揚げる鍋。名前は同じでもチーズは入らない。

スイスほか

フォンデュ・シノワーズ

Fondue chinoise

出汁で薄切りの肉をしゃぶしゃぶにする鍋。こちらもチーズは入らない。

イタリア・ピエモンテ

バーニャ・カウダ

Bagna càuda

鍋を囲んで具を浸す構造がそっくり。ただし中身はアンチョビとにんにくのオイル。

日本

日本のチーズフォンデュ

牛乳や生クリームで作ることが多い。白ワインとキルシュが入らないぶん、まったく別の味になる。

6

何を飲むか

フォンデュの席には、飲み物の決まりごとがある。

  • 1
    冷たい水は避ける「胃の中でチーズが固まって消化不良になる」と昔から言われている。科学的な根拠は薄いが、スイスでは今も広く信じられている。
  • 2
    同じ辛口の白ワイン定番はフォンデュに使ったのと同じ辛口白ワイン。ヴァレー州ならファンダン(シャスラ種)。酸が脂を切ってくれる。
  • 3
    温かい紅茶もう一つの定番。これも同じ理屈で選ばれる。
  • 4
    真ん中の一杯食事の途中にキルシュをショットで飲んで胃を空ける「クップ・ドゥ・ミリュー(真ん中の一杯)」という豪快な作法もある。
7

豆知識

  • 1
    素焼きの鍋のわけカクロンと呼ばれる素焼きの鍋は、熱をゆっくり伝えて焦げにくくするためのもの。金属の鍋だと底が一気に焦げる。
  • 2
    夏は観光客の料理?季節の料理という意識が強く、夏に食べるのは観光客だと言うスイス人もいる。ただし山の上は夏でも寒いので、ツェルマットでは通年で正解。
  • 3
    残りに卵を割る残ったフォンデュに卵を割り入れてスクランブルにする食べ方がある。店では出ないが、家庭では定番。
  • 4
    二大国民食公式な決まりはないが、フォンデュとロシュティがスイスの二大国民食とされる。
  • 5
    チョコレートは1960年代チョコレートのフォンデュは、1960年代半ばにニューヨークのスイス料理店主コンラッド・エグリがトブラローネの販促として考えたもの。油で肉を揚げるフォンデュ・ブルギニヨンも、同じ店で1956年に出された。
スイス国旗の柄のフォンデュ鍋と、アルコールランプの台
スイス国旗の柄の鍋と、アルコールランプの台(2010年撮影)
8

食べに行く前に

注文のことば

Moitié-moitié, s'il vous plaît.モワティエ・モワティエ、シル・ヴ・プレ/半々(グリュイエールとヴァシュラン)でお願いします
Fondue aux herbesフォンデュ・オ・ゼルブ/ハーブ入り
Fondue à la tomateフォンデュ・ア・ラ・トマト/トマト入り
Pour deux personnes.プール・ドゥ・ペルソンヌ/2人分で
Mehr Brot, bitte.メア・ブロート・ビッテ(ドイツ語)/パンをもう少しください

ツェルマットのバーンホフ通りから一本入った旧市街に、フォンデュを出す店が集中している。Whymper-Stube や Chalet Restaurant といった名前が有名。人気店は当日では入れない。節約するなら、スーパー(Coop や Migros)でチーズが袋詰めになったフォンデュセットを買い、宿のキッチンで作る手もある(CHF 10前後で2人ぶん)。

値段と覚え書き

チーズフォンデュ 1人前CHF 28〜34約5,600〜6,800円
追加パンCHF 4〜6約800〜1,200円
ファンダン(白ワイン)グラスCHF 7〜10約1,400〜2,000円
キルシュ ショットCHF 8〜12約1,600〜2,400円
ヴァレー風前菜盛りCHF 24〜32約4,800〜6,400円
  • ほとんどの店で2名から。ひとり旅なら、ラクレットかロシュティに切り替える
  • 山の上のレストランでも出している。標高2,000mを超える場所で食べると、それだけで別の料理になる

値段は2026年8月時点のツェルマット周辺の相場の目安。1スイスフラン(CHF)=約200円で換算。価格は変動するので、現地で必ず確認を。

参照資料

写真の出典(7枚)

写真は原典のライセンス(CC BY/CC BY-SA)に従って掲載しています。作者名・ライセンス・原典リンクを1枚ずつ表示しています。旧版に載せていた写真のうち、チーズではない鍋(ブイヨンや油のフォンデュ、チョコレートフォンデュ)が写っていたもの、原典を確認できなかったものは外しました。

  • フォークに刺したパンから、溶けたチーズが糸を引いて鍋へ垂れる(スイス・ロマンドの集まりで撮影)|Ludo/CC BY-SA 3.0/2007年撮影(原典)
  • 素焼きの鍋で溶けたチーズと、長いフォークに刺したパン(神戸・六甲山牧場のレストランで撮影)|663highland/CC BY 2.5(原典)
  • 木の柄のフォンデュ用フォーク(長さ25cm)のセット。ノルウェー民俗博物館の所蔵品|Anne-Lise Reinsfelt / Norsk Folkemuseum/CC BY-SA 4.0(原典)
  • 器に入ったチーズフォンデュと、角切りのパン|Karen and Brad Emerson/CC BY 2.0/2012年撮影(原典)
  • スイスのレストランで、フォークを鍋に入れてチーズを混ぜる|Aleman89/CC BY-SA 3.0/2009年撮影(原典)
  • 焚き火の上の小鍋で、チーズをかき混ぜる(スイス・トリアンのキャンプ場で撮影)|Cédric Trachsel/CC BY-SA 2.5(原典)
  • スイス国旗の柄のフォンデュ鍋と、アルコールランプの台|Simon Bonaventure/CC BY-SA 2.0/2010年撮影(原典)