世界の料理図鑑 ロシア
ピロシキ
пирожки ピロシキー Pirozhki
ロシアで出てくるのは、たいてい焼いたもの。日本の揚げピロシキは1951年の渋谷で生まれた。
ピロシキと聞いて思い浮かべるのは、たぶんきつね色に揚がった、春雨とゆで卵の入ったあれだと思います。パン屋の棚にある、あれ。
モスクワで買うと、まったく違うものが出てきます。揚げていない。表面はつやのある焼き色で、手に油がつかない。
そして春雨は入っていません。あれは日本で足されたものです。誰が、いつ足したのかも分かっています。
- 国・地域
- ロシア全土。旧ソ連圏に広く分布
- 分類
- パン・軽食(惣菜パン)
- 相場
- 40〜120ルーブル(約75〜230円)
- 主な材料
- イースト生地(卵・バター入り)、挽き肉、キャベツ、じゃがいも、ゆで卵と青ねぎ、きのこ
- 辛さ
- 辛くない
- 食べる場所
- パイ専門店、駅やバス停の売店、カフェ、路上の屋台
- ベスト時間
- 朝と昼。焼き上がりの時間に当たると当たり
- 大きさ
- 幅6〜13cmが標準。手のひらに収まる
- 支払い
- 現金かロシア国内発行カード
- 食べ方
- 手でつかんでそのまま。スープに添えても
01一口目に来るもの
かじると、まず生地の香ばしさが来ます。卵とバターの入ったイースト生地なので、菓子パンに近い甘い香りがある。
皮は薄く、ぱりっとしているのは表面だけ。すぐ下はふんわりした生地です。揚げていないので、油の重さがない。
中から出てくるのは、たいてい挽き肉と玉ねぎ。塩と黒こしょうだけの素朴な味つけで、肉汁が生地に染みている。
キャベツ入りを選ぶと、炒めて甘くなったキャベツの水分が最初に来る。こちらのほうが安く、ロシアではむしろ一般的です。

02焼くか、揚げるか
ロシア国内では焼きピロシキのほうが一般的です。天板にずらりと並べてオーブンで焼く。表面に卵を塗るので、つやが出る。
揚げピロシキも存在します。ただし屋台や駅の売店の食べ物という位置づけで、家庭で作るのは焼きのほうが多い。
日本とサハリンでは揚げが主流になりました。理由はオーブンの普及率です。フライパンと油さえあれば作れる。
中身は挽き肉、レバー、鮭やチョウザメ、ゆで卵、米、カーシャ(粥)、じゃがいも、きのこ、キャベツ。ジャムを詰めた甘いピロシキもあります。


春雨は1951年の渋谷で入った
日本のピロシキに春雨が入っているのは、1951年創業の東京・渋谷「ロゴスキー」の初代料理長が考案したからです。そこから全国に広まった。
関西ではパルナス製菓の「パルピロ」——ゆで卵・玉ねぎ・牛挽き肉の揚げピロシキ——が1960〜70年代に定着しました。
つまり日本のピロシキは、日本で完成した料理です。ロシアで「春雨入りのを」と言っても通じません。
これは恥ずかしいことではなく、台湾の魯肉飯が日本で丼になったのと同じ現象です。移ったものは、その土地の形に変わる。



第 一 章
駅とバス停の食べ物
「ピロシコヴァヤ(ピロシキ屋)」の看板を掲げた建物。ロシアの町にはこの業態がある
03帝政期からのストリートフード
ピロシキが街角で売られるようになったのはピョートル1世の時代、つまり18世紀初頭からです。スープやおかずより、屋台の歴史が古い。
語源は「пир(宴)」にさかのぼるという説が有力で、キエフ・ルーシ時代の饗宴料理に起源を求める見方があります。
もともとは残り物を無駄なく使い切るための料理でした。前日の肉、余ったキャベツ、粥。中身は生地に対して重量比20〜35%という配合の目安まで確立しています。
いまでも駅、バス停、市場、路肩——人が待つ場所には必ず売っている。この立ち位置は300年変わっていません。


04どこで買えるか
パイ専門チェーンの「Штолле(シュトレ)」がモスクワ市内に複数店舗あります。ただしここはホール売りが基本で、1個単位ではなく800〜1,280ルーブルの丸ごとパイ、または量り売り(1kg 720〜960ルーブル)。
1個ずつ買うなら、駅の売店や市場の屋台のほうが早い。2021年の全国調査では、キャベツ入りのパイ類は街頭フードで最安の部類、パイ1個の平均が79ルーブル前後でした(その後の値上がりは見込んでください)。
「Вареничная №1(ヴァレーニチナヤ・ナンバーワン)」はヴァレーニキの店ですが、ピロシキも出します。ソ連風の内装で観光客にも入りやすい。
「Столовая №57」のメニューにもパイ類があります。シチーと一緒に頼むのが、いちばんロシアらしい組み合わせです。


人が待つ場所には必ず売っている。駅、バス停、市場。300年変わっていない。モスクワの駅の売店にて
05似ている料理
中東・北アフリカのサンブーサクと形も揚げ方も近縁とされます。
イランには「پیراشکی(ピーラーシュキー)」があります。挽き肉・トマト・玉ねぎ・ゆで卵・ゼレシュク(メギの実)を詰めた揚げ物で、ロシア語由来の名前がイランまで届いた珍しい例です。
ラトビアのピーラーギ、フィンランド・カレリアのピーラッカも親戚。ドイツ系移民が米国に伝えたものは「ビロック」「ランザ」という名前になりました。
ポーランドのピエロギは名前が似ていますが別物です。あちらは餃子に近いダンプリング。混同されやすいので注意。
06豆知識
・ウクライナ語では「пиріжки」。綴りが少し違います。
・中身に脳を使う伝統的なレシピも存在しました。いまはほぼ見かけません。
・理想の焼き上がりは「ガラスのような薄い皮」と表現されます。厚い皮は失敗とされる。
・スープに添えて食べるのが家庭の作法。ボルシチとピロシキはロシアの定番の組み合わせです。
・お茶の時間の間食としても出ます。甘いピロシキはこの用途のためのもの。
写真はすべて Wikimedia Commons より。各画像の作者とライセンスは以下のとおりです。
- 01/Pirozhki.jpg / Miha Ulanov / CC BY-SA 3.0
- 02/Homemade pirozhki.JPG / Рыцарь поля / CC BY-SA 3.0
- 03/Pirozshki 030.jpg / Kagor / CC BY-SA 3.0
- 04/2015 1024 Hanshin Amagasaki Sta MontParnasse.jpg / Hirojin taja / CC BY-SA 4.0
- 05/小樽ピロシキの店 手づくりパン屋さん 営業中 2014 (12427369414).jpg / 高見 知英 / CC BY 2.0
- 06/Pies 04.jpg / Yurii-mr / CC BY-SA 4.0
- 07/Купеческая лавка в Тотьме.JPG / Alex Vologda35 / CC BY-SA 3.0
- 08/Пирожковая стоянка.jpg / Te35b / CC BY-SA 3.0
- 09/Krestsy Pirojki.jpg / Дар Ветер / CC BY-SA 3.0
- 10/Pies 03.jpg / Yurii-mr / CC BY-SA 4.0
- 11/Pies 02.jpg / Yurii-mr / CC BY-SA 4.0
価格は2026年8月時点のモスクワの相場の目安です。







