オシフィマ

世界の料理図鑑 ナミビア

オシフィマ

oshifima オシフィマ Oshifima

人口の60%以上の主食です。それでも外食では、ほとんど出会えません。

マハング(トウジンビエ)の粉と水で作る硬い練り粥です。ナミビア農業委員会の文書は「パールミレットは人口の60%以上の主食」と明記しています。

それ自体が主張する料理ではありません。シチューをすくうための、食べられる道具です。味がないことが仕様です。

そしてこの粥の原料マハングは、アフリカ原産の穀物です。西アフリカのサヘル地帯で栽培化され、数千年にわたって作られてきた。トウモロコシもキャッサバも新大陸から来ましたが、マハングは違います。ドイツ統治もアパルトヘイトも、この粥の中身は変えませんでした。

正式名
oshifima(オシフィマ)。oshithima という綴りも見られる
語源
オシワンボ語で「粥」を意味する語に由来するとされる。※単独出典
主原料
マハング(mahangu=トウジンビエ/パールミレット、Pennisetum glaucum)
配合例
水400ml、トウモロコシ粉40g、マハング粉45g、塩。約10分
作り方
水を温める(沸騰させない)→ トウモロコシ粉と塩 → マハング粉を少しずつ加えながら激しく撹拌
食べ方
食前に手を洗い、平たいかごを囲み、右手で団子を作ってソースに浸す
合わせるもの
オンビディ(野生ほうれん草)、豆、モパネワーム、魚、鶏、オシカンデラ(発酵乳)
マハング
アフリカ原産。低い土壌肥沃度、高温、塩分の多い土壌、低pHでも育つ
どれだけ食べられているか
人口の60%以上の主食(ナミビア農業委員会)
相場
オシフィマ1皿の一次資料はなし。マハングの公定フロアプライスは約N$5.3/kg

01一口目に来るもの

ほぼ無味です。塩を入れる流儀でも少量。トウジンビエの、わずかに灰色がかった穀物の香りと、かすかな甘み。白トウモロコシの粥より穀物の癖が強く、土のような粉っぽい香りがあります。

そしてそれが正しい。資料はオシフィマを「それ自体が主張する料理ではなく、シチューをすくうための、食べられる道具」と説明します。味がないことが仕様です。

指で押すと跳ね返る。10分の短時間調理ですが、粉と水の比率が高いのでしっかり硬い。口の中で重く広がり、噛むというより押し潰す。

挽き方によってざらつきが残ります。木製の臼で挽いた粉は、機械挽きより粗い。

でんぷんが唾液で分解され、後半に甘みが出ます。後味は穀物の香りだけ。だからこそオンビディ(野生ほうれん草)、豆、モパネワーム、魚、オシカンデラ(発酵乳)が必ず横に付きます。

※以上は資料からの再構成であり、実食に基づく記述ではありません。

オシフィマ
マハングの粥を炊く。10分の料理だが、粉になるまでの工程が長い

02手を洗い、平たいかごを囲み、右手で丸める

この作法は、今回の取材で最も確度が高い記述です。三つの独立した資料が一致しています。

「ナミビア人は通常手で食べる。右手で粥から団子を作り、シチューやソースに浸す」。「右手ですくい上げる」。「平たいかごの周りに集まり、食べる前に手を洗い、右手で団子を作り、ソースに浸して、共同で食べる」。

中央をくぼませて、そこにメイン料理を入れる形式もあります。皿としても使う。

食前に手を洗うことは明記されています。ウィントフックの伝統料理店では、スタッフが手洗い用の温かい湯を持ってくるとレビューにあります。伝統的な作法をレストランで再現している例です。

儀礼としての位置づけは確認できませんでした。なお、隣国マラウイの同系料理ンシマが2017年にユネスコ無形文化遺産に登録されていますが、それはマラウイの登録であって、ナミビアのオシフィマではありません。混同しないでください。

オシフィマ
手で食べる
オシフィマ
マラソンチキン(放し飼いの地鶏)とマハングの粥

マハングという作物

学名 Pennisetum glaucum。アフリカ原産で、西アフリカのサヘル地帯で栽培化されました。資料により3,500年前、あるいは4,000年間栽培されてきたとされます。

耐乾性が要点です。「低い土壌肥沃度、高温、塩分の多い土壌、低いpHでも育つ」。だから「北部の予測不可能な気候に対する確実な食料作物」になる。トウモロコシが枯れる年でも、マハングは実ります。

ナミビアでは白トウモロコシとともに「管理穀物」に指定されており、商業流通は限定的です。

オシフィマ
オシフィマ
オシフィマ
オシフィマ

第 二 章

搗 く

粉を買う前に、この工程が全部ある

03「10分でできる料理」というのは、全部を省いた場合の話

現代のレシピは10分です。水を温め、トウモロコシ粉と塩を加え、マハング粉を少しずつ加えながらなめらかになるまで激しくかき混ぜ、短時間煮て、皿にひっくり返して盛る。

ですが、粉になるまでの工程がその前にあります。畑を牛糞と灰で肥沃化する。収穫時に穂を手またはナイフで摘む。乾燥後、棒またはすりこぎで脱穀する。平らなかごで、手を軽く傾けて籾殻を除去する。木製の臼で粉に挽く。

この一連の手作業が、この食べ物の本体です。

失敗しやすい点を挙げます。第一はダマ。レシピは「少しずつ加えながら」「激しくかき混ぜる」の2つを同時に要求しています。一気に入れる、手を止める——どちらでもダマになり、後から潰せません。

第二は、水を沸騰させてから粉を入れること。このレシピは「温める」であって「沸騰させる」ではありません。ボゴベやシマ系のレシピ(沸騰湯に入れる)とは手順が違います。近隣国の粥のレシピを流用しないでください。

第三は、トウモロコシ粉を省いてマハング粉だけで作ること。このレシピはトウモロコシ粉40gとマハング粉45gのほぼ半々です。オシフィマは「マハングの粥」と説明されることが多いのですが、現代の実際のレシピは混合であることが多い。「純粋なマハング100%が本物」と書くと、現地の実態を外す可能性があります。

第四は練りが足りないこと。手で丸めて団子にする料理なので、練りが足りないとただの緩い粥になります。第五は冷ましてから食べること。冷えると急速に固まります。

オシフィマ
搗く
オシフィマ
マハングの粉を作る工程

調理後すぐに鍋を水に浸けること。粥が固まってしまうと、洗い落とすのが非常に難しいナミビア出身の料理ブログが、このレシピの唯一の「コツ」として挙げている項目

04種類を並べてみる

最後から2行目は粥ではなく飲み物です。同じ穀物から作られます。

名前特徴食べ方
オシフィマ(標準)マハング粉+トウモロコシ粉+水。硬い練り粥。ほぼ無味右手で丸め、へこませてシチューをすくう。平たいかごを囲んで共食
オシシマ(oshithima)同一のものと思われる綴り同上。※独立した資料で確認できず
オシフィマ+オンビディオンビディ(野生ほうれん草)と合わせる。最も定番の組み合わせのひとつ同上
オシフィマ+モパネワーム乾燥モパネワームを戻し、トマトと玉ねぎで炒めたものと同上
オシフィマ+オシカンデラ発酵乳と合わせる同上
オシクンドゥ(oshikundu)粥ではなく飲み物。同じマハングから作る発酵飲料。できてから6時間以内に飲む飲む。露天市場で広く売られる
近隣国の同系料理ボゴベ(ボツワナ)、ンシマ(マラウイ・ザンビア)、ウガリ、サザ、パパ、シマ同じ食べ方
オシフィマ
オシフィマ
オシフィマ

05主食なのに、外食では出会いにくい

この記事でいちばん奇妙な事実がこれです。オシフィマはナミビア人口の60%超の主食でありながら、ウィントフックの観光レストランでこれを出す店は、今回の取材では1軒しか確認できませんでした。

その1軒が Xwama Traditional Restaurant(カトゥトゥーラ地区、10:00〜20:00、金〜日は22:00まで)。ただしメニューの表記は「mealie pap」(トウモロコシ粥)であって「oshifima」(マハング粥)ではありません。同一かどうかは確認できていません。

カプアナと組み合わせるパパは、シングル・クォーターズの別の露店で買えます。

オシフィマの本場である北部オヴァンボランドについては、店名を特定できる資料が見つかりませんでした。

「主食なのに外食では出会いにくい」という捻れ自体が、この料理の社会的位置を語っていると思います。なお北部はマラリアの流行地域です。

オシフィマ
オシクンドゥ(発酵飲料)を売る女性たち。同じマハングから作られる
オシフィマ
伝統的な調理

06いくらで食べられるか

オシフィマ1皿の価格を示す一次資料は見つかりませんでした。以下の外食価格はすべて「食事全体」の統計値で、単品価格ではありません。

原料側は数字があります。マハングの公定フロアプライスは1トンあたりN$5,327(2020/2021年度)。1kgあたり約N$5.3、日本円で約53円です。ここからオシフィマ1人前(乾燥粉85g)の原料費を計算すると約N$0.45、約4.5円になります。ただしこれは生産者価格であって小売価格ではありません。

オシフィマの価格(2026年時点。1ナミビア・ドル=約9.89円)価格
屋台・市場(粥+おかず)N$40〜80(約400〜790円)。※カプアナの実売価格からの推計
一般レストラン(食事全体)N$150〜190(約1,480〜1,880円)
高級(食事全体、1人分)N$500(約4,950円)
オシフィマ単品不明
マハングの公定フロアプライス(2020/21年度)N$5,327/トン(約53円/kg)
1人前の原料費(推計)約N$0.45(約4.5円)。生産者価格ベース

07豆知識

主食の穀物を、インドから輸入していた年があります。2019/2020年度のマハング輸入は3,313トンで、全量インドから。翌年度は705トンに落ちました。総需要は年4,135トン(2020/21年)。干ばつの年には、アフリカ原産の耐乾性穀物を、その原産地から遠く離れたインドから買う。

なお、ナミビアのマハング生産量については注意が要ります。同じ政府系機関のレポートの中に、2,344トンという数字と47,690トンという数字が併存しています。20倍違う。おそらく前者が正規流通量、後者が自給分を含む全国生産量だと思われますが、レポートに説明はありません。ですのでこの記事では、生産量を単一の数字で書きません。

現地の料理ブログが強調する「唯一のコツ」は、味ではなく鍋の洗い方でした。「調理後すぐに鍋を水に浸けること。固まると洗い落とすのが非常に難しい」。作り方の話ではなく後片付けの話が最重要ポイントとして書かれている食べ物は珍しい。それくらい固く、それくらい日常的に作られています。

同じ穀物が、隣で酸っぱい飲み物になっています。オシクンドゥは、同じマハングの粉に糠と麦芽モロコシ粉を混ぜ、室温で数時間発酵させた飲料。茶色く、濃い。できてから6時間以内に飲みきらなければならない。無味の固体と、酸っぱい液体が、同じ畑から同じ日に来ます。

オシフィマ
マハング。この粒を搗いて挽いて、粥にする
表記について:本記事は「オシフィマ(oshifima)」を主表記としました。「オシシマ(oshithima)」という綴りも見られますが、独立した資料では確認できませんでした。方言差かどうかも断定していません。
生産量について:同一の政府系レポート内で数字が20倍食い違っているため、本記事では生産量を単一の数字で示していません。
ユネスコ登録について:同系の練り粥でユネスコ無形文化遺産に登録されているのは、マラウイのンシマ(2017年)です。ナミビアのオシフィマではありません。
価格について:マハングのフロアプライスは2020/2021年度が最新で、2026年時点の価格ではありません。
治安・衛生について:ナミビアは全土がレベル1(十分注意)で、タウンシップについては外務省が「決して近づかない」としています。北部はマラリアの流行地域です。
為替レート:1ナミビア・ドル=約9.89円(2026年8月31日時点)。

写真はすべて Wikimedia Commons より。各画像の作者とライセンスは以下のとおりです。