
バインセオ
Bánh xèo
名前は、生地が鉄板で鳴る音
バインセオは「ジューッという音のケーキ」という意味だ。xèo(セオ)は、米粉の生地を熱い鉄板に流したときの音。名前がもう擬音語でできている料理は、そう多くない。屋台の前を通ると、まずこの音が聞こえて、そのあとにターメリックの匂いが来る。
南のバインセオは大きい。直径30センチほどの黄色い半月が、皿からはみ出して出てくる。ターメリックで色をつけた米粉の生地に、ココナッツミルク。中には豚バラ、海老、もやし、蒸した緑豆。皮は薄くて、縁がぱりぱりに焦げている。
食べ方が独特で、手で好きな大きさにちぎり、レタスやからし菜で巻き、香草を足して、甘酸っぱい魚醤だれにつける。皿の半分は野菜だ。揚げものみたいな見た目なのに、食べ終わると意外と重くない。
同じ名前の料理が中部にもあるが、あちらは手のひらくらいの大きさで、ココナッツミルクを使わない。南のものは甘い香りがして大きく、中部のものはあっさりして小さい。どちらもバインセオと呼ばれている。
焼きたてでないと縁が湿ってしまうので、多くの店が昼と夕方だけ営業する。通りかかった時間に鉄板が動いていたら、それは運がいい。
皿の解剖

ぱりぱりの縁写真は中部でよく見る小ぶりのもの。ホーチミンのバインセオは直径30センチほどと大きく、一枚を数人で分けて食べることが多い。左の白い円はライスペーパー。これで巻く店もある。
一口目
味
ターメリックとココナッツの、甘い香ばしさ
生地そのものはほとんど味がなく、ターメリックとココナッツミルクの香りだけがある。そこへ豚の脂と海老の塩気が乗り、甘酸っぱいたれが全体をまとめる。最後にからし菜の苦みが来て、口の中がいったん整理される。
食感
縁はぱりぱり、真ん中はもちっと
外側の薄いところは煎餅みたいに割れて、中央は生地が厚くてもちもちしている。ひとつの皮の中に二つの食感が同居しているのがこの料理の面白いところで、もやしのしゃきしゃきが全体を軽くしている。
一口目
まず縁のいちばん薄いところ
何も巻かずに、焦げた縁だけをちぎってひとくち。香ばしさを覚えてから、野菜で巻いてたれにつける。二口目でようやく、なぜこんなに野菜が付いてくるのかが分かる。


一枚ができるまで
米粉にターメリック、ココナッツミルク、水、刻んだ青ねぎ。ざらつきが消えるまで混ぜて、少し休ませる。黄色は卵ではなく全部ターメリックの色で、生地そのものには甘みも塩気もほとんどない。
黄色は卵ではなくターメリック
2油を引いた熱い鉄板に、豚バラと海老を先に置いてから生地を回し入れる。ここで「ジューッ」と鳴る。この音が名前になった。生地は薄く広がり、縁からすぐに乾きはじめる。
この音が名前になった生地が固まりはじめたら、もやしと蒸した緑豆をのせ、蓋をして蒸し焼きにする。縁は蓋の外にはみ出して乾き、どんどん薄く、ぱりぱりになっていく。蓋をしている時間の長さが、そのまま食感を決める。
蓋をする時間で、ぱりぱり具合が決まる
4縁が茶色く色づいたら、へらで半分に折りたたむ。折りたたむと中の湯気で真ん中がもちっとし、外はぱりぱりのまま残る。生野菜とたれを添えて、大きな皿で出す。
折りたたむと中の湯気で真ん中がもちっとする南の大きな一枚と、中部の小さな一枚
はっきりしていない
いつ誰が焼きはじめたのかは分かっていない。南部と中部でそれぞれ発達した、という説明がいちばんよく使われる。
大きく、ココナッツミルク入り
ホーチミンやメコンデルタのものは直径30センチほど。ココナッツミルクが入って甘い香りがし、生野菜で巻いて食べる。
小さく、あっさり
フエやダナンでは手のひらくらいの大きさ。ココナッツミルクを使わず、たれも中部らしく濃い。
ミシュランに名前が載る
ミシュランガイドがベトナムに入り、1区タンディン地区の「バインセオ46A」がビブグルマンに選ばれた。屋外の席で、一枚110,000ドンから。
時間を決めて焼く料理
焼きたてでないと縁が湿ってしまうので、多くの店が昼と夕方だけ営業する。通りかかった時間に開いていたら運がいい。
バインセオがいつ生まれたのかは、地元でもはっきりしていない。南部で生まれたという説、中部で生まれたという説があり、インドのドーサやチャンパ文化との関係を挙げる人もいる。どれも決め手を欠いていて、料理そのものが古くから各地にあった、というのが実際のところに近い。
はっきり違うのは南と中部の作り方だ。南のものは直径30センチほどと大きく、生地にココナッツミルクが入る。焼くと甘い香りが立ち、皮は薄くて割れやすい。中部フエやダナンのものは手のひらくらいの大きさで、ココナッツミルクを使わず、たれも中部らしく濃い。
共通しているのは食べ方のほうだ。皿の横には必ず生野菜が山になっていて、焼き上がった皮をちぎって、その葉で巻いて、甘酸っぱい魚醤だれにつける。揚げものに近い料理を、葉と酸で受け止める。ベトナム料理のほとんどの皿と同じ考え方でできている。
2023年にミシュランガイドがベトナムに入ったとき、1区タンディン地区の「バインセオ46A」がビブグルマンに選ばれた。屋外の席に長い行列ができる店で、一枚110,000ドンから。屋台の15,000ドンとは値段が一桁近く違うが、食べ方は同じで、やはり手でちぎって葉で巻く。
この料理がいまも昼と夕方だけの商売であり続けているのは、単純に、焼きたてでないとおいしくないからだ。時間を置くと縁が湿って、あのぱりぱりが消えてしまう。作り置きができない、という一点が、店の営業時間まで決めている。
起源については地元でも定説がなく、インドのドーサやチャンパ文化との関係を挙げる説明も見かける。ここでは「分かっていない」としておく。
食べに行く前に
注文のことば
多くの店が昼(10〜14時)と夕方(16〜21時)だけ。焼きたてを出すので、行列があっても回転は早い。
値段と覚え書き
| 路上の屋台・小さな店 | 15,000〜40,000 VND約90〜240円 |
| 街の食堂 | 40,000〜70,000 VND約240〜420円 |
| バインセオ46A(1区) | 110,000〜180,000 VND約660〜1,080円 |
- 1枚が大きいので、2人なら1枚と何か別の料理、くらいがちょうどいい
- バインセオ46Aは1区ディンコンチャン通り46A。10〜14時と16〜21時。ミシュランのビブグルマン
- 巻く野菜はおかわりできる店が多い。「cho thêm rau」で足してもらえる
- からし菜(cải xanh)の苦みが苦手なら、レタスだけで巻いてもいい
- 小さい版が食べたいときは、同じ生地で作るバインコット(bánh khọt)を頼む手もある
- 手で食べる料理なので、店にはたいてい紙ナプキンが束で置いてある
値段は2026年9月時点の目安。1,000ドン=約6円で換算。営業時間・価格・閉店は変わることがあるので、行く前に確認を。
参照資料
- MICHELIN Guide「Bánh Xèo 46A」 ホーチミンのビブグルマン店
- Mia.vn「Bánh xèo 46A Đinh Công Tráng」 住所・営業時間・値段・具の内容
写真の出典(6枚)
写真は個別ページのライセンスに従います。作者名・ライセンス・原典リンクを1枚ずつ表示しています。
- 皿にのった黄色いバインセオと、生野菜、つけだれの小鉢|FOX ^.ᆽ.^= ∫/Pexels License(商用可・加工可)/2026年公開・明るさ調整あり(原典)
- 竹のざるに並んだ小ぶりのバインセオ。海老、もやし、青ねぎがのり、たれの椀と生野菜が添えられている|Quang Nguyen Vinh/Pexels License(商用可・加工可)/2022年公開・明るさ調整あり(原典)
- 香草を添えた、縁がぱりぱりに焼けた黄色いバインセオ|bynamnamnam/Pexels License(商用可・加工可)/2026年公開・明るさ調整あり(原典)
- 黄色いバインセオ、レタスや香草の皿、つけだれが並んだ食卓|แหนมไทย ใจตะวัน/Pexels License(商用可・加工可)/2020年公開・明るさ調整あり(原典)
- 焼き網の上に並んだ、半分に折った黄色いバインセオ|Sóc Năng Động/Pexels License(商用可・加工可)/2026年公開・明るさ調整あり(原典)
- 路上の屋台でベトナムの粉ものを焼いている女性の売り手|Fernando Huelgas/Pexels License(商用可・加工可)/2025年公開・明るさ調整あり(原典)
装飾
紙・テープ・手描きの下線・提灯ガーランドなどの装飾は、ユーザー提供の素材パック htnv-decor-user-pack-01〜04 から切り出して使用。
写真は6枚すべてPexelsライセンス(商用利用可・改変可)。明るさ・彩度・コントラストを調整している。トリミング・合成はしていない。


