白い丼のフォー。牛肉、青ねぎ、パクチー、赤唐辛子がのっている
ベトナム / ホーチミン

フォー・ボー

Phở bò

もやしと香草を、山ほど入れていい

DISH04
南のフォーは、自分で仕上げる!

ホーチミンでフォーを頼むと、丼と一緒に大きな皿が出てくる。もやし、バジル、ノコギリコリアンダー、ライム、生の唐辛子。丼にはもう何も足りていないように見えるのに、店の人は当たり前の顔でそれを置いていく。

これが南のフォーだ。北のハノイでは、丼に入っているものが全部。南では、卓に来てからが半分。もやしを沈め、バジルをちぎって浮かべ、ライムを絞り、黒いたれと赤いたれを小皿で混ぜる。同じ名前の料理なのに、着地点が違う。

牛の骨を何時間も炊いたスープに、焼いた玉ねぎと生姜、八角とシナモン。澄んでいるのに、香りだけがやたらと濃い。塩気は控えめで、南のものはほんのり甘い。朝の食堂で、隣の人と同じ丼を、まったく違う味にして食べている。

肉の頼み方にも段がある。生の薄切りを熱いスープで火を通す tái、しっかり煮込んだ chín、バラ肉の nạm、脂身の gầu、すじの gân、肉団子の bò viên。組み合わせて頼めるので、常連ほど注文が長い。

値段は40,000ドンから。日本円で240円ほど。朝6時から9時が本番で、麺が売り切れたら閉める店も多い。この街の一日は、たいていこの丼から始まる。

米の平打ち麺40,000 VND〜(約240円)朝ごはんの王様
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丼の解剖

真上から見たフォーの丼。牛肉、青ねぎ、玉ねぎ、ライムと唐辛子の小皿が添えられている
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箸で持ち上げられた白く平たい米の麺麺

南のフォーは、丼のほかに香草ともやしの皿、黒いたれ(トゥオン・デン)と赤いたれ(トゥオン・オット)が付く。写真の店はベトナム国内だが、ホーチミンの店とは限らない。

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牛肉thịt bò生の薄切り(tái)は注文が入ってから丼に並べ、熱いスープの熱だけで火を通す。煮込んだ肉は chín
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平打ちの米麺bánh phởきしめんのように平たい米の麺。湯に10秒ほどくぐらせて丼へ
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スープnước dùng牛の骨とすね肉を数時間。焼いた玉ねぎと生姜、八角・シナモン・クローブが入る
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青ねぎhành lá小口切りと、白い部分を長いまま。南の丼にはたっぷり
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玉ねぎの薄切りhành tây生のまま浮かべる。辛みと甘みが後から出てくる
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ライムと唐辛子chanh / ớt小皿で別に出る。絞る量も、入れる量も自分で決める
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一口目

味

八角とシナモンが、牛のだしの奥から

スープは澄んでいるのに、香りだけがやたらと濃い。八角とシナモンが牛のだしの奥から立ちのぼり、焼いた玉ねぎの甘さがそれを下から支える。塩気は控えめで、南の一杯はほんのり甘い。ライムを絞ると輪郭が急にはっきりして、別の料理になったように感じる。

食感

つるり、そしてしゃきしゃき

平たい麺はつるりと入り、生の薄切り肉はスープの熱だけで火が通っているのでやわらかい。そこへもやしを足した瞬間から、丼の中に歯ざわりが増える。バジルをちぎって浮かべると、香りと一緒に葉の柔らかさも加わる。

一口目

まずスープをひとさじ

何も足す前に、れんげでひとさじ。ここで香りの土台を覚えてから、もやしと香草を入れる。同じ丼が二度おいしい、というのは大げさではなく、薬味を入れる前と後では本当に別の味がする。

皿に山盛りになったバジルなどの生の香草
卓に出てくる香草の皿。バジル、ノコギリコリアンダー、もやし
卓の上に、麺の器、スープの丼、香草ともやしの皿、たれの小鉢が並んでいる
麺の器、スープの丼、香草の皿、たれの小鉢。南のフォーは卓の上で完成する
通りに面したフォー店の前、低い椅子に座って食べる人たちとバイク
店先の低い椅子。朝は通勤前の人で埋まる
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一杯ができるまで

1骨を炊く

牛の骨とすね肉を、水から何時間も。沸かしすぎず、浮いてくる灰汁をていねいに引き続けると、スープが濁らずに澄む。骨から出る旨みだけを、静かに引き出していく作業になる。

濁らせないのが腕の見せどころ
オレンジ色の背景に置かれた八角、シナモンスティックなどの香辛料2
香りを入れる

玉ねぎと生姜を直火で真っ黒になるまで焦がしてから鍋へ入れる。八角、シナモン、クローブ、コリアンダーシードは布の袋にまとめて沈め、香りが出たら途中で引き上げる。入れっぱなしにすると薬っぽくなる。

香辛料は入れっぱなしにせず途中で引き上げる
ベトナムの市場で、手で米の麺をかごに押し出してまとめている人3
麺を湯にくぐらせる

平打ちの米麺は、市場で手で作られたものが毎朝届く。注文が入ったら、ざるごと熱湯に10秒ほどくぐらせ、水気を切って丼へ。つけすぎると切れて、食べているあいだにのびてしまう。

つけすぎると切れて、のびる
湯気が立ちのぼる麺のスープ。バジルと薄切りの玉ねぎがのっている4
肉をのせて、注ぐ

生の薄切り肉、青ねぎ、玉ねぎを丼に並べ、沸いたスープを一気に注ぐ。肉はその熱だけで色が変わる。注ぐ勢いで火を通すので、鍋は常に沸かしたままにしてある。

注ぐ勢いで火を通すので、スープは必ず沸かしておく
牛の骨すね肉薄切り肉平打ちの米麺焼き玉ねぎ生姜八角シナモン魚醤もやしバジルライム唐辛子
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ナムディンの町から、サイゴンの朝へ

1898

ナムディンで生まれる

フランス人技師が紡績工場を建てた北部ナムディン。その周りの村でフォーが生まれた、というのがよく語られる説。名前はフランス語の feu(火)から来たとも言われる。

1920s

ハノイへ

ロンビエン橋の工事について、ナムディンの担ぎ売りがハノイへ。天秤棒の商いから、店を構える商売へ変わっていく。

1954

南へ渡る

国が南北に分かれ、北からの移住者とともにサイゴンへ。豊かな野菜と暑い気候のなかで、もやしと香草の皿が付く「南のフォー」になった。

1975

世界へ出ていく

戦後、国を離れた人たちとともにパリ、カリフォルニア、シドニーへ。海の向こうでも、卓には香草の皿が置かれている。

2024

国の無形文化遺産に

ベトナム文化スポーツ観光省が、ハノイのフォーとナムディンのフォーを国の無形文化遺産の一覧に加えた。

フォーがいつどこで生まれたのかは、実ははっきりしていない。よく語られるのは、北部ナムディンの村で1898年ごろに生まれたという説だ。フランス人技師が紡績工場を建て、その周りに人が集まり、牛の骨と米の麺を組み合わせた汁物が売られはじめた——という筋書きになっている。

名前の由来にも定説がない。フランス語の feu(火)から来たという説、中国語の「粉」から来たという説、両方が並んで語られている。フランスのポトフが原型だという人もいれば、中国の牛肉麺が先だという人もいる。どれかひとつに決着したわけではない。

はっきりしているのは、ハノイへ移ってから店の商売になったことだ。天秤棒で担いで売り歩いていたものが、ロンビエン橋の工事とともに人が集まる場所へ運ばれ、やがて店を構えるようになる。ここで、いまのフォーの形がだいたい固まった。

1954年、国が南北に分かれる。北から南へ移ってきた人たちが、サイゴンでフォーの店を開いた。ただし南の気候と市場は北とは違う。野菜が豊富で、一年じゅう暑い。丼のとなりに、もやしと香草を山にした皿が置かれるようになったのはこのころだ。北の人が「あれはフォーではない」と言い、南の人が「これがフォーだ」と言う関係は、いまでも少し残っている。

2024年、ベトナム文化スポーツ観光省は、ハノイのフォーとナムディンのフォーを、それぞれ国の無形文化遺産の一覧に加えた。生まれた土地と、育った土地の両方が認められた形になる。ホーチミンの朝の食堂で出てくる一杯は、その系図のいちばん南の枝にあたる。

白い壁に「Phở CAO VÂN」の看板を掲げた古いフォー店の外観
1区マックディンチー通りの老舗「フォー・カオヴァン」。朝6時から夜10時まで
路上の店先。赤地に白でPHỞと書かれた看板が出ていて、手前にバイクが停まっている
赤い「PHỞ」の看板。朝いちばんに開くのは、こういう小さな店

起源には「ナムディン説」「ハノイ説」があり、フランスのポトフ由来説と中国の牛肉麺由来説も並んで語られている。どれかひとつに決まってはいない。

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食べに行く前に

注文のことば

Cho tôi một tô phở bò.チョー・トイ・モッ・トー・フォー・ボー/牛肉のフォーを1杯ください
Phở tái.フォー・タイ/生の薄切り肉で
Phở chín.フォー・チン/煮込んだ肉で
Cho thêm giá.チョー・テム・ザー/もやしを足してください
Không hành.ホン・ハン/ねぎは抜いてください

朝6時から9時が本番。昼を過ぎると麺が売り切れて閉める店も多い。

値段と覚え書き

街の食堂・屋台40,000〜55,000 VND約240〜330円
老舗・行列店(1区など)40,000〜66,000 VND約240〜400円
ホテル・観光地の店80,000〜120,000 VND約480〜720円
  • tái(生の薄切り)、chín(煮込み)、nạm(バラ)、gầu(脂身)、gân(すじ)、bò viên(肉団子)。組み合わせて頼める
  • 黒いたれ(tương đen=ホイシン)と赤いたれ(tương ớt)は、丼に直接入れず小皿で混ぜて肉を付けるのが南のやり方
  • 老舗のフォー・カオヴァンは1区マックディンチー通り25番地。6時〜22時、1杯40,000〜66,000ドン
  • 鶏のフォーは phở gà。牛が重い朝はこちらのほうが軽い
  • 麺の量を減らしたいときは「ít bánh phở」、多くしたいときは「nhiều bánh phở」
  • 薬味の皿はおかわりできる店が多い。遠慮せずに「cho thêm rau」と言っていい

値段は2026年9月時点の目安。1,000ドン=約6円で換算。営業時間・価格・閉店は変わることがあるので、行く前に確認を。

参照資料

写真の出典(11枚)

写真は個別ページのライセンスに従います。作者名・ライセンス・原典リンクを1枚ずつ表示しています。

  • 白い丼のフォー。牛肉、青ねぎ、パクチー、赤唐辛子がのっている|RDNE Stock project/Pexels License(商用可・加工可)/2021年公開・明るさ調整あり(原典)
  • 真上から見たフォーの丼。牛肉、青ねぎ、玉ねぎ、ライムと唐辛子の小皿が添えられている|Markus Winkler/Pexels License(商用可・加工可)/2024年公開・明るさ調整あり(原典)
  • 箸で持ち上げられた白く平たい米の麺|RDNE Stock project/Pexels License(商用可・加工可)/2021年公開・明るさ調整あり(原典)
  • 皿に山盛りになったバジルなどの生の香草|Markus Winkler/Pexels License(商用可・加工可)/2020年公開・明るさ調整あり(原典)
  • 卓の上に、麺の器、スープの丼、香草ともやしの皿、たれの小鉢が並んでいる|DUONG QUÁCH/Pexels License(商用可・加工可)/2024年公開・明るさ調整あり(原典)
  • 白い壁に「Phở CAO VÂN」の看板を掲げた古いフォー店の外観|Celeste 2305/Pexels License(商用可・加工可)/2025年公開・明るさ調整あり(原典)
  • 通りに面したフォー店の前、低い椅子に座って食べる人たちとバイク|Alan Wang/Pexels License(商用可・加工可)/2024年公開・明るさ調整あり(原典)
  • 路上の店先。赤地に白でPHỞと書かれた看板が出ていて、手前にバイクが停まっている|Tuan Vy/Pexels License(商用可・加工可)/2024年公開・明るさ調整あり(原典)
  • オレンジ色の背景に置かれた八角、シナモンスティックなどの香辛料|Zezen Zaenal Mutaqin/Pexels License(商用可・加工可)/2020年公開(原典)
  • ベトナムの市場で、手で米の麺をかごに押し出してまとめている人|Quang Nguyen Vinh/Pexels License(商用可・加工可)/2021年公開・明るさ調整あり(原典)
  • 湯気が立ちのぼる麺のスープ。バジルと薄切りの玉ねぎがのっている|Nadin Sh/Pexels License(商用可・加工可)/2022年公開・明るさ調整あり(原典)

装飾

紙・テープ・手描きの下線・提灯ガーランドなどの装飾は、ユーザー提供の素材パック htnv-decor-user-pack-01〜04 から切り出して使用。

写真はいずれもPexelsライセンス(商用利用可・改変可)。7枚すべて明るさ・彩度・コントラストを調整している。トリミング・合成はしていない。