木のテーブルに置かれた、練乳を混ぜたベトナムのアイスコーヒー
ベトナム / ホーチミン

カフェ・スア・ダー

Cà phê sữa đá

落ちきるまで、5分だけ待つ

DISH07
待つ時間まで含めて一杯!

ベトナムのコーヒーは、注文してもすぐには飲めない。アルミの小さな器がグラスの上に乗って出てきて、そこから一滴ずつ落ちる。落ちきるまで、だいたい5分。その間は何もすることがない。

器の名前はフィン(phin)。フランス語の filtre が訛ったものだと言われている。下のグラスには練乳が沈んでいて、そこへ濃いコーヒーが溜まっていく。溜まったら、スプーンでよく混ぜて、氷を入れた別のグラスに一気に移す。

cà phê はコーヒー、sữa は牛乳(ここでは練乳)、đá は氷。名前がそのまま作り方の順番になっている。豆は深煎りのロブスタが主で、日本の感覚だと相当に濃い。だから練乳の甘さが、薄めるためではなく対等な相手として入っている。

店の形はいろいろある。歩道に低い椅子を並べただけの店、古い建物の階段を上がった二階の店、冷房の効いたチェーン店。値段は15,000ドンから80,000ドンまで幅があるが、飲みものそのものはだいたい同じ形をしている。

歩道の低い椅子に座って、これを飲みながら通りを見ているのが、この街のいちばん安い過ごし方だ。一杯20,000ドン、120円ほどで、何時間座っていても誰にも何も言われない。

フィンで一滴ずつ20,000 VND〜(約120円)歩道の低い椅子で
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一杯の解剖

白い器の上に置かれたフィンから、コーヒーが落ちている。左にミルクピッチャー
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アルミ製のベトナム式ドリップ器具フィンの寄りフィン

落ちきるまで5分ほど。この写真は器に直接落としているが、店では練乳を先に入れたグラスの上に乗せて出てくることが多い。

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蓋nắp phin温度を逃さないための蓋。外して、抽出中の様子を見る人も多い
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押さえnắp gài粉の上に乗せる中蓋。ねじ式と、置くだけのものがある。押さえの強さで落ちる速さが変わる
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受け皿đĩa lótフィンの下の広がった部分。グラスや器の上に安定して乗るようになっている
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落ちたコーヒーcà phê深煎りのロブスタが主。日本の感覚だと相当に濃い
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器・グラスly店では、先に練乳を入れたグラスの上に直接フィンを乗せる
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練乳sữa đặc生乳が手に入りにくかった時代の名残。いまでも練乳が標準
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一口目

味

苦さの底に、はっきりした甘さ

深煎りのロブスタは苦みが太く、香りはチョコレートに近い。そこへ練乳の甘さが正面からぶつかる。薄めるためではなく、対等な相手として入っている。混ぜ方が足りないと、底のほうだけが極端に甘い一杯になる。

食感

とろりとして、氷で急に軽くなる

混ぜたては練乳のせいでとろりと重い。氷の入ったグラスに移した瞬間、口当たりが変わってさらっとする。飲み進めるほど氷が溶けて薄まっていくので、最初の一口といちばん最後の一口では、まるで濃さが違う。

一口目

混ぜる前にひとくち

グラスの底の練乳を混ぜる前に、上の黒いところだけを少し。ここでロブスタの濃さを知ってから混ぜると、落差が楽しい。混ぜてしまうともう戻せないので、味わうならこの順番しかない。

カフェの卓に置かれた背の高いグラス。下が白、上が濃い茶色の二層になっている
混ぜる前。下の白が練乳、上の茶がコーヒー
歩道の黄色いプラスチック椅子の上に置かれた、持ち帰り用カップのアイスコーヒー
歩道の黄色い椅子。テーブルではなく、椅子の上にグラスを置く
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一杯ができるまで

1練乳をグラスに入れる

先に練乳をグラスの底へ。分量は店ごとに決まっていて、たいてい思っているより多い。ここで甘さがほぼ決まってしまうので、控えめにしたいなら注文のときに伝えておく。

甘さ控えめにしたいなら注文時に伝える
テーブルに並べられた、抽出中のベトナム式ドリップ器具フィン2
フィンに粉を入れて押さえる

深煎りの粉をフィンに入れ、押さえを乗せて軽く締める。締めすぎると落ちず、緩いと薄くなる。店の人はこの加減だけで、一日じゅう同じ味を出している。粉の量も店ごとにきっちり決まっている。

店の人はこの加減だけで味を揃えている
3湯を注いで、待つ

少量の湯で蒸らしてから、残りを注いで蓋をする。あとは一滴ずつ落ちるのを5分ほど待つだけ。待っている間に、氷を入れた別のグラスが用意される。この待ち時間そのものが、この飲みものの一部になっている。

待っている間に氷のグラスが用意される
4混ぜて、氷へ移す

落ちきったらフィンを外し、スプーンで練乳をよく混ぜる。色が均一な茶色になったら、氷のグラスへ一気に移す。混ぜ残すと、最後のひと口だけが甘くなる。

混ぜ残すと、最後のひと口だけ甘くなる
深煎りの粉(ロブスタ)練乳湯氷フィン
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フランスの豆と、ベトナムの練乳

1860年ごろ

コーヒーが持ちこまれる

フランス人によってコーヒーがベトナムに持ちこまれたのは1860年ごろとされる。のちに高温多湿に強いロブスタ種が中心になった。

植民地期

フィンが生まれる

フランスのフィルター(filtre)から名前が来たと言われる一人用の器が広まる。ただし仕組みとしては濾すというより、湯に浸して落とす方式に近い。

練乳

生乳が手に入りにくかった

冷蔵の流通が整わない時代、生乳より缶入りの練乳のほうが手に入りやすかった。そのまま定番として残ったと説明されることが多い。

1980s〜

世界2位の生産国へ

中部高原での大規模な栽培が進み、ベトナムはロブスタを中心に世界有数のコーヒー生産国になった。

いま

歩道の椅子とともに

チェーン店も増えたが、いちばん多いのは歩道に低い椅子を並べただけの店。20,000ドンほどで、何時間でも座っていられる。

コーヒーがベトナムに入ったのは1860年ごろとされる。フランス人が持ちこんだのは当初アラビカ種だったが、高温多湿の気候にはロブスタ種のほうが合っていた。中部高原での栽培が広がるにつれ、ベトナムのコーヒーは苦みの強いロブスタが中心になっていく。

フィンという器の名前は、フランス語の filtre が訛ったものだと広く言われている。ただし仕組みとしては濾すというより、粉を湯に浸してゆっくり落とす方式に近い。一人分ずつ、テーブルの上で淹れる。喫茶店の設備がなくても成立する、小さな道具だ。

練乳が定番になったのは、生乳が手に入りにくかったからだと説明されることが多い。冷蔵の流通が整わない時代、缶入りの練乳のほうがずっと現実的だった。やがて事情が変わっても、この組み合わせだけが残った。いまでは「牛乳で」と頼むほうが特別な注文になる。

1980年代以降、ベトナムは世界有数のコーヒー生産国になった。輸出される豆の多くはロブスタで、インスタントコーヒーの原料として世界じゅうに散っている。街の店で飲む一杯も、同じ畑から来ている。

いま、ホーチミンにはチェーン店も専門店も増えたが、いちばん多いのはやはり歩道に低い椅子を並べただけの店だ。テーブルはなく、椅子の上にグラスを置く。20,000ドン払って、フィンが落ちきるのを5分待って、そこから一時間座っている。この街の午後は、だいたいこの形をしている。

「Nem Cà Phê TAUI」の看板を掲げた、黄色い菊の鉢を並べたベトナムのカフェ
黄色い菊を並べた街のカフェ。テト(旧正月)が近い時期の飾り

コーヒーが入った年は資料によって1857年・1860年ごろと幅がある。「phin はフランス語の filtre から」という説明も広く語られてはいるが、確定した記録があるわけではない。練乳が定着した理由も、通説として語られているもの。

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飲みに行く前に

注文のことば

Cho tôi một cà phê sữa đá.チョー・トイ・モッ・カフェ・スア・ダー/練乳入りアイスコーヒーを1杯ください
Cà phê đen đá.カフェ・デン・ダー/ブラックのアイスコーヒーを
Ít ngọt thôi.イッ・ゴッ・トイ/甘さは控えめで
Mang đi.マン・ディ/持ち帰りで

朝6時から開いている店が多い。フィンで出す店は、飲み終わるまで30分は見ておく。

値段と覚え書き

歩道の店・低い椅子15,000〜25,000 VND約90〜150円
街のカフェ30,000〜55,000 VND約180〜330円
チェーン店・観光地55,000〜80,000 VND約330〜480円
  • đá=氷、nóng=ホット。「cà phê sữa nóng」なら温かい練乳コーヒー
  • 持ち帰りは袋に入れて渡されることがある。ストローを挿してそのまま飲む
  • 卵黄と練乳を泡立てた「エッグコーヒー(cà phê trứng)」は北部ハノイの飲みもの
  • ロブスタは苦みが強い。苦手なら「cà phê sữa」を甘めのままで飲むほうが飲みやすい
  • 「bạc xỉu」は練乳を多めにしてコーヒーを少なくしたもの。甘い飲みものが好きならこちら
  • 歩道の店では、頼むと蓮茶(trà đá)が無料で付いてくることが多い

値段は2026年9月時点の目安。1,000ドン=約6円で換算。営業時間・価格・閉店は変わることがあるので、行く前に確認を。

参照資料

写真の出典(7枚)

写真は個別ページのライセンスに従います。作者名・ライセンス・原典リンクを1枚ずつ表示しています。

  • 木のテーブルに置かれた、練乳を混ぜたベトナムのアイスコーヒー|Sóc Năng Động/Pexels License(商用可・加工可)/2026年公開・明るさ調整あり(原典)
  • 白い器の上に置かれたフィンから、コーヒーが落ちている。左にミルクピッチャー|Nikita Belokhonov/Pexels License(商用可・加工可)/2020年公開・明るさ調整あり(原典)
  • アルミ製のベトナム式ドリップ器具フィンの寄り|Vindhya Chandrasekharan/Pexels License(商用可・加工可)/2022年公開・明るさ調整あり(原典)
  • カフェの卓に置かれた背の高いグラス。下が白、上が濃い茶色の二層になっている|Nhà văn/Pexels License(商用可・加工可)/2025年公開・明るさ調整あり(原典)
  • 歩道の黄色いプラスチック椅子の上に置かれた、持ち帰り用カップのアイスコーヒー|Huỳnh Đạt/Pexels License(商用可・加工可)/2020年公開・明るさ調整あり(原典)
  • テーブルに並べられた、抽出中のベトナム式ドリップ器具フィン|Sóc Năng Động/Pexels License(商用可・加工可)/2025年公開・明るさ調整あり(原典)
  • 「Nem Cà Phê TAUI」の看板を掲げた、黄色い菊の鉢を並べたベトナムのカフェ|Nhi Huynh/Pexels License(商用可・加工可)/2026年公開・明るさ調整あり(原典)

装飾

紙・テープ・手描きの下線・提灯ガーランドなどの装飾は、ユーザー提供の素材パック htnv-decor-user-pack-01〜04 から切り出して使用。

写真はいずれもPexelsライセンス(商用利用可・改変可)。7枚すべて明るさ・彩度・コントラストを調整している。トリミング・合成はしていない。

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