白い器に、とろみのついた白いスープ。ほぐした身、青ねぎ、黒こしょう
ベトナム / ホーチミン

スップクア

Súp cua

歩道で、紙コップに注いでもらう蟹のスープ

DISH22
午後三時の、あたたかい一杯!

とろみのついた、白っぽいスープ。中に蟹の身がほぐれていて、鶏のささみ、うずらの卵、とうもろこし、きくらげ。上から黒こしょうをたっぷりと、香菜をひとつまみ。それがスップクアだ。

特徴はとろみだ。でんぷんを溶いて入れてあるので、レンゲですくうとぽってり重い。そこへ溶いた卵白を細く流し入れると、糸のような白い筋になって固まる。この筋が、口の中でふわりとほどける。

売り方が面白い。専門の店もあるが、多くは歩道に出た小さな屋台で、鍋を一つ置いて注ぐだけ。紙コップかプラスチックの器に注いでもらい、レンゲを刺して渡される。座らずに、その場で立って飲む人も多い。

食べる時間もはっきりしている。午後だ。学校が終わるころ、あるいは仕事の合間。夕食までのあいだを埋める、小さくてあたたかい一杯として飲まれている。20,000ドンから30,000ドンほど。

サイゴンの中華街チョロンから広まった料理で、もとは広東の羹(とろみスープ)だ。それがベトナム語の名前をもらい、いまでは通りの当たり前の風景になっている。

でんぷんでとろみをつける25,000 VND〜(約150円)午後の食べもの
1

皿の解剖

白い器のとろみのあるスープに、ほぐした身、にんじん、香菜、黒こしょう。ムイネーの宿の朝食で
12345
木の卓に置かれた小さな器。レンゲと箸が添えられている器ひとつ分

写真は宿の朝食に出たもの。屋台のものはもっととろみが強く、うずらの卵やきくらげが入っていることが多い。

1
とろみのスープnước súp鶏の出汁にでんぷんを溶いて入れたもの。レンゲですくうと、ぽってり重い
2
卵白の糸trứng溶いた卵白を細く流し入れると、糸のように固まる。ふわりとした食感の正体
3
にんじんcà rốt細かく切って入れる。色を足す役でもある
4
香菜ngò rí仕上げにひとつまみ。とろみの重さを、香りで切る
5
黒こしょうtiêuたっぷりふる。これがないと味がぼやける、と言われるくらい重要
2

一口目

味

やさしい。そこへ黒こしょう

鶏の出汁と蟹の身の、おだやかで薄い甘み。そのままだと少しぼんやりしているところへ、上にふった黒こしょうが刺さる。この対比がスップクアの味の骨組みで、こしょうを控えると急に平坦になる。

食感

とろりと、ふわりと

でんぷんのとろみで、スープが舌にまとわりつく。そこへ卵白の糸がふわりとほどけ、きくらげのこりっとした歯ざわりが混ざる。噛むところがほとんどないので、あっという間に飲み終わる。

一口目

こしょうを混ぜずに、上から

上にふられた黒こしょうは、混ぜずにそのまますくうといい。最初の一口でこしょうの強さを知ってから、二口目で全体を混ぜる。混ぜてしまうと、その落差が味わえない。

海藻とにんじんを入れて家庭で作ったもの。器の上に黒い海藻がのっている
家庭で作ったもの。海藻とにんじんを入れている
中華模様の皿の上に三つの器。家庭で作った海藻入りのもの
器は小さい。立ったまま五分で飲み終わる量
3

一杯ができるまで

1鶏の出汁をとる

鶏の骨を煮て、澄んだ出汁をとる。灰汁をすくいながら、雑味が出ないうちに火を止める。ここが土台になる。

濁らせないのが、この料理の最初の関門
2具を入れる

ほぐした蟹の身、鶏のささみ、とうもろこし、きくらげ、うずらの卵。細かく切って、出汁のなかで温める。

具はどれも小さく切る。レンゲで一度にすくえる大きさに
中華模様の皿の上に三つの器。家庭で作った海藻入りのもの3
でんぷんでとろみをつける

水で溶いたでんぷんを回し入れ、混ぜながら火を通す。とろみの強さは店ごとに違い、これが一杯の性格を決める。

入れすぎると、糊のようになってしまう
白い器に、とろみのついた白いスープ。ほぐした身、青ねぎ、黒こしょう4
卵白を流して、こしょうをふる

溶いた卵白を細く流し入れ、糸のように固める。器に注ぎ、黒こしょうをたっぷり、香菜をひとつまみ。

かき混ぜながら流すと、糸が細くなる
鶏の骨蟹の身鶏のささみうずらの卵とうもろこしきくらげ卵白でんぷん黒こしょう・香菜
4

チョロンの羹が、歩道に出るまで

チョロン

中華街から広まる

サイゴンの中華街チョロンの広東系の食堂で出されていた、とろみのスープ(羹)がもと。蟹ととうもろこしの組み合わせもそこから来ている。

名前

súpはフランス語から

súpはフランス語のsoupeを写した言葉。中華の料理に、フランス語由来の名前と、ベトナム語のcua(蟹)が組み合わさっている。

屋台へ

鍋ひとつで売れる

作り置きして温めておけるので、屋台に向いている。鍋を一つ置き、注いで渡すだけ。歩道の商売として広まった。

時間帯

午後の食べもの

朝でも夜でもなく、午後。学校帰りや仕事の合間に飲む「小さな一杯」という位置づけが定着している。

種類

具で名前が変わる

súp cua óc heo(豚の脳入り)、súp cua bong bóng cá(魚の浮き袋入り)。看板に並ぶ言葉が、その店の売りもの。

スップクアという名前は、二つの言語でできている。súpはフランス語のsoupeを写した言葉で、cuaはベトナム語の蟹。そして料理そのものは、広東の羹——でんぷんでとろみをつけたスープ——の系統にある。フランスの名前と、中国の作り方と、ベトナムの材料。サイゴンという街の成り立ちが、そのまま一杯に入っている。

とろみのあるスープは、屋台の商売にとても向いている。作り置きして鍋で温めておけるし、冷めにくいし、注ぐだけで出せる。だからこの料理は、店の中よりも歩道で育った。鍋を一つ置いて、紙コップに注いで、レンゲを刺して渡す。それだけで商売になる。

食べる時間もはっきりしている。午後だ。朝ごはんでも夕食でもなく、その中間。学校が終わったあとの生徒たち、仕事の合間に出てきた勤め人。夕方の少し前に、あたたかくて軽いものを一杯だけ飲む。ベトナムの街には、こういう「食事と食事のあいだの食べもの」がとても多い。

味の骨組みは、やさしい出汁と、上にふる黒こしょうの対比でできている。スープそのものは鶏と蟹のおだやかな甘みだけで、そのままだと少しぼんやりしている。そこへこしょうが刺さることで、輪郭が生まれる。こしょうを控えめにした一杯を飲むと、この料理がいかにこしょうに頼っているかがよく分かる。

看板を見ると、cuaのあとにいろいろな言葉が続いていることに気づく。óc heo(豚の脳)、bong bóng cá(魚の浮き袋)、gà(鶏)。それぞれが別の食感を足すためのもので、値段も変わる。何も分からなければ、いちばん基本のものを頼めばいい。20,000ドン、レンゲ一本、五分で終わる。

中華模様の皿の上に三つの器。家庭で作った海藻入りのもの
家庭で作ったもの。海藻を入れるのは家庭でよくある工夫
木の卓に置かれた小さな器。レンゲと箸が添えられている
小さな器にレンゲ。座らずに飲み終わる量

スップクアの由来を広東料理に求める説明は広く行われているが、いつ誰が持ちこんだかを示す資料があるわけではない。ここでは、材料と作り方の共通点から言えることだけを書いている。

5

食べに行く前に

注文のことば

Cho tôi một ly súp cua.チョー・トイ・モッ・リー・スップ・クア/スップクアを1杯ください
Nhiều tiêu.ニェウ・ティエウ/こしょう多めで
Không óc heo.コン・オック・ヘオ/豚の脳は抜きで
Bao nhiêu tiền?バオ・ニェウ・ティエン/いくらですか

午後に出る屋台が多い。鍋ひとつの小さな店なので、看板より鍋を探すほうが早い。立ったまま五分で飲み終わる量。

値段と覚え書き

屋台の一杯20,000〜30,000 VND約120〜180円
具を足したもの30,000〜50,000 VND約180〜300円
店の器で(大)45,000〜70,000 VND約270〜420円
  • 黒こしょうが味の骨組み。少ないと感じたら「nhiều tiêu」で足してもらう
  • óc heo=豚の脳、bong bóng cá=魚の浮き袋。苦手なら基本のものを頼む
  • 紙コップで渡されたら、立ったまま飲むのが普通の食べ方
  • 午後に出る屋台が多い。朝と夜には見つからないことがある
  • とろみがあるぶん熱い。最初の一口は慎重に
  • 「ly(リー)」はコップ、「chén(チェン)」は器。器で欲しければchénと言う

値段は2026年9月時点の目安。1,000ドン=約6円で換算。営業時間・価格・閉店は変わることがあるので、行く前に確認を。

参照資料

写真の出典(5枚)

写真は個別ページのライセンスに従います。作者名・ライセンス・原典リンクを1枚ずつ表示しています。

  • 白い器に、とろみのついた白いスープ。ほぐした身、青ねぎ、黒こしょう|Hoangkid/CC BY-SA 4.0/2017年撮影・明るさ調整あり(原典)
  • 白い器のとろみのあるスープに、ほぐした身、にんじん、香菜、黒こしょう。ムイネーの宿の朝食で|Phương Huy/CC BY-SA 4.0/2023年撮影・明るさ調整あり(原典)
  • 木の卓に置かれた小さな器。レンゲと箸が添えられている|Phương Huy/CC BY-SA 4.0/2023年撮影・明るさ調整あり(原典)
  • 海藻とにんじんを入れて家庭で作ったもの。器の上に黒い海藻がのっている|Phương Huy/CC BY-SA 4.0/2023年撮影・明るさ調整あり(原典)
  • 中華模様の皿の上に三つの器。家庭で作った海藻入りのもの|Phương Huy/CC BY-SA 4.0/2023年撮影・明るさ調整あり(原典)

装飾

紙・テープ・手描きの下線・提灯ガーランドなどの装飾は、ユーザー提供の素材パック htnv-decor-user-pack-01〜04 から切り出して使用。

写真は5枚すべてCCライセンス(Wikimedia Commons)。明るさ・彩度・コントラストを調整している。トリミング・合成はしていない。撮影地はムイネーや家庭を含み、ホーチミンの屋台で撮られたものではない。