芋圓

世界の料理図鑑 台湾

芋圓

芋圓 ユーユエン Taro Balls

もちもちを通り越して「ぐにぐに」。九份の階段を上りきった先で食べる、タロイモとサツマイモの団子。

タロイモとサツマイモをふかして潰し、芋の粉と練り合わせ、棒状にのばして包丁で切る。ただそれだけの団子です。だから、うまい店とそうでない店の差が、恐ろしいほどはっきり出る。

九份の階段を上りきった先で食べる一杯は、旅程のどこにも書かれていないのに、なぜかいちばん覚えている。芋圓とはそういう食べものです。

そして意外なことに、この団子が九份の名物になったのは、そんなに昔の話ではありません。

国・地域
台湾/新北市・九份。台北市内の甘味店でも広く食べられる
分類
甘味・冷菓(湯圓系の芋団子)
相場
NT$50〜60(約235〜280円)。練乳など追加はNT$10前後
主な材料
タロイモ(芋頭)、サツマイモ(地瓜)、地瓜粉(サツマイモ澱粉)、砂糖
甘さ
控えめ。団子自体はほぼ無味で、シロップの甘さで食べる
温度
温(熱いシロップ)と冷(かき氷)を選べる
食べる場所
甘味専門店。九份・豎崎路の階段沿いに数軒が並ぶ
ベスト時間
15〜17時。階段を上った直後、日没を待つあいだ
一人前
中サイズ1杯で日本の茶碗2杯ぶんほど。甘味としては重い
支払い
現金のみの店がほとんど。カード・悠遊カードは不可と思っておく

01一口目に来るもの

まずスプーンが入らない。押すと沈み、離すと戻ってくる。この抵抗が芋圓の第一印象です。

噛むと、上下の歯がゆっくり近づいていく。餅のように伸びるのでも、白玉のようにほどけるのでもなく、密度の高いゴムを噛んでいるような、独特の「ぐにぐに」がある。台湾人はこれをQ(キュー)と呼びます。歯を押し返してくる弾力のこと。

そして噛み切った瞬間、遅れて芋の香りが立ちのぼる。団子そのものはほとんど甘くありません。甘いのは周りのシロップだけ。だから最後まで飽きずに食べきれます。

一杯を食べ終わるころ、口のなかに残っているのは甘さではなく芋の粉っぽい香りです。これが芋圓のいちばん正直なところで、味の薄い店はここで正体がばれる。

芋圓
綜合芋圓(温)NT$55(約260円)。紫がタロイモ、黄がサツマイモ。芋の粒がわずかに残る食感が本物の証拠

02味と食感

タロイモ(紫)は、栗と里芋の中間のような、粉っぽくて甘い香り。ほんのりバニラのような気配もあります。サツマイモ(黄)はもっと素直に甘く、香りが軽い。2色が交互に来ることで、単調にならない。

シロップは黒糖ベースの薄い甘さ。日本のぜんざいの三分の一ほどの糖度で、飲み干せます。温かい方はシロップが少しとろみを帯びていて、団子に絡む。冷たい方はかき氷の下に団子が沈んでいて、掘り出しながら食べる。

芋圓
蜜豆と芋圓を合わせた一杯。豆の甘さと団子の弾力を一緒に食べる(シドニーで撮影)
芋圓
持ち帰りカップ。階段の途中では食べにくいので、座れる場所を確保してから開ける

一緒に入るものを選ぶ

店で「加什麼(何を入れる)」と聞かれることがあります。定番は緑豆・小豆・タピオカ・仙草ゼリー・落花生。

迷ったら緑豆。芋の甘さと最も喧嘩しません。落花生は食感が近すぎず遠すぎず、いちばん外さない選択。仙草ゼリーは苦みがあるので、甘さを抑えたい人向けです。

欲張って3種類以上入れると、芋圓そのものの存在が薄くなります。1〜2種類が最適。

芋圓
色の違う団子を混ぜた「綜合」。タロ・サツマイモ・緑豆の3色が入る店もある
芋圓
牛乳に4色の芋圓を浮かべた一杯。ミルク仕立ては甘味店の定番の一つ
芋圓

第 二 章

包丁で切るだけの団子が、なぜここまで違うのか

芋圓に蜜豆やココナッツゼリーをのせた冷たい一杯。かき氷の上に団子が並ぶ(シドニーで撮影)

03材料と作り方

作り方は驚くほど単純です。皮をむいたタロイモを蒸してつぶし、地瓜粉(サツマイモの澱粉)と砂糖を加えて練る。生地を細長い棒にのばし、包丁で2cmほどに切る。あとは茹でて冷水に落とすだけ。

難しいのは配合です。粉が多いと硬いゴムになり、少ないと茹でた瞬間に溶ける。店ごとに芋と粉の比率が違い、それがそのまま味の個性になります。名店ほど芋の比率が高く、団子の断面に芋の繊維が見える。

機械で押し出した均一な団子より、包丁で切った不揃いな団子のほうが旨いとされます。角が立っているほうがシロップの絡みがいいからです。

芋圓
茹でる前の生の芋圓。まだ白っぽい。この状態で冷凍して売る店も多い
芋圓
袋詰めされた生芋圓。土産にもなり、家で茹でれば5分で再現できる

04温か、冷か

店に入るとまず「熱的還是冷的(温かいのと冷たいの、どっち)」と聞かれます。これが最初の関門。

温(ヨン/熱的)は、団子がやわらかいまま口に入る。芋の香りが立ち、シロップと一体になる。九份は山の上で海風が吹き抜けるため、11月から3月は体感がかなり低い。この時期は迷わず温です。

冷(かき氷)は、団子がきゅっと締まって弾力が増す。Q(弾力)を味わうならこちら。ただし氷が溶ける前に食べきる必要があります。10分放置すると団子が冷えすぎて硬くなり、別の食べものになってしまう。

温(熱的)冷(冰的)
団子の食感やわらかい。芋の香りが立つ締まって弾力が増す
向く季節11〜3月。山の上は想像より寒い5〜9月。歩き疲れた体に効く
食べきる時間ゆっくりでいい10分以内。氷が溶けると硬くなる
初めてならこちらのほうが芋の味がわかる食感を楽しみたい人向け
芋圓
かき氷仕立て。氷が溶けるほど団子が硬くなるので、急いで食べる
芋圓
九份老街・基山街の「賴阿婆芋圓」の店先。赤い提灯の下に芋圓の鍋が並ぶ

一杯NT$55の団子のために、人は山をひとつ上がる。九份・豎崎路にて

05食べ方の作法

作法らしい作法はありませんが、現地の人の食べ方には共通点があります。

第一に、混ぜない。かき氷の場合、上から順に食べて、団子が現れたら掘る。最初に全部混ぜると氷が一気に溶けて水っぽくなります。

第二に、飲み干す。シロップは残さないのが普通です。薄いので最後まで飲めます。

第三に、練乳(煉乳)を足すのは観光客より地元の若い人。NT$10(約47円)ほどで、かけると一気にミルク寄りの甘さになります。芋の香りは弱まるので、一杯目は何も足さずに食べたほうがいい。

06注文のしかた

指さしで通じます。それでも一言あると早い。

「綜合芋圓、一碗(ゾンハー ユーユエン、イーワン)」=ミックス芋圓を1杯。綜合は「全部入り」の意味で、どの店にもあります。

「熱的(ラーダ)」=温かいの。「冰的(ビンダ)」=冷たいの。この2語だけ覚えれば注文は終わります。

持ち帰りは「外帶(ワイダイ)」。九份の店は席が少ないので、混む時間帯はこれが現実的です。

芋圓とその周辺(2026年8月時点の目安)価格
綜合芋圓(温)NT$55/約260円
芋圓(冷・かき氷)NT$55/約260円
芋圓豆花NT$60/約280円
練乳追加NT$10/約47円
持ち帰り用 生芋圓 1袋NT$100前後/約470円

07どこで食べる

九份でいうと、豎崎路(シューチールー)の石段沿いに甘味店が集まっています。階段を上りきったあたり、小学校の下に数軒。ここが芋圓の中心地です。

店の多くは店内に段々の席があり、窓の外に基隆湾が見下ろせる。ここが重要で、芋圓は「景色を見ながら食べるもの」として完成しています。持ち帰って歩きながら食べると、半分損をする。

営業は10時ごろから20時ごろまで。土日祝の17〜19時は席の争奪戦になります。15時台に入ると空いていて、しかも日没まで粘れる。これが最適解です。

台北市内なら、士林・永康街・寧夏夜市あたりの甘味店にもたいてい置いてあります。九份まで行けない日でも食べられる。

店を選ぶ目見るポイント
団子の断面芋の繊維が見える=芋の比率が高い
形包丁で切った不揃い=手作り。均一すぎるものは機械押し出し
行列回転が速い店ほど茹でたてに当たる
席窓際が空いているかどうかで滞在時間が変わる
芋圓
九份の甘味店の店先。看板に「芋圓」の二文字があれば、それが目印
芋圓
台北・士林夜市の通路。衣料や雑貨の露店が両側に並ぶ

08歴史と背景

芋圓そのものは台湾各地にある古い甘味ですが、九份の名物になったのは意外に新しく、1970年代のことです。

諸説あるうち有力なのは、九份国民小学校の下でかき氷を売っていた雑貨店が、客の求めに応じてトッピングとして芋圓を加えた、という説。1960年創業のその店は現在も営業していて、九份の代名詞になっています。

面白いのは、九份はタロイモの産地ではないということ。金鉱で栄えた町が金の枯渇とともに寂れ、1989年の映画『悲情城市』のロケ地として復活したとき、行列のできる茶楼のそばで「何か売れるもの」として選ばれたのが芋圓だった——地元の郷土史家はそう説明します。

つまり芋圓は、土地の産物ではなく観光の産物です。それでもこれだけ根づいたのは、山の階段を上ってきた体に、この甘さと温度がちょうどよかったからでしょう。

09似ている料理

日本の白玉団子に見た目は近いのですが、食感はまるで違います。白玉は米粉なのでほどける。芋圓は澱粉なので押し返してくる。

中国大陸の湯圓(タンユエン)は餡入りの餅で、これも別物。芋圓には餡がありません。

最も近いのは香港・マレーシアの芋圓糖水や、東南アジアの芋菓子。「芋の澱粉を練って弾力を出す」という発想は、南方の温暖な芋文化圏に共通して見られます。

台湾国内なら豆花のトッピングとして出てくることも多く、芋圓豆花は二つの名物を同時に食べられる合わせ技です。

10豆知識

・冷凍の生芋圓が土産物として売られています。持ち帰って自宅で茹でれば5分で再現できる。ただし機内持ち込みより預け荷物へ。

・団子の色は着色料ではなく素材の色。紫はタロイモ、黄はサツマイモ、緑は抹茶や緑豆、白は山芋(山藥)。4色そろえる店もあります。

・九份は台湾でも屈指の雨の多い町です。基山街は屋根つきなので濡れませんが、豎崎路の階段は濡れると滑ります。芋圓を持って階段を下りるのはやめたほうがいい。

・「芋圓」の「圓」は円満・団円の意味を持つ縁起の良い字です。台湾の甘味に「圓」の字が多いのはこのためで、湯圓・肉圓・魚圓もすべて同じ発想から来ています。

為替レート:1台湾ドル(NT$)=約4.7円で換算しています(2026年8月時点)。価格・営業時間は変動します。現地で必ずご確認ください。

写真はすべて Wikimedia Commons より。各画像の作者とライセンスは以下のとおりです。

価格は2026年8月時点の現地相場の目安です。/参考:九份の芋圓の由来については地元郷土史家の証言および台湾の食文化メディアの記事を参照。