青唐辛子をチーズで煮たエマダツィ
ブータン唐辛子をチーズで煮て、米と食べるブータンの代表料理スープ・煮込み・鍋

エマダツィ

Ema Datshi / Ema Datsi / ཨེ་མ་དར་ཚིལ་Bhutanese chilli and cheese stew

エマ(唐辛子)をダツィ(チーズ)と煮る、ブータンを代表する料理。青唐辛子や乾燥赤唐辛子を少量の薬味ではなく具として使い、赤米や白米と合わせる。汁気、野菜、香味材料には家庭や地域による幅がある。

概要
01

唐辛子が薬味ではなく、皿の中心になる

エマは唐辛子、ダツィはチーズ。料理名が二つの主役をそのまま示す。

エマダツィは、唐辛子をチーズと煮るブータン料理である。ゾンカ語のemaは唐辛子、datshiまたはdatsiはチーズを指す。ブータン政府観光情報は国民食、または非公式の国民食として紹介しており、本記事では表現の違いをならして「ブータンを代表する料理」と位置づける。

日本の料理感覚では唐辛子を香辛料として少量加える場面が多いが、ブータンでは料理を構成する食材になる。政府観光情報も、唐辛子をspiceよりingredientとして使うと説明する。エマダツィの鍋では、切った唐辛子がチーズの煮汁の中に形を残す。

辛さだけを強調すると料理の半分しか見えない。唐辛子の青い香りや果肉、乳製品の塩味とコク、煮汁を受け止める米までが一つの食事を形づくる。市場に大量の唐辛子が並ぶ風景は、その日常性をよく示している。

ブータンの市場に並ぶエマ(唐辛子)

ブータンの市場に並ぶエマ(唐辛子)。エマダツィでは少量の薬味ではなく、料理を構成する食材になる。

味と特徴
02

ダツィは、ヤクだけに限られない地元チーズ

乳を発酵・分離して作る若い伝統チーズが、唐辛子を包む。

ダツィは、ブータンで作られる伝統的なフレッシュチーズとして研究されている。2022年の食品科学研究では、一般に牛乳から作る未熟成のカッテージチーズと説明され、発酵乳からバターを取り、残ったバターミルクを加熱して凝固したたんぱく質を集める製法が報告されている。

観光紹介ではyak cheeseと書かれることもあるが、すべてのダツィをヤク乳製に固定することはできない。ブータンのローカルチーズ規格は牛乳と水牛乳を対象にし、研究資料も牛乳由来のダツィを扱う。材料乳や製法には地域と生産者による違いがある。

伝統的なダツィは白く小さな塊状で、鍋の中では完全に均一なソースになるとは限らない。現代の家庭や飲食店では市販のチーズを組み合わせる例もあり、伸び方、塩味、分離の程度が仕上がりの違いにつながる。

ブータンの伝統的なフレッシュチーズ、ダツィ

辛くするための唐辛子ではない。果肉と香りを食べ、チーズで包み、米で受け止める。唐辛子そのものが主菜になる。

材料と産地
03

一つの鍋で煮るが、濃さは一つではない

唐辛子とチーズを軸に、玉ねぎ、トマト、にんにく、水分を調整する。

作り方の骨格は、縦に割るなどした唐辛子を鍋に入れ、ダツィと水分を加えて煮ることにある。玉ねぎ、トマト、にんにく、油またはバターを加える型も広く紹介される。材料を炒め切ってからソースを作るより、鍋の中で一緒に煮合わせる説明が多い。

政府観光情報は、チーズが多く汁気を抑えた仕上がりを好む人も、よりスープ状を好む人もいると記す。唐辛子の切り方、チーズの量、水分、トマトの有無に家や店の違いが表れ、唯一の比率へ固定できない。

乾燥赤唐辛子を使うエマダツィでは、赤い果皮と煮汁が落ち着いた色調をつくる。青唐辛子の型と見た目は異なるが、唐辛子を具としてダツィと煮る中心構造は共通している。

乾燥した赤唐辛子を使うエマダツィ
歴史と由来
04

青、赤、生、乾燥。季節を越える唐辛子

色の違いは飾りではなく、香り、保存、食感の選択になる。

エマダツィには、生の青唐辛子だけでなく乾燥した赤唐辛子を使う型がある。肉厚、細身、青、赤、乾燥、粉末、漬物など、ブータンの唐辛子利用は多様で、どれか一つだけを正統と決めることはできない。

ブータン政府観光情報は、屋根、窓辺、地面などで唐辛子を乾かす光景を紹介している。収穫期の唐辛子を乾燥させることは、保存期間を延ばすだけでなく、生の青い香りとは異なる凝縮した風味を料理へ持ち込む。

唐辛子を燃やして厄を遠ざける、酒造りに幸運の印として加えるといった生活文化も公式記事に記録される。ただし、こうした習慣をエマダツィの起源と直接結びつける史料は確認できない。料理と周辺文化は、関係を誇張せず分けて読む。

ブータンで乾燥させた赤唐辛子
2主役料理名の意味

Ema=唐辛子、Datshi=チーズ

2色の型代表的な姿

生の青唐辛子と乾燥赤唐辛子

2米の例食卓の主食

赤米と白米

3+近縁料理ダツィの展開

ケワ・シャム・シャカムほか

広がり
05

赤米と白米が、辛味と煮汁を受け止める

単品のチーズ煮ではなく、米を主食とする食卓の中で完成する。

ブータンでは赤米と白米の両方が主食で、米に煮込みや副菜を添える食事構成が広く見られる。エマダツィも、たっぷりの米と合わせる料理として政府観光情報に紹介されている。

赤米は代表的な組み合わせだが、エマダツィには必ず赤米という規則ではない。白米とともに盛る食卓写真も残り、主食の選択には地域、家庭、入手状況による幅がある。

米へ煮汁を少しずつ合わせると、唐辛子の辛味、チーズの塩味と乳味、米の穏やかな甘みがまとまる。エマダツィを西洋料理のチーズフォンデュと呼ぶと、唐辛子が具であり米と食べるという構造が抜け落ちる。

エマダツィとブータンの赤米を盛り合わせた食卓エマダツィと赤米・白米を盛り合わせた食卓
仲間と変わり種
06

ダツィ料理は、唐辛子の一皿から枝分かれする

ジャガイモ、きのこ、干し肉。主材料+ダツィで料理名が変わる。

ダツィを使う料理はエマダツィだけではない。ジャガイモのケワダツィ、きのこのシャムダツィ、干し牛肉のシャカムダツィなど、主材料とチーズの組み合わせによって別の料理になる。政府観光情報も複数のダツィ料理を伝えている。

比較写真のケワダツィでは、薄く切ったジャガイモがチーズの煮汁を受け止める。エマダツィと同じ乳製品文化の中にありながら、料理の中心は唐辛子からジャガイモへ移る。名前を分けること自体が、何を主材料と見るかを示している。

エマダツィの発明者や成立年を特定できる一次資料は確認できない。「世界で最も辛い料理」「何世紀も同じ作り方」といった順位や不変性を断定せず、現在確認できる材料、調理法、食卓、地域差から料理像を組み立てる。

ジャガイモとチーズを煮るケワダツィ

基本情報

国・地域
ブータン
分類
唐辛子とチーズの煮込み
主材料
生または乾燥唐辛子、ダツィ
副材料の例
玉ねぎ、トマト、にんにく、油またはバター
仕上がり
濃い型から汁気の多い型まで幅がある
食べ合わせ
赤米または白米
近縁料理
ケワダツィ、シャムダツィ、シャカムダツィ
注意点
ダツィを一律にヤク乳製と断定しない

出典

写真(8枚)

  • 1. 青唐辛子をチーズで煮たエマダツィ / Rigzen Dema / CC BY-SA 4.0 / 原典
  • 2. ブータンの市場に並ぶエマ(唐辛子) / Nagarjun / CC BY 2.0 / 原典
  • 3. ブータンの伝統的なフレッシュチーズ、ダツィ / Anooja Nair, Dechen Choden, Monika Pradhan / CC BY-SA 4.0 / 原典
  • 4. 乾燥した赤唐辛子を使うエマダツィ / Rigzen Dema / CC BY-SA 4.0 / 原典
  • 5. ブータンで乾燥させた赤唐辛子 / Richard Mortel / CC BY 2.0 / 原典
  • 6. エマダツィとブータンの赤米を盛り合わせた食卓 / Sreeram Narayan / CC BY 2.0 / 原典
  • 7. エマダツィと赤米・白米を盛り合わせた食卓 / ShashiBellamkonda / CC BY 2.0 / 原典
  • 8. ジャガイモとチーズを煮るケワダツィ / Rigzen Dema / CC BY-SA 4.0 / 原典

既存の8写真は差し替えず、権利表示を維持しています。完成料理、ダツィ、市場の唐辛子、乾燥唐辛子、米との食卓、近縁料理を役割別に配置し、全写真へ自然な明るさ・コントラスト・彩度補正を適用します。