ムキモ
イリオ、キエンイェジともMukimo (Irio)
じゃがいもと青菜を一緒にゆで、とうもろこしと豆を加えて、全部まとめて搗きつぶす。かぼちゃの葉が入るから緑色になる。脂質は100gあたり0.7g――油もバターも入らない。だからこそ、肉の汁と組み合わせて初めて味が完成する。
概要 ― 緑色をした「搗き混ぜ料理」
じゃがいもと青菜を一緒にゆで、とうもろこしや豆を加えて、なめらかになるまで搗き混ぜる。かぼちゃの葉が入ることで全体が緑色になる。ケニア山周辺、とりわけキクユ人の料理。
皿の上のそれは、まず色で人を驚かせる。マッシュポテトなのに緑なのである。それも、青菜を上から散らした緑ではない。芋そのものが芯まで緑に染まっている。かぼちゃの葉やほうれん草を、じゃがいもと一緒にゆでて、まとめて搗きつぶしてあるからだ。ケニア中部の、ケニア山(Mount Kenya)のまわりに住む人びと、なかでもキクユ人(Agĩkũyũ)の料理である。
作り方は単純で、そのぶん家ごとに違う。じゃがいもと青菜をゆで、そこにとうもろこしや豆を加え、すべてを滑らかになるまで搗き混ぜる。炒め玉ねぎや香辛料を足す家もある。英語版ウィキペディアもはっきり「ケニアの地域ごと、家庭ごとに違う」と書いていて、標準レシピというものが存在しない。
名前もひとつではない。キクユ人の食文化を列挙した記述では、ムーキモ(Mūkimo)=マッシュしたグリーンピースとじゃがいも、キーミトゥ(Kīmitū)=マッシュした豆とじゃがいも、イリオ(Irio)=マッシュした乾燥豆・とうもろこし・じゃがいも、と別項目として区別されている。つまり厳密には irio が「とうもろこし粒が入る版」を指す語なのだが、現実のケニアでは両語はしばしば互換的に使われる。
なお「キエンイェジ(kienyeji)」という呼び方も日本語圏では見かけるが、これはキクユ語・スワヒリ語で「在来の、土着の」を広く指す形容詞であって、ムキモ固有の名称ではない。公的資料でムキモの正式な別名として定義されている例は、今回の調査では確認できなかった。
形については「丸める」「円錐に整える」という所作が広く語られる。ただしこれを記載したケニア農業畜産研究機構(KALRO)、ケニア国立博物館、FAOの公的資料は、今回の調査では見つからなかった。一人前の重量も、FAOとケニア政府のレシピ集に収載されているとの記述はあるが、レシピ集本体を取得できていないため数値は書かない。

花柄の皿に平たく広げた緑色のムキモ。中央に牛肉の煮込みをのせている。


こちらはもう少し淡い色のムキモ。下に牛肉の煮汁がたまっている(左)/行事の食卓で、ご飯・煮込みと一緒に取り分けられるムキモ(右)。
味と特徴 ― 脂質100gあたり0.7g、だから肉汁が要る
FAOとケニア政府が共同刊行した公式食品成分表がムキモを実測している。100gあたり118 kcal、脂質0.7g。油脂をほとんど使わない料理であることが数字で裏づけられる。
『Kenya Food Composition Tables 2018』(FAO/ケニア保健省・農業灌漑省、ISBN 978-92-5-130445-7)は、ムキモを複数のレシピとして実測収載している。コード15054「ムキモ(とうもろこし・豆・じゃがいも・かぼちゃの葉)」は100gあたり498 kJ/118 kcal、水分67.1g、たんぱく質5.0g、脂質0.7g、利用可能炭水化物20.5g、食物繊維4.8g。カルシウム38mg、鉄2.0mg、カリウム436mg、ナトリウム266mg。
この脂質0.7gという数字が、この料理の味を説明してしまう。比較として、同じ成分表のコード15061「マッシュポテトとバナナ」は脂質8.5g。つまり標準的なムキモは、バターもギーも使わない料理なのだ。だから一口目に来るのは、じゃがいものほくほくした澱粉質と、そこに混ざる乾燥豆やとうもろこしの粉っぽさ・歯ごたえであって、油脂のコクではない。
ナトリウムは266〜336mg/100g。塩は「しっかり効かせるが強すぎない」水準である。青菜の苦みと青い香りは、かぼちゃの葉(同表04028:生100gでカルシウム383mg、鉄5.6mg、カロテン1695μg)とイラクサに由来する。緑色は飾りではなく、鉄とカルシウムそのものの色だと思えばいい。
油脂が少ないということは、単独では物足りないということでもある。だからムキモは、脂の乗ったニャマ・チョマ(nyama choma)や煮込みの肉汁と組み合わせて初めて味が完成する構造になっている。ニャマ・チョマはスワヒリ語で「焼いた肉」。ケニアではヤギ肉が好まれ、牛肉も使われる。伝統的に手で食べ、カチュンバリ(トマトのサラダ)とウガリが定番の付け合わせだ。
黒豆ンジャヒを使う版は数字がはっきり変わる。コード15059「ムキモ・ワ・ンジャヒ(黒豆・グリーンバナナ・じゃがいも)」は693 kJ/164 kcal、たんぱく質9.5g、食物繊維7.2g、鉄3.2mg、カリウム606mg。たんぱく質が倍近くになる。何を入れるかで、同じ名前の料理が別の栄養になる。


ギゼリ(githeri)。とうもろこしと豆を一緒に煮たもので、ムキモの材料でもあり、それ自体でも一食になる(左)/アボカドや青菜を混ぜたギゼリ(右)。

ナイロビ郊外の野菜売り場。トマトの奥に葉物とじゃがいもが積まれている。
脂質は100gあたり0.7グラム。バターもギーも入らない。だから肉の汁と組み合わせて、はじめて味が完成する。Kenya Food Composition Tables 2018(FAO/ケニア保健省・農業灌漑省)より
材料と産地 ― ンジャヒ、じゃがいも、そしてイラクサ
黒豆ンジャヒ(ラブラブ豆)は乾燥種子のたんぱく質が23.1g/100g、鉄7.13mg。イラクサ(thabai)はケニアの公式成分表にキクユ語名で収載されている。
ンジャヒ(njahi/njahe)はラブラブ豆、学名 Lablab purpureus。サハラ以南アフリカ原産とされ、熱帯全域で食用に栽培される。インドでは紀元前2500年には栽培されていた考古学的証拠がある。ケニアでは「複数のコミュニティ、とりわけキクユ人の間で人気」とされる豆で、乾燥種子の粗たんぱくは乾物ベースで約26%(品種により23〜28%)。
ケニア公式成分表の数値では、乾燥生のンジャヒ(03008)が100gあたり319 kcal、たんぱく質23.1g、食物繊維16.4g、鉄7.13mg、カリウム1000mg、マグネシウム145mg、亜鉛2.49mg、チアミン0.59mg。ゆでて湯を捨てたもの(03037)は122 kcal、たんぱく質8.9g。生の未熟豆(03009)は葉酸188μgと突出して高い。
この豆は耐乾性が高い。直根が地下2mまで伸び、日最低〜最高18〜35℃、年降水量650〜3,000mmを好み、野生型は標高2,000〜2,400mまで分布する。ただし種子にはタンニン・フィチン酸・トリプシン阻害物質が含まれ、成熟した乾燥豆は「水を替えながら長時間煮る」必要がある。ムキモで豆を最初に長く煮る理由は、ここにある。
イラクサも正式な食材である。ケニアの成分表は混合料理コード15077を「Thabai / Thaa(Stinging Nettle Leaves)」としてキクユ語名で収載している(143 kJ/34 kcal)。素材としての生イラクサ葉(04033)は100gあたり59 kcal、たんぱく質5.4g、カルシウム668mg、鉄7.2mg、マグネシウム133mg。ゆでた葉(04095)でもカルシウム604mg、鉄5.2mgを保持する。刺す草が国家の食品データベースに載っている国は、そう多くない。
じゃがいもは、ケニアの主要品種シャンギ(Shangi)が全国ジャガイモ協議会(NPCK)の価格表に主力銘柄として掲載されている。2026年9月21日時点でメルー62〜71シリング/kg、イシオロ75〜78シリング/kg。主要産地はナクル、ニャンダルア、ニエリ、ブンゴマ、エルゲヨマラクウェット、メルー。ニエリ郡は面積3,325平方キロ、2019年国勢調査人口759,164人、住民は主にキクユ人である。
同じ成分表が「ムキモ(とうもろこし・豆・じゃがいも・かぼちゃの葉)」と「ムキモ(生とうもろこし・じゃがいも・かぼちゃの葉)」を別コードで立てているのも興味深い。乾燥のとうもろこしか、生のとうもろこしか。その一点で調理工程も栄養値も変わるから、公式には別料理として数えるのである。



ケニア山キビリチア地区の畑で掘ったじゃがいも(左)/同じケニア山地域の畑のとうもろこし(中)/畝に整然と植えられたキャベツ畑(右)。


ラブラブ豆(ンジャヒ)の莢。熟すと濃い紅色になる(左)/同じ豆の白い花。つる性で、直根が地下2mまで伸びる(右)。
作り方 ― 豆が先、じゃがいもが次、青菜が最後
乾燥豆は長時間の加熱が要るので最初に煮る。とうもろこしは乾燥粒なら豆と同時、生なら後から。じゃがいもは豆が柔らかくなってから。青菜は最後。そして全部まとめて搗く。
順番には理由がある。乾燥のンジャヒや赤豆は、抗栄養因子を抜くために水を替えながら長く煮る必要がある。だから豆が最初。とうもろこしは乾燥粒なら豆と同時に入れ、生のとうもろこし(fresh maize)なら後から加える。じゃがいもは豆が柔らかくなってから。かぼちゃの葉(marenge)、ほうれん草、イラクサといった青菜は最後に入れる。そのあとで、すべてを搗き混ぜて滑らかにする。
この成分表がどう作られたかも、実は手順の証拠になっている。調理は実際にコミュニティの女性参加者が行い、全レシピを2回反復、投入食材をすべて秤量し、調理法・調理時間・調理後の最終重量を記録して、FAO/INFOODSの混合料理用テンプレートに入力する。保健省とKALROの栄養フィールドオフィサーが関与している。つまりこの数字は、台所で実際に作られたムキモを量った値である。
一方で、搗き棒(muiko/mwiko)という道具の名称、山形や円錐に整える盛り付け、「中央に穴をひとつ開けて肉汁を注ぐ」という作法は、口承や料理メディアでは広く語られるものの、今回当たった公的・学術資料では確認できなかった。だからここでは「そう言われている」以上には書かない。
確実に言えるのは、公的資料も「家庭ごと・地域ごとに作り方が異なる」と明記していることだ。標準がないことが、この料理の標準なのである。


ケニアの台所。刻んだ青菜、ギゼリ、レバーの煮込み、ご飯がそれぞれの鍋に入っている(左)/ケニア山地域の畑で手入れをする女性(右)。

キアンブ県ワンギゲの青物市場。にんじん、さやいんげん、玉ねぎの袋を前にした売り手。キアンブはキクユ人の土地のひとつ。
歴史と由来 ― 豆の名で季節を呼んだ人びと
キクユの伝統暦は、1年を「大雨の季節」「ンジャヒの収穫期」「小雨季」「キビの収穫期」の4つに分けていた。作物の名が、そのまま季節の名だった。
キクユ人の伝統暦は njahi を軸に組まれていた。Mbura ya njahĩ(大雨の季節、3月〜7月)、Magetha ma njahĩ(黒豆=ンジャヒの収穫期、7月〜10月初旬)、Mbura ya Mwere(小雨季、10月〜1月)、Magetha ma Mwere(キビの収穫期)。1年に2回の収穫期がある。作物の名がそのまま季節名になるほど、ンジャヒは中心的だった。ラブラブ豆を扱う記述も「季節は実際にこの豆に基づいていた(Kīmera kīa njahī)」と記す。
ところが現在のムキモを構成する「じゃがいも+とうもろこし」は、いずれも外来作物である。とうもろこしがアフリカに入ったのは16世紀、ポルトガル人による導入とされる。じゃがいもはアンデス原産で、世界では米・小麦に次ぐ第3の食用作物(世界生産3億7,400万トン超)。ケニアへのじゃがいも導入年代については、今回の調査では一次資料を確認できず、一般に言われる19世紀後半説は断定しない。
それ以前のムキモは、ンジャヒ、ヤムイモ、さつまいも、タロイモ、キビ、ソルガムを搗いたものだったと考えられる。実際キクユの伝統食としてヤムイモ、さつまいも、そしてキビ・ソルガムの粉で作る発酵粥ウーチュール(Ūcūrū)が挙げられている。つまりこの料理は「搗き混ぜる」という技法だけを残して、中身をまるごと入れ替えてきた。
植民地期の決定的な変化は、豆の置き換えだった。東アフリカでンジャヒの生産が減少した一因は、「植民地統治下のケニアで農民が輸出用のインゲンマメ(Phaseolus vulgaris)を生産するため、在来の豆を手放すことを強いられた」ことにあると記述されている(典拠:Claire C. Robertson, “Black, White, and Red All over: Beans, Women, and Agricultural Imperialism in Twentieth-Century Kenya,” Agricultural History 71(3), 1997)。
儀礼との結びつきも文献で確認できる。ンジャヒは「授乳を促すと考えられており、歴史的に授乳中の母親の主食であった」と明記されている。豆を熟した/半熟のバナナと一緒に煮て搗くと甘みのある一皿になる――これはケニア成分表のコード15059「ムキモ・ワ・ンジャヒ(黒豆・グリーンバナナ・じゃがいも)」およびコード15062(生バナナ+熟バナナ)として公式に収載されている構成と、そのまま一致する。
婚礼については、キクユ人の婚約カップルがルラシオ(Rũracio)と呼ばれる婚資・婚前の慣習を必ず経るとされる。ただし「ルラシオや出産祝いの席でムキモが供される」ことを明示した公的資料は今回確認できなかった。ンジャヒと産後の母親の結びつきだけが、文献に裏づけのある事実である。
【古写真】1905年から1940年ごろに撮影された、既婚のキクユ女性の肖像。首と耳に装身具を重ねている。撮影者不詳。


【絵画】フィンランドの画家アクセリ・ガッレン=カッレラが1909〜10年の東アフリカ滞在中に描いた『キクユの女性』(左)/ナイロビ近郊のボマス・オブ・ケニアに復元されたキクユの家(右)。
1年は「ンジャヒの収穫期」と「キビの収穫期」に分かれていた。作物の名が、そのまま季節の名だった。キクユの伝統暦
保護と現状 ― 国家の食品データベースに載った在来食
2018年、FAOとケニア保健省・農業灌漑省が共同で『Kenya Food Composition Tables』を刊行し、ムキモ4種、キミト、タバイなどキクユ語名の在来料理を国家データベースに正式収載した。
ケニア政府は2011年に国家食料栄養保障政策(National Food and Nutrition Security Policy)を掲げ、その延長線上で、FAOと保健省・農業灌漑省が2018年に『Kenya Food Composition Tables』を刊行した。ここにムキモ4種(15054/15057/15059/15062)、キミト(Kīmitū、15111)、タバイ(Thabai、15077)といったキクユ語名の在来料理が正式に収載された。KALROは栄養フィールドオフィサーとしてこの作業に参加している。
在来豆の再評価も進んでいる。スローフードの「味の箱船(Ark of Taste)」には、ケニアのンジャヘ豆の登録項目が存在する。ほかにケニア関連では「Ngwaci ya Muibai(サツマイモ)」「Gitogo Kiiru バナナ」も登録されている。ただし同財団サイトはボット対策で本文が取得できず、各エントリの記述内容までは確認できなかった。
学術面では、ラブラブ豆がケニア・エチオピアの「軽視され十分活用されていない有望な未来の豆類」上位5種(リママメ、アフリカヤムビーン、ベルベットビーン、ラブラブ豆、キマメ)のひとつに選定され、「インゲンマメより価格面で価値が高い」と評価されている(Ngigi PB ほか, Frontiers in Nutrition, 2023)。植民地期に追い出された豆が、いま「未来の豆」と呼ばれている。
民族植物学の基礎文献としては、パトリック・M・マウンドゥほか『Traditional Food Plants of Kenya』(1999年、ケニア国立博物館)がある。KALRO独自の在来作物復興プログラムや、学校給食でのンジャヒの位置づけについては、今回の調査では一次資料を取得できなかった。
脂質0.7g、たんぱく質5.0g、食物繊維4.8g(コード15054)。
100gあたり。鉄7.13mg、食物繊維16.4g。
2019年国勢調査で8,148,668人。ケニア最大の民族集団。

キアンブ県リムルの共助グループ。リムルは緑豊かな高地で、花と茶の一大産地でもある。
【古写真】英領東アフリカ時代、ナイロビのインド人街で買い物をするキクユの女性たちを写した立体写真。撮影はイェルハルド・リンドブロム。
食べる場面 ― 肉のわきに、必ずいる
肉の煮込み、鶏、ニャマ・チョマの付け合わせとして供されるのが定番。現在はケニア国内のさまざまなコミュニティに広がっている。
日常食としてのムキモは、肉の煮込み・鶏・ニャマ・チョマの付け合わせとして出てくる。公的資料も「現在は様々なコミュニティに広がって食べられている」と記す。キクユ人の料理として始まったものが、ケニアの料理になった。
行事の場面でもよく出る。大きなテントを張り、大鍋を並べ、来た人が順に皿を差し出す――ケニアの婚礼や葬儀、洗礼の光景である。ムキモは大量に作れて、冷めても食べられて、肉の汁と合う。集まりの料理として理想的な条件を全部持っている。
価格については、ナイロビのニャマ・チョマ店におけるムキモ1皿の価格帯を示す一次資料を、今回の調査では確認できなかった。確認できた実勢価格は主原料のじゃがいもで、NPCKの価格表(2026年9月21日閲覧)でシャンギがメルー62〜71シリング/kg、イシオロ75〜78シリング/kg。1シリング約1.1〜1.2円で換算するとおよそ70〜95円/kgになる(為替レートは一次資料で確認していないため参考値)。
婚礼・出産祝い・クリスマス・独立記念日(12月12日、ジャムフリ・デー)での提供頻度についても、確認できる公的資料はなかった。ンジャヒと産後・授乳期の結びつきだけが、文献で確認できる。


キクユの婚資交渉の儀礼ルラシオ。花嫁は付き添いの娘たちと同じ布をかぶって並び、新郎が言い当てる(左)/行事のテントで料理を取り分ける列(右)。

キクユの伝統舞踊の踊り手たち。集まりがあるところに、必ず大鍋がある。
広がり ― 「搗き混ぜ料理」という一族
ケニアの公式成分表は、ムキモを「搗き混ぜ料理」という料理族の中に位置づけている。キミト、ニェニ、かぼちゃとイヌホオズキの葉のマッシュ――そしてバナナを介して、東アフリカのマトケ文化につながる。
同じ成分表には、ムキモの親戚が並んでいる。キミト(Kīmitū、マッシュした豆とじゃがいも、コード15111:127 kcal、たんぱく質5.7g)、ニェニ(Nyenyi、マッシュしたキマメと生とうもろこし、コード15118:125 kcal)、かぼちゃとイヌホオズキの葉のマッシュ(コード15120:67 kcal、鉄6.7mg、葉酸233μg)。搗き混ぜる、という一点で束ねられた料理群である。
そしてバナナ系では、マトケ(Stewed Green Bananas & Meat、コード15056:118 kcal)が別建てで載る。重要なのは、ムキモ自体の一形態である「ムキモ・ワ・ンジャヒ」がグリーンバナナを主材とすること。キクユの搗き料理と、ウガンダ・タンザニア圏の料理用バナナ(マトケ)文化が、素材のレベルで連続していると公式データからも読める。
メル人やエンブ人の類似料理に固有名をあてた公的記載は、今回は確認できなかった。ただし同成分表のサンプリング班にはエンブ郡からの採取者が参加している。ケニア中部の高地は、民族の境界と料理の境界が一致しない土地である。
ディアスポラ(英国・米国のケニア料理店でのムキモ提供)についても、検証可能な一次資料を今回は確認できなかった。大統領就任式や国家行事での提供、ギネス級の大量調理記録も同様で、いずれも憶測では書かない。
最後にひとつだけ。ンジャヒの生の未熟種子は葉酸188μg/100g、乾燥豆は鉄7.13mg・たんぱく質23.1g/100gを含む。現代の言葉で「スーパーフード」と呼ばれる素地は、この数字にある。そして「授乳を促すと考えられ、歴史的に授乳中の母親の主食だった」という記述も、同じ文献にある。数字と言い伝えが、この豆の上でちょうど重なっている。
Mūkimoムキモ
じゃがいも+青菜
グリーンピースまたは豆とじゃがいもを搗き混ぜる。かぼちゃの葉で緑になる。
Kīmitūキーミトゥ
豆+じゃがいも
公式成分表コード15111。127 kcal/100g、たんぱく質5.7g。
Irioイリオ
とうもろこし入り
乾燥豆・とうもろこし・じゃがいもを搗いたもの。ムキモと互換的に使われる。
Matokeマトケ
料理用バナナ
ムキモ・ワ・ンジャヒがグリーンバナナを使うことで、この系統とつながる。


ニエリ県の高地に広がる茶畑と家々(左)/アバーデア山地から谷を見下ろす。ケニア中央高地の典型的な風景(右)。

ギクユの伝統的な食べものと器。ひょうたんは水や発酵粥、牛乳を入れるのに使われ、熟したバナナと青いバナナは離乳食にされた。
基本情報
- 料理名
- ムキモ(Mukimo/Mokimo)。イリオ(Irio)、キーミトゥ(Kīmitū)と区別されることもある
- 地域
- ケニア中部、ケニア山周辺(ニエリ、ムランガ、キアンブ、キリニャガ)。担い手はキクユ人(Agĩkũyũ)
- 分類
- 根菜・穀物・豆・青菜を一緒にゆでて搗き混ぜた主食
- 主材料
- じゃがいも、とうもろこし(乾燥または生)、豆(ンジャヒ=ラブラブ豆ほか)、かぼちゃの葉(marenge)、イラクサ(thabai)
- 栄養(実測)
- 100gあたり118 kcal/たんぱく質5.0g/脂質0.7g/食物繊維4.8g/鉄2.0mg(コード15054)
- ンジャヒ版
- 164 kcal/たんぱく質9.5g/鉄3.2mg(コード15059、黒豆・グリーンバナナ・じゃがいも)
- ンジャヒ乾燥豆
- 319 kcal/たんぱく質23.1g/食物繊維16.4g/鉄7.13mg(100gあたり)
- 学名
- ンジャヒ=Lablab purpureus/イラクサ=Urtica 属/じゃがいも主要品種=Shangi
- 合わせるもの
- ニャマ・チョマ(nyama choma=焼いた肉)、肉の煮込み、カチュンバリ
- 公式収載
- Kenya Food Composition Tables 2018(FAO/ケニア保健省・農業灌漑省、ISBN 978-92-5-130445-7)にムキモ4種を実測収載
- キクユ人口
- 8,148,668人(2019年国勢調査)、ケニア総人口の約17.13%
- じゃがいも価格
- シャンギ種 62〜78ケニア・シリング/kg(2026年9月、NPCK価格表)
この料理と一緒に読む
出典
- Kenya Food Composition Tables 2018(FAO/ケニア保健省・農業灌漑省、ISBN 978-92-5-130445-7)(ムキモ4種、キミト、タバイ、かぼちゃの葉、イラクサ、ラブラブ豆の実測栄養値と調理計測の方法論)
- Wikipedia(英語)「Mukimo」(産地(ケニア山周辺)、材料、調理法、供し方、家庭ごとの差の記述)
- Wikipedia(英語)「Kikuyu people」(ンジャヒを軸にした伝統暦の四季名、Mūkimo/Kīmitū/Irio の語義の区別、ルラシオ、2019年人口8,148,668人)
- Wikipedia(英語)「Lablab」(njahe/njahi の呼称、紀元前2500年の栽培証拠、授乳との関係、植民地期のインゲンマメ転換(典拠 Robertson 1997))
- Feedipedia「Lablab (Lablab purpureus)」(粗たんぱく約26%、生育標高2,000〜2,400m、直根2m、抗栄養因子と長時間加熱の必要性)
- Ngigi PB ほか, Frontiers in Nutrition 10 (2023), doi:10.3389/fnut.2023.1197703(ラブラブ豆をケニア・エチオピアの優先未活用豆類トップ5に選定、インゲンマメより高価値と評価)
- Slow Food Foundation, Ark of Taste「Njahe」(味の箱船へのンジャヘ豆の登録エントリ(存在とURLのみ確認、本文は取得不能))
- National Potato Council of Kenya(NPCK)(シャンギ種の実勢市場価格(2026年9月21日閲覧)と主要産地郡)
- Wikipedia(英語)「Nyama choma」(スワヒリ語での語義、ヤギ肉中心、手で食べる習慣、カチュンバリ/ウガリとの組合せ)
- Patrick M. Maundu ほか『Traditional Food Plants of Kenya』(ケニア国立博物館、1999年)(ケニア在来食用植物の基礎文献)
写真(26枚)
- 1. Mukimo and Kachumbari.jpg / Jaymuiaphotography / CC BY-SA 4.0 / 原典
- 2. Mukimo & Beef Stew.jpg / Anitah Pezz / CC BY-SA 4.0 / 原典
- 3. Mukimo and beef curry.jpg / Kiptoo96 / CC BY-SA 4.0 / 原典
- 4. Mukimo mix.jpg / Vmaina104 / CC BY-SA 4.0 / 原典
- 5. Githeri Meal.jpg / safaritravelplus / CC0 / 原典
- 6. Githeri with avocado.jpg / Queen Asali / CC BY-SA 4.0 / 原典
- 7. Mix – Githeri Rice Liver Cabbage.jpg / Shiku Ngigi / CC BY-SA 4.0 / 原典
- 8. The Gikuyu foods.jpg / Wanjaudan / CC BY-SA 4.0 / 原典
- 9. Mukimo rice stew.jpg / Vmaina104 / CC BY-SA 4.0 / 原典
- 10. Potatoes from a Kenyan farm.jpg / CIAT(撮影 Neil Palmer) / CC BY-SA 2.0 / 原典
- 11. Maize on a Mount Kenya farm.jpg / CIAT(撮影 Neil Palmer) / CC BY-SA 2.0 / 原典
- 12. Cabbage plot, Kibirichia area, Mount Kenya.jpg / CIAT(撮影 Neil Palmer) / CC BY-SA 2.0 / 原典
- 13. Lablab purpureus- Hyacinth beans.jpg / PushpaKhan / CC0 / 原典
- 14. Lablab purpureus 257105659.jpg / Dinesh Valke / CC BY-SA 4.0 / 原典
- 15. Woman farmer in Kenya.jpg / CIAT(撮影 Neil Palmer) / CC BY-SA 2.0 / 原典
- 16. Wangige vegetable local market in Kiambu Kenya.jpg / Kristinabudiati / CC BY-SA 4.0 / 原典
- 17. A vegetable stall in the outskirts of Nairobi, Kenya.jpg / Terryngari / CC BY-SA 4.0 / 原典
- 18. Kikuyu Ruracio.jpg / David Chitonje / CC BY-SA 4.0 / 原典
- 19. Married Woman, Kikuyu, Kenya, ca.1905-ca.1940 (imp-cswc-GB-237-CSWC47-LS7-011).jpg / 撮影者不詳 / Public domain / 原典
- 20. Akseli Gallen-Kallela – Kikuyu Woman.jpg / Akseli Gallen-Kallela / Public domain / 原典
- 21. Kikuyu village 02.jpg / Alexander Leisser / CC BY-SA 4.0 / 原典
- 22. Traditional Kikuyu Dancers.jpg / Isiyekala / CC BY-SA 4.0 / 原典
- 23. Agricultural landscape of Central Highlands, Kenya.png / Nessian / CC BY-SA 4.0 / 原典
- 24. View from Aberdare Country Club, Kenya.jpg / Daniel Case / CC BY-SA 4.0 / 原典
- 25. A Self-Help Group from Limuru fighting food insecurity (5111553897).jpg / McKay Savage / CC BY 2.0 / 原典
- 26. Indian Bazaar, Nairobi. Kikuyu-kvinnor göra uppköp. 0087.j.0003.jpg / Gerhard Lindblom / CC0 / 原典
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