丸いヌストルテ。一切れを取り分けた部分に、クルミ入りの断面が見える

世界グルメ大図鑑 スイス

ヌストルテ

Bündner Nusstorte / Engadiner Nusstorte

クルミとキャラメルを、生地のふたで包む。山の名物に残る、菓子職人たちの往来。

丸い焼き菓子にナイフを入れると、薄い生地の間からクルミの詰まった層が現れます。ヌストルテは、クルミ入りのキャラメルを上下の生地で包む、スイス・グラウビュンデン州の菓子です。

中身を露出させたナッツのタルトとは違い、上にも生地のふたがある。この構造を写真で見てから、材料と作り方、そして国外で働いた職人の歴史をたどります。

国・地域
スイス・グラウビュンデン州、エンガディン地方
現地語
Bündner Nusstorte / Engadiner Nusstorte
ロマンシュ語:Turta da nuschs
分類
クルミ入りの焼き菓子・タルト
主な材料
小麦粉、バター、砂糖、卵、クルミ、生クリーム。蜂蜜を加える配合もある
食べる場面
食後や午後のお茶、贈り物
保存
製品の包装にある保存方法・期限に従う

01断面でわかる、生地と中身の役割

写真の断面では、クルミの大きな粒が褐色の中身に埋まり、その上と下を焼き生地が挟んでいます。クルミを粉にして生地全体へ混ぜ込むケーキとは、材料の置き方が違います。

生地はバターを使うムルプタイク(Mürbteig)。中身のキャラメル、クリーム、クルミと、外側のほろりと崩れる生地を組み合わせる構成です。味の中心は砂糖を加熱した香りと甘さ、クルミの風味。硬さや中身のやわらかさは配合で変わるので、「必ずフォークで割れないほど硬い」とは限りません。

上下の焼き生地の間に、粗く刻んだクルミとキャラメルの層があるヌストルテの断面
断面の粒はクルミ。上面にはチョコレートを付けたクルミの飾りも見える、この写真の一例です。撮影:Raimond Spekking。原典と利用条件は末尾の写真クレジットに記載。

02なぜ中身と生地を別々に作るのか

Swissmilkの公開レシピでは、生地を作って冷やす間に、砂糖を薄茶色に加熱し、クルミ、生クリーム、蜂蜜を加えて中身を作ります。少し冷ましてから生地に詰め、別に伸ばした生地でふたをし、縁を押さえて焼きます。

先に砂糖をキャラメルにするので、単にクルミと砂糖を生地に入れて焼く菓子とは香りの作り方が異なります。また、ふたは底と縁につなげる部材であり、単なる飾りではありません。同資料では表面に穴を開ける工程と、生地の余りで飾る工程が分けられています。模様だけを見て、その目的まで決めつけないことも大切です。

このレシピは小麦粉300gにバター200g、中身はクルミ300gに生クリーム200mlを用いる一例です。蜂蜜の有無も含め、店や家庭の配合をすべて一つの「正解」に揃えることはできません。作る際の分量・焼成条件は、末尾のレシピ原典を参照してください。

03山の名物を、国外の菓子店からたどる

スイスの食文化資料集Patrimoine culinaire suisseは、現在の形のヌストルテについて、トゥールーズのHeinz & Testerが1881年から商業製造していたと記録しています。そこで働いたFausto Pultは、1926年にエンガディン地方へ戻り、サメーダンで菓子店を開きました。

この記録は「その人が最初に発明した」という証明とは別です。同資料にはさらに古いナッツ菓子への言及もありますが、それが現在と同じクルミ・キャラメル・生クリーム入りだったとは限りません。

エンガディンの寒冷な気候ではクルミは育たない、と同資料は説明しています。土地の名物が、その土地だけの材料から生まれるとは限らない。職人が持ち帰った技術や材料の移動から見ると、この菓子の土地との結びつきが見えてきます。「冬越しの保存食として発明された」と断定するより、確認できる製造記録と職人の往来を分けて読むのが適切です。

04似た名前の「ビュンドナー・トルテ」は別の菓子

注文や写真探しで気をつけたいのが、Bündner TorteとBündner Nusstorteの違いです。名前からNuss(ナッツ)が抜けただけに見えますが、食文化資料集では別項目になっています。

Bündner Torteは、ヘーゼルナッツのビスキュイやジャポネ生地、プラリネの層を組み合わせる菓子。ヌストルテのように、クルミ入りキャラメルをタルト生地で包む構造ではありません。日本語名だけでなく、原綴りと断面も照合すると見分けやすくなります。

05小さく切って、お茶の時間に

ヌストルテは小さく切って、コーヒーや紅茶とともに食後や午後のお茶に食べられます。写真のような丸い一台なら、外見だけでなく切り分けた断面も楽しめます。

贈答用の菓子として知られますが、日持ちと「腐らない」は別の話です。材料、包装、開封状態によって条件が変わるため、保存方法と期限は購入する製品の表示に従ってください。価格や販売場所も商品ごとに異なります。本記事では、裏付けのない一律の価格・保存日数・持ち込み可否を案内していません。

本文の参照資料

公開資料と写真を照合して編集しています。実食・現地取材による記事ではありません。資料確認日:2026年9月26日。

写真クレジット

写真は料理の形状を示す資料です。スイスの特定店舗での提供例を示すものではありません。

訂正:2026年9月26日、保存性と起源の断定を見直し、資料出典・被写体を確認した写真を追加しました。掲載内容・写真の訂正連絡はこちら。