クワス

世界の料理図鑑 ロシア

クワス

квас クワース Kvass

アルコール度数1%前後。パンから作る飲み物で、夏のモスクワは路上の黄色い樽で量り売りする。

夏のロシアの街角に、黄色い樽が置かれています。タンクローリーの後ろを切り取ったような、ずんぐりした形の。

あれがクワスです。黒パンを発酵させて作る微炭酸の飲み物で、コップに注いで売る。並んでいる人がいたら、それが目印です。

アルコールはごくわずかに含まれますが、1%前後でソフトドリンク扱い。子どもも飲みます。

国・地域
ロシア全土。ウクライナ・ベラルーシ・ポーランドにも
分類
発酵飲料(微炭酸・微アルコール)
相場
瓶入り1L 115ルーブル前後(約220円)/店で0.5L 140〜204ルーブル
主な材料
ライ麦パン、ライ麦・大麦の麦芽、酵母、砂糖、水
アルコール度数
0.7〜2.6%。ソフトドリンク扱い
飲む場所
スーパー、カフェ、夏は路上の樽
ベスト時間
夏の昼。7月の消費量は2月の約10倍
味
甘酸っぱく、ライ麦パンの香ばしさ
支払い
現金かロシア国内発行カード
注意
夏の樽売りは品質管理に差がある。日陰に置かれた樽を選ぶ

01一口目に来るもの

最初に来るのは泡です。炭酸といっても、コーラのような鋭さはない。ビールの泡がへたったような、やわらかい発泡。

次に焼いたライ麦パンの皮の香り。これがクワスの正体で、飲んだ瞬間に「あ、パンだ」と分かる。

味は甘酸っぱい。砂糖の甘さと、乳酸発酵の酸味が同時に来る。甘みが勝つ市販品と、酸味が勝つ自家製がある。

後味に麦芽のほろ苦さがわずかに残ります。これがあるので、甘いのに水のように飲めてしまう。

クワス
グラスに注いだ市販のクワス(ラトビア製)。泡が細かく、色は濃い

02パンから作る

作り方はこうです。ライ麦パンを乾かして焼き、湯を注いで抽出する。ここに麦芽、砂糖、酵母を加えて24℃以上で発酵させる。

発酵の主役は乳酸発酵です。アルコール発酵も同時に進みますが、早めに止めるので度数が上がらない。だからソフトドリンクとして売れる。

昔ながらの「творёный(トヴォリョーヌィ/醸造式)」クワスは、発酵を進めてワインに匹敵する強さになることもあったといいます。今のものとは別の飲み物です。

19世紀初頭までに1,000種類を超えるレシピがあったとされます。りんご、洋梨、はちみつ、ミント——加えるもので無数に分岐した。

クワス
発酵中の大瓶。家庭ではこの状態で数日置く
クワス
ミントを添えたクワス。夏はこう出す店もある

記録は『原初年代記』にある

クワスの最も古い記録は『原初年代記(Повесть временных лет)』にあります。キエフ公ウラジーミルが困窮者に食べ物と蜂蜜酒とクワスを配った、という記述。10〜12世紀ごろの話です。

12世紀ごろから、酸味の弱い自然発酵タイプと、より強く醸造される「トヴォリョーヌィ」タイプが区別されるようになりました。

つまりクワスはシチーと同じくらい古い。ロシアの食卓の最も基本的な層に属しています。

背景にあるのは「パンを捨てない」という発想です。硬くなった黒パンを飲み物に変える。制約から生まれた飲み物という点で、この図鑑に並ぶ他の料理と同じ構造をしています。

クワス
古い形の水差し(写真の器は装飾的な古器)。かつてはこうした容器で運ばれた
クワス
ポーランドの「kwas chlebowy」。同じ飲み物が国境を越えて別名で売られている
クワス

第 一 章

黄色い樽の売り子

駅前の屋台でクワスを売る女性(ベラルーシ・ヴィテプスクで撮影)

03黄色い樽の見つけ方

夏の路上に置かれる黄色いタンクは、クワスの量り売りです。コップ売りとペットボトル詰めの両方をやっている。

注意点があります。高温下では品質が落ちる。発酵飲料なので、直射日光の当たる場所に何時間も置かれた樽は避けたほうがいい。日陰に置かれ、人が並んでいる樽を選ぶのが安全です。

消費量には極端な季節差があります。7月と2月では約10倍の差。冬に路上の樽を探しても見つかりません。

確実に飲むならスーパーの瓶入り。銘柄はОчаковский(オチャコフスキー)、Никола(ニコラ)、Хлебный крайなど。1L 115ルーブル、2L 103.7ルーブルという価格例があります。

クワス
路上に据えられた黄色い樽。ここからコップに注いで売る
クワス
奥に「КВАС(クワス)」の赤い売店がある夏の通り(ロシア・トリヤッチ)
タイプアルコール度数入手先価格の目安
市販の瓶入り0.7〜1.2%スーパー1L 115ルーブル/約220円
カフェの生(樽)1%前後Теремок など0.3〜0.5L 140〜204ルーブル
路上の樽売り1%前後夏の街角コップ単位(変動)
自家製1〜2.6%家庭—

04何と一緒に飲むか

夏の定番はザリガニです。塩ゆでしたザリガニを山盛りにして、クワスかビールで流し込む。ロシアの夏の風景のひとつ。

料理にも使います。オクローシカ(окрошка)は、刻んだ野菜とハムと卵にクワスを注いだ冷たいスープ。飲み物をそのままスープにする発想です。

日本人の口には、最初の一口が独特に感じられるはずです。甘い炭酸なのにパンの味がする。ただ二口目からは慣れます。

パン屋のチェーン「Теремок(テレモーク)」ではブリヌイと一緒に頼めます。ブリヌイ+クワスが、いちばん手軽なロシアらしい組み合わせです。

クワス
塩ゆでのザリガニと瓶。夏のロシアの定番の組み合わせ
クワス
水辺で飲むクワス。夏はこの飲み方がいちばん似合う
硬くなった黒パンを飲み物に変える。それが1000年続いている。モスクワの路上の樽の前で
モスクワでの相場(2026年8月時点の目安)価格
瓶入り1L(Очаковский)115ルーブル/約220円
瓶入り2L(Очаковский)103.7ルーブル/約197円
Теремок の瓶(0.5L)140〜204ルーブル/約265〜390円
Теремок の生クワス(0.3L)120ルーブル前後/約230円
オクローシカ(冷製スープ)250〜400ルーブル/約475〜760円

05似ている飲み物

日本の甘酒が最も近い。どちらも発酵飲料でアルコールはごくわずか、穀物由来の甘みと香り。「甘酒は日本人にとってのクワス」と紹介するロシアの記事もあります。

ポーランドのkwas chlebowyは同じ飲み物です。国境を越えて名前だけが変わっている。

コンブチャも乳酸発酵の微炭酸という点で近い。ただしあちらは茶が原料です。

ビールとは親戚だが別物。麦芽を使う点は同じで、アルコール発酵を止めるかどうかで分かれます。

06豆知識

・ソ連時代の一人当たり年間消費量は約60Lとされました。2011年には6〜7Lまで落ち込んでいます。

・2022年には5.6L/人で近年のピークを記録。統計により数値に幅があります。

・2019〜2023年でロシア国内の一人当たり消費量は倍増(年平均成長率18%)しました。

・2022年、海外の清涼飲料ブランドの市場撤退がクワス需要を押し上げたとされます。

・オクローシカにはクワスの代わりにケフィア(発酵乳)を使う派閥もあり、これも家庭ごとに割れる話題です。

為替レート:1ルーブル=約1.9円で換算しています(2026年8月時点)。価格・営業時間は変動します。ロシアでは海外発行のクレジットカードが使えません。渡航前に外務省の海外安全情報を必ずご確認ください。

写真はすべて Wikimedia Commons より。各画像の作者とライセンスは以下のとおりです。

価格は2026年8月時点のモスクワの相場の目安です。